エンリルの風 チートを貰って神々の箱庭で遊びましょ!

西八萩 鐸磨

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7.はじめての宿

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『月のらくだ館』


 看板には、そう書いてあった。

 ラクダもいるんだね。


「「エルお姉ちゃん、おかえり~!!」」

「ただいま」


 エルが扉を開けて中に入ると、元気な声をかけられた。

 エルに続いて中に入ってみると、そこにはそっくりな顔をした、犬の獣人の子が2人いた。

 歳は、コリンよりはちょっと上だろうか?


「今日は、ちょっと遅かったわね」


 エルが2人に挨拶を返して、頭を撫でてやっていると、その向こうから別な声がした。


「夕飯は食べてきたんだろうね」


 エプロンで手を拭きながら、近づいてきたのは、やはり犬人の女性だった。

 30代くらいだろうか。


「ごめんなさい、食べてきたわ」

「いいのよ」


 女性は、ニコニコ笑っている。


「そちらは?」


 女性が、俺とコリンの方を見て聞いてきた。


「旅の人。泊まるところが無いって言うから、連れてきた。お部屋空いてる?」

「そう、エルちゃんが他人の世話を焼くなんて珍しいわね。ちょうど、今日一つ空いたところよ」



 よかった、とりあえず寝床は確保できそうだ。


「あの、セイヤです。こっちは、コリン。今晩から、よろしくお願いします」

「おねがいします!」


 コリンと二人で、頭を下げた。


「まあまあ、ご丁寧に。ウチは宿屋だから、泊めるのが商売よ。好きなだけ泊まっていってね」

「「はい!」」

「それから、あたしはサリー。この子たちは、サムとサニーよ。あとついでに、厨房にいる旦那はサルク。よろしくね」


 みんなサがつくのか・・ややこしいな。

 まあ、みんな細身で(サリーさんは、スレンダー美人だ)、サルーキーそっくりだけど。


「宿代は、一泊一部屋朝晩二食付きで、6000シケルだけど、エルのお友達ということで、5000シケルでいいわ。部屋は、2人部屋だけど3人までならなんとか泊まれるわ。それから、このロビーの奥が食堂だから、食事はそこでとってね。朝は6時から8時まで、夜は5時から7時までよ」

「わかりました」

「それから、洗濯物は部屋の前のカゴに入れておいてくれれば、やっておくわ。洗顔は、部屋の中の水瓶の水を使って。飲水は、必要なときに厨房に声をかけてね」

「え~と、宿代は前金ですか?」

「そうよ、何泊する?」


 どうしよう、もっと大きな町にも行ってみたいけど、この世界に慣れるまでは、ここにいたほうが良さそうだしな。


「じゃあ、1ヶ月でお願いします」

「そう、なら今月は小の月だから、29日分で14万5000シケルね」


 俺は、金貨を15枚渡してお釣りをもらった。

 エルに返した登録料と、パブの飲み代を引いて、残りは34万3000シケルだ。(コリンの肉代は貰い物なので、勘定に入ってない)

 んー、一人で民宿とか泊まったことなかったし、ビジネスホテルとかだと、CMで3~6000くらいって言ってたような・・・それは安いところの場合か?

 まーでも、なんとなく1シケル=1円くらいの価値のような感じなのかなあ。

 だとしたら、50万シケル(50万円)って、俺が今まで手にしたことのない大金だ!

 もしかして、冒険者って儲かる商売なのか?

 そういえば、エルは1日で10万シケル(10万円)稼いだことになるのか!

 ・・・すげえな。



「「コリンちゃんて言うんだ。明日から一緒に遊べるね!!」」


 コリンは、もうサム&サニーと仲良しになっているみたいだ。


「じゃあ、あたしは部屋に行くわね」


 エルが、俺たちのやり取りが一段落したのを見届けて、そう言ってきた。


「エル、今日はいろいろありがとな。ほんとに助かったよ」


 俺は、エルの手を取ってお礼を言った。


「べ、別に、大したことしてないわよ。こ、コリンのためよ」


 エルが顔を真赤にして、俺から視線をそらして言った。


「ああ、、ありがとな」


 なんか可愛すぎて、あえてそう言ってみた。


「じゃ、じゃあ、おやすみ」


 エルは、手を離し二階への階段へ向かった。


「あ、エル。申し訳ないんだけど、明日もし大丈夫だったら、村を案内してくれないかな?」


 階段を登りかけたエルに、慌てて聞いてみた。


「ん~・・いいわ、案内するわ」

「ありがとう!よろくな。じゃあ、引き止めて悪かった。おやすみ!」

「「「エルお姉ちゃん、おやすみなさい!」」」


 俺がそう言うと、コリンとサム&サニーも、元気に挨拶をした。


「うん、おやすみ」


 エルは、右手を小さく振って、二階へ上がっていった。




「さあ、お前たちも、もう寝なさい」


 サリーさんが、サム&サニーに声をかけた。


「「はーい。コリンちゃん、また明日ね~。おやすみなさーい」」


 2人は、コリンに手を振りながら、奥に消えた。

 そういえば、ようやく2人の見分け方が分かった。

 右耳の先っぽが、折れているのが、サム。

 左耳が折れているのが、サニーだ。


「それじゃあ、お部屋へ案内しますね」

「お願いします」


 サリーさんのあとについて、二階へと上がっていく。

 階段を上がると、内廊下があって、両側に部屋が6つづつ並んでいる。

 サリーさんは、どんどん廊下を進んでいった。


「ここが、エルちゃんの部屋ね」


 奥へ向かって右手に並んでいる部屋の内、突き当りから2番めの部屋を示して、サリーさんが教えてくれた。


「さあ、この部屋があなた達の部屋ね。6号室よ」


 エルの部屋の隣、一番奥の部屋の前でサリーさんが立ち止まって、扉を示した。

 木製の扉には、大きく6と彫ってある。

 つまり、エルの部屋は5号室だ。

 サリーさんが、取っ手のところに魔力を流すと、カチャリと音がした。

 どうやら、あれで鍵が開くみたいだ。


「さあ、ここに二人で手をかざして、魔力を流してみて」


 サリーさんに言われるまま、俺とコリンは、取っ手のところに手をかざし、せ~ので魔力を流した。

 すると、またカチャリと音がする。


「最初にあたしの魔力で初期化して、あなた達の魔力を登録したのよ」

「へーすごいですね」

「あら、あなたの故郷には無いの?」

「え、ええ。田舎なもんで、鍵が必要ないんです」

「ずいぶんと平和なところね」

「ま、まあ・・・ははは」


 俺は頭に手を当てて、曖昧に笑ってごまかした。


「じゃあ、もう一度魔力を流してごらん」

「コリンがやる!」

「やりたいのか?じゃ、やってごらん」

「うん!」


 コリンが魔力を流すと、カチャリとなって鍵が開いた。


「さあ、ここがあなた達の部屋よ」


 すると、サリーさんが扉を大きく開けて、中を見せてくれた。


「「わあ~」」


 2人で感嘆の声を上げた。

 中は、15畳くらいの広さで、シングルサイズのベッドが2つ並んで置いてある。

 ベッドは木製のフレームで、マットレスは無いみたいだ。

 その代わり、あたたかそうな獣の毛皮が敷いてある。

 掛け布団はなく、畳んで置いてある、薄手の毛皮がその役目をするのだろう。


「バフッ」


 コリンが、ベッドにダイブした。

 大きな窓にはガラスはなく、今は雨戸が閉まっている。

 窓際には、テーブルと椅子、テーブルの上には白い釉薬のかかった焼き物の花瓶に花がいけてある。


「あの水瓶の、水を使ってね。」


 サリーさんが、指差す壁際の方に水瓶があった。


「分かりました」


 とても清潔で、居心地が良さそうな部屋の様子に、俺は安心した。


「それじゃあ、なにか分からないことがあったら、なんでもいいから言ってくださいね」

「はい、ありがとうございます」


 一通り中を確認した俺のことを見て、サリーさんが言ってくれた。


「コリンちゃん、おやすみなさい」

「おやすみなさ~い」


 ベッドでゴロゴロ転げ回っているコリンに、サリーさんは声をかけると、部屋を出ていった。



「さてと・・」


 ひとまず、俺もベッドに腰を掛けると、相変わらず転げているコリンの姿をぼーっと眺めた。

 それにしても、こうして落ち着いてみると、なんの疑問もなく、コリンと一緒に宿屋に泊まることにしたけど、そもそもこれで良かったんだろうか?

 親兄弟も親戚もいないみたいなこと言っていたけど、この村のしかるべき機関なり、施設なりに、迷子とかの届け出みたいなことをするべきだったんじゃないか?


「・・・でも、ほっとけないよな」

「ふぇ?」


 俺が、ボソリとつぶやくと、転げる動きを止めて、コリンがこっちを見た。


「コリンは、俺と一緒にいるんでいいのか?」

「うん!セイヤお兄ちゃんと一緒がいいの!!」


 コリンの目を見つめて、俺がそう尋ねると、コリンはこっちのベッドに飛び移ってきて、抱きついてきた。


「ちょっ、わ、分かったから、のいてくれ!」


 そのままベッドの上に仰向けに倒れ込む形になり、抱きついてきたコリンがのしかかって、肺が圧迫される。


「一緒がいいんだもん・・・」


 コリンは、俺の訴えもむなしく、抱きついたままだ。

 ん?


「コリンおまえ・・・泣いているのか?」


 ブレザーをはだけ、むき出しになったシャツに、顔を押し付けるようにしていたコリンだったのだが、その部分のシャツが濡れているのに気がついた。


「・・がいいんだもん」


 俺は、顔を押し付けたままのコリンの頭を撫でてやった。

 三角耳が小さく震えている。


「・・・分かった、一緒にいような」


 コリンは、顔を押し付けたまま、無言でうなずいた。



 15分ほど、そのままの状態でいたが、やがて、規則正しい寝息が聞こえてきた。

 どうやら、泣き疲れたのか、あるいは安心したのか、抱きついたまま寝てしまったようだ。

 俺は、そっとコリンを引きはがすと、隣のベッドへ抱きかかえて移動して寝かせると、毛皮の毛布を掛けてやった。

 そして、コリンの頭をもう一度撫でてやり、自分のベッドに戻って、仰向けに寝っ転がった。


 見知らぬ天井を見つめ、今日あったことを思い出してみた。


「俺、この世界でやっていけるのかな?」


 元の世界のことも、考えてみる。


「みんなどうしてるかな?俺のことはどういう扱いになっているんだろう?心配してるのかな?」


 首を横にして、隣のベッドのコリンの寝顔を見る。


「こんな小さな子と一緒に、大丈夫だろうか?俺、ほんとはまだ高校生だし、自分のことだけで一杯一杯かもしれないのに」

「セイヤお兄ちゃん」


 その時、コリンがにっこり微笑んで、寝言を言った。


「やるだけやって、頑張るしかないか・・・」


 俺は、その笑顔を見て、何かふっきれるものを感じて、そうつぶやいていた。
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