オン・ワンズ・ワァンダー・トリップ!!

羽田 智鷹

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第二章 交錯・倒錯する王都

第二章 十九話 スチュアーノ、不運の始まり

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 流石に空中の敵に拳では戦えないかと思っていたが、そうでもないらしい。

 スチュアーノさんが右手を開いて伸ばし、そこに後ろから左手を添える。

 すると魔力が右手グローブの中央で凝縮し始めたのが、俺には分かった。


 そしてその右手を後ろに引いたかと思うと、甲虫型の魔獣に向かって突きを繰り出した。

 空中に衝撃波とは違う、魔力の塊が一直線に飛んでいった。


 甲虫型の魔獣に直撃する。

 魔獣は吹き飛ばされながら墜落していった。


 しかし地についた魔獣をよく見るとスチュアーノさんの攻撃は魔獣の背中に当たったらしいのだが、羽が折れ、甲が少し凹んだくらいでまだ全然ピンピンしている。


 「うお、まだおわらないのですか……」

 その魔獣は体制を立て直すと、角を武器にスチュアーノさんに突進していった。

 「昆虫手で触るの嫌なのですが……」

 スチュアーノさんは突進してきた甲虫型の魔獣の角を両手で掴むと、スピードそのままにぐるっと一回転して投げた。

 ちょうど油断したセロのいる方向に。


 「やばいです。離すタイミングを間違えましたね」

 「あわわわ」

 セロは瞬時に杖を構えようとしたが、とても間に合いそうもない。


 「せいっ」

 セロの前に立ちはだかったイルさんが、昆虫の魔獣の下から剣で突き上げる。

 流石に腹は柔らかいのか、剣が背中まで貫通していた。

 しかしイルさんがそれを中に突き上げたのも束の間、昆虫の持つ質量に耐えきれず、重力に従ってイルさんは剣から手を離した。

 「セロ様、大丈夫ですか? お姉ちゃんも仕留めきれなかった」

 甲虫型の魔獣は剣が突き刺さっているが、生きているようだった。

 突如、やつは頭を振ると角が長く伸びる。

 「セロ。さっきのお詫びです」

 そう言ってスチュアーノさんはそいつに向かって走っていった。

 長く伸びた角を避け、跳び上がる。

 そして両手を合わせて握ると振りかぶって上から叩きつけた。


 ドガーーン


 音とともにそこを中心として突風が起こった。

 その衝撃で甲虫型の魔獣を通して、魔獣がいたあたりの地面がけっこう凹んでいた。

 隕石が落ちた跡みたいだった。


 スチュアーノさんの下敷きとなった甲虫型の魔獣は、光り輝いて消えてゆく。

 「これで、一勝一敗の引き分けにならないですか?」


 「なるわけ無いじゃないですか」

 イルさんが地面に落ちている剣を拾いながら言った。


 「おっと、これビロードヒナカブトじゃん」

 今までずっとこの戦いを見つめていたシスが何を見つけたようだった。

 近くの木に手を伸ばす。

 それは止まっていた黄金色に輝くカブトムシだった。

 「シス。よく僕が今の甲虫型の魔獣と戦った後で……。いや君はだれとも戦ってないね」


 「おっと、そうだったな。わりいわりい」

 「そうですか。それと普通そんなもの触ろうと思いませんけど……」

 スチュアーノさんは先程の昆虫との熱がまだ冷めていないようだった。


 「そんなものって言うなよ。これ結構珍しいんだよ。なんだったら、お前のその『空色縞瑪瑙ブルーレース』効果のお陰であるまであるぞ」

 そう言って、シスがスチュアーノさんのその鉱石に触れたときだった。


 パリン!?


 澄んだような小さな音。
 どこか快いまである。

 スチュアーノさんのネックレスの先にあった『空色縞瑪瑙(ブルーレース)』が砕け散って、跡形もなく霧散した。


 「うわーーーーーーーーー!!!!!」

 スチュアーノさんの叫びが響く中、俺たちは驚き固まっていた。


 ーーーーー。


 「伝説級の石が、砕け散る……なんてことあるんですかね?」

 「流石に初めてみたけど……、快い響きだったね」

 ルカの呑気な発言。

 「また、探せばいいだろ。探せば」

 ライアンの呑気な発言。

 「お兄さんたちちゃんと聞いてた? 伝説級のものだよ☆ 滅多に見ることができないから☆ そんなもんすぐ見つかるわけないよ☆」

 「古文書によると、七つしか確認されていないらしいですしね」

 ナルさんも付け加える。

 スチュアーノさんを気遣って、俺たちは小声で話し合っていた。

 どこか秘密の会議みたいだな、これ。


 「俺のこのヒナカブトと、スチュアーノの『空色縞瑪瑙(ブルーレース)』で等価交換的な? ワハハハハ」

 「ちょっと、シス。笑い事ではありませんよ。ていうか、僕に慰めの言葉の一つか二つくらいあっても良いと思うのですが……」

 しかし、それをしたのはシスではなく……、

 「スチュアーノ様、イプセン家の情報網を使って、代わりになるものを探しましょうか?」

 出方を伺って後ろに控えていた家臣のうちの一人だった。

 「ありがとう。でも今はいいよ。ある程度、必要性が増したらで」

 ーーなんだよ、断るのかよ。
 思わず俺は心の中でツッコミを入れる。


 「今日はこのぐらいでいいよ☆」

 セロは上機嫌だった。

 それもそのはずで、シスからの勝負に勝ったからだ。

 「スチュアーノさん、さっきの鉱石の効果って何だったんですか?」

 打ちひしがれているスチュアーノさんに聞いてみる。

 「幸運アップに、身体能力向上、敵感知に視力、聴力の強化といろいろ。まあ、全部は僕も知らないんだけど。必要のあるときしか身体能力系は上げていなかったからね。そうじゃないと、あの貴重品(アイテム)に依存しちゃうことになるから…………、ぐおーーー!!」


 最後に奇声が聞こえたが、聞こえなかったことにして……、やっぱり伝説というだけあっていろんな効果があるらしい。

 「みんな、少し気をつけてね☆ 『再生(リヴァイブ)』!!」

 セロがそう言った途端、植物は意志を持っているかのように動き始めた。

 セロの魔法やその他諸々の戦闘で壊れた箇所、ちぎれた箇所が再生していく。

 さらに木々に新たな若葉が芽吹き、命を吹き返す。


 セロが初めに撃ったレーザービームの撃線上に位置し、消し飛んでいたところに地面から再び木が生えて何事もなかったような感じで元通りに整列する。


 「この魔法を使えるのは今ではセロ様ぐらいなんですよ」

 「王都を守る私たちが、王都とその周辺を破壊していては元も子もありませんからね。大事な魔法です」


 至るところから生命力を感じる。

 大掛かりな魔法だということが言わずと知れた。


 「どあーーーーーー!!!」

 どこからか悲鳴が聞こえたような気がした。
 どうやら上の方かららしい。

 みると、今しがた生えた木の上に誰かが乗っているらしい。

 「やばいな☆ タイミング、間違えちゃった☆」

 さっきどっかで聞いたようなセリフを口にするセロ。

 被害者はと言うと、案の定シスさんだった。

 けっこう木の背が高い。だいぶ育っている木だった。

 五メートルは軽くある


 「ちょっと、セロちゃん。俺、このビロードヒナカブト手に持ってるんだから気を遣ってよ。まじであぶかったよ。潰れなくて」

 「なんて言ってるか聞こえない☆」


 確かに聞き取りづらいと思うが、聞こえないほどではないと俺は思う。

 「じゃあ、イル姉。帰りましょうか」

 「今日のセロ様も可愛かったなあ~」

 イルさんの顔が綻ぶ。

 「おい、セロちゃん。俺は無視かよ。忌々しい魔法使いめ。……っていうかイルちゃんも何やってんだよ。俺降りなれないんですけど」

 「では皆さん、僕たちも一旦屋敷へ戻ります。列を崩さないように」

 スチュアーノさんが踵を返して、配下に指示を出す。

 「ちょっと、スチュアーノまで……。まだ俺帰ってやらないといけない仕事があるんだけど」

 そろそろ心配になってきたとばかりに焦りだすシス。


 「本当はそこで色々と反省していてほしいのですが……。冗談です。待っててください」

 そう言ってスチュアーノさんは、シスが乗っている木の幹を手で掴んだ。

 「せい!!」

 すると、スチュアーノさんが持っている部分から幹が九十度にしなった。

 しかし幹が太いからか折れたりはしていない。

 セロがせっかく生やした木を折るかと、俺はびっくりしたのだが。

 「では、私たちも行きましょうか」

 ナルさんの声で俺は振り返ると、すでにナルさんを除く皆がだいぶ遠くにいる。

 セロたちは本当にシスさんをおいていこうとしたのか……。

 俺は驚き、数秒間ぼうっとしていていた。

 それが偶然にもナルさんの顔を見てしまっていたらしい。

 「フィルセくん私の顔ずっとみてどうしたの? ふふっ。さては、手を引いてほしいのかな?」

 さりげない気遣い。

 やっぱりこの人たちはルカやユーリとはどこか違う。

 「フィリー。ナルさんは待ってくれても、私たちは即決で置いていくからね」

 俺のルカやユーリへの考えは間違っていなかった。

 今のルカの発言けっこう傷ついたぞ。

 まあでも、今のルカのほうが気を使わない感じがしてやりやすいな。

 「大丈夫です。それよりもおいてかれちゃいますね」


 そう言いつつ、俺は走った。
 たまには弟も反抗しなきゃな。

 「おっと、フィルセくん足早いですね。しかし、王都の雷鳥と呼ばれている私を超えることはできませんよ」

 そう言ってナルさんも走った。

 引き締まるところはきっちり引き締まり、かつ美しい体に、綺麗で完璧なフォーム。


 紫の髪を揺らし、ほのかに甘い香りが俺がナルさんの前にいても伝わってくる。 

 「その香り、反則じゃないですかね?」

 「何を言っているのか分からないね」

 そんな俺たちを面白く思ったのか、前方を行くセロたちも走り始めた。

 「さい! すい! そい!」

 ライアンが前方から無数の炎弾を放ってくる。

 俺はだいたいライアンが打とうとしてくる軌道がわかるから、避けれているが……。
 ナルさんは向かってくるライアンの炎弾全てを剣で薙ぎ払っていた。

 「ナルさんよりも、俺の方が体動かしてますね」

 俺は避けるのに余計な動作が、走るのに混ざる。

 「そんなこと言って、フィルセくんの体力が持たなくなっても知らないよ」

 ここから王都への[朝通って来たのと同じ]道のりは長く、[ライアンからの]障害物は多く[しつこく]険しいものだった。

 谷底の上の橋のような道を走っていると、王都はすぐ隣を落ちる滝と相まって、凄い街のように今更思えた。

 まあ、初入都の時は記憶がなかったからな。


後書き

話の小さい区切りで言いますと、次話から少し流れが変わります。
見ての通り一章より全然二章のほうが長くなりますがお付き合い頂ければ幸いっす

次回予告 「フィルセの出来心」

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