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第二章 交錯・倒錯する王都
第二章 二十話 フィルセの出来心
しおりを挟む朝色々と活動すると、昼間急に気だるさが押し寄せてくることがある。
今の俺がまさにそれだ。
ライアンの要らん魔法のせいで余計に体力を使ってしまったことを少し忌々しく思う。
結局、ナルさんは体力があり且つ足も速かった。
セロたちは先に行ってしまうし、ナルさんにも途中で抜かされた。
最後には俺のヘトヘトな様子を見て、ナルさんは走るスピードを調節しながら隣にいてくれた。
まるで俺の面倒を見てくれているかのように…………。
ライアンの野郎ぜってえ許さねえ。
ナルさんはライアンの魔法を剣で弾いていたのと違って、俺は走りながらも途中で止まったり、横に飛んだりとライアンの魔法を避けるために走ることとは別のことにも体力を使っていた。
俺たちもセロの朝の見回りに付き合ったために、王からは少し給料的なものをもらった。
今俺はそれを何に使おうかと迷いながら街をフラフラとしているところだった。
"投票(ロット)"?
しかしまだ面識のない五大明騎士の方もいるわけだし安易にお金を溝(どぶ)に捨てるような行為はしないほうがいい。
ルカとユーリは今から二人で女子会やるって言ってたし、ライアンはセロの技術を学びたいからって、朝から続けてセロの元にいっている。
通りは人々の活気で溢れていた。
屋台は食べ物や衣服、工芸品を扱っているものが多い。
みていると俺のスートラでの彫り物も案外店頭に並べられるレベルだったなと思う。
カタグプルの街と違って、通りで物乞いをする子供など一人もいなく、子供たちはそれぞれ自分たちの服や持ち物を自慢しあっていた。
武器を見ないだけで、こんなにもこの街が平和に見えた。
街は水路がしっかり整備されていた。
街の外、例の滝から水を取り込んでいるらしく、道の隅にキレイに済んだ水が流れている。
俺はしばらく歩いていくと賑やかさが少し減少したように感じた。
どうやら街の中心部で人は物を売り買いしているらしい。
しかし街の中心部から離れるほど味のあり、さらには貫禄のありそうな店が多くなってくる。
たしか今俺がいる辺りは、セロ陣営が保安を行っていると言っていた場所だったかな。
俺は試しにふと目についた服屋の店内に入ろうとしていたときだった。
ガシャーン、ガシャー…………パリーン!!!
通りを挟んだ丁度向かいの店から何かが派手に割れたような音がした。
俺はその店内の様子を外から伺うべく、その店に近づいて何事があったのか耳をすませた。
「あーあ。俺たちなんでこんなに運が悪いんだろうな」
「この前の"投票(ロット)"で大損だぞ。裕福なところはイイけどよ、俺らみてーなギリギリでこの街にいられてる奴らにとっては全然軽く流せねーことだわ。何が『悪い奴らを倒してくれてありがとうございます』だ。まったく喜べねーよ。あほか」
「しかも、それが外から来たまだ二十にも満たないガキらしいぜ。余計なことしやがって。人の気持ち考えろってんだ。……姉ちゃん、追加だ」
彼らに足音が近づいていく。
「あの、お客様。先程ジョッキを地面に叩きつけていたようですが……。また新たにジョッキを持ってこないといけませんので、追加料金をいただきますが……」
「はあ? 姉ちゃん俺らの話聞いてねかったか。……そうだ、姉ちゃん。あんたもあの忌まわしき"投票(ロット)"のせいで被害を受けた身だろ? あんたも糞ガキにイッパツかましてやりてーと思わねーか?」
「はい?」
「俺らがさ。元凶のガキをこの店に連れてくっから、そいつにとびきりやべーやつをごちそうしてやれよ。『勇者さま。この街をお救い下さりありがとうございます。おかげで私の仕事環境が変わりました』ってな」
「ギャハハハハ。いいよそれ。その勇者様が泡を吹きながら倒れてさ、『あの、勇者様。大丈夫ですか?』ってな。なんなら、闇鍋即興料理でもいいや」
「お客様。私はそこまで料理が下手ではございませぬので、実現不可能な提案ですね。……で、ジョッキ追加注文するんですか?」
俺からは声しか聞こえないが、ウェイトレスの女の人もなかなか意地がありそうだった。
まあ、接客業なんて強い精神がないとだめかもしれないけど。
「あーはいはい。金払うから追加で。俺たちが元凶を連れてきたら、あんたも逃げられねー状況になんだから。そんときは頼んでっぞ」
「ぜってえー皆内心恨んでるよな。だってそのガキ、王に招待されて屋敷で優雅に過ごしてるらしいし」
「俺たちなんて屋敷一回も入ったことねーのにな」
全く酒飲みは昼間からこうも害があるなんて、と俺は内心思う。
「魔獣からご自身の身が守れているだけで、感謝した方がいいんじゃないでしょうか。お客様もそのためにこの街にいらしているのでしょう?」
少女の声は少し無感情で淡白に聞こえる。
彼らの話を本気で聞いていないような感じ。
「姉ちゃんも貧乏根性が染み付いてるねー。こんな古臭い店なんか辞めて、中心街で売り子でもやってればさぞ儲かるだろーにな」
「女ってズリーよな」
ドン!!!!
さらに突然、その店内で鈍い音がした。
意外と大きな音だった。
俺は店の外にいたが、不覚にもビクッとしてしまったぐらい。
「あんがとさん。くーっはーーー……。ここにいると金のことなんか特に忘れたくなるわ」
「Do感。俺らだってガキの頃はビックになれるって思ってたのになあ」
この少女は今何をしたのか、と俺は驚いていたが、どうやら彼らが追加していた飲み物を机の上においた音のようだった。
なぜか彼らはそれを飲んでから、さらにどこか感傷的になってしゃべっている。
「ていうか、今も思ってねーのかよ? ホントはやれば出来るって」
「それあるわ。ようは後、機会と運。まだ俺らの時期じゃない、その時が来れば金なんて困らなくなるってよ」
そんな考えだと、いつその時が来るんだ? って俺は思うけどな。
「っていうか、俺あのツイン幼女が気に入らねーんだよな」
「といいますと……」
「あんだけの歳で、なんであんなに偉いわけ? ごだいみょう騎士だっけ? 要は彼女も運に助けられたってことだろ? 不公平だわ」
今思うと彼らは愚痴を言っているわけだが、それを盗み聞きしている俺もどうかと思う。
だから俺も服屋は辞めて、第一の店としてこの店に入ろうと決めた。
ただこいつらはさっき俺たちの話もしていたので、念のためユーリ勧誘のときに使った、口元だけ空いている仮面をつけることにした。
この街王都はカタグプルの街と違って、仮面をつけている人はほとんどいないが、これほど風情のある店では変に悪目立ちはしないのでは、と俺は少し賭けだが思った。
ドアを開けるとカランカランと鈴の音がした。
少数の者が顔をこちらに向けて俺を見てきたが、すぐにもとに戻る。
「いらっしゃいませ。おや、お初の顔ですね。お一人様でよろしいでしょうか?」
頭にはバンダナを巻き、腰にはエプロン。
しかしエプロンにもバンダナにも花や星などの装飾を施している。
桃の花を連想させるような撫子色のショートヘアーに、ブラウンの大きな瞳。
右髪にはうす空色の羽の付いたピンを使っている。
少し短めのスカートの下にのぞく脚は、絶妙な細さでありながらも可弱さは全く感じられない。
少し小さめな鼻と口が彼女の第一印象を幼く、優しげなものにしていた。
しかし見るところによると、客の対応には自信があるようで、声にはハリがあるし、手に携えた盆は堂々として手に馴染み、違和感がない。
ルカと年齢が近そうな少女だった。
茶色く澄んだ瞳が俺をしっかりと捉えていることがわかる。
顔は仮面越しであるが、彼女から俺の目は隠れていないわけだし、なんだか俺も目を逸らしづらい。
「姉ちゃん、どうしたよ?」
先程の男が話し相手が欲しそうに、この少女に呼びかけた。
俺は安堵して目線をそらしたが、彼女はまだ俺を見つめたままだった。
俺がそれに気づき驚きの表情を出す前に彼女はくるりと回転して後ろを向く。
「ふふっ。ではお一人様、こちらへどーぞ」
と言って彼女は俺を席まで案内した。
「何か注文は決まりましたか?」
俺はメニュー表を見て、即決した。
「ジンジャエールで」
「おや、珍しいですね。皆さんこれは美味しくないとかいってあんまり注文されないものなんですよ」
それは失敬な。
ジンジャエールといえば、この炭酸と生姜独特の辛味が全てだろう。
少し苦味もなるが、これがまた味を引き立てる。
それに何も変な薬物紛いのものは入っていないのに、この体の温まり方。
変わった飲み物かも知れないが、最高だ。
「はい、どうぞ。仮面外さないんですね、仮面の方」
少女はその不安を感じさせない盆使いでジンジャエールをすぐに持ってきた。
仮面の方、と呼ばれるのは俺にとって少し新鮮だ。
「今はご飯時の時間ではありませんが、もしよろしかったら料理もあるので、そこのメニュー表を見てくださいね。私の手作りだから」
そう言って、彼女は再びくるりと後ろを向いた。
厨房らしき方を見てみるが、他に店員らしき人はいない。
ここのジンジャエールも結構いけるな、と思いながら俺は店内を見回してみる。
店内は若干空席があるが、ご飯時ではないししょうがないのであろう。
壁伝いにに観葉植物やら金に輝く皿やら、驚くことに動物の置物やらが飾ってある。
俺の置物を持ってきてたら、彼女は喜んでくれそうだなと少し思った。
店の外見にそぐわず、店内は彼女がコーディネートしたらしく居心地の良い作りになっていた。
「でさ、あの幼女さん。周りは可愛い女で固めているしよ。男だって雇ってくれりゃあ俺だって速攻であの子の部下になるのによお」
「やっぱ、前世にすごく頑張ったとかじゃね。それかけっこうな箱入り娘とか。結論から俺たちとは生まれた星が違うだよ」
「もったいねーよな。ほんと、神様は何を考えているんだっての」
「あれで性格はオッサンでしたー、とかだったらまだ笑えるのにな」
俺はその話に少し笑いがこみ上げてくる。
セロがオッサン…………、彼女のイメージが崩れるのでやめてほしい。
俺がジンジャエールを飲みながら、彼らの他愛もない愚痴に片方の耳だけ傾けていたときだった。
カランカラン。
「いらっしゃいませ。二名様ですね」
俺はジョッキを片手に何気なく振り返った。
危うくジョッキを落としそうになる。
いかんいかん。
ウェイトレスの彼女の怒った顔は見たくない。
声だけで十分だ。
そこーーーー、店の入り口にはライアンと……クーレナさんが立っていた。
後書き
仮面を被って店に入るなんてよくよく考えるとヤバイやつですね
次回予告 「勇敢なるフィルセの」
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