エンリルの風 チートを貰って神々の箱庭で遊びましょ!

西八萩 鐸磨

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8.お買い物

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 チュン チュン チュ。


 異世界二日目。


 心地の良い鳥のさえずりに、俺は目を覚ました。

 昨日はやっぱり色々とあり過ぎた怒涛の一日だったようで、まだちょっと、朦朧としている。

 敷いてある毛皮がモフモフで、意外と寝心地が良かった。

 それに、抱いている尻尾もフサフサで、最高に気持ちいい・・・・・ん?


「なんで、お前が俺のベッドにいるんだーーっ!!」


 俺は、寝起きのはっきりしない頭で、その手触りを楽しんでいた物体が、俺の懐にすっぽりハマるように丸まっている、コリンであることに気がついて、思わずとび起きた。


「フニャフニャ・・・あ。セイヤお兄ちゃん、おはようございましゅ」


 狼狽している俺のことをよそに、コリンが目をこすりながら、ムクリと起き上がった。


「お、おはよう。・・・じゃなくて、隣に寝かせたはずなのに、なんで俺のベッドにいたのかと聞いているんだ」

「だって、寂しかったんだもん」


 コリンが、目を伏せて言った。


「なっ・・・・そ、そうか」


 そうか、そうだよな。

 身寄りのない5歳の女の子が、見知らぬ土地で一人・・だもんな。


「分かった、しょうがないな。許す」


 俺はそう言って、コリンの頭を撫でた。


「ありがとう!じゃあ、今晩も一緒に寝てくれる?」

「へ?あ、ああ・・・仕方ない、いいぞ」

「ほんと?やったーーー!!」


 相手は、5歳の幼い子供だ。

 別にやましい気持ちはないし、いや、あるわけないし、いいだろう。

 両手を挙げて、喜びまくっているコリンの姿を見て、俺はそう思った。


「よし、まずは顔を洗ったら、朝飯だな」

「うん」


 水瓶の水を使って洗顔を終えると、1階の食堂に下りていった。

 食堂は結構広くて、20人くらいがいっぺんに座れるくらいの席数があった。

 厨房も、オープンキッチンのようになっており、とても開放感のある気持ちのいいスペースだ。


「「おはようございます!」」


 テーブルの間を、料理を持って運んでいた、サリーさんに挨拶をする。


「おはよう。昨夜はよく眠れたかい?」

「「はい!」」

「それは良かった。好きな席に座っていいんだけど、あっちの席の方がいいんじゃない?」


 朝から、満面の笑顔のサリーさんが、窓際の朝陽が差し込むテーブルを、手に持った料理の皿で指した。

 そこには、エルが1人で座って、朝食を食べていた。


「ありがとうございます」


 俺はコリンと、サリーさんに頭を下げてエルが座っている方へ移動していった。


「エル、おはよう」

「エルお姉ちゃん、おはよう!」

「おはよう」


 俺たちが声をかけると、ちぎったパンを口に運びながら、外の景色を眺めていたエルが、こちらに振り向いて、挨拶を返してきた。

 言い方がぶっきらぼうだが、口元は微笑んでいる。

 どうやら、機嫌はいいらしい。


「さあ召し上がれ!」


 俺たちが、エルの向かいの席につくと、サリーさんが料理を運んできて、テーブルの上に並べてくれた。

 パンにバター、スープに目玉焼き、白いふわふわしたチーズが載ったサラダ・・あ、俺このチーズ知ってる、モッツァレラチーズだ。

 このチーズうまいんだよな、パンは丸いちょっと固めのパンだ。


「あれ?」

「どうかした?」

「いや・・」


 俺が、並べられた朝食一式に、違和感を感じて声をあげると、エルが怪訝そうにこっちを見た。

 小さな器に入ったスープには、木のスプーンが付いていた。

 パンは手でちぎって食べるし、バターは・・まあ、なんとかなるだろう。

 でも、サラダは?

 目玉焼きは?

 ボウル状の器に入ったサラダは、さっき言ったチーズが入っていて、ドレッシングみたいなものもかかっている。

 でも、朝食セットは以上だった。

 フォークとか箸とかは?

 そういえば、昨日の晩飯は、手で持って食べても違和感のないものばかりだったから、気が付かなかったけど、こっちに来て、スプーン以外のカトラリーを見ていない。


「これは・・・」


 俺がその疑問を口にしようとした時、エルが自分のサラダを三本の指で器用に食べた。

 そういうことですか。


「ん?」

「いや、なんでもないです」


 エルがサラダを咀嚼しながら、小首をかしげてきたので、慌ててごまかした。


「・・・おいしい」


 俺は、エルの真似をして、直接手を使ってサラダを食べてみると、その意外なおいしさに目を見開いた。


「でしょ」


 エルが、そんな俺の様子を見て、少し微笑んで言った。

 純粋な味つけは、塩と胡椒にオリーブオイルと、とても単純なのだが、通常の食感を含めた味覚に、指先から伝わってくる触感が加わることで、いままで経験したことのない、おいしさなのだ。


「セイヤおにゃん、食べないの?」


 未体験の感動に固まっていた俺に、コリンが口いっぱいに頬張りながら、言ってきた。


「あ、ああ。たべる、食べる」





「で、案内してほしいって言ってたけど、どこを見たい?」


 食後のお茶~ハーブティーみたいなもの~を飲みながら、エルが聞いてきた。


「そうだな、まずこの服なんだけど、これじゃあちょっと目立つかなと思うんだよね。それと、魔物の解体用のナイフとか、コリンにも持たせたいから武器、防具のたぐいだな」

「じゃあ、服屋と武具屋ね」

「それから、この村で見ておいたほうがいいところってないかな?」

「じゃあ、ジッグラトね」

「ジッグラト?」

「あんた、ジッグラトも知らないの?神殿のことよ」


 いや、うちは真言宗で・・・。


「なんか言った?」

「あ!いや、べつになんも言ってません。そうか、神殿かあ・・そんなに立派なの?」


 やべ、ひとり言が聞こえてた。


「そうね、エアがまだ栄えていた頃に建てられたものだから、だいぶ劣化が進んでいるけど、ソコソコ凄いわよ。なにしろ、世界の創造者であり、知識および魔法を司る神、エアを祀っているんだから」

「あー、エア村って、そのエアなんだ」

「あんた、ほんと何も知らないのね」

「スイマセン」



 朝食後、一旦部屋に戻り、身支度を整えたあと3人で出かけた。

 大通りを少し戻り、昨日夕飯を食べた店の向かいにあった、服屋に向かった。

 店の前には、色とりどりの布が、うず高く積み上げられている。

 素材は、木綿やウール、絹、亜麻、麻など様々だ。


「ごめんくださ~い。」


 商品の山の間を縫って、店の中に入り、声をかけた。


「はいよ~」


 奥の方から、猫人の店員が出てきた。

 20代後半の、ナイスバディなお姉さんだ。

 猫というより、豹だな。


「服を買いたいんですけど、適当に見繕ってもらえませんか?」


 俺がそう言ってみると、店員のお姉さんは、頭からつま先まで舐めるように見たあと、ふっと奥に消えた。


「これなんかどお?」


 しばらくすると、手に持ってきたものを、俺の体にあてて聞いてきた。

 木綿でできたそれは、チュニックというやつで、古代ギリシャとかの壁画によく描かれているような、ワンピースみたいなやつだ。

 袖の縁飾りに、チョトだけ房飾りがついている。


「ん、いいと思う」

「そだね。これください!」


 エルとコリンが勝手に決めている。


「お、俺の意見は?」

「男がグダグダ言わない」

「セイヤお兄ちゃんのコーデはあたしが決める」

「ハイ・・・」


 革製のサンダルも勝手に選ばれて、あっという間に俺の服装は決定してしまった。


「コリンもなんか買ったらどうだ?」


 オーバーオールもかわいいが、少々くたびれているのがかわいそうだと思い、そう言ってみた。


「もう決まってる。これ」


 コリンの姿が、いつの間にかその場から消えており、その言葉と共に奥から出てきた。


「どう?」

「おまっ、その格好!」


 その姿を見て、俺は絶句した。

 ベリーダンスの衣装そのままじゃんか。

 確かにピンク色の透け素材の衣装は、コリンにピッタリだったが、露出がやばいだろ。

 だいたい、お前まだ5歳だぞ!


「だめ?」


 上目使いをしてきやがった。

 どこでおぼえた?


「だめじゃないが・・・」

「じゃ、いいんだね。ヤッター!」



 んー、買い物はやっぱり女子にはかなわん・・・。


「全部で、25000シケルになります」

「じゃあ、次は武具屋ね」


 支払いを済ますと、エルが、さっさと店を出ていく。


「お願いします・・・」


 何かに負けた気持ちの俺は、スキップしながらそのあとをついて行く、コリンのそのまたうしろを、トボトボとついて行った。




 服屋を出たあと、今度は大通りを村の中心部へと向かった。

 月のらくだ館の前を通り過ぎ、さらに進むと、左手の一軒の店へ入った。


「親父さんいる?」


 エルが、店の奥の方に声をかけた。

 店の中は、武器、防具の類が、所狭しと置いてある。

 雑然として、無秩序に置かれている状態を見ると、ドン・キホーテを思い出す。

 ただ、商品は丁寧に磨き込まれており、ホコリは被っていない。


「おう」


 辛抱強く待っていると、野太い声が聞こえてきた。

 ガタガタと、何かをひっくり返す音が聞こえたあと、ひげもじゃ、ずんぐりむっくりの爺さんが出てきた。


「なんじゃ、ウチに売りモンはないぞ」


 いや、ここにいっぱい並んでいるじゃありませんか。


「なに相変わらず、バカなこと言っているのよ。あたしよ」

「おー、おー。エルじゃないか。元気にしとったか?」

「ん、元気」

「そうか、そうか。相変わらずカワイイのう」


 ひげもじゃの厳つい爺さんを、バカ呼ばわりするエルも凄いが、そのエルの顔を見て、途端に目尻を下げてご機嫌をとる爺さんもなんだかなあ~・・・。

 出てきたのは、道具関係でおなじみの、ドワーフの爺さんだった。

 相当皺くちゃなんだが、いったい何歳なんだろう?


「今日は友達に、武具を売って欲しい」


 ん?いまって言ったよな?

 おー!友達って思ってくれているんだ。

 なんか嬉しい。


「ほう、お前に友達ができたか。それは、それは・・・フム」


 爺さんは、俺の顔をまじまじと見て、そのあとコリンのことも見た。


「フム。で、何がほしい?」


 ??なんかよく分からんが、合格らしい。

 どうしようかな。


「ショートソードと、あと解体用にも使えるダガーみたいなやつを」

「なるほど・・・・じゃあ、これじゃな。」


 俺の要望を聞いて、奥の棚から二本の剣を出してきた。

 どちらも、すこし透明感のある銀色の刀身をしていて、持ち手には何かの図象の象嵌が施してある。


「お前さん、レベルはまだまだじゃが、魔法もそこそこ扱えるのじゃろ?その剣は、ミスリルが20%含まれとる。最初に持つ分には十分じゃろ」

「は、はい。ありがとうございます」


 なんで分かるんだ?

 他人のステータスって見れないんだろ?


「フン、不思議そうな顔をしておるな。200年もこの稼業をしていれば、相手がどれくらいの実力かぐらい見れば分かるわ」

「そ、そうなんですか?」


 スゲー!

 長寿族すげー!


「そっちのお嬢ちゃんには、これなんかどうじゃ?」


 コリンに渡してきたのは、ショートスピアだった。

 柄の部分が透明感のある真っ白な素材で、穂先は俺のと同じ素材のようだ。


「穂先は、あんちゃんの剣と同じ、ミスリル入りのもので、柄の部分は鋼よりも硬い焼物じゃ」


 もしかして、セラミックス?

 でも強度がなあ、衝撃に弱いだろ・・・安定化ジルコニア、あれか。

 なんでそんなもの知っているか・・・・うちの父さんが、某メーカーでファインセラミックスの研究やってたんだよね。

 それにしてもどうやって作ったんだ?

 まあ、ミスリルっていうファンタジー素材がある時点で、なんでもありか。


「わー、ありがとう!お爺いちゃん!!」

「こら、コリン。ここで振り回すな!」


 嬉しいのは分かるが、こんな狭いところで振り回されたら、危なくてかなわん!


「あと、防具はあまり体の動きを邪魔しないのがいいんですけど」

「じゃあ、革製のやつで要所をカバーするだけのにしておけ」

「分かりました」


 そう言って、レザー・アーマーを2セット出してくれた。


「あとは、何か必要になれば、また来ればいいわ」


 エルが言ってくる。


「そうだな、あの~お爺さん」

「ガンツじゃ」

「ガンツさん、全部でおいくらですか?」

「200万シケル。」

「ええっ!そんなに持ち合わせないんですけど・・・」

「と、言うところじゃが、エルの友達ということで、くれてやるよ」


 そう言うと、ガンツさんは店の奥へ行こうとした。


「い、いいんですか?なんか、悪いような・・」

「未来への投資じゃ。若いものが、細かいことを気にするな」


 言いながら、本当に店の奥に消えてしまった。


「ありがとうございます!」

「ます!」


 俺が、ガンツさんの消えた方へ頭を下げてお礼を言うと、コリンも真似して隣で頭を下げた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
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