エンリルの風 チートを貰って神々の箱庭で遊びましょ!

西八萩 鐸磨

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43.白亜の城

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 俺たちを乗せた、装飾過剰気味の四頭建て馬車は、縦方向の街路を上へとのぼっていく。

 上へ上へと・・・・。


「この椅子、ふかふかだね!」


 喜んでいるのはコリンだけだ。




 やがて、見上げる高さの城壁が見えてくる・・・。


 そして当然のごとく、馬車は巨大で壮麗な門の前に停車する。


「冒険者ギルド王都本部長、ベンジャミン様だ」


 門前に立っていた衛兵に、馭者が告げた。


『ぎ、ぎ、ぎぎぎ・・・・』


 衛兵が敬礼し、開門を告げると、金色の装飾が一面に施された白亜の扉が、鈍い音とともに開き始めた。






 開け放たれた内門をくぐり、馬車は王城内へと入っていく。


 門をくぐれば白亜の城が目の前に見えるかと思いきや、内壁の内側は鬱蒼とした森となっている。

 馬車は木立に挟まれた曲がりくねった道を進んだ。


 暫くして、忽然と眼前に緑が眩しい芝生の庭園が広がった。

 通路で幾何学的に区切られた芝生の庭園は、中央の区画に大きな噴水のある池が見える。


 馬車は、中央の池の周りをロータリーのように取り囲む道を、右回りに回り込んで王宮の正面へと進んでいく。



 正面の車寄せに到着した馬車は、控えていた衛兵によって、表から扉が開けられる。


 馬車から降り立った俺たちを出迎えたのは、ロマンスグレーの髪を撫でつけた口ひげの紳士だった。

 執事服の様な黒い服をビシッと着こなし、俺たちに一礼する。


「ようこそいらっしゃいました。皆様お待ちになられております」

「卿自ら出迎えとは、わざわざかたじけない」

「おひさしぶり、相変わらずダンディね」


 ベンジャミンさんが頷き、スザンヌさんがウインクをする。 


「(あの、こちらは?)」


 俺は、スザンヌさんに小声で尋ねる。


「申し遅れました。わたくし、内務卿を拝命しております、レオナルド・アム・ニンガリアと申します。以後お見知りおきを」


 聞こえてしまったみたいだ。

 レオナルド卿が俺の方を見て、自己紹介をしてくれた。


「あ。よ、よろしくお願いします。セイヤといいます、こっちがエルでこの小さい娘がコリンです。それと・・・」

「アイリス様ですね。お久しぶりでございます」

「え?」


 俺が紹介する前に、レオナルド卿は恭しく再度一礼する。

 アイリスは戸惑った表情で、固まっている。


「ご幼少の頃においでになった時に、数多あまたの王侯貴族の中に私もおりましたのです」

「ああ!・・・でもゴメンナサイ、お顔の方に見覚えは・・・」


 一瞬納得しかかったものの、すぐに申し訳なさそうな顔になる。


「無理もございません、あの頃は一貴族にすぎませんでしたから。どうかお気になさらずに」


 そう言って、レオナルド卿は柔らかな微笑を見せた。

 ん~~、どこまでもダンディやなあ・・。


「ありがとうございます」


 アイリスが小さな声でお礼を言う。


「さあ、あまりお待たせしては宜しくない方々が、首を長くしておられますので、こちらへ」


 既に馬車は走り去っていて、堅牢豪華な扉の前で立ち話をしていた俺たちは、レオナルド卿に中へと誘われた。



 長い回廊といくつもの階段、何度も角を曲がり王宮の中へと進んでいく。

 大理石の磨き上げられた床に、赤い絨毯。

 壁際には蝋燭ではない、魔法の灯りが連なっており、窓の無い天井の高い廊下は暗さを感じさせない。


 一体どこまで行くのだろう?


「お腹空いたなあ・・・」


 コリンが小さくつぶやいた。


「こちらでございます」


 ついに、最上階らしき階層にある、一つの扉の前でレオナルド卿が立ち止まった。

 





 扉の前の両側に立っていた近衛兵が、レオナルド卿の指示で細かな装飾が施された表開きの扉を開け放った。


 50畳ほどの広さの部屋の中には、木目が美しい光沢のある巨大なテーブルに、4人の男女が座っていた。


 光属性のライトの魔法を封じ込めたガラス製のシャンデリアが高い天井から吊り下げられ、木の温もりが感じられる部屋の内装が、ともすると暗くなりがちな雰囲気を綺羅びやかに、そして明るく照らし出している。


 一番奥の上座の位置には、豪奢な黄金色の長い髪にシャンデリアの光を燦めかせている男の人が座っている。


『ミケランジェロの彫刻みたい』


 俺の第一印象はそれだった。

 でも、ちょっと違うか?

 どっちかって言うと、むかし読んだ某銀河対戦ものの、あの『常勝の英雄』に近いかな?


 そして、その左隣に並んで座っているのは見覚えのある女の人だ。

 絹糸の様な白銀色の長い髪、透き通るように白い肌に琥珀色の瞳。

 その目には、慈愛に満ちた微笑みを湛えいる。


『サーシャさまだ』


 ということは、隣が国王のエリムさまか。


 さらに反対側の右隣には、ハイエルフの女性が座っていた。

 最上級の大理石のような真っ白な肌で輝く銀色の長い髪、透き通った深い碧色の瞳。

 左の口元にある小さなホクロが印象的だ。


『色っぺえ・・・』


 紫色のローブを纏っているけど、たぶんあの女性ひとが宮廷魔道士長のテレーゼさまだな。



 『それから・・・』


 俺は、テレーゼさまで釘付けになった視線を無理やり引き剥がして、その右隣へと移す。


『熊?』


 じゃなかった・・・いや、あってるか?

 毛むくじゃらで巨漢の人物が、「無理やり」という感じでその巨体を椅子に押し込めている。

 あれは、熊人か?

 顔はだいぶ人間よりだけど、あきらかに熊だよな?

 カーキ色をした、いかにも軍服的な服を着ている。


 最後にもうひとり、エリム国王さまの背後に、スザンヌさん並の上背のある男の人が直立不動で立っていた。


『イケメンやなあ・・』


 白地に金糸銀糸をあしらった制服に身を包み、短く刈り上げられた黒に近いブラウンの髪、彫像のような顔立ちは、「イケメン」としか言いようがない。

 そして特に目を引くのは、左右で色の違うその瞳だ。

 右目が青で、左目が赤・・・所謂、虹彩異色症ヘテロクロミアって言うんだっけか?

 でも、この世界じゃ違うのかな?

 まあそれよりも、あの人は格好からしても、位置取りからしても近衛騎士団長で決まりだな。



「ようこそ、我がクライデ白亜城へ!いつまでもその様な入り口ところに立っていては、話もできん。さあ、席に着き給え!」



 


 
 


 俺が待ち構えていた人たちの顔ぶれを確認をしていると、痺れを切らしたのか、エリム国王さまが立ち上がって言った。

 他の人たちも一斉に立ち上がっている。

 そらそうだよな・・。


「はあ・・・相変わらずね、エリリンは・・」


 スザンヌさんが溜息をついて、テーブルの方へと歩き出した。

 慌てて、俺たちもその後をついて行く。


 そして・・。


「エリム国王陛下、この度は私共を、お招きいただきまして、恐悦至極にございます。なにぶん不調法者たちゆえ、おめこぼし頂ければ幸いです」


 テーブルの少し手前で立ち止まって、片膝をついて頭を下げて言った。

 当然、俺たちもその背後で、それに習う。


「ふむ、おまえこそ相変わらずだな・・。スザンヌよ、この場は、その様に堅苦しい場ではないぞ?・・・もっとも、後ろの者たちには、いずれは正式に、謁見の間で対面することもあろうかとは思うが、少なくとも今はその様な時ではない。みな、面を上げて腰を上げ、テーブルにつきなさい」


 エリム国王さまは、最初こそ困惑したような声音だったが、それでも優しげな声をかけてくれた。


「(ふっ)国王陛下の寛大なお言葉、ありがたき幸せにございます。・・みんな、座りましょう」


 スザンヌさんは、小さく苦笑?を零して立ち上がると、俺たちを振り返って言った。


 俺たちがようやく動き出したのを見て、レオナルド卿が熊人の人の隣に座り、その向かい側にベンジャミンさんが座った。

 スザンヌさんは、サーシャさまの隣~熊人のひとの向かい側に座り、その隣にエル、俺、コリン、アイリスの順番で席についた。

 ちなみに、ライアンは俺の足元に寝そべっている。




「では・・漸くみなが席についたことだし、今宵の晩餐を始めるとしよう!」


 エリム国王さまの言葉をきっかけに、壁際に整列して人形のように微動だにしていなかった、執事バトラー従僕フットマン侍女レディーズ・メイド達が一斉に動き出した。


 テーブルの上には、既にカトラリー他セッティングは完了していて、燭台には灯りが灯されている。

 ん~~、わざわざ蝋燭を使うのって、この世界ではかえって贅沢っていうことなのかな?


 こんなすごい食卓、囲んだこと無いんだけど・・・と思いながら仲間たちのことを見回すと・・・。


 さすがにコリンもちょっと緊張しているのかな?

 動きが止まっている。

 違うな、侍女レディーズ・メイドが運んできた前菜の皿を見つめるのに集中しているだけだ。

 (あっ、よだれ・・)


 エルは・・・平静を保っている風だけど、緊張はしているみたいだ。

 食事のマナーとか知っているのかな?

 平民の出身だし、知らないよな・・大丈夫かな?


 アイリスは・・・うん、全くもって落ち着いているな。

 そりゃあ、正真正銘の元王族だもんな。

 あ、エルがアイリスのことをチラチラ見ている。

 そうか、バレないように真似する気だな?

 俺もそうしよう!

 コリンは・・・まあいいか、許してもらえるだろう、お子ちゃまだし。


 ・・・え~と、スザンヌさんは・・・・・・・・ガチガチじゃねえか!!

 あっ!ワイングラスを手に持って注いでもらっている。

 確かそれ、マナー違反!?

 しかも手がプルプル震えているから、中身がこぼれそう!

 だから、王宮ここへ来るのが嫌だったのか!?


 お?ライアンにも銀製の器にミルクを注いでくれている。

 さすがの気配り。


 それにしても、シャンデリアを見てから言うのもなんだけど、この世界にガラスってあったのね。

 宿の窓がスカスカで、木製の雨戸しか無かったからガラスが存在しないのかと思ってた。

 それに、カトラリーあるんじゃん!

 フォークもナイフもスプーンも銀製の立派なやつが、テーブルに並んでいる。

 まあでも、貴族さま限定なのかな?こういうの。



 あっという間に、テーブルの上には前菜やパン、スープなどが並べられ、食欲をそそる匂いが部屋の中に充満していった。


「みな飲み物は行き渡ったかな?本来であれば、それぞれに紹介をしてから始めるのが筋ではあるが、どうやら食欲には抗えない者も幾人かはおるようだし、まずは乾杯をして食事をしながらということにしよう」


 エリム国王さまはそう言って、グラスを持ちながら立ち上がった。

 すると、慌ててみんなが同じ様にグラスを持って立ち上がる。


「では・・・新しい出会いに感謝し、ハルバト国の平和と繁栄を願って・・乾杯!!」

「「「「「「「「「乾杯!!!!!!!!!」」」」」」」」」



 最初に注がれた、琥珀色をしたワインを飲み干して腰を下ろした。


 それにしても、このワイン美味いんだけど!?

 普通の白ワインとも違い、琥珀色のとろみのある液体は、蜂蜜を溶かし込んだように甘い。

 ただ甘いだけではなく、芳醇で上品な薫りが鼻の奥を抜けていく。

 な、なんなんだこれは?!


「随分と気に入ったみたいね。これはね、トライヴァインもしくはアスーと言って、ヒタト国よりもさらに遥か西方の国から運ばれた飲み物よ。食前酒にはちょうどいいでしょう?」


 俺が、空になったグラスを見つめていると、サーシャさまがニッコリ微笑んで、小声で教えてくれた。


 ・・すると、その向かい側の席から声が聞こえてきた。


「アスーは葡萄から作られる酒で、産地のトライは昔、敵国の侵略を受けた。住民たちはその地から避難せざるを得なくなり、村を離れている間に、葡萄本来の収穫期、つまりは第七の月であるシャマシュ神に捧げる月ティシュリトゥムを過ぎてしまった。住民たちが村に戻った時、収穫されずに残っていた実にはカビがつき、腐り始めていた。彼らは諦めきれず、その葡萄でアスーを作ったところ、濃厚で甘い蜜のような酒になったという伝説がある」


 テレーゼさまが、あまり動く気配の少ない表情とは裏腹に、滔々とうとうと説明をしてくれる。

 その知識量もさることながら、突然の饒舌さに驚かされるとともに、アスーで濡れた唇に視線が釘付けになってしまった。


「(ちょっと!なに見とれてるの!!)」


 隣のエルに肘打ちされる。


「(ゴメン)・・へーそうなんですね、お教えくださいましてありがとうございます」


 俺がテレーゼさまに頭を下げると、彼女の口元がほんの僅かに上がった。




「さて、食べながらで構わんから、お互いの紹介といこうか」


 乾杯が終わり、それぞれのグラスに赤ワイン(ん?赤ヴァインかな?)やジュースが注がれて食事が始まると、エリム国王さまが言った。


「この場は格式に拘りたくない、こちら側から行くぞ?」


 誰も異を唱えられるはずもなく、黙って受け入れる。


「まず周知の事実ではあるが、この私がハルバト国の現国王である、エリム・フェローズ・イシュタリアだ」


 そう言って立ち上がると、俺たちを見回しながら大きな身振りで、優雅に一礼した。


「(陛下、その様なお振る舞いは・・・)」


 右隣に座っているテレーゼさまが、小声で窘める。


「(まあ、よいではないか)・・さてそして左隣にいるのが、妻であり王妃でもあるサーシャだ」


 エリム国王さまも小声で返しながら、左手を優しくサーシャさまの肩へと添える。

 『妻』という肩書が先にくるあたり、エリム国王さまの人柄が伺えるな。


「サーシャ・フェローズ・イシュタリアです、さきほど以来ね」


 サーシャさまは軽く会釈しながらそう言って、ふわりと微笑んだ。


「そうだな、既に神殿で会ったのだったな。・・・それから、右隣が宮廷魔道士長のテレーゼだ。見ての通りのハイエルフ族だ」


 エリム国王さまが右手で指し示す。


「ご紹介に預かりました、テレーゼ・シュヴァーロフ・スィニアでございます。宮廷魔道士長を拝命致しております」


 テレーゼさまは立ちあがり、右手を胸の前へ水平に持ってきながら一礼した。

 銀色の長い髪が、サラリと下方へと流れる。



「相変わらず硬いな。そして・・・・あとは自分たちで名乗れ」


 そう言って、エリム国王さまは座ってしまった。


「「「陛下!」」」


 ベンジャミンさんたち残りの3人がツッコミを入れる。


「男ならそれくらい自分でしろ」


 エリム国王さまは、グラスに残っていた赤ワインを一気に飲み干すと、ベンジャミンさんたちに顎で促した。


 ん~~、女性と男性ではここまで扱いが違いますか・・・。


 あ、微笑ってる。
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