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20.ワイバーン
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◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
この物語の世界地図になります。
セイヤが転移された場所は、ヒタトとウルト、ハルバトの3国の国境付近です。
今回は、エア村から北西へ向かう、ヒタトの王都キシャルに続く街道を進んでいます。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「?!!」
突然、エルが無言で御者台に飛び移っていった。
「どうした?エル!」
「帰ってきたわ」
エルが指差す方向を見ると。
遠くから、こちらへ向かって高速で駆けてくる人影があった。
「ピューッ!」
エルが、短い口笛を吹いて合図を送ると、周りを走っていた馬車が一斉に止まった。
「魔物の居場所を、確認しました」
人影は俺たちの乗った馬車の、一つ前に止まった馬車に近づくと、その馬車から顔を出した男の人に告げた。
「ご苦労さまでした。では、一旦ここで集まって、作戦会議を開きましょう」
報告を聞いた男の人 ~サブマスのガイヤさん~ が、エルの方を振り向いて見て言った。
「分かった」
エルはうなずいて、馬車からとび降りると、ガイヤさんの乗った馬車の方へと歩き出した。
その様子を見て、他の馬車からも、次々と冒険者たちが降りてきて、集まってくる。
今回の討伐依頼は、ここ最近では最大の規模で行われるため、全体のまとめ役として、冒険者ギルドから、ガイヤさんが来ていたのだった。
普段であれば、唯一のAランク冒険者である、エルが指揮をとっていたそうだが、今回はいつにも増して他の町からの新参者が多いため、若いエルでは、従わないものも出てくる可能性も懸念しての措置だった。
俺はその話を聞いた時、プライドの高いエルが怒り出すんじゃないかと、内心ハラハラしていたのだが、意外とあっさりしたもので、ひとこと「あたしの邪魔をしないんだったら、どっちでもいいわ。」と言っただけだった。
さっき戻ってきた、斥候に行っていた人(ちなみに、山猫の獣人さんでした。)の情報では、いま辿っている、ヒタト国へと続く街道が谷あいに差し掛かったあたり・・だいたいここから10000キュピ(5キロメートル)ほど行ったあたりに、おびただしい数のワームがいるらしい。
さらに、数十匹のサーペントも混じっているという。
どちらも、蛇の魔物の一種でドラゴンの眷属だ。
「おいおい、下手したらワイバーンまで出てくるんじゃねえのか?ガハハハハ!」
ダンさんが、だみ声で軽口をたたいた。
・・いや、それ、フラグだし・・・。
「あたしが、そんなデカブツ見逃すわけ無いだろ!」
斥候の山猫の獣人のお姉さんが、ダンさんを睨んでいる。
それも、フラグ・・。
********
作戦と言っても、街道の両側は切り立った崖で、敵の背後にまわりこむ余地は無く、正面から行かざるを得ないため、選択肢は限られていた。
馬車はこの場に留めて、最低限の見張りを残し、徒歩で近づくことになった。
そして、敵の数が尋常でないため、まずは敵の姿を視認したら、慎重に近づき、遠距離攻撃が可能な者が最大射程から先制攻撃を加える。
その後、相対距離が縮まった段階で、広範囲の攻撃魔法を放てる者が、できるだけ多くの敵を殲滅し、その援護に中距離攻撃の得意なものがつく。
当然さらに距離が縮まる前に、ヘイト担当のタンクたちが前面に出て、近接攻撃の得意なアタッカーが突出してくる敵を潰していく。
補助担当は適宜、バフ、デバフ、ヒールをかけていく。
・・・と、そんなところだった。
俺は、エルからあらかじめ、今回は魔法を極力使わないで、エルとともに前線でアタッカーをするように言われていた。
「だって、あんたが手加減無しで魔法を、ぶっ放しまくったら、どうなると思っているの?」
だそうだ。
たしかにまだ、魔法操作に慣れていないけど、そんな言い方しなくても・・・。
********
「さて、ではみなさん。準備ができたら、出発しましょう」
ガイヤさんの指示で、俺たちは魔物たちの元へと進みはじめた。
一瞬俺は、帰りたくなった。
だって流石に、地面を埋め尽くす細長い物体を見たら、普通、生理的にキツイでしょ?
サーペントは・・まあ、いいですよ。
顔はドラゴンだし、ヒレみたいなの付いてるし、それなりに風格がある。
でも、ワームはねえ・・。
デカイのはいいんですよ?
大蛇らしくて。
でもね、そいつらの間の隙間を埋めるように、うじゃうじゃ、うねうねしているミミズのデッカイの?
まじで、吐きそうになったわ・・。
******
戦いは、先制攻撃に続いて、範囲魔法の攻撃で、徐々にではあるが、敵の数が減って行った。
ただ、火属性の魔法で焼かれたワームの残骸を見すぎた俺は、当分の間は、蒲焼きは食べれないなと思った・・・この世界にあればの話しだけど。
ーーそして、いよいよ俺たちの出番となる。
シャムシールを構えたエルと、ショートソードを手にした俺は、魔法攻撃によって、一瞬開いた空間に、素早く飛び出した。
互いに背中を合わせ、右周りに回転しながら敵を次々に斬り伏せていく。
小さかった俺たちの周りの空間は、その回転に合わせて、徐々に広がっていった。
ーーそして。
俺たちは、いつの間にか、敵の集団のど真ん中で、輪舞曲を踊るようにクルクルと軽やかに舞っていた。
魔物たちは、行進をやめ、エルと俺の踊りの輪の中に吸い込まれて行く・・・。
・・・やがて、魔物たちの歩みの変化に気づいた他の冒険者たちは、自分たちの攻撃の手を止めて、その不思議な光景に目を奪われていた。
灯火に誘われて、吸い寄せられる羽虫のような光景に・・・。
「グギャーーーーオ!!」
最後のサーペントが、エルのシャムシールによって、斬り伏せられる瞬間、冒険者たちの頭上から、耳をつんざく咆哮が聞こえた。
エルの姿に見とれていた冒険者たちは、一瞬、反応が遅れた。
咆哮のした方を向いた時には、目の前に紅蓮の炎が迫っていた。
冒険者たちが、その炎に一瞬にして包まれる。
エルは、目を見開いてその場で固まってしまっている。
俺は慌てて、みんなの頭上に、ウォーターウォールを全力で展開した。
紅蓮の炎は、水の壁に阻まれ、ぶつかり合った場所から、凄まじい水蒸気が発生する。
「みんな!大丈夫ですか?!!」
俺は、魔法を維持しながら、冒険者たちに声をかけた。
「だ、大丈夫だ・・・」
「ガイヤさん!無事だったんですね」
「ああ、ちょっと油断してしまったようだ。他の人たちは・・・」
俺とガイヤさんは、周りを見回す。
「俺たちも、なんとか・・・」
「良かった!」
銀狼のメンバーも、無事だった。
でも・・。
「残ったのは、たったの18人か・・・」
ガイヤさんが、肩を落とす。
「ガイヤさんすいません。俺がもっと早く魔法を・・!」
「セイヤ、危ない!」
俺が、仲間たちの惨状に気をとられて、自分の反応の遅れに泣言を言おうとしていた時、エルの叫ぶ声と共に、彼女に思いっきり突き飛ばされた。
「ズザシャシャシャー!」
さっきまで俺が立っていた地面が、何かに大きくえぐり取られた。
上空を見上げると、炎は消えていて、立ち込める水蒸気の間から、巨大な影が姿を現した。
「ワ、ワイバーン・・・」
ガイヤさんが、掠れた声で呟いた。
赤銅色をした硬い鱗に覆われた身体。
鋭く、大きな鉤爪を備えた四肢。
前脚と一体となった大きな翼。
ドラゴンの亜種、劣化版などと言われることもあるが、歴としたSランクの魔物である。
先ほどの攻撃は、長い尻尾の一振りだったようで、地面には筋状の深い溝ができていた。
完全に、俺をターゲットにしているな・・・。
紅の混じる金色の大きな目で、ジッと見つめてくる。
爬虫類特有の縦に長い瞳のせいで、喜怒哀楽はわかりづらい。
「グギャーオ!!」
一声鳴いて、またしても火炎を吐いてきた。
俺は、飛び退りながら、特大のウォーターボールをお見舞する。
「「「セイヤ!」」」
「「セイヤさん!」」
エルやガイヤさん、銀狼のメーバーが、一斉に叫んだ。
火炎と水球がぶつかり、盛大に水蒸気を撒き散らしながらも、水球の勢いが勝ってドンドン押し返していく。
「大丈夫!」
俺は、エルたちにそう返すと、水球がワイバーンの巨大な顔面にぶつかる寸前で、サンダーバレットと放った。
それと同時に、ショートソードに氷属性の魔力を付与して、跳躍によって一気に詰め寄っていった。
水球が顔面にぶつかって四散し、その視界を妨げた直後に、強烈な雷撃がワイバーンの濡れた身体に直撃する。
反撃に移ろうとしていた身体は硬直してしまい、懐に飛び込んできた俺の動きに対応できなくなった。
「いっくぜーーっ!!」
俺は、鱗が比較的薄くて軟らかい、首の内側部分を十文字に切り裂いた。
思いの外抵抗の少ない手応えで、銀色に光る刃がワイバーンの首に吸い込まれ、傷口が大きく開いていく。
「・・・・・!」
咆哮をあげようとしたワイバーンだったが、もはやそれは叶わなかった。
ーーそして、切り開かれた傷口から全身へと、白色化が瞬く間に広がっていく・・。
完全に全身が霜で覆われて、白っぽく変色した瞬間、ワイバーンの身体から浮力が無くなり、地面へ向かって落下していった。
「ガッシャーーーン!!」
地面に衝突した瞬間、ガラスが砕けるような音がして、ワイバーンの身体は粉々になった。
着地して、バックステップで落下地点から離れた俺は、四方八方に飛び散る破片に、片膝をついて、右腕をかざして頭部をを守る。
・・・・数十秒後、あたりに静寂が戻るのを待って、俺はゆっくりと顔を上げた。
「セイヤ!」
エルが駆け寄ってきて、飛びついた。
「大丈夫?怪我はない?」
「あ、ああ。このとおり、大丈夫みたいだ」
俺は、立ち上がって手を広げてみせた。
「良かった!」
エルは、天使のような笑顔で言った。
めちゃくちゃ、カワイイ・・・。
「あ、ありがとう」
俺は、あまりの顔の近さと、その可愛さで、ドギマギしながら何故かお礼を言っていた。
「おう、お二人さん。仲が良くて、イチャイチャするのは構わんが、いつまでそうしている気だい?」
銀狼のシンさんが、ニヤニヤ微笑いながら、腕を組んで言ってきた。
「「え?」」
俺とエルが、顔を見合わせる。
「「あっ!」」
抱き合ったままの状態だったのに気づき、慌てて離れた。
他の冒険者たちも、微笑っている。
「まあ、ご無事で何よりでした。・・それにしてもセイヤさん、あなたはいったい・・・」
ガイヤさんは、ギルド職員としては冒険者に対して『様』付けだが、ギルドの外では『さん』呼びだ。
--そんなことはどうでもいいが、やっぱり、つい1ヶ月前に冒険者登録をしたばかりの俺が、Sランクのワイバーンを、1人で倒してしまったことに、戸惑いが隠せないようだった。
「ま、いいじゃない。これで、依頼は完了よね?」
エルがいつもの表情に戻って、まだ何かいいたげなガイヤさんに言った。
「・・・いや、この先に最後の村があるはずですので、そこの様子を確認して完了です。」
ガイヤさんは、緊張した面持ちでそう言った。
この物語の世界地図になります。
セイヤが転移された場所は、ヒタトとウルト、ハルバトの3国の国境付近です。
今回は、エア村から北西へ向かう、ヒタトの王都キシャルに続く街道を進んでいます。
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「?!!」
突然、エルが無言で御者台に飛び移っていった。
「どうした?エル!」
「帰ってきたわ」
エルが指差す方向を見ると。
遠くから、こちらへ向かって高速で駆けてくる人影があった。
「ピューッ!」
エルが、短い口笛を吹いて合図を送ると、周りを走っていた馬車が一斉に止まった。
「魔物の居場所を、確認しました」
人影は俺たちの乗った馬車の、一つ前に止まった馬車に近づくと、その馬車から顔を出した男の人に告げた。
「ご苦労さまでした。では、一旦ここで集まって、作戦会議を開きましょう」
報告を聞いた男の人 ~サブマスのガイヤさん~ が、エルの方を振り向いて見て言った。
「分かった」
エルはうなずいて、馬車からとび降りると、ガイヤさんの乗った馬車の方へと歩き出した。
その様子を見て、他の馬車からも、次々と冒険者たちが降りてきて、集まってくる。
今回の討伐依頼は、ここ最近では最大の規模で行われるため、全体のまとめ役として、冒険者ギルドから、ガイヤさんが来ていたのだった。
普段であれば、唯一のAランク冒険者である、エルが指揮をとっていたそうだが、今回はいつにも増して他の町からの新参者が多いため、若いエルでは、従わないものも出てくる可能性も懸念しての措置だった。
俺はその話を聞いた時、プライドの高いエルが怒り出すんじゃないかと、内心ハラハラしていたのだが、意外とあっさりしたもので、ひとこと「あたしの邪魔をしないんだったら、どっちでもいいわ。」と言っただけだった。
さっき戻ってきた、斥候に行っていた人(ちなみに、山猫の獣人さんでした。)の情報では、いま辿っている、ヒタト国へと続く街道が谷あいに差し掛かったあたり・・だいたいここから10000キュピ(5キロメートル)ほど行ったあたりに、おびただしい数のワームがいるらしい。
さらに、数十匹のサーペントも混じっているという。
どちらも、蛇の魔物の一種でドラゴンの眷属だ。
「おいおい、下手したらワイバーンまで出てくるんじゃねえのか?ガハハハハ!」
ダンさんが、だみ声で軽口をたたいた。
・・いや、それ、フラグだし・・・。
「あたしが、そんなデカブツ見逃すわけ無いだろ!」
斥候の山猫の獣人のお姉さんが、ダンさんを睨んでいる。
それも、フラグ・・。
********
作戦と言っても、街道の両側は切り立った崖で、敵の背後にまわりこむ余地は無く、正面から行かざるを得ないため、選択肢は限られていた。
馬車はこの場に留めて、最低限の見張りを残し、徒歩で近づくことになった。
そして、敵の数が尋常でないため、まずは敵の姿を視認したら、慎重に近づき、遠距離攻撃が可能な者が最大射程から先制攻撃を加える。
その後、相対距離が縮まった段階で、広範囲の攻撃魔法を放てる者が、できるだけ多くの敵を殲滅し、その援護に中距離攻撃の得意なものがつく。
当然さらに距離が縮まる前に、ヘイト担当のタンクたちが前面に出て、近接攻撃の得意なアタッカーが突出してくる敵を潰していく。
補助担当は適宜、バフ、デバフ、ヒールをかけていく。
・・・と、そんなところだった。
俺は、エルからあらかじめ、今回は魔法を極力使わないで、エルとともに前線でアタッカーをするように言われていた。
「だって、あんたが手加減無しで魔法を、ぶっ放しまくったら、どうなると思っているの?」
だそうだ。
たしかにまだ、魔法操作に慣れていないけど、そんな言い方しなくても・・・。
********
「さて、ではみなさん。準備ができたら、出発しましょう」
ガイヤさんの指示で、俺たちは魔物たちの元へと進みはじめた。
一瞬俺は、帰りたくなった。
だって流石に、地面を埋め尽くす細長い物体を見たら、普通、生理的にキツイでしょ?
サーペントは・・まあ、いいですよ。
顔はドラゴンだし、ヒレみたいなの付いてるし、それなりに風格がある。
でも、ワームはねえ・・。
デカイのはいいんですよ?
大蛇らしくて。
でもね、そいつらの間の隙間を埋めるように、うじゃうじゃ、うねうねしているミミズのデッカイの?
まじで、吐きそうになったわ・・。
******
戦いは、先制攻撃に続いて、範囲魔法の攻撃で、徐々にではあるが、敵の数が減って行った。
ただ、火属性の魔法で焼かれたワームの残骸を見すぎた俺は、当分の間は、蒲焼きは食べれないなと思った・・・この世界にあればの話しだけど。
ーーそして、いよいよ俺たちの出番となる。
シャムシールを構えたエルと、ショートソードを手にした俺は、魔法攻撃によって、一瞬開いた空間に、素早く飛び出した。
互いに背中を合わせ、右周りに回転しながら敵を次々に斬り伏せていく。
小さかった俺たちの周りの空間は、その回転に合わせて、徐々に広がっていった。
ーーそして。
俺たちは、いつの間にか、敵の集団のど真ん中で、輪舞曲を踊るようにクルクルと軽やかに舞っていた。
魔物たちは、行進をやめ、エルと俺の踊りの輪の中に吸い込まれて行く・・・。
・・・やがて、魔物たちの歩みの変化に気づいた他の冒険者たちは、自分たちの攻撃の手を止めて、その不思議な光景に目を奪われていた。
灯火に誘われて、吸い寄せられる羽虫のような光景に・・・。
「グギャーーーーオ!!」
最後のサーペントが、エルのシャムシールによって、斬り伏せられる瞬間、冒険者たちの頭上から、耳をつんざく咆哮が聞こえた。
エルの姿に見とれていた冒険者たちは、一瞬、反応が遅れた。
咆哮のした方を向いた時には、目の前に紅蓮の炎が迫っていた。
冒険者たちが、その炎に一瞬にして包まれる。
エルは、目を見開いてその場で固まってしまっている。
俺は慌てて、みんなの頭上に、ウォーターウォールを全力で展開した。
紅蓮の炎は、水の壁に阻まれ、ぶつかり合った場所から、凄まじい水蒸気が発生する。
「みんな!大丈夫ですか?!!」
俺は、魔法を維持しながら、冒険者たちに声をかけた。
「だ、大丈夫だ・・・」
「ガイヤさん!無事だったんですね」
「ああ、ちょっと油断してしまったようだ。他の人たちは・・・」
俺とガイヤさんは、周りを見回す。
「俺たちも、なんとか・・・」
「良かった!」
銀狼のメンバーも、無事だった。
でも・・。
「残ったのは、たったの18人か・・・」
ガイヤさんが、肩を落とす。
「ガイヤさんすいません。俺がもっと早く魔法を・・!」
「セイヤ、危ない!」
俺が、仲間たちの惨状に気をとられて、自分の反応の遅れに泣言を言おうとしていた時、エルの叫ぶ声と共に、彼女に思いっきり突き飛ばされた。
「ズザシャシャシャー!」
さっきまで俺が立っていた地面が、何かに大きくえぐり取られた。
上空を見上げると、炎は消えていて、立ち込める水蒸気の間から、巨大な影が姿を現した。
「ワ、ワイバーン・・・」
ガイヤさんが、掠れた声で呟いた。
赤銅色をした硬い鱗に覆われた身体。
鋭く、大きな鉤爪を備えた四肢。
前脚と一体となった大きな翼。
ドラゴンの亜種、劣化版などと言われることもあるが、歴としたSランクの魔物である。
先ほどの攻撃は、長い尻尾の一振りだったようで、地面には筋状の深い溝ができていた。
完全に、俺をターゲットにしているな・・・。
紅の混じる金色の大きな目で、ジッと見つめてくる。
爬虫類特有の縦に長い瞳のせいで、喜怒哀楽はわかりづらい。
「グギャーオ!!」
一声鳴いて、またしても火炎を吐いてきた。
俺は、飛び退りながら、特大のウォーターボールをお見舞する。
「「「セイヤ!」」」
「「セイヤさん!」」
エルやガイヤさん、銀狼のメーバーが、一斉に叫んだ。
火炎と水球がぶつかり、盛大に水蒸気を撒き散らしながらも、水球の勢いが勝ってドンドン押し返していく。
「大丈夫!」
俺は、エルたちにそう返すと、水球がワイバーンの巨大な顔面にぶつかる寸前で、サンダーバレットと放った。
それと同時に、ショートソードに氷属性の魔力を付与して、跳躍によって一気に詰め寄っていった。
水球が顔面にぶつかって四散し、その視界を妨げた直後に、強烈な雷撃がワイバーンの濡れた身体に直撃する。
反撃に移ろうとしていた身体は硬直してしまい、懐に飛び込んできた俺の動きに対応できなくなった。
「いっくぜーーっ!!」
俺は、鱗が比較的薄くて軟らかい、首の内側部分を十文字に切り裂いた。
思いの外抵抗の少ない手応えで、銀色に光る刃がワイバーンの首に吸い込まれ、傷口が大きく開いていく。
「・・・・・!」
咆哮をあげようとしたワイバーンだったが、もはやそれは叶わなかった。
ーーそして、切り開かれた傷口から全身へと、白色化が瞬く間に広がっていく・・。
完全に全身が霜で覆われて、白っぽく変色した瞬間、ワイバーンの身体から浮力が無くなり、地面へ向かって落下していった。
「ガッシャーーーン!!」
地面に衝突した瞬間、ガラスが砕けるような音がして、ワイバーンの身体は粉々になった。
着地して、バックステップで落下地点から離れた俺は、四方八方に飛び散る破片に、片膝をついて、右腕をかざして頭部をを守る。
・・・・数十秒後、あたりに静寂が戻るのを待って、俺はゆっくりと顔を上げた。
「セイヤ!」
エルが駆け寄ってきて、飛びついた。
「大丈夫?怪我はない?」
「あ、ああ。このとおり、大丈夫みたいだ」
俺は、立ち上がって手を広げてみせた。
「良かった!」
エルは、天使のような笑顔で言った。
めちゃくちゃ、カワイイ・・・。
「あ、ありがとう」
俺は、あまりの顔の近さと、その可愛さで、ドギマギしながら何故かお礼を言っていた。
「おう、お二人さん。仲が良くて、イチャイチャするのは構わんが、いつまでそうしている気だい?」
銀狼のシンさんが、ニヤニヤ微笑いながら、腕を組んで言ってきた。
「「え?」」
俺とエルが、顔を見合わせる。
「「あっ!」」
抱き合ったままの状態だったのに気づき、慌てて離れた。
他の冒険者たちも、微笑っている。
「まあ、ご無事で何よりでした。・・それにしてもセイヤさん、あなたはいったい・・・」
ガイヤさんは、ギルド職員としては冒険者に対して『様』付けだが、ギルドの外では『さん』呼びだ。
--そんなことはどうでもいいが、やっぱり、つい1ヶ月前に冒険者登録をしたばかりの俺が、Sランクのワイバーンを、1人で倒してしまったことに、戸惑いが隠せないようだった。
「ま、いいじゃない。これで、依頼は完了よね?」
エルがいつもの表情に戻って、まだ何かいいたげなガイヤさんに言った。
「・・・いや、この先に最後の村があるはずですので、そこの様子を確認して完了です。」
ガイヤさんは、緊張した面持ちでそう言った。
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