リアルチートは突然に _ゲーム初心者の最強プレーヤー_

Lizard

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第一章 リアルチーター

五本目 渓谷の大蛇

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第二の街エイフォルト――
 そこは、初心者を脱したプレイヤー達がルミリエイスの次に辿り着く街。

「んー、人が多いなぁ」

大猪と戦った平原からしばらく進むと、前の街よりも大きい街にたどり着いた。
面積が以前の街よりも広いのもあるけど、それを考えなくても人口が多いように見える。
入口には門番が立っている。かなり良さそうな装備だ。
・・・あの人・・・ははっ

「エイフォルトへようこそ!!」
「こんにちは」
「お!あんちゃんも冒険者か」
「冒険者?」
「ん?ルミリエイス――お前らは始まりの街とか呼んでるらしいが、そこに異界とつながる"穴"があるんだと。まぁ実際はそこに人間が突然現れるらしいが、そいつらのことを冒険者って呼んでんだよ」
「へぇ、興味深いです」

なるほど・・・そんな設定になってるのか。
っていうかあの街ルミリエイスって言うんだなぁ・・・
そういやクリムゾンボアのLvを見た時に表示されてたな。
あれ?冒険者ってなんでわかるんだろ?

「あの、冒険者ってなんで分かるんですか?
「ん?お前さん知らないのか?あんちゃんを注意してみると頭の上に青色の文字が浮き上がるんだよ。そういうやつは冒険者だ。自分には見えないらしいけどな」
「なるほど・・・そうだったんですか。ありがとうございます」
「ははっ!あんちゃんは冒険者にしちゃ礼儀正しいな!」

ゲームだから荒い性格の人が多いのかな?それとも・・・この門番さんがNPCだから?そんな理由は何となく嫌だなぁ・・・

「ちなみにおススメの武器屋とかないですか?」
「おう![双竜の牙]って店があるぞ!この門を通って三番目の右の角を曲がれ!そうすっと牙が十字の形になってる看板が見えてくる!ちなみに俺の武器と防具もそこで買ったもんだ!」
「ありがとうございます。行ってみますね」

多分この人はNPCってやつだろう。ほとんど人間と同じに見える・・・すごいな。

「あんちゃん、敬語はいらねぇよ?話しやすいようにすればいい。俺はカイル!よろしくな!」
「分かったよ。カイル、よろしく」
「おうよ!」
「ところでさ、カイルって結構強いんじゃない?」
「おう!強いぞ!!・・・ってあんちゃん、突然どうした?っつーか冒険者は結構俺たちを舐めてる奴が多いんだがよ。なんでそう思った?」
「ただ立ってるだけでもただの兵士には見えないんだよね」
「へぇ・・・そうか。あんちゃんもただもんじゃねぇだろ?立ち姿なんてもんで相手の強さを測れんのは達人の域にいるやつだけだ。冒険者ってやつはほとんどのやつがレベルやステータスばっか見てるが・・・あんちゃんはそういうわけじゃなさそうだな」
「当然だよ。筋力や足の速さだけど勝ち負けが決まるほど、戦いは甘くない」

そう言うとカイルが驚いた顔をして、笑い出した。

「ハッハッハ!!そうかそうか!あんちゃんは若そうに見えるが、相当だなぁ。一応参考までに言っておくが、俺のレベルは83だ!!あんちゃんが言った通りそれだけじゃ決まんねぇけどな!」

確かショートが75だと本人が自慢していたはず・・・学校で。
あれは数日前だったから今はもうちょっと上がってるかもしれないけど・・・
本人曰く、トップギルドのギルドマスターだって話だったよね。少なくともかなり高い方だと思うんだけど。
もしそうだとしたらプレイヤー達の誰よりもカイルの方が強いんじゃない?

「凄いねぇ。僕のレベルはまだ8だけど・・・よければ後で手合わせでもしない?」
「へぇ・・・!!普通そこまでのレベル差があれば挑むやつなんざいねぇんだがな・・・面白れぇ!装備整えたら俺のとこにこい!」

カイルは獰猛な笑みを浮かべている。

「分かったよ。楽しみにしてる」
「おうよ!!」

門をくぐり、街の中へ。
1Lvごとのステータスの増加量を考えると・・・8Lvと83Lvなら最低でも3倍くらい?いや、カイルは多分近接職だろうからもっとかな?
ふふ、楽しみだなぁ。カイルなら僕を満足させてくれるんじゃないかな。

っと、そうだ、[双竜の牙]ってお店に行かないとね。
三番目の右の角・・・ここだな。

牙がクロスしている絵の描かれた看板のお店がある。
中々いい雰囲気だなぁ。武器屋って感じがしないような気もするけど。

店に入る。あれ?誰もいない?

「あのー、誰かいませんか?」
「は、はーい!少しお待ちください!」

慌てて店の奥からとび出してきたのは青色の髪のお姉さんだった。

「いらっしゃい!」
「武器を見に来ました」
「はい!どうぞごゆっくり!」

明るい感じの人だなぁ。でもなんで他にお客さんいないんだろ?
店主さん?はかなり美人だし、プレイヤー、冒険者なら来そうなものだけど。

まぁいいや、武器・・・武器っと。

お!

――――――
クリムゾン・ダガー〈大猪〉
Damage+10
耐久:800
ステータス効果:STR+15
紅色の猪の素材から作ったダガー
耐久が高く、装備していると腕力が上昇する
――――――
そこにあったのは、クリムゾンボアの牙を削ったようなダガー。
これは良さそうな・・・
ステータス効果なんていうのもあるんだなぁ。
あのパワーから考えるとSTRが上がるってのは分かるけど・・・でも腕力が上昇でSTRが上がるってことは、もしかしてSTRが腕力でAGIが脚力ってことなのかな?
確かに走る速度が上がって脚力が弱いなんておかしいか。そう考えると当然かもしれない。

「あのーすいません。このクリムゾンダガーというのはおいくらでしょうか?」
「あ、そちらの商品は2500Gになります」

うーん・・・所持金が足りないなぁ。

「すみませんが所持金が足りないので、お金を貯めて出直してきます」
「あ、それでしたら・・・」

店を出ていこうとすると店主さんが引き留めてきた。

「えーっと、私のお願いを聞いてもらえませんか?代わりにそちらの商品を差し上げますので・・・」
「お願い・・・?」
「はい・・・ただ、かなり危険なものになりますが・・・お客様は初級装備のようですし」

まぁ、最初から防具は買えてないから、当然だよね。
でも、そんな相手に危険なお願いとは・・・かなり急いでるのかな?

「お願いというのは?」
「えっとですね・・・あるモンスターの素材が欲しいんです」
「あるモンスター?」
「はい。レッサーナーガというモンスターです。最近その素材が不足しているんです。レッサーナーガの革はとても使い勝手がよくて・・・この街にくる冒険者さんがその防具を買っていかれるので、ほとんどのお店で不足してしまって・・・」
「なるほど・・・」
「ただ、レッサーナーガは上位種のナーガ程ではなくてもかなり手強いモンスターです。そもそもナーガはエリアボスですからね・・・勿論、持ってこられる枚数に応じて報酬も増やします。いかがでしょうか?」

この先のエリアボスがナーガなのかな?

「増やす報酬というのは?」
「5枚以上持ってきてくだされば、先ほどあなたが見ていたダガーを差し上げます。それ以上の報酬に関しては、すいませんが、私としては出来れば秘密にしたいんです。レッサーナーガは基本的に群れで行動し、毒を持っています。なので、危険度としてはかなり高いものになるんです。ですが、このお店にはその対価として十分なものは・・・一つだけです。なので、その一つを渡そうと思うのですが、あまり公開したくない情報ですので・・・勝手なのは分かっています。なので、当然無理にとは言いません」
「報酬は言えない・・・と」
「はい・・・申し訳ありませんが・・・」
「ははっ、分かりました。受けます」
「へっ?」

受けると思っていなかったのか、お姉さんが頓狂な声を上げる。

「い、いいんですか・・・?」
「はい、面白そうですから」
「お、面白そうって・・・」
「隠されていると興味が沸いてしまうでしょう?」
「そ、そうですか・・・?」
「それに・・・」
「?」
「レッサーナーガっていうのは強いんですよね?そっちも面白そうです」
「お客さん・・・変わってますね・・・」
「よく言われます。あ、僕はリューセイと言います。改めてよろしくお願いします」
「は、はい!私はアルミリアです!よろしくお願いします!」

《NPCクエスト アルミリアからのレッサーナーガ討伐クエストを受けました》

ん?こんなメッセージもあるのか。

「そういえば、レッサーナーガってどこにいるんですか?」
「えーと、ナーガの巣に行く途中にある沼にいることが多いはずです。冒険者の皆さんはほとんど素通りすることが多いですが・・・ただ、気を付けてくださいね。沼に近づくと何匹かまとまって出てくるので・・・運が悪いと数十匹単位で出ることもあるとか・・・」
「分かりました。気を付けます。それじゃあ、いってきます」

ナーガの巣に。

「あ、ちょっと待ってください!もしかしてリューセイさんは武器がないんですか?」
「え?はい。よく分かりましたね」
「ダガーを買おうとしていたので、もしかしたらルミリエイスで買った武器が壊れたのかなーと。あの、これ、壊れてもいいので使ってください」
「え、いいんですか?」
「はい!そんな大したものじゃないですし。こんな危険なお願いしてるんですからこれくらいは!」
「分かりました。ありがとうございます」

お礼を言って店を出る。
さて、ナーガの巣に行ってみようか。

ショート曰く、ほとんどの街に門が二つあって初めて訪れる時にある門の反対側の門からまっすぐ進むと大体ボスのいる場所に行けるらしい。

~~~~~
門を出て、しばらく歩く。
30分ほど経過すると、霧が濃くなり、周囲の山が切り立ってかなり巨大な渓谷のようになっている。

さらに進むと、やや薄暗くなり、水たまりのようなものが見える。

あれがアルミリアさんの言ってた沼かな・・・?
とんでもなく濁ってるなぁ・・・最早黒色に近いレベルだ。

さーて沼に近づいて・・・おっ!

沼の表面がぶくぶくと泡立ったかと思うと、急に盛り上がり蛇が跳び出して来た。
長さならクリムゾンボアーを軽く超えるな・・・最低でも7mはあるだろう。
かなり巨大なアナコンダって感じかな?でも多分だけど力はアナコンダよりずっと強いんだと思う。
この世界にはLvなんてものがあるんだから。

――――――

レッサーナーガ Lv18

――――――
一匹を凝視してみると、そんな文字が見えた。

確かホブゴブリンがLv20だった。Lvだけ見るとホブゴブリンより弱いけど、
そもそも種族そのものが違うのにLvが高い方が強いとは限らないか。
いや、そもそも"技術"のあるモンスターならLvは関係ないだろう。
まだそんなやつにはあったことないけどね・・・残念。

なんて考えている間にも、レッサーナーガは続々と沼から這い出てくる。
その数は・・・43、ってとこかな。
僕は運が良いらしい。

ははっ、完全に囲まれてるなぁ。面白い。

「「「「「シャアアアア!」」」」」

おおー!一斉にかかってくるとは!自分より弱い相手にも全力で・・・いいなぁ・・・面白い!!

「はははっ!」

思わず笑い声が口から出てしまう。
さーてこういう時の対処は・・・っと。
このタイミングだな。

「よい、しょっ!!」

上に跳ぶ、だけではない。
跳ぶと同時に手に持っていた鉄の剣を下に向けて振るう。

この鉄の剣は、店を出る時にアルミリアさんからもらったものだ。

――――――
鉄の剣
Damage+5
耐久:200
鉄でできた剣
多くの街で買うことが出来るシンプルなもの
――――――
木の剣に比べればかなり強い。
数十匹の蛇が一人に噛みつこうとした瞬間に剣を振るえばどうなるか。
一網打尽、とまではいかないが、僕の振るった剣は、一度で15匹以上のレッサーナーガの顔を斬り裂く。
まぁ全部の蛇が同時に来るわけないよね。

斬った大蛇の体が緑の光に包まれ、消える。

当然僕の体は重力に引っ張られレッサーナーガの群れの中へ落ちていく。
下にいるナーガ達は上、というか僕の方を向いている。
このまま落ちれば勿論レッサーナーガ達が噛みついてくるだろう。
なので、一番早く僕に噛みつこうとしてきたレッサーナーガを蹴る。
ただし、吹き飛ばすような勢いではなく、押し出すように。

レッサーナーガの力は強い。これは、大きさ通りの力ではないだろう。
噛まれたらその力だけで千切れそうだなぁ・・・
なら、僕が加減して足を押し出すくらいの力ではほとんど動かないだろう。
壁を押すのと同じように。
結果、僕の体はレッサーナーガ達が噛みつこうとする輪の中から抜ける。
そうなれば、レッサーナーガ達は全員で空中に頭をまとめてもちあげた・・・つまり束になった状態になっているわけで。

なら、剣をそこに向けて振るえば・・・

ズパッ!!という音が連鎖する。

その太さは30cm近いものがほとんど。さらに、鱗も中々の硬度。

だけど、そんなきれいに束になっていれば・・・多少散らばっていようと30匹なんて数は全て剣の間合いの内側。

それなら・・・斬れる。
さっき斬った時の感触から、手の動き、角度、速度を修正する。

僕が横なぎに振った剣は、全てのレッサーナーガに赤い線を刻み付ける。

そして、全てのレッサーナーガの体が緑色の光に変わり、そこにドロップアイテムのみが残る。
結果―――

―――――――
・レッサーナーガの革×25

・レッサーナーガの牙×9
―――――――
必ず革と牙を落とすわけではないらしい。
まぁゴブリンの魔石も12匹倒して4つだったことを考えると・・・むしろ多いのかな?


さて・・・さっきから感じる視線は誰かな?―――

視線の方向を振り向く。すると、そこには岩陰に隠れてこちらを覗いている4人組が。
僕が視線を向けると4人はビクッと体を震わせた。

4人組の方へ歩き出すが、特に動く様子はない。

「どうしたんだい?僕に何か用?」

不思議に思って話しかけると―――

「あ、えっと、あの・・・」
「お、おう・・・」
「え、えーっと・・・」
「す、すいません・・・」

ほんとにどうしたんだろ?

「な、なぁあんた。なにもんだ?」

疑問に思っていると、重戦士らしき装備の男が聞いてくる。
いやそんなこと言われましても。

「ただの聖法士ですが何か?」

「「「「嘘つけぇっ!!」」」」

あれ?なんか全員にツッコまれたんだけど・・・

「そんなこと言われても・・・実際聖法士ですよ?」

「いやいやいやいや!ないから!あんな戦い方する聖法士とかないから!!」
「それ以前にどんな職業だろうとあんな戦い方する人はいないと思うな・・・」
「うん。あれは異常」
「スピード重視の剣士かと思ったけど・・・違うの?」

「ええ。僕はほんとに聖法士ですよ」

「じゃあ何で初期装備・・・?」
「お金がなかったのと・・・別に変える必要性がなかったからですね」

「いやいやいや!!聖法士なんてさっきのレッサーナーガどころかゴブリンにリンチされるだけで死ぬだろ!!あんたソロなんだろ?」
「うーん・・・リンチされないようにすればいいんじゃないですか?」

そう答えると、なぜか全員が唖然とした表情をしている。

「いや、お前・・・聖法士ってのは回復魔法が得意な職業だろ?魔導士ならまだ分かるが、聖法士じゃあすぐに囲まれるだろ」
「囲まれる前に倒せばいいと思いますが・・・」

その答えに再び硬直する4人組。
え、何?ダメなの?

すると四人組が円陣を組むようにしてひそひそ話を始めた。

「な、なぁ、どう思う?」
「どう思うって・・・正直さっきのレッサーナーガとの戦いを見てるとありえる気がしてくるわ」
「だよね・・・たとえどの職業でもあの人のプレイヤースキルが異常なだけじゃない?」
「リアルチートってやつかな・・・」
「まぁ、俺たちは特に用があるわけじゃねぇしな・・・普通にレッサーナーガを狩りにいかねぇか?」
「賛成」
「ただ気になるから見物してただけだものね・・・」
「まぁ、そうと決まれば話してくださいレックス」
「俺かよっ!!」
「「「リーダーだから」」」

うーん、普通に聞こえてるからね。
まぁ別に悪口とかじゃないしいいけど。

「え、えーっと、その、引き止めて悪かったな」
「いえ、気にしないでください」

リーダーのプレイヤーが緊張しながら謝罪を口にする。

そんな緊張する必要ないのに・・・
さっきのパーティは何だったんだ・・・そういえば名前聞くのも忘れてたな。
どうしようか・・・クエスト自体は多分これで完了なんだけど・・・
ナーガ、か・・・気になる。すごく気になる。

よし挑もう。

~~~~~
さらにレッサーナーガを倒しながら、しばらく進むと―――

《ボスエリアに入りました》
ナーガの巣にたどり着く。

「おーっ!すごいなぁ!!」

ナーガはレッサーナーガとは比べ物にならない大きさだった。
軽く30mくらいはあるんじゃないかな?
色は黒に近い青。荘厳な雰囲気のある、蛇の王、って感じだね。
かっこいいなぁ・・・まぁ、倒させてもらおうか。
視線を集中すると、Lv表示が出てきた。

――――――

ナーガ Lv42

エイフォルトのエリアボス

――――――
今まで見た中でも飛びぬけて高い。

渓谷の出口がナーガの背後に見える。
そしてナーガはその前で円を描くような形で眠っている。

「さて、ナーガ君。楽しもうか」

近づいていくと、あと20mといったところで、ナーガの目が開かれる。
その目は黄色い光を放っているようにすら見えた

「ジュラアアアアアアアア!!」

ナーガの咆哮が響き渡る。
クリムゾンボアと比べれば、明らかに強い。
それも、圧倒的に。

《ボスモンスター『ナーガ』との戦闘に入ります》

僕が駆け出した瞬間、ナーガの口から紫色の液体が飛び出してきた。

「ジュラァッ!!」
「おぉっと!・・・毒液か。危ない、なっ!!」

ナーガの吐いた毒液を横に転がることで避ける。
立ち上がろうとする瞬間に地面を強く蹴り、上に跳躍。

すると僕が先ほどまでいた場所をナーガの首が通りすぎる。
視線を動かすと先ほどの毒液が当たった岩肌がえぐれたように溶けているのが見えた。
毒というか・・・酸?

意識をナーガに戻す
ナーガの体の幅は1mくらいあるんじゃないだろうか・・・
ま、そんなことはおいといて。

「はぁっ!!」
「ジュッ!?」

気合の声とともに、一閃。
上からナーガの首を斬りつけるが・・・
鱗が思った以上に硬く、斬ることはできたものの勢いが削がれ浅く斬るにとどまった。

「いやぁ・・・かなり硬いね・・・その鱗。鎧みたい」
「ジュララァッ!!」

ナーガの身体を蹴り、すぐ横の地面に着地―――

――した瞬間にナーガの開いた口が目前に迫る。
ナーガの噛みつきを横に跳ぶことで回避。
先ほどのように鱗の上から切りつけても、倒すのには時間がかかる。
このゲームで気になっていたことがある。
敵を傷つけたとき、損傷した部分が赤いエフェクトのようなものに変わる。
その部分を攻撃すれば、鱗の硬さは残っているのだろうか。

疑問は実践して試そう。

ナーガの首の上に目掛けて跳躍。
慌てて首を曲げようとするナーガを見て、確信する。
首にある赤い線・・・首に着けられた傷は、いわば弱点のようなものになっているんだろう。
ナーガが振り向く。

だけど―――もう遅い

僕は、もう君の首の上だ

先ほどは、振り下ろしだった。
今の体勢は――振り上げ。

風を切る音と共に振られた剣は、ナーガの表面に刻まれた赤いエフェクトをなぞるように斬る。

感触は・・・鱗はなかった

「ジュラァッ!?」

先ほどと同じく、ナーガが悲鳴を上げる。
けれどその声には先ほど以上の驚きが含まれているようで、先ほどよりも悲鳴に近づいたように思える。

「ジュラアアア!!!」

咆哮と共に、ナーガが毒液を吐き出す。
今度は最初のような単発ではなく、ビームのような直線の毒液。

それを、横に移動して回避。
しかし、ナーガが首を僕の方へ向けると、毒液もそれに従い移動する。
まるで剣を振られたような気分だ。
まぁ、長さは数十mじゃ済まないと思うけどね。
単発で撃たれるよりも、ずっと厄介だ。
一度避けるだけじゃ終わらないのだから、当然だけど
でもさ―――

「当たらないんじゃ、意味がないよ」

口角が吊り上がる。あの攻撃は当たったらまずい。
だからこそ、ワクワクする。楽しい。

ナーガに向かって駆け出す。
鎌首をもたげて毒液を吐いているナーガに視線を向ける。、
全力で走り、向かってくる毒液を回避する。
この毒液は、ナーガの口から直線で噴き出る。
それはつまり、首の動きさえ見ていれば毒液の動きも分かるということだ。
頭の中で毒液の動きをイメージし、それを回避すればいい。

単純な話だ。

当たれば恐らく一瞬で死ぬだろうね。

けど、そんな攻撃が当たるはずがないだろう?

視ることが出来る攻撃は・・・あまりにも遅すぎる

上に跳躍、横に回避、バックステップ。
まだ毒液が無くならないのか・・・どれだけ体内に毒液あるの?
けれど、ついにナーガの下にたどり着く。

ナーガは毒液を当てることに集中していたらしい。毒液の噴射をやめ、下を向く。
が――もう遅い。
首の下側からの一撃を、ナーガは躱せなかった。
さらに、鱗も下側はとても薄かった。

首の上と下、両方に赤い線が奔っている。
首筋を一周するように

けれど、ナーガは死ななかった。

痛みからか、ナーガが首を振り回す。
ナーガの咆哮と悲鳴の混じったような叫びを聞きながら、一旦距離をとる。
ナーガも同じように距離をとっている。

まだ余裕がありそうだ。少なくとも瀕死のところまでも届いていない。
おそらく、このゲームでは首を斬ったとしてもHPが多ければ死なない。
クリムゾンボアを数発で倒せたことを考えれば、ダメージ自体は他の部分を斬るより多いんだろう。
けれど、その増えたダメージでも足りない。

そんなことを考えていると、ナーガの身体から赤黒いオーラが流れ出る。
これは・・・クリムゾンボアと同じ。体力が減ったことによるパワーアップか。
やはりボスに共通することなのだろう。

「ジュラアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

魂の叫び、その叫びを聞いた瞬間そんな言葉が思い浮かんだ。
もしかしたらこのパワーアップは自身の命を削って発動している・・・?

「凄いね・・・クリムゾンボアよりもずっと上。これだけ離れてるのに咆哮で地面が揺れてるのが分かるよ。さすがだ・・・と言わせてもらおう」

言い終え、叫ぶのをやめてこちらを睨みつけるナーガへ走る。
すると、ナーガはこれまで使っていなかったものを使う。
突然横から迫る攻撃に目を見開き、しゃがむ。
頭上を通ったものを見て、納得してしまう。

「尻尾か・・・そんな長さの尻尾ならいい武器だろうね」

それは、ナーガの長い長い尻尾だった。

ではなぜこれまで使わなかったのか?
まさか手加減していたのか、と考え、その思考を棄てる。

改めて尻尾を観察する。そして、ある事実に気づいた。
鱗が胴体に比べると薄いのだ。多分、岩に強く打ち付ければ傷つくぐらいに。

それに形もわずかに歪だった。
もしかしたら、誰かに斬られ、また尻尾が生えた結果あんな風になったのかもしれない
恐らく、それが理由で今まで尻尾は使わなかったのだろう。
つまり・・・ナーガにとって尻尾を振るうことは、捨て身の攻撃なんじゃないのか?

再びナーガの胴体や顔に意識を戻す。


その表情に、悲壮感が漂っているような気がした。


先ほどの攻撃で無くなったのか、毒液を吐く様子はない。
それなら、大口を開けて、噛みつくのみ。
ナーガが牙をむき出しにして襲い掛かってくる。

このまま斬りつければ、間違いなく攻撃を食らう。
そうなれば、あの牙は特に苦労もなく僕の体を貫くだろう。

だけど、避ける気はない。この攻撃がナーガの最後の全力を振り絞ったように見えたから。

「ジュラアアアアアアアアアアアッッ!!!」

ナーガの叫びで肌がビリビリと痺れるような感覚を覚える。
けれど、そんなことは気にせずに剣を前に突き出す。

「ガァ・・・・・・?」

一瞬、時が止まったように感じた―――

ナーガの口から呻き声が漏れる。
止まっていた時が動き出したかのような気分。
突き出された剣はナーガの口の中に刺さっている。
当然、口の中に鱗はない。故に、リューセイの剣を突き出す力とナーガ自身が噛みつこうとした時の勢い、その両方により剣は深く深く突き刺さった。

突き刺された剣は、ナーガの頭から突き出している。


ナーガの口が開いたままで止まり、緑の光に変わる。


戦闘時の興奮が治まり、僕の頭は一気に冷めた。


途端に心が静まる。


―――ボスは、またここに来れば現れる

「それは知ってるけどね・・・あんな戦い方されると、感慨深くなっちゃうね・・・楽しかったよ。またやろう」


《エリアボス『ナーガ』の単独討伐に成功》
《〈ナーガの鱗〉を入手しました》
《〈ナーガの牙〉を入手しました》
《〈ナーガの革〉を入手しました》
《〈ナーガの魔石〉を入手しました》
《称号【大蛇に認められし者】を手に入れました》

エリアボス討伐のメッセージが流れ込む。

その機械的な音声が、頭に響く。


その時、僕はわずかに寂しさを覚えた。

ゲームだってことは分かってる。

さっきのナーガだって、作られたものだ

けど―――

僕の中にあるのは、虚しさ。勝利したことの喜びはない。

手放しで喜ぶ気にはなれなかった。

最後に見たナーガの目に、涙が浮かんでいるように見えたから。

いや、それだけじゃない。

お互いが全力でぶつかり、片方が砕けた。

最後のナーガの攻撃は、全力を振り絞ったものだった。

それこそ、魂そのものをのせたみたいな。

いや、違うな。

 僕自身は・・・全力、だったか―――――?

 違った。相手の全てを賭した全力でも、僕にはまだ余力が残っていた。

 まだ・・・足りない。

 もっと、もっと強い相手じゃないと。

 ゴブリンの時も、クリムゾンボアの時も、こんな気持ちにはならなかった。

 それは多分、相手が脅威にもなってなかったから。

 戦いではなく、遊びだったから。

 ナーガと戦った時は、油断をしたら死んでたかもしれない。

 けれど、言い換えればそれは、油断をしないと死なない、ということ。

 
 僕が求めているのは、自分が全力を出しても、勝てないような相手。

 すべてを投げ出しても、まだ足りないような。

 つまり、強くならないと勝てない相手を。

 僕の目標になる相手を・・・!

 このゲームにはいないのか・・・?


いや――――

 このゲームなら、いるかもしれない。

 戦いにおいて、僕よりも上な相手が。

 さっきのナーガはこのゲームの最強ではないのだから。

そう考えた時、先ほどまでの心の暗さは無くなった

ナーガは、このゲームで最強の存在じゃない。

まだまだ上がいるんだから。

僕自身ももっと強くなろう。

今日自分が勝てる相手よりも、明日自分が勝てる相手が強くなっているように。

ゲームだからって関係ない。全力で、強くなる。

ナーガが弱かったからって、僕が強いわけじゃない。

まだまだ上はいるだろうから。


だから――――――

 このゲームのモンスター・・・その全てを倒そう。

 さらに強くなる。その始まりとして
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