オン・ワンズ・ワァンダー・トリップ!!

羽田 智鷹

文字の大きさ
68 / 79
第二章 交錯・倒錯する王都

第二章 四十二話 混乱の助長

しおりを挟む

 「セロ様、目を覚ましてください。セロ様ーーー。……こんなはずじゃないのに。『清涼な精霊よ 爾の力を持って 浄めん。流動する力 セロ様の中で鎮まり給え』。こんな分けわからんやつにやられるようなセロ様ではありません。ですから、お願いです反応してください。『ハイレン ゲリール キュリアー。悪辣なる力障碍になるに如かず』」

 クーレナのいろんな種類の魔法が次々と様々な色の光を放つ。

 俺は目の前に対峙している敵の仮面を凝視する。

 その男は自らの仮面に手をかけた。
 そして、躊躇することなく仮面を放り投げた。

 その顔は、五大明騎士が一人。
 スチュアーノさんだった。

 俺は驚きすぎて二の句が告げない。

 どういうことだ? 
 やっぱりスチュアーノさんたちが王を暗殺しようとしていた?

 空回りする思考をどうにかして働かせる。

 では、なぜこのタイミングで仮面を外した?
 多分それは、自分にとって脅威になるセロを排除したからだ。

 これで王とセロがやられたという状況なのだろうか。
 ならば少し……、大分と言っていいほど状況は最悪だ。

 俺はできるだけこいつをここで止める、と心に誓って短剣に力を込める。
 しかし、スチュアーノは戸惑ったような表情を消さない。

 そんなに俺が立ちはだかることが予定外だったのか。
 そう思うと自然と力が湧いてくる。

 「ちょっと、シス。寸止めのはずでしたが、これはどういうことですか?」

 スチュアーノが怒声を上げる。
 どうやら、もう一人の人はシスさんのようだった。

 スチュアーノは俺たちに行く手を阻まれたためか、セロのもとへ向かうのを辞め、もう一人の仮面の人物のもとへ行こうとする。

 「フィルセ。こいつの言葉を信じてはいけないよ。うわべは良い雰囲気を装って、裏では用意周到な計画のはずだよ。多分、離れたシスさんと合流しようとしているとか」

 そう言って、ユーリはスチュアーノの先に行く手を阻むようにして構える。

 「ちょっとフィルセくんにユーリくん。誤解だ。僕は君たちの敵ではないですよ」

 そう言って手に持っていた杖を投げ捨てた。

 しかし、杖を捨てたからと言ってスチュアーノ本来の武器の、拳をどこかに隠し持っているはずだ。
 うわべだけで信じてはいけない。

 「シス、あなたどういうつもりですか?」

 スチュアーノは無理に行動しないようにしようと思ったのか、その場を動かずにこの場で唯一仮面をつけている人物に声をかける。

 しかし、その人物はスチュアーノの仮面をつけるだけで何も喋らない。

 先程まであれほど口が達者であったのに、この変わりようだ。
 一体どうなっているのだろう。

 「シス、あなたが何も語らなければ、僕はあなたを敵とみなさざるを得ませんよ」

 俺たちは気を窺いつつ、スチュアーノへの警戒を緩めない。
 再び何もない時間が訪れ、クーレナの必死の魔法詠唱だけが部屋をこだまする。


 と、突然仮面をつけた人物が走り出した。
 行く先はスチュアーノに警戒して、その人物からしたら、背を向けているユーリに向かって。

 手には何も持っていないはずだ。
 その瞬間、スチュアーノもその人物の方を振り返る。
 どうやら、スチュアーノを救出しようとするつもりらしい。


 「ユーリーー!! 後ろーーっ」

 俺はそれと同時に、そうはさせるかと、すぐ目の前にいるスチュアーノに向かって踏み出した。

 しかし、俺がスチュアーノに到達するよりも、仮面の人物の行動のほうが早かった。


 俺の声で気づいたユーリが後ろを振り向いた瞬間、仮面の人物は右脚を振りかぶっていた。
 そして次の瞬間、回し蹴りのようにその脚を使ってユーリを仕留めていた。 

 ユーリは弾丸のように、ふっ飛ばされていく。
 そして壁に激突した。
 がらがらと、壁が崩れ落ち、砂煙が立ち上る。


 俺は目の前で起こった一連のことを不覚にも目撃してしまい、俄然短剣に力がこもる。

 こんなことをしたシスのリーダーであるスチュアーノに攻撃するのは突然だった。

 ユーリとセロ。

 女子に対しても容赦のない行動を仮にも五大明騎士を名乗っていたものが行っていいことだろうか。 

 無論、そうは思わない。
 ここで俺がこいつらを食い止めなければならない。

 「ゔあああああああ」

 俺は短剣で太ももを狙った。
 命は狙わないが、決して逃さない。


 スチュアーノは自分の両側で起こる出来事に驚き、戸惑い、判断が一瞬遅れた。 

 それは五大明騎士には似合わぬことだった。

 俺が持っていた短剣が若干狙い外れたものの、見事にスチュアーノの右脚を捉えていた。
 途端に血がにじみ始める。


 スチュアーノがギリギリのところで反射的に少し動いたので短剣は深くは刺さっていない。

 しかしスチュアーノは、俺に対して何かしらの怒声や呻き声を発するかと、思った。…………が、それは違った。

 「シス、あなた。何を考えてのその行動ですか?」

 それは仮面の人物に発せられたものだった。

 そういってスチュアーノは、両手に拳を顕現させた。
 とたんに俺はスチュアーノから多大な魔力を感じた。

 すぐにスチュアーノから短剣を引き抜いて、離れる。
 剣先にはどっぷりと血に染まっているが……。

 なんだか、その魔力は俺に対して牙を向いているようには感じられない。

 しかし、敢えてそういうふうに魔力を扱っているだけかもしれない………、知らないけど。

 「フィルセくん、僕は君の敵ではない。今はそれだけで十分ですか」

 そう言うとスチュアーノは両拳に魔力を発動し、仮面の人物に放った。

 スチュアーノの言葉に「はい、そうですね」とか言えるはずもない。
 だって、見てのとおり、セロとユーリがこうして血を流し、倒れているから。

 今更、「僕は直接手を下していないから」なんていう言い訳が、通じると思っているのだろうか。

 俺はスチュアーノの警戒しつつ、クーレナさんに近づいた。

 「セロは大丈夫そうか?」

 「寵愛を受けし精霊よ、我が一片を持ってこの者を助けよ!! ……今私に喋りかけないで!!!!」

 クーレナさんの予想外の辛辣な言葉が胸に刺さる。
 俺はセロのことは彼女に任せておくことにして、再びスチュアーノの方を向く。

 ユーリに二人を近づけてはならない、と言われたがとてもそれを阻止できるような状況ではない。

 しかし、見ているとスチュアーノが一方的に魔法での攻撃をしていて、仮面の人物はひたすらかわしている。

 なぜスチュアーノは、俺に攻撃をせず同じ仮面仲間だったものにするのだろうかいささか疑問に思う。

 「なぜ、何も喋らないのですか? もしや…………、あなたはシスではないのですかなぁ。確かにシスの戦闘スキルに関しては常人の少し上ぐらいで、あなたにやられたとしても納得がいきます。………、ならばシスをどうしたのですか?」

 スチュアーノの渾身の衝撃波がその人物は少し避けそこねて、仮面の一部に当たる。

 仮面にヒビが入ったが、壊れるほどではない。

 しかし、何も言わずにスチュアーノとの一定の間合いを保っている。

 「貴方、シスをも手に掛けたのですか? 救いようのない大罪人ですよ。貴方が口を割らないのなら、ここで制裁を与えましょう」

 そう言って、スチュアーノは地面を蹴って前に飛び出す。
 俺の目がかろうじて、彼の動きに追いつけたほどのスピード………、魔力を使って高速移動を可能にしている。

 多分傍から見たら、蒼い光が線となって移動しているように見えていただろう。


 右手の拳が大きく膨張し、空気中の魔力を吸収し始める。

 「仲間の敵、友の敵、貴方には分からないであろう力キズナがある」

 右手を目一杯引き絞り、仮面の人物との距離が近づく。

 すると、仮面の人物は下がって間合いを取るのをやめた、…………、というか、防ぎきれないと悟ったのかもしれない。


 スチュアーノは顔面、すなわち仮面を狙う。
 「僕を舐めてはいけなかったのですよ」

 そう言って、引き絞っていた右腕を伸ばしてストレートを撃つ。

 流石に仮面の人物は、今まで避けに徹していたので、もうこれで決着がつき、この事件は収束に向かうものだと思っていた。


 しかし……………、

 「『フォービデゥン』」

 その人物は、スチュアーノの拳が当たる直前に懐から、何やら鉱石を取り出した。


 途端にその人物を取り囲むように透明な空色の壁が現れ、スチュアーノの攻撃を阻む。

 スチュアーノの快進の一撃は、びくともしない。

 「それは貴重品アイテムの『絶対防御フォービデゥンですか。しかし、その防御力とは裏腹に一度展開すると長時間効果は持続し続け、使用者はその場を動くことができないはずです。一般的には拘置所や刑務所、裁判所など罪を犯した者にたいして、我々が使用するような、世間一般で使うような貴重品アイテムですが。大罪人に貴方自らそれを使って、外部からも内部からも出入りができない壁、いわば柵の中に入るとは……。貴方、何を考えているのですか?」

 「…………」

 「まさか、仲間を呼ぼうと考えてます? 無謀ですね」

 スチュアーノは戦闘状態のまま、防御壁の外から、仮面の人物を見張る。

 俺はスチュアーノの今の言葉は嘘だとは思えなかった。

 俺はスチュアーノたちに怪しい行動がないか注意しながら、ユーリを救出するべく、彼の女が飛ばされた部屋の隅に向かう。

 所々に瓦礫が当たった跡があり、血が流れているが、比較的軽症だった。
 とはいえ、気絶しているが。

 衣服に乱れや破れもなかった。
 ただ、突然の出来事に、彼女自身ついていけなかったのだろう。

 俺はユーリを抱きかかえてクーレナさんのもとへ運んでいく。

 「ユーリの方もお願いされてくれないかな?」

 「こっちが終わったら……、でもこっちも少しは良くなってきた」

 背中を刺されて出血しても、クーレナの手当により、 血は収まったようだった。

 それにしても、魔法はすごいと思う。

 「こいつも何かと巻き込まれ体質だから、頼む」

 こいつは、こんな目にあっても俺たちについていく、っと言ってくれると思う。

 そんなユーリの楽しげなセリフが俺の頭に浮かんだ。
 一直線で、ひたむきで、何かと奇怪な態度をとりながらも、しっかり考えているところが、彼女のいいところだと俺は思う。

 俺は今まで起こったことの説明を、何か知ってる感じだったスチュアーノさんに教えてもらうために、防御壁を挟んだ二人のもとへ行く。

 「スチュアーノさん、どういうことだったんですか?」

 俺は一応スチュアーノさんと一定の距離を保って、警戒しながら訊いた。

 「ここの騎士の人、あんたはここで何が起こっているのか正しく見えていないようだな」

 しかし、口を開いたのは、仮面の人物の方だった。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

処理中です...