エンリルの風 チートを貰って神々の箱庭で遊びましょ!

西八萩 鐸磨

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44.自己紹介

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「ゴホン!」


 諦めたのか、ベンジャミンさんが咳払いを一つ零した。


「あーー、べ、ベンジャミンだ。みんな知っているよな?・・・では次」

「お、おい!」


 ベンジャミンさんは不貞腐れたように名乗って、熊人の人に目配せする。

 すると、その人が顔を真赤にして抗議の声を上げた。

 しかし、ベンジャミンさんは能面のような顔をして動じないのだった。


「ゴ、ゴホン・・・わ、ワシは畏れ多くも国王陛下より、軍務卿を拝命つかまつっておる、バロア・ハディ・ムンメアだ。見ての通りの熊人族だ。我国の国軍は、陸軍と空軍に分かれ、それぞれ3つの師団がある。その下に連隊-大隊-中隊-小隊-分隊と・・・」

「長いぞ、ムンメア辺境伯。次にいけ」

「なっ!」


 バロア卿が、国軍の構成について解説じまんを始めると、エリム国王さまが途中で遮ってしまった。

 可哀想に、せっかく正常に戻り始めていた顔色が、再び朱くなってしまった。


「最後は私ですかな?先程も名乗らせていただきましたが、改めて・・・内務卿を拝命しております、レオナルド・アム・ニンガリアでございます。分不相応ではございますが、伯爵を名乗らせていただいております」


 レオナルド卿は、一礼すると腰を下ろした。


「これで終わりかな?では続いて、その方らから自己紹介を・・・ん?」


 エリム国王さまが、俺たちの方を見回して言いかけたところで、スザンヌさんを見て視線が止まった。


「そちらの色男も紹介してあげないと、可哀想じゃない?」


 スザンヌさんの視線の先には、エリム国王さまの背後で直立不動の姿勢を崩さない、近衛騎士団長さんがいた。

 ああいうタイプも好みなんだろうか?


「おお、そうであったな」


 エリム国王さまが、うしろを振り返り頷いた。

 
「この者は、私とサーシャの盾となり剣となる、誉れ高き我がハルバト国近衛騎士団の騎士団長、ロン・グラディアス男爵だ。仲良くしてやってくれ」


 エリム国王さまの言葉に、ようやくロン騎士団長さんは、黙礼だけをしてくれた。

 動かすのはそこだけかよ!と突っ込んではいけません。


「いいかな?では、スザンヌ・・よろしく」


「ハイ、ハイ。しょうがないわねえ・・・ご存知、あたしがスザンヌよ。元エア村支部のギルド長で、今はパーティー『ジ・アース』のメンバーよ。よろしくね」


 スザンヌさんは、ガタガタと椅子を鳴らしながら立ち上がると、そう言ってウインクを一発飛ばしたあとに一礼した。

 さっきまで、食事のマナーでガチガチになっていた人と、同一人物とはとても思えないな。


「やはり本当にギルマスを辞めたのか!まったく・・・」


 エリム国王さまが、呆れ顔でつぶやいた。

 そして、素知らぬ顔で着席するスザンヌさんの隣の、エルに視線を向ける。


 次はエルの番か・・・大丈夫かな?


「え、ええと・・・エルです。一応、Aランク冒険者をやっています。・・あ、それから、わたしも『ジ・アース』のメンバーです」


 いつもとは違い、小声で辿々しく自己紹介をしている。

 緊張して可愛そうだけど、なんかカワイイ。

 
「その若さでAランクとは素晴らしいな。」


 エリム国王さまが、柔らかな表情を向けた。

 とっくに周知の事実であるだろうにわざわざそう言ってくれるのは、おそらくこの場にいる国の重鎮たちに、俺たちがここにいる資格が少しはあるということを、アピールするためだろうか。


「ご両親は健在か?さぞや、誇りにお思いになられていることだろう」


 バロア卿が、尋ねる。


「いえ、先の神々の戦いで二人とも・・・。」


 エルが俯く。


「あ!いや、失敬した!!なんというか、その・・」


 バロア卿は、慌てて顔を赤黒くして汗をかいている。

 それにしても、よく色の変わる顔だなあ・・。


「そうか、それ以来1人で?」


 生暖かい目線をバロア卿に送りながら、エリム国王さまが言った。


「はい・・・・必死で生きてきました。強くなって、あいつらに復讐するために必死に・・」


 エルは伏せていた顔を上げ、エリム国王さまの顔を真っ直ぐに見つめて言った。


「・・ウム、なるほどな。だが、今のそなたの瞳にはその復讐心とは別の光も宿っているようだな」


 真っ直ぐに見つめ返し、エリム国王さまは頷き、そして目をわずかに細めた。





「さて、次はその方だな。黒髪に黒目、黄色みがかった肌か・・・あまり見かけない珍しい容姿だな」


 エリム国王さまは一旦表情を戻すと、俺の方を向いて、何かを見通すような鋭い視線を投げかけてきた。


「遥か東方の大国の人々は、彼のような容姿をしていると云われております」


 テレーゼさまが、同じ様に俺のことを見つめながら言った。



 ん~~これだけの数の大人に見つめられて話をする経験なんて無いから、緊張する。

 せいぜい、学校の先生と一対一とかだもんなあ・・。


「え~と・・・セイヤと言います。あの、テレーゼさまがおっしゃった国とは違うと思いますが、俺・・いや、私も東方から来ました」


 俺は時々声が変に上ずりながら喋り始めた。


「フ。『俺』で構わんぞ」


 エリム国王さまが、笑みを漏らして言ってくれた。


「あ、はい。ありがとうございます。え~と・・・ですので、この国のこともそうですが周辺の国々のこともあまり良く分かりません。なにせ、はじめてきたもので・・・。で、エア村の近くで道に迷っていたところで、エルに出会いまして、村に連れて行ってもらい、今に至るといった感じです」


 俺はそう言って、頭の後ろを掻きながら、ペコリとお辞儀をした。


「ウム、なるほど・・・で?」


 エリム国王さまはひとつ頷くと、先を促した。


「『で?』ですか?」


 俺は何を聞きたいのか分からず、思わず聞き返してしまった。

 不敬だったかな?


「エア村で冒険者になったのだろう?」


 エリム国王さまが、何故かニヒルな笑みを浮かべ言った。


「は、はい。あいにく持ち合わせも全くありませんでしたし、俺のいた国にはギルドがまだなくて、登録もしていなかったものですから・・」


 俺は、エリム国王さまの笑みの意味がわからず、普通に答えた。


「ギルドも無いとは、とんだ辺境の国のようですな」


 バロア卿が、少し馬鹿にしたようなニュアンスを漂わせてつぶやいた。


「東方の大国には『座』というものがあるそうです。実態としては、ギルドとほぼ同じ機能と権能を保持していると聞き及んでおります」


 テレーゼさまが、凛とした声でエリム国王さまを向いて言う。

 バロア卿が目を白黒させている。


 また色が変わった・・。


 『座』って、日本史で習った『楽市楽座』の『座』みたいなやつかな?


「『座』っていうのにも入ったことは無いんですけど、この子もいるもんですから、食い扶持を稼ぐ必要があるだろうからと、エルに勧められ、そこで登録しました」


 俺はカメレオンのようなバロア卿は放おっておいて、説明を続けた。


「なるほど。それでその後、目覚ましい活躍をしたと聞き及んでいるのだが、今現在は何ランクかな?」


 ん?これって、もしかして知っててわざと聞いているパターン?


「ビ、Bランク(仮)です」

「ほう!Bランクとは、なかなかではないか」

「冒険者になりたてでBランクとは、まことですかな・・」


 エリム国王さまが微笑んで頷く一方で、バロア卿がボソリとつぶやく。


「あ、あくまで(仮)ですから!そんなに大したものではありません」


 俺は、一応謙遜しておく。


「あら、。あたしの判断に、異議がおアリで?」


 すると、スザンヌさんが指をポキポキ鳴らしながら、冷たい笑いを顔に貼り付けて低い声を発した。


「い、いや!そんな、『剛力の牆壁』殿に異議などと滅相もない!ただ、あ、あまりに期間が短かったたようなので、少々驚いていただけではないか」


 見た目と違って小心者なのか、それともこのひとスザンヌさんがスゴイのか・・・たぶん後者だな。



「・・・では、そのBランクに至るまでの経緯を話してもらえるかな?」


 二人のやり取りをガン無視しながら、エリム国王さまが言った。


「わ、わかりました」


 俺は、不都合なことはなるべく隠しながら、国境で遭遇したワイバーンを始めとした魔物討伐のことを中心に話していった。


 話を聞き終えたエリム国王さまは、エルの顔を見つめ、次にスザンヌさんの方を向き、最後にまた俺のことを見つめ、そして一つ頷くと、ベンジャミンさんに顔をを向けて口を開いた。


「どうやら、本当のことのようだな。いや、むしろ予想以上かもしれんか・・」

「はい、エア村のガイヤからの報告どおりです」


 ベンジャミンさんは表情を引き締めて、うなずいた。



「そう言えば、王都ここへ来る途中でも、例の魔物達に遭遇したとか?」


 再び俺の方に向き直ったエリム国王さまは、軽い調子で尋ねてきた。


「例の魔物ですか?ああ、ヴァンパイアたちのことですか。確かに遭遇しましたけど・・・」

「「それはまことですか?!」」


 俺が状況を説明しようとすると、レオナルド卿とバロア卿が驚きの声を上げた。 

 あれ?この二人は聞いてなかったのか?


「え、ええ。遭いました。それと・・・」


 再度話し始めようとすると、今度はサーシャさまが横からエリム国王さまの脇腹をつつき、コリンとアイリスの方に目線をやった。


「ん?そうであったな、まだ自己紹介が終わっていない者がいたのであったな。セイヤ殿、その話はあとでしてもらうとして、隣のかわいらしい子に順番をまわして貰えるかな?」


 エリム国王さまは、右目の下の泣きぼくろと共に目尻を下げて、優しい笑顔をコリンへと向けた。



「お名前は何というのかな?」


 エリム国王さまが優しく尋ねる。


「コリンはね、5歳なの!」


 コリンが右手をパーの形にして、高々と上げる。

 その指先がテカテカ光っている。

 
 こいつ、早々と前菜の生ハムを手づかみでいってたな。


「そうか、コリンちゃんと言うのか。5歳か、お利口さんだな」


 エリム国王さまは、そんなことは気にもしていないかのような、柔らかな笑みを漏らす。

 周りのオトナ達も一様に微笑んでいる。


 やはり、モフモフ+カワイイは万国共通らしい。


「それにしても、そのようにまだ小さく幼いというのに、その方らと共に旅をしているのは何故ゆえかな?」


 エリム国王さまは、柔らかな表情は崩してはいないが、目の奥に鋭いものを覗かせて、俺の方を見て尋ねた。



「コリンはね、セイヤお兄ちゃんを追いかけてきたの!」


 コリンが『ニッ』と白い歯を覗かせて、満面の笑みで答える。


「ほう!お兄ちゃんをな・・」


 エリム国王さまがそれをにこやかに見た後に、目線を俺に向ける。




 う~ん、どうしよう。

 兄妹設定は続けたほうが良いのか?



「そ、そうなんです。俺とコリンは腹違いの兄妹でして、コリンの母親は狐人族だったんです」


 『世界知識』によると、この世界では一夫多妻、多夫一妻も普通にあって、異種族間の婚姻もありえることらしい。

 なので、兄弟姉妹で種族が違うこともままある。

 ちなみに、父母で種族が異なる場合は、その子はどちらか一方の種族の特徴を引き継ぐらしい。


「なるほど・・・まあ、そうであろうな。しかし、そなたの国は遥か遠方にあるのであろう?そこから兄であるその方を、この小さな身で遥々追ってくるとは、余程の事情があったのであろうな・・・」

「それはあの・・・」


 なんか、勝手に色々と事情を察して(妄想して?)目頭を熱くさせている様子のエリム国王さまに、俺は慌てて言い繕うとしたのだけれど、「みなまで言うな、よくわかった」何故か止められてしまった。



 ・・・・ん?

 周りのオトナ達が一様に目頭をおさえている。

 なんなんだ・・・。




「・・・さて、残るは貴女様ですな。改めてお名前をお伺いする必要もないとは思うが、この場の流れに従って、お願い申し上げる」


 そう言ってエリム国王さまは、先程までとはまた違った優しさを湛えた笑みを、残る1人となったアイリスへと向けた。



 ・・・あれ?そういえばライアンはスルーか。

 なんか可愛そうな気もするが・・・まあいっか!

 
 


 最後の最後に順番がまわってきたからなのか、やや緊張した面持ちでアイリスはエリム国王さまに向かって黙礼すると、静かに立ち上がった。

 そして再度オトナ達へ向かって、スカートの裾をつまんで軽く膝を曲げ、優雅に一礼した。


 いつもと違うオーラを纏うアイリスに、俺は思わず見とれてしまった。



「国王陛下並びに王妃殿下、そしてテレーゼ様・・それと内務卿殿、お久しぶりでございます」


 アイリスは、伏し目がちではあるが、その頬に微笑を湛えてエリム国王さまたちに向かって挨拶を始めた。


「「お久しぶり?」」


 すると、ベンジャミンさんとバロア卿が同時に首を傾げる。


「他の方々は覚えておられないか、お初にお目にかかる方が大方でありますので、改めてご挨拶申し上げます。」


 そんな、頭の上に「?」マークを浮かべている人たちに向かって、アイリスはニッコリ微笑んで言った。


ヒタト国第2王女アイリス・ギョベクリ・テペ・キシャリア、そして現在いまは只の冒険者”アイリス”でございます」


 今度は、直立したまま右手を胸の前へ持ってきて軽く一礼したのだった。


「「ええ!!では、あの時の王女が?!」」


 またしても今度は、ベンジャミンさんとバロア卿が同時に驚きの声を上げた。


 やっぱりこの人たちは前にも会っていたのか。

 まあ、アイリスもまだ幼かっただろうし、しょうがないのか?


「それにしても、国交が途絶えて久しく、彼の国の情報も殆ど入ってこなくなっていたが、まさか第2王女が冒険者パーティーこのような者たちと共に、この場に現れるとは・・・」


 バロア卿は、複雑な表情をしてつぶやいた。


「なにを言う。キシャル神殿の神官兵と高位の貴族らしき人物が我国との国境を目指して、王都キシャルを脱したらしいとの情報を当時ヒタト国に滞在していた冒険者の情報として、軍務省へも上げておいたではないか」


 ベンジャミンさんが、呆れた口ぶりで突っ込んだ。


「はて、そんな情報もありましたかな?」



 オッサン達、どこまでが芝居で、どこまでが本音なんだか・・・。

 それにしても、冒険者ギルドと軍務省ってもしかして仲悪いのか?



「残念ながら、ボ・・わたくしを匿ってくださった司祭さまをはじめニンフルサグ村の方たちは皆、魔物に殺されてしました。・・・王都キシャルから共に脱した神官兵のシュルツも・・」


 アイリスの言葉に、その場にいる者たち全員が沈痛な面持ちとなった。


「でも、幸いわたくしは、瀕死のところをセイヤさんたちに命を助けていただきました。ですから、わたくしは決心したのです。わたくしには最早、両親も兄弟も国民もおりません。これからは、「王女アイリス」ではなく、「只の冒険者”アイリス”」として生きていくことを。そして、命の恩人であるセイヤさんたちと共にどこまでも行くことを」


 そんなみんなの、会食この場に相応しくない沈んだ雰囲気を振り払うかのように、アイリスは晴れ晴れとして、どこか誇らしげな表情で、エリム国王さまたちのことを見渡して言った。



 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
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