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36.伝説のパーティー
しおりを挟む「大変なとき?・・・そういえばさっき、団体さんがイナンナの町方面に向かったみたいだけど、何かあったのかしら?」
スザンヌさんが、悪い顔をしながらベンジャミンさんの方を見た。
「なんだ知らんのか?・・ああ、ギルマスを辞めたんだったな。数日前から、イナンナの町との連絡が途絶えた。状況を確認するため、王宮から緊急クエストが出され、Bランク冒険者が数名向かったのが一昨日だ。だが、今日の朝には戻る予定が1人も戻ってこない。代わりに、そっち方面からたどり着いた別の冒険者が、満身創痍の状態だった。その者の証言では、イナンナの町の手前にある森で、大量の魔物に遭遇したらしい」
そう言って、ベンジャミンさんはため息をついた。
「どんな魔物が出たの?」
スザンヌさんの瞳に、鋭さが宿る。
「森にいたのは、ワームやサーペントの類だったらしい。一緒にいた仲間は、ワイバーンを見たと言っていたらしいが、その者は亡くなったそうだ」
「亡くなった?話を聞いたんだったら、その時点では生きていたんじゃないの?」
「森からはなんとか脱出することに成功したらしいが、王都へ向かう途中の街道で、別の魔物の群れに囲まれたらしい」
「別の?」
「ああ。グールやスケルトン、ヴァンパイアまでいたらしい。・・・結局生き残ったのは、王都にたどり着いた、その冒険者1人だけ・・ということだ」
これはあれだよな、色んな意味で気になること満載だな・・。
「ニンフルサグ村での一件は、報告を受けてるわよね?」
スザンヌさんが、右手人差し指を頬に当て、その右肘を左手で支えながら言った。
「むろん、聞いている。ガイヤくんが、頑張ってくれたそうだな。・・・おお、そういえばその時に大層活躍した冒険者が確か・・セイヤとか・・・ん?ああ、君のことか!その節は、ご苦労様。ギルド本部長として、礼を言うよ」
ベンジャミンさんが、俺に頭を下げてきた。
「いえいえ!そんな、大したことやってないです。頭を上げてください!」
慌てて、両手を振る。
「こういうことは、キチンとせねばならんのだ」
しばらくそのまま下げた後、ようやく元に戻ってそう言った。
「ん?何の話だったかな?・・・ああそうか、あの村に出現したのもワームやサーペントの類だったな。それに、ワイバーンも」
ベンジャミンさんは、俺の方をちら見する。
「そうなのよ。それとね、王都へ来る途中で、あたしたちも出会ったのよ。グールやスケルトン、ヴァンパイアたちに・・」
「それは本当か?!」
「ええ。幸い、あたしたちの敵ではなかったねどね」
スザンヌさんが、ニッコリと微笑む。
いつ見ても気持ち悪い。
「それはまあ・・・確かにそうかもしれんが・・」
ベンジャミンさんが、顔をひきつらせながらうなずく。
「そういう訳で、先ほど王宮から追加の緊急クエストが出されたのだ」
「それで、団体さんが出発していったのね」
「ああ」
「それにしても・・気になるわね、この状況」
「そうですね」
つぶやくスザンヌさんに、俺は頷いた。
「少なくとも明後日には、なんらかの状況がわかると思っているんだが・・」
ベンジャミンさんも、言葉とは裏腹に、心配そうにしている。
「エリリンも、さぞかし気をもんでいることでしょうね?」
スザンヌさんが、ベンジャミンさんを見ていたずらっぽく笑った。
「そりゃあな、なにせ今回の緊急クエストは、あいつ直々の依頼だからな」
ん?さっきから、何となく気になってたんだけど、もしかして?
「なあ、エル。エリムさんて、もしかして・・・?」
「国王様よ」
「「やっぱりー!!」」
俺とアイリスが、同時に叫んだ。
「ホヨ?」
「あのー。つかぬことをお聞きしますが、お二方と国王様のご関係は?スザンヌさんはともかく、ベンジャミンさんも国王様をあいつ呼ばわりしていたような・・・」
アイリスが、国王様の名前を知っていたのは・・まあ、隣国の国王の名前くらい、知っていてもおかしくないからいいとして、問題はこの人たちだよな。
「ともかくってなによ!」
スザンヌさんが、頬をふくらます。
「あーそれはアレだ、むかし現役の冒険者時代に、パーティーを組んでいたんだよ」
ベンジャミンさんが、涼しげな顔をして言った。
「へ?」
「チョー有名な話」
俺が変な声を出したら、エルがさも当たり前だと言わんばかりに、抑揚のない声で言った。
「そ、そうなんですか?」
「伝説のパーティー、白銀の疾風」
またも、エルが言う。
なぜにドイツ語・・・?
「昔の話よ!」
「確かに、今さらその名前は恥ずかしい・・・」
スザンヌさんとベンジャミンさんが、慌てている。
それにしても・・・。
「国王様が冒険者って、本当ですか?」
「冒険者だったのよ」
いや、そういうことじゃなくて。
「普通、命の危険があるような仕事を王族がするなんて、ありえなくないですか?」
「エリリンはね、第3王子だったのよ。だから、王位継承とかはほとんど関係なかったの」
ミレリさんが新しく入れ直してくれたポットから、自分のカップに紅茶を注ぎながら、スザンヌさんが言った。
「そうだ、だから若い頃からあいつは好き放題やっていてな。元々、血統からくる基礎能力が高い上に、教育係の近衛騎士団長やら宮廷魔道士長やらに鍛え上げられた結果、バカみたいな値になったステータスを持て余して、冒険者なんかになっちまったということだよ」
「で、あたしたち5人でパーティーを組んだワケ」
「5人、ですか?」
登場人物が2人足りない。
「『深淵の魔道士』と、『慈愛の聖女』」
エルが、話が長くなりそうだからと、気を利かせてミレリさんが置いていってくれた、お茶請けのクッキーをかじりながらボソリと言う。
「今じゃ、宮廷魔道士長さまと王妃さまだけどね」
スザンヌさんも、クッキーを5枚一緒にかじりながら言った。
なんか、凄いメンバー過ぎて、状況を消化しきれてないんですけど・・。
「・・・あれ?でもどうして、第3王子が王様に?」
王位継承しないから、自由気ままにしていたんじゃなかったの?
「なんだ、君はなにも知らないんだなあ。そういえばさっきから、質問攻めだな?」
「え?ああ、スイマセン。俺とコリンは、遥か東方の国から来たばかりなもんで・・」
「そうか、それなら仕方ないか」
ヤバイ、話しやすさから、ついつい聞きたいことを聞いてしまっていた。
「まあいいさ、周知の事実だからな」
「ありがとうございます」
俺は、頭を下げた。
「10年前の神々の戦いは知っているか?」
「はい」
「あの時、この国は存亡の危機にあった・・・いや、この世界そのものが、滅亡の縁に立たされていたと言っても過言ではなかった」
話し始めたベンジャミンさんの言葉に、みなうつむいている。
とりわけ、エルの表情は強張っていた。
「当然、各国も軍や冒険者ギルドを総動員して、迫り来る魔物たちを迎え撃った」
「でも、その抵抗も虚しく、ハルバトでは、軍を率いていた第1王子は戦死して、王宮は壊滅。第2王子を含む、王様以下殆どの王族や貴族が亡くなってしまったの」
ベンジャミンさんとスザンヌさんが、交互に話してくれる。
「俺たちはSランクパーティーとして、ウルト国との国境付近で、他の冒険者をまとめて戦闘中だったんだが、王宮の危機の報せを受けて、急いで戻った時には、惨憺たる状況だった・・」
「つまり、戦争が終結して、生き残った王位継承権を持つ王族は、エリリンただひとりだったという訳」
「それで、冒険者から足を洗って、王様になったということですか?」
「「そういう事だ(よ)」」
なるほどなあ・・。
「俺たちはパーティーを解散し、エリムは王位に就きサーシャと結婚した。テレーゼは、宮廷魔道士長として新生王宮を支え、俺はギルド本部長に任命され組織の再建を託された。そして・・・」
「なによ!」
ベンジャミンさんが、スザンヌさんのことをチラ見する。
「最も戦闘の激しかった、ヒタト国との国境に近いエア村のギルド長に、エリムはスザンヌを任命したんだ。みんなでこの国を復興し、再生するために。それなのに・・・」
「大丈夫よ、ガイちゃんなら。それに、あたしにもちょっと、思うところがあるのよ」
そう言って、今度はスザンヌさんが、ちらっとこちらを見た。
ぞわぞわ~っと、背中に悪寒が走る。
「あの、いまSランクパーティーって言いました?」
「ああ、俺たちはみなSランク冒険者だからな・・・あっ、ひとりだけ違ったか?」
「悪かったわね!あたしは、認証式とか、〇〇式とか式の付くものは、苦手なの!!」
ええ!それだけの理由っすか?!
コンコン。
「本部長、イナンナの町へ向かった討伐隊から知らせが届きました」
ミレリさんがノックをして、扉を開けて言った。
俺たちに遠慮したのか、ベンジャミンさんの顔を見て、指示を待っている。
「随分と早かったな。構わん、続けてくれ」
「はい。やはり、イナンナの町の手前の森に到達する前に、街道上で魔物に遭遇し、戦闘となったとのことです。魔物の種類は、グールが50体にスケルトンが50体、そしてヴァンパイアが20体だったそうです」
この間の約倍だな・・。
「それで結果は?」
「グールとスケルトンの掃討は問題ありませんでしたが、ヴァンパイアを討伐中に・・・」
「どうした?」
嫌な予感がする。
「正体不明の魔物が出現し、討伐隊はほぼ壊滅したと・・」
「なに?!」
やっぱり・・・あいつだな。
「そいつは、黒いローブを着ていませんでしたか?」
「どうしてそれを?!」
俺の問に、ミレリさんが驚いている。
「セイヤくん、どういうことかな?」
ベンジャミンさんが真剣な眼差しで、俺の顔を見る。
「あたしたちも会ったのよ、そいつに」
俺が答えようとした時、スザンヌさんが横から答えた。
「そうか。さっき、王都に来る途中で遭遇したと言っていたな」
「そう、そのときにもそいつが現れたのよ。黒いローブを着たヤツが」
「だが、討伐隊はBランク以上の選りすぐりの冒険者たちだぞ?そうそう簡単に、やられるはずは・・・」
ベンジャミンさんが、首をひねる。
「もし俺たちが会った魔物と同じヤツだとすれば、Aランク冒険者でも太刀打ち出来ないかもしれません」
「なんだと!?じゃあ、相手はSランク以上だというのか?」
「おそらくは・・。」
肯定する俺に、他のみんなも異議を唱えなかった。
「ううむ・・・」
ベンジャミンさんが、腕を組んで唸ってしまった。
「・・・すまんが、これから王宮に上がって、エリムに報告しなければならん。君たちは・・・」
「分かったわ。あたしたちは、神殿へ行かなきゃだから、お構いなく」
言いかけるベンジャミンさんを遮って、スザンヌさんが立ちあがりながら言った。
「そうか・・・もしかしたら、詳しい話を聞かせてもらう必要がでてくるかもしれんので、なるべく連絡がつくようにしていてほしいのだが?」
「あまり面倒事に巻き込まれたくないのだけれど・・しかたないわね。あたしたちは、例のホテルに泊まっているから」
「ああ、了解した」
俺たちも立ち上がって、スザンヌさんのあとに続く。
「じゃあ、お暇するわ。お紅茶とクッキー、ごちそうさま」
「「「「ごちそうさまーーーー!」」」」
俺たちは、ミレリさんにお礼を言って部屋を出た。
開け放たれた扉の向こうを振り返ると、ベンジャミンさんは、見送りもそこそこに、書類か何かを急いで整えているようだった。
コリンがミレリさんに手を振ると、ニッコリ笑って小さく手を振り返してくれた。
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