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第一章 井の中の使徒
第一章 十三話 調査
しおりを挟む俺たちの調べによると、この町の住人のほとんどは農業を営んでいるらしかった。
まあ、自給自足の町としては、何も変わったところではない。
ただ、それとは別に、一部の人間は時刻を知らせる役人の人としているらしい。
彼らが何かと住人たちとの間の情報網になっているっぽいとか。
メターバードでも言っていたが、ここの地域では雨や雷が多い。
それに対して、このハイデバードの町では、楽器による音で危険を知らせているらしい。
そ魔法使いたちは、しっかり対策や補強に高じているらしいが、住民たちも雷雨への対策を怠らないためらしい。
俺たちは昨日の祭りの中心地だったところへ向かう。
昨夜見ていた、暗闇の中を松明や灯籠などで派手に明るくしていた風景とは、だいぶ違っている。
通りを埋めていた屋台はなくなり、ヤグラも、すでに撤去されている最中。
その作業の中、場を仕切っている人の声が、通りに響く。
そろそろ年季の入り始めた白髪。
地味な色ではあるが、ゆったりと羽織っている上着。
裸足であった。
見ていると、なんだか人々に慕われているような感じがする。
漂う雰囲気から、多分この人が領主であろうと思ったので、彼の手が開くのを待って声をかけることにした。
「こんにちわ」
挨拶こそ初対面での基本だ。
「おや、君たち見かけない顔じゃな? 旅の者であると見受け給うた」
聞き覚えのない喋り方だった。
「はい、昨夜メターバードの方から、この町に来ました」
「ほうほう」
領主は袖をまくって、額に浮かんだ汗を拭う。
確かにここは湿度が高い分、蒸し暑い。
「ここの町って、私たちが昨日言ってきたメターバードと、近いけど、何か交流とかあるの?」
ルカが訊ねる。
「いやいや。まあ、交流といっても商人ぐらいじゃな。あそこの町は、まだ領主が若領主が若いっちゅうに、威厳がないんじゃよ。あの山を隔てちゅうからそこまで交流はありゃせんな。そもそも、なんでそんなことを?」
怪しまれてはいけない。
もしかしたら、この人は何かを隠しているかもしれないし。
「いや、この町とメターバードの雰囲気が全然違うもので」
「やはり、旅の者だけあって、色々と気になるちゅうことだな。いいぞ。何でもわしに聞いとくれ」
領主は俺たちと取り込み中だとわかったのか、村人たちは自分たちで続きの作業に取り掛かっている。
さて、何を聞こうか。
「おじさん。何その喋り方?」
幸先の一発目がそれかよ!!!
おやおや、早くも彼らの悪いくせが出ている。
ルカの無礼な好奇心俺は慌てて謝罪する。
「いやいや、気にせんといてええぞ」
「あれ、おっさんやっぱり少し変な喋リ方じゃん。さっきから気になってたけど」
「人の喋り方にいちいちツッコミを入れるな!! 若いから、朝から粋がいいのか。って言うわしも粋がっとるな」
一人で言って一人で笑っている。
「そうだ、おじさん。この町って先月と変わったこととかないか?」
ライアンが、単刀直入に訊ねる。
「うん? 別に変わったことがある、なんて実感がありゃせんのじゃが……。この村の住人はその日その日を大切に生きちょるじゃけに」
「でも、収入が増えたとかなんとか……?」
俺もライアンに続いて問う。
「おおー、そうじゃったな。確か栽培方法を少し変えただけで、収穫量がどーんと増えたんじゃった」
「どう変えたんですか?」
「さあ、今の栽培方法が当たり前になってきちょるからなあー、でもそこまで大きく変わっちょらん気はする」
もしかして、だけど………、この人は理性よりも本能で動くタイプらしい。
「えっ、分からないんですか? あ、あとこの町の決まりとか教えてくれませんか?」
「ええぞ。そうじゃな、この町は天気が変わりやすきこと限りなし。故に天気が変わる前に『ボーン』という楽器で合図を出すことにしとるんじゃ。だから、旅人の方もそれが聞こえたら安全な場所へ避難じゃぞ。雷とか、落ちる日は落ちるじゃけに」
「その『ボーン』という楽器は、今朝のあの音を出しているやつと同じやつですか?」
「ああ、そうじゃ、それ。この町、伝統の楽器じゃ。そういえば、それが避難時の合図に使われるようになったのは最近じゃがな。朝の合図は昔からじゃ」
「じゃあ、昔と変化があるってことじゃないかよっ!!」
ライアンが突っ込む。
「あー、それもそうか。ガーハハハ」
この領主に、ややジジイに似通っていると思ってしまったからか、少しスルーしたい気持ちを抑えて、続きの言葉を待つ。
「一つ言い忘れとったが、避難時の合図から少し経つと雷対策でこの町全体に防御結界が貼られることになっていてな、百分ほど町から外へ出られなくなる」
「一時間半以上ーーー!?」
「そうじゃ。だから、お主らが旅に出るつもりなら結界が貼られる前にしておくが吉」
「分かったよ。あとは、俺たち、その『ボーン』ていう楽器見たいから場所教えてよ」
何か秘密が隠されているかもしれないからね。
「ああ、それならあそこの高台だ。そこに『ボーン吹き』、改め祭司様がいるはずじゃ」
「ありがとな、おっさん」
「じゃあねー、おじさん」
「なんだがなおざりな対応をされたように思えなくもないが、まあ良いか。頑張れよ、旅の者たち」
この町は何かと祭りが絡むんだな。
高台というより、領主の言っていた塔は、人が一人か二人ほどしか入れない細長いものだった。
この町の中で一番高い建物だったが、そこまで幅がないためか、印象は薄い。
「やっぱりあの音はここからしか鳴らしてないっぽいよなあ~」
「なんか伝統品的なこと言ってたしねえ~」
ライアンとルカがそういう。
「まあ、絶対メターバードとハイデバードは何かと関係があると俺は思ったな」
この一ヶ月感でこの町は、確実に変わっている。
「それについてだけど、ライアン、留守番よろしく!!」
「あー、そうだね。二人ほどであの頂上にある空間がいっぱいになりそうだし……入り口を守る監視役必要だしね?」
塔は、頂上部分に何やら行動空間があるらしく、そこまではやや不安が残る、少し古びた螺旋階段が続く。
そもそも、俺たちが何か調べようとしていることをバレて、町の住民に、塔の入り口でも囲われたら終わりだ。
それに、この塔の頂上に三人で行く意味もそこまでないし。
「はっ!!? 行く人とか勝負事で決めるのが世の常じゃね?」
「「ええーー、いいじゃん。めんどくさーい」」
珍しく俺とルカがシンクロした。
悪く思うなよ、ライアン。
ーーライアンがいると話を引き出しづらいかなと思っただけだけどね。
だって、すぐ本音を言うし。建前とかを学んでからのほうがいいと思うの。
そんな訳でライアンをおいて塔の階段を登った。
やや、今日の空は雲が多い気がする。
壁に四角く開けられた窓から、この町の眺望と、真っ直ぐ空の様子が階段を登りながら目に入った。
頂上に近づくにつれて、塔内の幅が狭まっていた。
歩くと、時々を地面が揺れているような感じがしてやや恐怖が生じる。
俺とルカは、地面の一点に力がかからないように、極力距離をとる。
頂上に近づくにつれて、塔壁には、多分祭り関係の絵やら文字やらが書かれているのに気づいた。
後書き
短くてすみません。
夜にも更新します。
調査って、英語にするといろんな書き方があるんですよね。
「リサーチ」「インベスティゲイト」「ルックイントゥ」「インクアイヤ」「チェックオン」
カタカナにすると何やらですね。
(そもそもこの話題がどうでもいい)
次回予告 「去る者雷雲に揉まれず」
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