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21.2つ目の村~ニンフルサグ村~
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◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
国境の村『ニンフルサグ』。
かつてはハルバト国の玄関口として、交易で栄えた町だった。
村の守り神『ニンフルサグ』は、山の母神で豊穣の女神でもある。
古には、諸王を守護する女神として、篤い信仰を集めたこともあった。
国境を越える街道は、この村の真ん中を南門から北門へと抜けている。
つまり、村が関所であり、村の大通りイコール街道である。
隣国ヒタト国側の北門がある城壁は、高さ30キュピ(15m)を越える巨大な石造りの堅固なもので、外敵の侵入を阻むに足る偉容を誇っていた。
一方で内国側の南門がある城壁は、高さ20キュピ(10m)ほどの木製であった。
さすがに、直径1キュピ(50cm)以上の大木を使って構築されてはいるが、その表情は前者に比べればやや柔和なものを感じさせていた。
つまり、入国する者にはハルバト国の威厳と護国の意志を、自国民には寛容と安心感を示すものであった。
********
・・・いま、目の前に広がる光景には、その象徴たる城壁と緒門が、無残な姿を晒している。
巨木で造られた城壁と門は焼け落ちて、白い煙があちこちから立ち上っていた。
遮るものが無くなって、北側の城壁まで見通せるようになった村内の家々も、礎石らしきものだけを残して、ほぼ全てが崩れ落ちている。
その城壁にしても、かつての偉容はなく、至る所が崩落し、いまや見る影もなくなっていた。
「そんな・・・・・」
みなが息を呑み絶句する中、エルは陶磁器のような皓い顔を、さらにシロくして、かつて南門のあったであろう場所の前で、崩れ落ちるように両膝を地面について呟いた。
「エル・・・」
全身をワナワナと震わせて、左手を胸に、右手を僅かに前方へ伸ばすようにしている。
伸ばした右手のその指先は、何もない空間を掴もうとしているかのようだった。
「またこんなことに・・・あの時とおんなじ、どうして?どうしてなの!?」
エルが何かを叫んで、廃墟と化したニンフルサグ村へ走り出そうとした。
俺は、エルの様子が他の人たちと明らかに違うことに気づき、慌てて後を追う。
「エル!どうしたんだ?!ちょっと待てよ!・・待つんだ!!」
俺はすぐにエルに追いつくと、背後からその小さい身体を抱きすくめた。
「!!」
俺の懐の中で、エルはビクッと震え、身体を硬直させた。
「・・・突然、どうしたんだ?」
俺の問いかけに、エルはカタカタと全身を震わせている。
「・・おかあさん。・・・・おとうさん」
幼い子どものように、か細い声でつぶやいた。
エメラルドグリーンの瞳を持つ、切れ長なつり目の目尻からは、涙が溢れて白い頬を濡らしている。
「エル」
俺はできるだけ優しい口調で、もう一度声をかけた。
「みんな死んじゃう。みんな無くなった。みんな死んじゃった。・・・・みんな、みんな!」
エルは叫んで、両手で顔を覆った。
「エル!大丈夫だから、みんなここにいるから。俺はここにいるから!」
俺はそう言って、エルをギュッと抱きしめた。
その間、他の人たちは一言も発せず、辺りは静寂に包まれており、時おりパチパチと何かが爆ぜるようなかすかな音だけが聞こえてきた。
********
10分後、エルの身体の震えが、ようやく少しずつ治まってきた。
「・・・・ありがとう。もう・・・だいじょうぶだから」
うつむいたまま、エルが小さな声で言った。
「でも、もう少しだけ・・・こうしていて。・・・おねがい」
「あ、ああ」
さらに3分後。
「オッケー!さあ、行きましょ!・・・フフ」
俺の懐からスッと抜け出ると、エルはくるっと振り向いて、とびっきりの笑顔で言ってきた。
「「「エッ!?」」」
俺たちは、あまりの変わり身の速さについて行けず、一様に間抜けな声を出す。
「ほら、まだ生きている人が、いるかもしれないでしょ!」
「おい、一人でいったら危ないって!」
「エルさん、待ってください!」
駆け出していくエルのあとを、俺はガイヤさんと一緒に追いかけた。
「俺たちも置いていくなって!」
そのあとを、シンさんたちが慌ててついて来るのだった。
元気よく飛び出していったものの、村の中に入ると自然と歩みは遅くなった。
他の人たちも同様に、みな無口になっていた。
瓦礫の中に残る何かが激しく燃えた跡や、血痕に、その時の状況が見て取れる。
せめてもの救いなのは、被害にあった人々の遺骸が、部分といえども見当たらないことだった。
ただ・・・恐らくそれは、あのワームたちが全て残らず貪り喰った結果であろうことは、誰も口にしなかった。
見渡す限り、廃墟となった瓦礫の山のあちこちから、白い煙が立ち上っていた。
先頭を行くエルは、無言で何かを必死に捜しているようだった。
「エル、足元もよく見ないと危ないぞ」
俺の言葉にも返事をせずに、黙々と進んでいく。
・・・と、目の前にひときわ大きな瓦礫の山が現れてきた。
「あっ、エル!!」
駆け出していくエルを、慌てて追いかけた。
エルは、その大きな瓦礫の塊の前で立ち止まると、じっとしている。
「どうしたんだ?」
立ち止まったエルに追いつくと、全く動かなくなった彼女に声をかけた。
「シッ!」
エルは、真剣な眼差しで、形の良い唇に人差し指を当てた。
『・・・・て。・・す・・て』
「あっ!」
いつの間にか、俺の隣に立っていたミーシャさんが、声をあげた。
「どうしたんですか?」
「シッ!聞こえない?」
「えっ?」
言われて、俺は耳をそばだてた。
「・・すけて。・た・す・け・て・・」
「あっ!」
国境の村『ニンフルサグ』。
かつてはハルバト国の玄関口として、交易で栄えた町だった。
村の守り神『ニンフルサグ』は、山の母神で豊穣の女神でもある。
古には、諸王を守護する女神として、篤い信仰を集めたこともあった。
国境を越える街道は、この村の真ん中を南門から北門へと抜けている。
つまり、村が関所であり、村の大通りイコール街道である。
隣国ヒタト国側の北門がある城壁は、高さ30キュピ(15m)を越える巨大な石造りの堅固なもので、外敵の侵入を阻むに足る偉容を誇っていた。
一方で内国側の南門がある城壁は、高さ20キュピ(10m)ほどの木製であった。
さすがに、直径1キュピ(50cm)以上の大木を使って構築されてはいるが、その表情は前者に比べればやや柔和なものを感じさせていた。
つまり、入国する者にはハルバト国の威厳と護国の意志を、自国民には寛容と安心感を示すものであった。
********
・・・いま、目の前に広がる光景には、その象徴たる城壁と緒門が、無残な姿を晒している。
巨木で造られた城壁と門は焼け落ちて、白い煙があちこちから立ち上っていた。
遮るものが無くなって、北側の城壁まで見通せるようになった村内の家々も、礎石らしきものだけを残して、ほぼ全てが崩れ落ちている。
その城壁にしても、かつての偉容はなく、至る所が崩落し、いまや見る影もなくなっていた。
「そんな・・・・・」
みなが息を呑み絶句する中、エルは陶磁器のような皓い顔を、さらにシロくして、かつて南門のあったであろう場所の前で、崩れ落ちるように両膝を地面について呟いた。
「エル・・・」
全身をワナワナと震わせて、左手を胸に、右手を僅かに前方へ伸ばすようにしている。
伸ばした右手のその指先は、何もない空間を掴もうとしているかのようだった。
「またこんなことに・・・あの時とおんなじ、どうして?どうしてなの!?」
エルが何かを叫んで、廃墟と化したニンフルサグ村へ走り出そうとした。
俺は、エルの様子が他の人たちと明らかに違うことに気づき、慌てて後を追う。
「エル!どうしたんだ?!ちょっと待てよ!・・待つんだ!!」
俺はすぐにエルに追いつくと、背後からその小さい身体を抱きすくめた。
「!!」
俺の懐の中で、エルはビクッと震え、身体を硬直させた。
「・・・突然、どうしたんだ?」
俺の問いかけに、エルはカタカタと全身を震わせている。
「・・おかあさん。・・・・おとうさん」
幼い子どものように、か細い声でつぶやいた。
エメラルドグリーンの瞳を持つ、切れ長なつり目の目尻からは、涙が溢れて白い頬を濡らしている。
「エル」
俺はできるだけ優しい口調で、もう一度声をかけた。
「みんな死んじゃう。みんな無くなった。みんな死んじゃった。・・・・みんな、みんな!」
エルは叫んで、両手で顔を覆った。
「エル!大丈夫だから、みんなここにいるから。俺はここにいるから!」
俺はそう言って、エルをギュッと抱きしめた。
その間、他の人たちは一言も発せず、辺りは静寂に包まれており、時おりパチパチと何かが爆ぜるようなかすかな音だけが聞こえてきた。
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10分後、エルの身体の震えが、ようやく少しずつ治まってきた。
「・・・・ありがとう。もう・・・だいじょうぶだから」
うつむいたまま、エルが小さな声で言った。
「でも、もう少しだけ・・・こうしていて。・・・おねがい」
「あ、ああ」
さらに3分後。
「オッケー!さあ、行きましょ!・・・フフ」
俺の懐からスッと抜け出ると、エルはくるっと振り向いて、とびっきりの笑顔で言ってきた。
「「「エッ!?」」」
俺たちは、あまりの変わり身の速さについて行けず、一様に間抜けな声を出す。
「ほら、まだ生きている人が、いるかもしれないでしょ!」
「おい、一人でいったら危ないって!」
「エルさん、待ってください!」
駆け出していくエルのあとを、俺はガイヤさんと一緒に追いかけた。
「俺たちも置いていくなって!」
そのあとを、シンさんたちが慌ててついて来るのだった。
元気よく飛び出していったものの、村の中に入ると自然と歩みは遅くなった。
他の人たちも同様に、みな無口になっていた。
瓦礫の中に残る何かが激しく燃えた跡や、血痕に、その時の状況が見て取れる。
せめてもの救いなのは、被害にあった人々の遺骸が、部分といえども見当たらないことだった。
ただ・・・恐らくそれは、あのワームたちが全て残らず貪り喰った結果であろうことは、誰も口にしなかった。
見渡す限り、廃墟となった瓦礫の山のあちこちから、白い煙が立ち上っていた。
先頭を行くエルは、無言で何かを必死に捜しているようだった。
「エル、足元もよく見ないと危ないぞ」
俺の言葉にも返事をせずに、黙々と進んでいく。
・・・と、目の前にひときわ大きな瓦礫の山が現れてきた。
「あっ、エル!!」
駆け出していくエルを、慌てて追いかけた。
エルは、その大きな瓦礫の塊の前で立ち止まると、じっとしている。
「どうしたんだ?」
立ち止まったエルに追いつくと、全く動かなくなった彼女に声をかけた。
「シッ!」
エルは、真剣な眼差しで、形の良い唇に人差し指を当てた。
『・・・・て。・・す・・て』
「あっ!」
いつの間にか、俺の隣に立っていたミーシャさんが、声をあげた。
「どうしたんですか?」
「シッ!聞こえない?」
「えっ?」
言われて、俺は耳をそばだてた。
「・・すけて。・た・す・け・て・・」
「あっ!」
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