オン・ワンズ・ワァンダー・トリップ!!

羽田 智鷹

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第二章 交錯・倒錯する王都

第二章 四十二話 混乱の助長

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 「セロ様、目を覚ましてください。セロ様ーーー。……こんなはずじゃないのに。『清涼な精霊よ 爾の力を持って 浄めん。流動する力 セロ様の中で鎮まり給え』。こんな分けわからんやつにやられるようなセロ様ではありません。ですから、お願いです反応してください。『ハイレン ゲリール キュリアー。悪辣なる力障碍になるに如かず』」

 クーレナのいろんな種類の魔法が次々と様々な色の光を放つ。

 俺は目の前に対峙している敵の仮面を凝視する。

 その男は自らの仮面に手をかけた。
 そして、躊躇することなく仮面を放り投げた。

 その顔は、五大明騎士が一人。
 スチュアーノさんだった。

 俺は驚きすぎて二の句が告げない。

 どういうことだ? 
 やっぱりスチュアーノさんたちが王を暗殺しようとしていた?

 空回りする思考をどうにかして働かせる。

 では、なぜこのタイミングで仮面を外した?
 多分それは、自分にとって脅威になるセロを排除したからだ。

 これで王とセロがやられたという状況なのだろうか。
 ならば少し……、大分と言っていいほど状況は最悪だ。

 俺はできるだけこいつをここで止める、と心に誓って短剣に力を込める。
 しかし、スチュアーノは戸惑ったような表情を消さない。

 そんなに俺が立ちはだかることが予定外だったのか。
 そう思うと自然と力が湧いてくる。

 「ちょっと、シス。寸止めのはずでしたが、これはどういうことですか?」

 スチュアーノが怒声を上げる。
 どうやら、もう一人の人はシスさんのようだった。

 スチュアーノは俺たちに行く手を阻まれたためか、セロのもとへ向かうのを辞め、もう一人の仮面の人物のもとへ行こうとする。

 「フィルセ。こいつの言葉を信じてはいけないよ。うわべは良い雰囲気を装って、裏では用意周到な計画のはずだよ。多分、離れたシスさんと合流しようとしているとか」

 そう言って、ユーリはスチュアーノの先に行く手を阻むようにして構える。

 「ちょっとフィルセくんにユーリくん。誤解だ。僕は君たちの敵ではないですよ」

 そう言って手に持っていた杖を投げ捨てた。

 しかし、杖を捨てたからと言ってスチュアーノ本来の武器の、拳をどこかに隠し持っているはずだ。
 うわべだけで信じてはいけない。

 「シス、あなたどういうつもりですか?」

 スチュアーノは無理に行動しないようにしようと思ったのか、その場を動かずにこの場で唯一仮面をつけている人物に声をかける。

 しかし、その人物はスチュアーノの仮面をつけるだけで何も喋らない。

 先程まであれほど口が達者であったのに、この変わりようだ。
 一体どうなっているのだろう。

 「シス、あなたが何も語らなければ、僕はあなたを敵とみなさざるを得ませんよ」

 俺たちは気を窺いつつ、スチュアーノへの警戒を緩めない。
 再び何もない時間が訪れ、クーレナの必死の魔法詠唱だけが部屋をこだまする。


 と、突然仮面をつけた人物が走り出した。
 行く先はスチュアーノに警戒して、その人物からしたら、背を向けているユーリに向かって。

 手には何も持っていないはずだ。
 その瞬間、スチュアーノもその人物の方を振り返る。
 どうやら、スチュアーノを救出しようとするつもりらしい。


 「ユーリーー!! 後ろーーっ」

 俺はそれと同時に、そうはさせるかと、すぐ目の前にいるスチュアーノに向かって踏み出した。

 しかし、俺がスチュアーノに到達するよりも、仮面の人物の行動のほうが早かった。


 俺の声で気づいたユーリが後ろを振り向いた瞬間、仮面の人物は右脚を振りかぶっていた。
 そして次の瞬間、回し蹴りのようにその脚を使ってユーリを仕留めていた。 

 ユーリは弾丸のように、ふっ飛ばされていく。
 そして壁に激突した。
 がらがらと、壁が崩れ落ち、砂煙が立ち上る。


 俺は目の前で起こった一連のことを不覚にも目撃してしまい、俄然短剣に力がこもる。

 こんなことをしたシスのリーダーであるスチュアーノに攻撃するのは突然だった。

 ユーリとセロ。

 女子に対しても容赦のない行動を仮にも五大明騎士を名乗っていたものが行っていいことだろうか。 

 無論、そうは思わない。
 ここで俺がこいつらを食い止めなければならない。

 「ゔあああああああ」

 俺は短剣で太ももを狙った。
 命は狙わないが、決して逃さない。


 スチュアーノは自分の両側で起こる出来事に驚き、戸惑い、判断が一瞬遅れた。 

 それは五大明騎士には似合わぬことだった。

 俺が持っていた短剣が若干狙い外れたものの、見事にスチュアーノの右脚を捉えていた。
 途端に血がにじみ始める。


 スチュアーノがギリギリのところで反射的に少し動いたので短剣は深くは刺さっていない。

 しかしスチュアーノは、俺に対して何かしらの怒声や呻き声を発するかと、思った。…………が、それは違った。

 「シス、あなた。何を考えてのその行動ですか?」

 それは仮面の人物に発せられたものだった。

 そういってスチュアーノは、両手に拳を顕現させた。
 とたんに俺はスチュアーノから多大な魔力を感じた。

 すぐにスチュアーノから短剣を引き抜いて、離れる。
 剣先にはどっぷりと血に染まっているが……。

 なんだか、その魔力は俺に対して牙を向いているようには感じられない。

 しかし、敢えてそういうふうに魔力を扱っているだけかもしれない………、知らないけど。

 「フィルセくん、僕は君の敵ではない。今はそれだけで十分ですか」

 そう言うとスチュアーノは両拳に魔力を発動し、仮面の人物に放った。

 スチュアーノの言葉に「はい、そうですね」とか言えるはずもない。
 だって、見てのとおり、セロとユーリがこうして血を流し、倒れているから。

 今更、「僕は直接手を下していないから」なんていう言い訳が、通じると思っているのだろうか。

 俺はスチュアーノの警戒しつつ、クーレナさんに近づいた。

 「セロは大丈夫そうか?」

 「寵愛を受けし精霊よ、我が一片を持ってこの者を助けよ!! ……今私に喋りかけないで!!!!」

 クーレナさんの予想外の辛辣な言葉が胸に刺さる。
 俺はセロのことは彼女に任せておくことにして、再びスチュアーノの方を向く。

 ユーリに二人を近づけてはならない、と言われたがとてもそれを阻止できるような状況ではない。

 しかし、見ているとスチュアーノが一方的に魔法での攻撃をしていて、仮面の人物はひたすらかわしている。

 なぜスチュアーノは、俺に攻撃をせず同じ仮面仲間だったものにするのだろうかいささか疑問に思う。

 「なぜ、何も喋らないのですか? もしや…………、あなたはシスではないのですかなぁ。確かにシスの戦闘スキルに関しては常人の少し上ぐらいで、あなたにやられたとしても納得がいきます。………、ならばシスをどうしたのですか?」

 スチュアーノの渾身の衝撃波がその人物は少し避けそこねて、仮面の一部に当たる。

 仮面にヒビが入ったが、壊れるほどではない。

 しかし、何も言わずにスチュアーノとの一定の間合いを保っている。

 「貴方、シスをも手に掛けたのですか? 救いようのない大罪人ですよ。貴方が口を割らないのなら、ここで制裁を与えましょう」

 そう言って、スチュアーノは地面を蹴って前に飛び出す。
 俺の目がかろうじて、彼の動きに追いつけたほどのスピード………、魔力を使って高速移動を可能にしている。

 多分傍から見たら、蒼い光が線となって移動しているように見えていただろう。


 右手の拳が大きく膨張し、空気中の魔力を吸収し始める。

 「仲間の敵、友の敵、貴方には分からないであろう力キズナがある」

 右手を目一杯引き絞り、仮面の人物との距離が近づく。

 すると、仮面の人物は下がって間合いを取るのをやめた、…………、というか、防ぎきれないと悟ったのかもしれない。


 スチュアーノは顔面、すなわち仮面を狙う。
 「僕を舐めてはいけなかったのですよ」

 そう言って、引き絞っていた右腕を伸ばしてストレートを撃つ。

 流石に仮面の人物は、今まで避けに徹していたので、もうこれで決着がつき、この事件は収束に向かうものだと思っていた。


 しかし……………、

 「『フォービデゥン』」

 その人物は、スチュアーノの拳が当たる直前に懐から、何やら鉱石を取り出した。


 途端にその人物を取り囲むように透明な空色の壁が現れ、スチュアーノの攻撃を阻む。

 スチュアーノの快進の一撃は、びくともしない。

 「それは貴重品アイテムの『絶対防御フォービデゥンですか。しかし、その防御力とは裏腹に一度展開すると長時間効果は持続し続け、使用者はその場を動くことができないはずです。一般的には拘置所や刑務所、裁判所など罪を犯した者にたいして、我々が使用するような、世間一般で使うような貴重品アイテムですが。大罪人に貴方自らそれを使って、外部からも内部からも出入りができない壁、いわば柵の中に入るとは……。貴方、何を考えているのですか?」

 「…………」

 「まさか、仲間を呼ぼうと考えてます? 無謀ですね」

 スチュアーノは戦闘状態のまま、防御壁の外から、仮面の人物を見張る。

 俺はスチュアーノの今の言葉は嘘だとは思えなかった。

 俺はスチュアーノたちに怪しい行動がないか注意しながら、ユーリを救出するべく、彼の女が飛ばされた部屋の隅に向かう。

 所々に瓦礫が当たった跡があり、血が流れているが、比較的軽症だった。
 とはいえ、気絶しているが。

 衣服に乱れや破れもなかった。
 ただ、突然の出来事に、彼女自身ついていけなかったのだろう。

 俺はユーリを抱きかかえてクーレナさんのもとへ運んでいく。

 「ユーリの方もお願いされてくれないかな?」

 「こっちが終わったら……、でもこっちも少しは良くなってきた」

 背中を刺されて出血しても、クーレナの手当により、 血は収まったようだった。

 それにしても、魔法はすごいと思う。

 「こいつも何かと巻き込まれ体質だから、頼む」

 こいつは、こんな目にあっても俺たちについていく、っと言ってくれると思う。

 そんなユーリの楽しげなセリフが俺の頭に浮かんだ。
 一直線で、ひたむきで、何かと奇怪な態度をとりながらも、しっかり考えているところが、彼女のいいところだと俺は思う。

 俺は今まで起こったことの説明を、何か知ってる感じだったスチュアーノさんに教えてもらうために、防御壁を挟んだ二人のもとへ行く。

 「スチュアーノさん、どういうことだったんですか?」

 俺は一応スチュアーノさんと一定の距離を保って、警戒しながら訊いた。

 「ここの騎士の人、あんたはここで何が起こっているのか正しく見えていないようだな」

 しかし、口を開いたのは、仮面の人物の方だった。

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