オン・ワンズ・ワァンダー・トリップ!!

羽田 智鷹

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第二章 交錯・倒錯する王都

第二章 四十四話 異能

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 俺は目の前にいる青年を観察する。

 扉を蹴飛ばしたようだが、脚は筋骨隆々ってわけではない。

 何よりこいつは、一人でここに突入してきたらしい。
 後ろからライアンたちや衛兵が駆けつけてくる気配すらない。

 「あれれれ、ゼノーー。それ予備アイテムだよね? なんで使っちゃってんの? 俺っちは上手く行き過ぎてるのに、こっちは想定外過ぎて、なんかウケるーー」

 上手く行き過ぎてる、という言葉に俺は最悪の自体を予想した。

 ライアンたちがやられたということなのだろうか。

 「それにさ、あんなに予備策は無敵とか教えてくれた割には、今の作品に溶け込むゼノ。なんかイメージに合うわ」

 しかし、ゼノと呼ばれた仮面の人物は返答をよこさない。

 「はいはい、しっかりハウスにリタンするまでが今日のプラン。軽い感動の再会はあとにするとして、俺っちは何をやればいいのだい?」

 長槍を頭の上でくるくると回しながら、気さくに訊ねる。

 「シオドキは考えろよ」

 「りょーかいっ」

 そう言うと、やつは後ろの壁に向かって跳んだ。
 そして、壁を蹴って前に両脚で着地する。


 しかし、彼は止まらなかった。
 両脚が地面についたまま、一歩たりとも前に踏み出そうとはしていなかったが、床を滑るようにこちらへ向かっている。
 氷の上を滑っているような感じだ。

 しかし、あり得ない。
 彼は加速もせず、減速もしていない。
 まるで一定の速度で動いているようだった。

 「あっれーー。ゼノこっちのひとでいいんだよね? ふしょーしてっぞ」

 「気を引き締めとけよ」

 別に心配……、というかなんとも思っていないような口調だった。

 スチュアーノさんの負傷は、俺がやったことだった。
 戦いの足枷にならないといいと思うばかりだ。

 やつはスチュアーノさんを標的にしていた。
 一定の速度で近づいてきているとは言うものの、その速度が速すぎる。

 スチュアーノさんは、自分に向かってくる敵に衝撃波を放った。

 「そのスピードで僕に向かってくるということは、その分だけ衝撃波の威力が増しますよ?」

 スチュアーノさんの衝撃波の軌道は、やつの中心を捉えていた。

 やつはスピードを落とすことなくスチュアーノさんに向かっていく。
 脚を全く動かさずに移動していることから見ると、減速することができないのかもしれないが……。

 やつは、手袋をつけていない右手を前に突き出して手を開いた。 

 「これ、使いこなせるようになるまで、けっこう努力したんだよねーー」
 しかし、やつからは何の魔力も感じないし、魔法を展開させようともしていない。

 そのままスチュアーノさんの衝撃波でやつはふっとばされるかと思われたが、やつの手に当たった瞬間軌道を変えた。
 というか、やつに衝撃が加わることなく受け流されたといった感じだった。

 「やっぱりこの人も何かある、と言った感じですか」

 スチュアーノさんは半ば覚悟していたのだろう。
 それほど驚いていない。 

 「よっ、とーー」

 やつは長槍で攻撃する構えを見せた。

 「『拡張神威マジェスティクト』」

 そういうと、スチュアーノさんの拳が盾のように姿を変えた。

 やつの長槍を弾く。
 そのまま反発力に押されて、別方向へ流れていく。
 すぐさまやつは、長槍を床に突き立てて減速した。
 しかし、態勢に乱れはない。


 「あれが五大明王の名を持つ武器なんだね。やっぱりかんたんな技じゃ、倒されてくれないんだねーー」

 すると今度は滑ることなく、しっかりと床を蹴ってスチュアーノさんへ向かっていく。 
 そこそこスピードをつけたところで、

 「変化チェンジ」

 直後の一歩目で再び床を滑り始める。
 しかし、今度はもう片方の脚でさらにスピードをつけていく。

 「同じことですよ」

 スチュアーノさんが再び魔力を高め始める。
 どうやら再び跳ね返したところで出来たスキを攻撃するようだった。

 やつは長槍を中を放り投げた。

 「これなら、どうっしょ」

 そう言って滑っている脚で床を蹴る。
 もう片方の脚を真っ直ぐ前に伸ばし、蹴った脚は体に沿うようにくっつけてたたむ。
 弾丸のように宙をとんでいった。

 バーーーン
 やつのエネルギーが余すことなくスチュアーノさんの盾に伝わる。

 今度はやつではなく、スチュアーノさんの番だった。

 やつを押し返すことができず、スチュアーノさんは盾をかざしたまま、後ろまで飛ばされていく。
 そして、壁にぶつかった。 

 「よっしゃーー。ビンゴーー」

 どうやら、扉もこうやってこじ開けたようだった。
 やつは着地して、手袋をはめた手で落下する長槍を掴む。

  
 スチュアーノさんが瓦礫をがらがらと床へ落としながら、おもむろに立ち上がった。

 所々血がにじみ出る。
 特に俺が刺したところから、再び出血が始まっている。

 「痛いです。……しかし、やっと力が湧いてきましたよ」

 やつがその言葉を聞いて身構える。


 見ると、スチュアーノさんの拳から蒼い光が現れ、それがスチュアーノを覆うように広がる。

 「ゼノ、あれは何っすかな? けっこう、ヤバめな気が俺っちには、するんすけど……」 

 「こいつ、大器晩成型スロースターターだったのか」

 ゼノと呼ばれた仮面の人物は落ち着いた声だったが、驚きを隠せていない。
 初めて声の雰囲気が変わった気がする。

 「そうですよ。僕の武器『大威徳』はクセがあるんですよ。ダメージを追うほど、本来以上の力を発揮するってね」

 そう言って、右ストレートをかまして衝撃波を繰り出す。
 自分に対して向かってくる衝撃波に身構えて、手袋をつけていない手で防ごうとする。

 しかし、それが所定の位置につく前に衝撃波がやつを捉えた。
 やつは長槍を持ったまま後ろの壁に叩きつけられる。

 それと同時にスチュアーノさんが片膝をついた。

 「流石につえーな」 
 やつが服装を直そうとしながら立ち上がる。
 しかし、もとから乱れたままだ。

 「もう攻撃はさせない」 

 そう言うと、スチュアーノさんの周りに魔法弾が幾つか浮かび上がる。
 スチュアーノさんが開いていた手を閉じると一斉に魔法弾がやつに襲いかかる。
 やつは、床を滑りながらかわしているが、余裕を失っていた。

 スチュアーノさんの拳を直接使う技はどうやら、反動が大きいらしい。

 やつは、スチュアーノさんに近づかないようにしながらも、部屋の中を縦横無尽に滑りまわる。
 しかし、魔法弾は疲れを知らずしつこく追い続ける。

 「俺っち、もうギブだわ」

 そう言って、長槍をゼノのいる方へ投げた。

 俺は、なぜ仲間に向かって投げたのか疑問に思った。

 ゼノも絶対防御フォービデゥンがあるからか全く気に留める様子もない。

 しかし、やつには何かしらの意図があるのだろう。
 スチュアーノさんは、その長槍を防ぐべく衝撃波を放った。

 見事に長槍を捉え、荘厳な作品の一部を偶然にも破壊しながら長槍の軌道を逸らした。

 「どうするのかと思いきや、こうしてきたか」

 ゼノはそう言うと、内側から絶対防御フォービデゥンに触れた。
 途端に破片となって霧散した。

 俺とスチュアーノさんは、動きを止めて目を見張った。

 ゼノと呼ばれた仮面の人物は、ちょうど壊されて、スチュアーノさんの矢のようなものがなくなった部分から出てきた。

 「いや、あんたこんなものを壁の外に作るとは思わなかった」

 「ほんと、俺っちの機転の良さに感謝してほしいもんだよ」

 そう言って、魔法弾に追われたままやつはゼノの元まで行く。

 「ちッ、しょうがありません」

 スチュアーノはそう言う、彼らの真上の天井に向かって衝撃波を放った。
 瓦礫が彼らに向かって落下してくる。

 「どっちが待ち人かわかんなんだけど、フェアーということで」

 そういうと、やつはゼノの手をとった。
 そして、床を滑り始める。
 瓦礫をかわしながら、長槍を回収していった。

 そのままやつらは出口を目指すようだ。

 「セロはまだですか?」

 しかし、応答はない。


 「僕は遠距離よりも接近戦の方が得意なのですけど」

 ややヤケクソ気味に、去りゆく敵に向かって衝撃波を放つ。
 しかし、見事にかわされてしまう。

 「もうこうなったら、この王都から出るまでにやつらを捕まえなければなりません」

 床を滑るようにして部屋から出ていった彼らに対して苦々しげな視線を、だれもいない扉があったところへ向けていた。

 「でも、この王都内であの方法の移動は可能かは分かりませんよ。だってこの王都は人も多いし、段差だってここと違ってありますから」

 俺は思ったことを率直に述べる。

 「そうですね。では」

 スチュアーノさんは、懐から通信用の貴重品アイテムを取り出した。

 『王都内の全兵士諸君に告げます。現在屋敷内西を敵が逃亡中。なんとしても捉えよ』

 スチュアーノさんが貴重品アイテムに向かって喋っていると、隣から眠気を払うような声が聞こえた。

 セロが目を覚ましたようだった。
 クーレナさんの看護もあり、ひとまずは大丈夫そうだった。


 「屋敷を出たら、やつらは武器を使えないのだろう。俺様がやられていた分の借りを返してくる」

 「セロ、やつらは変わった能力を使ってきますよ」

 「小賢しい手を俺様の絶大なる力でねじ伏せてやる」

 オレサマモードのセロは杖をかざした。

 「僕たちもすぐ行きますので、セロ。一旦は任せましたよ」

 スチュアーノさんがそう言うと、セロは消えた。


 俺は、説明を求めるようにスチュアーノさんを見ると、

 「あれは『転移移動テレポーテーション』王都内限定のしかもセロしか使えない術だから」

 危うく俺は、また魔法に対して嫉妬をするところだった。

 転移移動といえば、だれもがほしがる想像上の能力だ。

 「やつらを追いかける前にフィルセくんに伝えたいことがある」
 クーレナさんが見守る中、スチュアーノさんがあるものを取り出した。
 
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