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22.3人目の少女
しおりを挟む瓦礫の中から、かすかに声が聞こえてきていた。
俺はすぐに、空間把握を展開した。
・・地上部には、何も映らない。
「・・・地下に何かいますね。人・・・ドワーフ?」
地下数メートルの所に、反応があった。
ステータスを見ると、結構やばい状態のようだ。
「セイヤさんは、探査か索敵のスキルを持っているんですか!?」
ガイヤさんが驚いたように言ってきた。
「ま、まあ・・・そうですね」
「じゃあ、なんでワイバーンの襲来に気づかなかったんだ?」
カリナさんが、ボソリとつぶやいた。
「す、すいません。戦闘が終わったと思って油断してました」
「ま、結果的に倒してくれたんだ。善しとしようぜ」
肩を落とす俺を、ダンさんがフォローしてくれた。
「それより、早く助けなきゃ」
シンさんの言葉に瓦礫の山の方を見ると、すでにエルが片端からその山を、かき分け始めていた。
「エル、あまり乱暴にやると崩落してしまうかも知れないよ。みんなで手分けして、慎重にやろう」
「!・・・分かった」
俺たちのさっきの会話も耳にはいらなかったのか、一瞬ハッとしたエルは、夢中で動かしていた手を止めて、うなずいた。
「多分こっちの方です」
俺は、空間把握で反応があった箇所から、瓦礫をどける範囲をみんなに指示した。
すると、全員がその範囲を、突然大きく崩れたりしないように、慎重に瓦礫をどける作業を始めた。
「あれ、これは?」
しばらくして、大きな日干しレンガの塊をどけたガイヤさんが、声を上げた。
「なんかあったんですか?」
みなが、ガイヤさんの周りに集まった。
「ほら、これ」
ガイヤさんが指差した方向には、白い綺麗な石灰岩の石版があった。
石版には、一つの紋章が大きく彫り込まれている。
「ニンフルサグ神の紋章だ」
ガイヤさんが、静かに言った。
「ここは、神殿だったのだ」
カリナさんが、低くつぶやく。
「ん?」
ミーシャさんが、しゃがみこんで細かい瓦礫をどけ始めた。
「あ!・・・穴だわ」
「「「「え!!!」」」
一斉に全員が、ミーシャさんの手元を覗き込んだ。
1キュピ(50cm)ほどの空間が、地面に口を開けていた。
すぐに、みんなでその周りの瓦礫をよけ始める。
「階段だわ!」
エルが声を上げた!
3キュピ(1.5m)四方の、四角い入り口と、地下へと続く急な階段が姿をあらわしていた。
「早くしないと!」
エルが、ガイヤさんの方を見て言った。
さっきまで、時々聞こえてきていた声が、ほとんどしなくなっていたのだ。
「分かっています。でも、中の様子が分からない状況で、全員が入るわけにいきませんし、地上部の見張りも必要でしょう。ここは、わたしとエルさん、セイヤさんの3人で行きましょう」
「分かった」
「分かりました」
全員がうなずくのを確認すると、ガイヤさんを先頭に、俺たち3人は穴の中へと降りていった。
急な階段は、結構奥まで続いていた。
入り口から遠ざかるに従って、だんだんと暗くなり、やがて真っ暗闇になってしまう。
「ライトボール」
ガイヤさんが、小さなライトボールを作り出した。
あたりが照らされて、明るくなる。
「ようやく階段は終わりね」
エルの言葉に、足元ばかりを見ていた目線を前方へと移すと、確かに延々と続くかに思えた階段が途切れて、平らな床が見えた。
階段の上にも瓦礫が積もっていたが、その床の上にも大量の瓦礫が積み重なっているのが見える。
「天井も半分崩れていますね。」
ガイヤさんが、そう言って頭上を照らした。
地下室の天井までの高さは、6キュピ(3m)ほどもあるが、大きな亀裂が入り、上から押しつぶされたように崩落しているため、背の高いガイヤさんが、身をかがめて通るほどの空間しか無かった。
地下室は、日干しレンガではなく、四角く整形された石灰岩で出来ているらしく、ライトボールに照らされて、壁や天井は白く光を反射している。
時おり、パラパラと崩れてくる岩片に、緊張しながら少しずつ進んで行った。
しばらくすると、行く手を阻むように天井が大き崩れているのが見えてきた。
空いている隙間は、1キュピ(50cm)四方と、這って進むしか無いほどだ。
「気をつけてついてきてください」
ガイヤさんはそう言うと、四つん這いになってその穴に入っていった。
エルが続き、俺が最後尾になる。
目の前に、エルのカワイイお尻が左右に揺れている。
「いま、変なコト考えてた!」
エルがうしろを振り返って、睨みつけてきた。
「べ、べつに何もやましいことはゴザイマセン!」
「ウソばっかり!」
俺が、ブンブンと首を左右に振ると、エルはプイと前を向いてスピードを上げた。
「ようやく抜けられそうです」
そうして10キュピ(5m)ほど進むと、ガイヤさんが言った。
そこは、大きな空間だった。
40キュピ(20m)四方の広さで、天井までは10キュピ(5m)程もある。
床には磨かれた石灰岩の大きなタイルが敷き詰められていた。
「あそこ!」
エルが、反対側の壁際を指差した。
ぼんやりと発光する壁の薄明かりの中に、小さな人影が倒れていた。
(どうやって発光しているのだろう?ダンジョンの壁と同じ仕組みかな?)
エルが駆け出すのと、ガイヤさんがライトボールの光量を上げるのが同時だった。
横たわっている人は、ショートスカートをはいて、肩当てなど各所を保護する革製の防具を身に着けている。
かなり小柄だ。
「すごい血!」
駆け寄ったエルが、声を上げた。
俺と、ガイヤさんも、そばへ急いで近づく。
全身傷だらけで、黒くすすけ、右脚が変な方向へ曲がっている。
「これは!骨も折れているみたいですね、ヤケドもひどい。『ヒール!』」
状態を見たガイヤさんが、すぐさま治癒魔法をかけた。
その人の身体が淡い光りに包まれると、切り傷やかすり傷、ヤケドの跡が消えた。
「駄目です、わたしの力では軽傷程度なら治りますが、深い傷や重度のヤケド、ましてや骨折は無理です」
ガイヤさんが首を振る。
「どうすすればいいの!?」
エルが、エメラルドグリーンの大きな瞳に、涙をいっぱいに溜めて叫んだ。
「俺がやる!」
俺は、右手を前にかざして、目一杯のヒールをかけた。
すると、今度は全身が眩しいくらいの強い光に包まれる。
「・・ん・・・ん」
光がおさまると、その人の肩がわずかに動き、声を小さくもらした。
「セイヤさん!きみは!!い、いま何をやったんですか?!」
ガイヤさんが、目を見開いて俺とその人を交互に見ている。
全身にあった傷やヤケドが全て無くなっており、曲がっていた脚が元通りに真っ直ぐになっていた。
「べつに、ただの『ヒール』をかけただけですけど?」
俺は、とぼけて首をすくめた。
「シッ!気がついたようだわ」
エルが、俺たちのやり取りをさえぎって、その人の肩にそっと手を置いた。
「大丈夫?助けに来たわよ。・・あ、待って」
その人が、ゆっくりと半身を起こそうとしたのを見て、支えてやる。
「・・こ、ここは?・・・あれ?ボク生きてる!?」
クリっとした、コバルトブルーの瞳を瞬いて、その娘は小首をかしげた。
「ここは、いつ天井が崩れてくるか分かりません。あなたが歩けるなら、はやく地上に出ましょう」
ガイヤさんが、その娘と俺たちを交互に見ながら言ってきた。
「そうね」
エルが応えるのと同時に、俺もうなずいた。
「ボクも・・大丈夫みたい」
自分の手足を動かしてみながら、その娘も言ってきた。
ガイヤさんは、さっき出てきた穴に再び四つん這いになって、入っていく。
そのあとに、エルに助け起こされた少女、エルの順番で続いた。
俺は、少女が穴に入って行ったのを確認すると、部屋をぐるりと見まわして、あとに続こうとした。
背後の壁、さっきまで少女が横たわっていた側の壁に視線を巡らせた瞬間、壁の一部が強い光を発し始めた。
「あれっ?」
壁に、地球の文字で言えば『Ω』の形の紋章が浮かび上がった。
さっき見た、ニンフルサグ神の紋章だ。
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