オン・ワンズ・ワァンダー・トリップ!!

羽田 智鷹

文字の大きさ
78 / 79
第二章 交錯・倒錯する王都

シス③

しおりを挟む

 俺たちは戻ってこのことをリューゲルたちに伝えた。
 現場に一緒にいたはずの彼女たちは、今日のお出かけは楽しかったね、と別にさっきまでの出来事を気にした様子はない。
 
 「その警備団の団長さんを信用できるかが肝だな」
 リューゲルは、今夜の会議の議題にしておくと言った。
 
 「しーすー。今日のばんごはんはなーにー?」
 戦闘スキルはないが、家事スキルはそこそこある俺は交代制で飯の当番することになっている。
 
 当然、先程の街で食材は買い求めてきた。
 彼女たちには内緒だったが、俺にとっては買い出しのほうを真の目的だと捉えていなくもない。
 
 普段は自給自足できる場所だが、それでも買い足さないと行けないものはある。
 肉類や陸魚だ。
 畑作だけでは栄養が偏る。
 
 先程は俺の分もけっこう食べたというのにもう晩飯の話をし始めている。

 俺は彼女たちの胃袋は底なしなのではないかと思う。
 俺は大食いではなく、逆に少なくても苦には感じないし、別にたくさん食べたいとも思わない。
 
 まあ、作る側としては晩飯が決して翌日のおかずになるほど残ったことは今までにないし、彼女たちの食事厨の楽しげな笑顔を見ていると、俺も心温まるものがある。


 一通り飯が終わり、それぞれが家に集まり始める。
 家にはちゃんと街で働きに出ているやつもいる。
 
 小さい子たちは夢の海へと船を漕ぎ始めると、俺たちは今日の会議を始めた。
 
 警備団長の力を借りるにしても、明日はまだ暇がある。
 「貴重品(アイテム)も必要数は揃ったことだし、明日ダンジョン攻略を行おうと思う。装備も使っておかないと大事なときに使い物にならないなんてこともあるからね。それに関してだが、まずはラルトスが考えた作戦についてだ。…………」
 リューゲルは、ひとまず明日のダンジョン攻略に皆の意識を向けることにしたらしい。
 
 ダンジョンは魔獣で溢れ、生きるか死ぬかの戦いが待っている。
 しかし、俺たちはしっかりと連携し潮時を見極めることに重点を置いているため、今まで少数ほどしか死者は出していない。
 
 これの参加は自主性なので、参加するものはそんなことを恐れてはいない。
 
 俺たちが社会に不適合だからという理由もあるのだろう。
 自分を制限するような他者の思いがない分、自分自身の体を自分自身で選択して駆使できるのだから、俺たちに迷いはない。

 そして、ダンジョンは普段の日常では出会えないもので溢れている。
 
 まず、魔獣を倒す快感が日々の抑圧された日常のストレスを発散させてくれる。
 それにだ。
 こんな自らの命をかけるような場所に普通の人は訪れることはない。
 その分、そこでドロップする貴重品(アイテム)や見つけた物たちは、街で高値で買い取ってくれる。
 
 街での稼ぎどころが少ない俺たちは、警備団のお世話になるにしろ、ならないにしろ、ここでお金を稼ぐべきだとリューゲルは考えているらしい。
 
 「今回は俺も参加していいか?」
 あの非日常な場所で久しぶりに体を思うように動かしてみたい気分だった。

 実を言わなくても、俺は時々参加する程度の人間だった。
 「今回は行けるところまで進みますよ?」
 ダンジョンには、ちゃんと最下層(クリア)というものがあるらしい。
 そこには何があるのかは分からないが、そこまで到達することがダンジョン制覇を意味するとどこかの文書で読んだ気がする。
 「今回は強い意志があるようだな。しかし……、彼女たちの面倒は誰が見る?」
 十五人ほどの一同がお互いを見渡す。
 年長者が皆、家(ホーム)を空けるのは流石にきついことだった。

 みなそれぞれ思うように日々を過ごしているが、それでも全体のまとめ役も言うものが必要なのだ。

 「今日がけっこう活発的に動き回っていたから、明日は比較的落ち着いてると思うぞ」
 「いやいや、チビッコどもの体力はそこがしれねーぞ。あたしは無理だ」
 「マギサだって、あんな頃があったんだぜ」
 お調子者のヴェイルがすかさずつっこむ。
 「はあ、なんであんたがあたしのピュアな時期を知ったような口をきいてるわけ? って、はあっっ。みんな想像するじゃないし」
 突如向けられた皆からの視線に、マギサが慌てたように手を振って赤面する。
 
 俺がここで過ごした六年間は、人を、集団を、信じられるようなものにしてくれたと今でははっきりと分かる。
 「一応、また警備団の団長が来るかもしれないし、年長者の中から数人はここにいてもらいたい」
 誰が残ってもそれが務まるというのだから、なかなか決まらないのだろう。
 
 皆ダンジョンに行く気満々だった分、なかなか解決しないように思われたが……、
 「じゃあ、俺が残るよ」
 スタンがきっぱりと言い放った。
 「シスの頼みなら、しょうがないがな……。が、その分なんかレアな物が手に入ったら俺に譲れよな」
 スタンが親指を突き立てて満面の笑顔でこっちを向いてくる。
 ああ、分かったよ。ありがと。
 
 「スタンさんが残るなら、僕も残ります!」
 スタンに続いて、クラネルも名乗り出た。
 彼は、俺たちに比べて年齢もここに来たのも遅い。
 が、その分先輩から見て盗むのがうまく、この場になれるのも人一倍早かった。
 スタンといることも多く、彼を慕っているようだった。
 「じゃあ、これで決まりだな。街の奴らのことは明日、ダンジョンから帰ってきてから本格的に話し合うとしよう。もしかしたら、時間というものが解決してくれるかもしれないしね」
 リューゲルはこの場をお開きにした。
 
 「シス、お前はなるべく中核にいろよ。なんかあったときに身近にいてくれたほうが助かる」
 リューゲルは、この中で一番強いと言っても過言ではない。
 俺が彼の剣さばきに見とれるくらいの実力の持ち主だった。

 「そうだぜ。俺はその場にはいないから、お前のことを守れねーが、元気にダンジョンから帰ってこいよ」
 自ら待機を名乗り出たスタンまでもがからかいを入れてくる。

 俺が久しぶりにダンジョンにいくからだろう。
 しかし俺もそこまでヤワじゃないし、攻略を目指すのに足手まといになるつもりはサラサラない。

 なによりこの編成に俺より年下が数人入るのだから、少し癪に障る。
 
 いいよな、お前らは魔法が使えてよ。
 
 まあ、皆で行くのだからそこまでの妬みはない。
 事実は受け入れるしかないのだし、俺は俺のやりたいようにやるつもりだから。
 
 ダンジョンでは、集団での判断が重要になる。
 リューゲルは団みんなの意見を無碍に扱わず、その場に即した回答を出してくれる。
 「明日は早いから、みんな早く寝ろよ」
 リューゲルはそう言うと、会議で使っていた松明を吹き消した。
 
 
 翌日は早朝に『ホーム』を出発して、ダンジョンに向かう。
 ダンジョンは森を抜けた先にあり、付近には独特の石の建物が立ち並ぶ。
 
 俺たち十七、十八の年長者は今日は『ホーム』にほとんどいないとは言うものの、スタンとクラネルの他にも十五、十六の子たちもいる。
 
 家を失って、ここに行き着く子は、十歳になるよりも前の子が多いため、十四、五でも十分頼りになるはずだ。
 
 スタンに土産を期待されているから、何が何でも積極的にダンジョンを散策しようと思う。
 
 行く途中で何度か魔獣との戦闘はあったが準備万全である俺たちには障害にもならない。
 
 皆楽しそうに、自分の得意武器を操っている。

 ある地点を境に空気は急変する。
 何か魔法がかかっているのかもしれないし、何かの警告かもしれない。
 単なる環境要因かもしれないけれど……。


 ダンジョンの周りは魔獣はいなく、静かで荘厳な雰囲気を醸し出している。
 「では、今日こそ最下層(クリア)へ!!」
 皆が武器をしっかりと握って、ダンジョンへと潜っていった。
 
 長剣に短剣、杖や弓、盾や斧などみなそれぞれ得意の武器を持っている。
 しかし、誰もが簡単な魔法くらいは使えていた。
 戦闘において、何気に一番役に立つのは魔法だった。
 瞬時に効果を発動できるし、敵から遠距離でも近距離でも対応でき、また自分がむやみに動く必要もない。
 
 俺は魔法に一番感覚が近いであろう弓矢を使っているが、それでも全然違う。
 何もかも違うのだ。
 威力も効果も多様的で、ただ一直線に空気を切り裂いて飛んでいく弓矢とは。
 
 ダンジョン内にいる魔獣は俺たちを見ると襲い掛かってくる。
 しかし彼らはダンジョンの外に出ることはしない。
 ダンジョンにいる同種族の個体なら会話ができるものもいるようだった。
 
 俺たちは敵が落とす貴重品(アイテム)やら素材やらをしっかりと回収しながら、順調に奥へと進んでいった。
 
 俺たちには一人ずつ、装備用の貴重品(アイテム)を割り振られていた。
 そのおかげもあり、皆悠々と魔獣を倒していく。
 
 「そろそろ気を引き締めていこうか」 
 五階層を越えたあたりでリューゲルが一旦休憩を入れる。
 
 普段なら、ここから地上に戻る間にも同じくらいの貴重品(アイテム)が手に入り、それだけで十分だった。
 
 その後も異形物(ゴーレム)や火喰虫(サラマンダー)、単眼巨兵(サイクロプス)などと戦った。
 階を進むごとに敵が強くなっているにも関わらず、順調に進めているのは多分火力組が敵を倒すごとに返り血をもろに浴びているからだろう。
 魔獣の返り血は治癒力を高め、全身の活力を漲らせると聞いたことがある。
 俺は援護として弓矢を使いながらも、ドロップ品を集めたり、道中に時々出現する珍しい岩を砕いてレアな貴重品(アイテム)を探していた。
 
 しかし段々と俺も戦わなくてはならない場面が増えてきた。
 俺は弓に力を加えて敵を定めながら、矢をつがえる。
 
 中には擬態化する紅華狼(ローズウルフ)や親木精(トレント)などには少なからず陣形を崩されはした。
 
 万が一の貴重品(ポーション)を使いながらも十階層に到達した。
 ここまでは、俺のいないときに来たことがあるらしい。
 そのときは結構な消耗だったが今回はこの先へも十分進める感じだった。
 
 みんなの指揮が俄然上がる。
 ダンジョンでは大声は自らの居場所を伝えるため、厳禁であったが、彼らは敵が向かってきても構わないと言う感じでお互いに今までの戦いの良い点と改善点を楽しそうに言い合っている。

 ところが、十一階層へと向かう途中俺は突然の頭痛に襲われた。
 目の前が一瞬白んだ。
 何かの射程に入ったのか、俺に魔法か何かが当たって引き起こっているようだった。
 
 「シスっ、どうした!!!」
 マギサが俺の方を見て心配し始めた。
 マギサの透き通っているとも言い難いが、聞き取りやすい声で皆も気づく。

 中には、高性能な万が一の貴重品(ハイポーション)を鞄から出してくれる人もいた。
 もしものときの自分のため皆に秘密で、自腹で買っておいたのだろう。
 しかし、俺は皆の声が雑音混じりに聞こえた。
 
 と、突然、ダンジョンの壁をぶち破って半山羊人間(バフォメット)が棍棒を持って現れた。
 飛んできた壁の破片で何人かは軽く傷を負った。
 「臨戦態勢!!」
 リューゲルが指示を出した。
 
 皆が俺を囲むように位置して、一斉に魔法で攻撃を始める。
 詠唱のスキは、武器班がカバーをする。
 
 その時、俺たちの前方からもう一匹の半山羊人間(バフォメット)が来るのが見えた。
 
 集団に若干のパニックが起こる。
 しかし、その時俺の中の何かが変わった気がした。
 
 俺の懐に入れてあった貴重品(アイテム)が四つほど、光りながら中に浮かび始める。
 
 俺は自身の能力が発動したことが分かった。
 貴重品(アイテム)から急速に力が伝わってくるのが分かる。
 
 俺は前方の敵に向かって走った。
 護身用に持っていた短剣を右手に構えながら。
 
 俺にとってもヤツの動きがとてもスローに見えた。
 俺が三、四箇所の急所を斬りつけると、やつはもう動かなくなった。
 
 俺にとってはなんともなかったのだが、みんなにとっては一瞬の出来事だったらしい。
 
 俺の能力は同じ空間にある貴重品(アイテム)にも同様に機能する。
 だから、俺がみんなと同じ空間にいるということは、彼らを加勢する貴重品(アイテム)の効果を俺が奪ってしまうことになる。
 しかも、通常以上の大食いで。
 
 俺はみんなと一緒にいてはいけないと本能が告げている。
 
 一人はみんなのために
 
 俺のせいでこの集団を崩壊させるわけにはいかない。
 「先へ行っている」
 ただそれだけ言い残すと、俺は彼らに影響が出ないように必死にその場を去った。
 
 非力な俺は、ただ敵と遭遇しないように全力で突き進むしかなかった。
 しかし、なぜか体の内側から力が漲ってくるような感覚がした。

 暗いはずのダンジョンを俺の周りを浮遊する貴重品(アイテム)が明るく照らす。
 俺はただただ前方に向かって進み続けた。
 
 さらに下へと続く階段を見つけては、深淵へと向かう覚悟で下り続けた。
 
 いつしか俺の頭痛と耳鳴りは気がつかないうちに消えてなくなっていた
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

年増令嬢と記憶喪失

くきの助
恋愛
「お前みたいな年増に迫られても気持ち悪いだけなんだよ!」 そう言って思い切りローズを突き飛ばしてきたのは今日夫となったばかりのエリックである。 ちなみにベッドに座っていただけで迫ってはいない。 「吐き気がする!」と言いながら自室の扉を音を立てて開けて出ていった。 年増か……仕方がない……。 なぜなら彼は5才も年下。加えて付き合いの長い年下の恋人がいるのだから。 次の日事故で頭を強く打ち記憶が混濁したのを記憶喪失と間違われた。 なんとか誤解と言おうとするも、今までとは違う彼の態度になかなか言い出せず……

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

七日後に神罰が落ちる。上層部は「下を切り捨てろ」と言った——私は全員を逃がす

蒼月よる
ファンタジー
七日後、この港に神罰が落ちる。 追放された元観測士イオナだけが、その事実を知っていた。 しかも災害は自然現象ではない——誰かが、意図的に引き起こそうとしている。 港の上層部はすでに手を打っていた。「下層区画を緩衝被害区として切り捨てる」秘密契約。被害を最小限に見せかけ、体制を守る冷徹な計画だ。 イオナは元護送隊長ガルム、荷運び組合長メラとともに動き出す。 犯人を暴き、証拠を公開し、住民を逃がし、工廠を止める——すべてを七日で。 被害を「選ぶ」管理か、全員を「残す」運用か。 追放観測士の、七日間の港湾カウントダウン・サスペンス。 この作品は以下の箇所にAI(Claude Code)を利用しています。 ・世界観・設定の管理補助 ・プロット段階の壁打ち ・作者による執筆後の校正

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後

空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。 魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。 そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。 すると、キースの態度が豹変して……?

【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく

たまこ
恋愛
 10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。  多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。  もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

処理中です...