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Episode1/Raison detre
第六章╱レーゾンデートル
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(.19)
本来ならひと一人も居ないはずのマンションの屋上で、二人の少女が対峙していた。
暑い日差しを遮るものがない場所に佇む二人のうちの片方ーー朱音は口を開く。
「Why is there something rather than nothing?」
「え? な、なんだって?」
言われた少女ーー瑠奈はそう聞き返した。
「なぜなにも無いのではなく、なにかが在るのか?」
「言ってる事はわかるんだって。その意味がわからないんだってば」
瑠奈はハッキリしない物言いに対して、少し怒ったふうに再度問う。
「例え話をしようか。ーーどうして、“100”という存在が生きているのか? こう質問されたとしよう。その答えは、“99”と“98”という人間が子作りしたから産まれてきたんだ」
「は……?」
「それでは、どうして“99”は存在するのか? それは“97”と“96”が子作りしたからだよ。ーーちょっと問いを変えようか。ならば『どうして数多の精子の中から“100”が選ばれたのか?』その答えは『“50”という偶然によって選ばれた』からなんだ。こうして繰り返していくと、どうなると思う?」
「……0になる?」
「いや、違う。なぜなら、“2”が在る原因は“1”であっても、“1”がある理由は“0”ではない。なぜなら、“0”は無神なのだから、無からは何も生じない。つまり、1になるが答えで正しい」
「なら、1はどうして誕生したのさ?」
「それの答えを人間は持ち合わせていない。なぜなら、もしも0が1を作ったのだとしたら、0を作ったものが問えなくなる。1を0だと勘違いしているだけで、それは0ではない。なぜなら、無から有は在りえないのだから」
「遠回りせず、ちゃんと答えてくれないかな?」
「つまるところ、君の“存在理由”は『君は在る』からに他ならない。君の産まれてきた意味も、生き続ける意味も、存在する価値も、在る証明も、問い続けた果てには1という壁しかない」
「わけわからなくなってきた……」
「簡単な話だよ。君は此処に在るのだから、ただ在ればいい。そして、それは君に限定する話じゃない。人類、生物、植物、昆虫、機械、物質、概念、地球、異世界、宇宙、あらゆるものすべては、ただ在るから在るだけだ」
「すべて? だって……それじゃ、わたしは何のために」
「何の為に生きるのか。それを0に、外に求めること自体が間違いなんだよ。君たちは皆、誰かに存在理由を求めてしまってはいけない。君以外の人間たちも皆みな、なにかしらの101から先にある中からや、1から100のなかから見つけ出すものなんだ。君がいま探しているように、存在理由は自ら探すもの。見つからないなら“見つけるため”に生きればいいだけだよ。それは内にあるものでも外にある物でも、者でもものでもなんだってかまわないから」朱音は最後に告げる。「君は在るから在っていい。君が在る、それが、君の生き続ける理由」
「え?」
瑠奈が瞬きをしたあとには、朱音の姿は消えていた。
最後の提案ーー『わからないのなら、皆に問いつづければいい。答えはきっとそこにある』と瑠奈に残しながら……。
瑠奈はゾルピデム、バルブロ酸、エビリファイとPTPシートに書かれている錠剤をまとめて飲み干すと、早々に布団に潜り込んだ。
ーー結局、朱音の言っている意味はなんだかよくわからなかったなぁ……とはいっても、なんだかまえより気分は楽になってきてる気がするけど。
あの後、朱音はなんだかんだと再び姿を消してしまった。
沙鳥や舞香は少しばかり気にはしている様子であったが、いまは自分たちで精一杯らしい。そこまで深刻には考えていないみたいだ。
ーーわたし、朱音がいないと自分の世界へ帰れないんだけど……まあ、いまはどうでもいいか……。
瑠奈はそのまま深い眠りへと落ちていった。
(.20)
「沙鳥! お願いだから、私を監禁して!」
「舞香さん! 負けないでください! 舞香さんならそんな渇望になんて負けま
せん!」
「いや、お願いだから、私の周りにネタや道具を置かないで!」
「……なーにやってんの、二人とも」
201号室、部屋のなかでは、舞香と沙鳥がなにやら茶番を繰り広げていた。
舞香の手元には、覚醒剤入りの注射器。しかし、舞香はそれを真っ二つに折り曲げ投げ捨てた。
「沙鳥、お願いだからこんな荒療治しないで! 目の前に置かれると意志なんてもの脆弱でしかないのよ!」
「いま打ち勝てたじゃないですか! ほら、この白い粉の山を見てください! やりたくないと思えるはずですから!」
「いやいやいやいや無理だから! 読心できるならわかるでしょ!?」
「……な、なんなんこの光景」
テーブルには、山ほど置かれている覚醒剤と注射器。その目の前に舞香は座らされており、沙鳥は真横から渇を入れていた。
「瑠奈、ちょうどいいとこに来たわ! この覚醒剤と注射器部屋から全部吹き飛ばして!」
「い、いいの?」
「ダメに決まってるじゃないですか! 覚醒剤には身体依存はありません! 精神依存だけなんですから、強い意志があれば我慢できます!」
「むしろ、そもそも精神依存が強すぎるから違法なんであって! ああもうダメ! 私、今日は自室に籠るから! あとはよろしくっ!」
舞香は言い残すなり、部屋から飛び出していってしまった。
ーー仕方ない、きょうはべつの誰かに付き合うかな。
(.21)
青い空が広がる晴天のなか、その光がほとんど届かない森の中を澄と瑠奈は歩いていた。
「今回の相手はわしの同族でな、見た目は幼いんじゃが、力は人間離れしておる。気をつけろよ?」
「なんで先に言ってくれないん……?」
まだ仕事場を見学したことのない相手である澄を見学するため、瑠奈は今日、澄に着いてくると決めたのであった。
日に日に『死にたい』といった感情が薄れてきた瑠奈は、ちょうどいい暇潰しになるかと軽い気持ちで自ら申し出たのである。
ーー沙鳥と舞香は何だか変なやり取りを繰り返してるし、翠月の仕事にはあんまり関わりたくないし、かといって、何もしないのも暇だし……まぁ、仕方ないか。
「名は六と華と書いて“ゆき”と読む。あやつの名前じゃ」
「うわ、なんだか読めない漢字だ」
「わしかて一文字で澄と読むだろう。それに、澄み、清み、隅と三字の意味を持っておる。あやつも風花・六華・雪という意味を持つだけじゃ」
「吸血鬼界隈はよくわからないや」
辺りは薄暗く、空気も淀んでいる。それもそうだ。ここは富士の樹海、自殺の名所でもあるのだから。
「今までは死骸を貪っておったが、最近はまだ生きてる人間に手を出し始めてな。このまま進めば、人町に降りて人間をくらうようになってしまう」
だからそうなるまえに潰す、もしくは、スカウトしてこいーーそれが、今回舞香の提示した依頼内容らしい。
奥へと進んでいく最中、がさがさと木々が揺れた。
風に吹かれて揺れる音とは、少し異なる。
「来るぞ」
「え? ーーッ!?」
瞬間、瑠奈の頭をなにかがかすった。
触ってみると、少量の血が滲み出している。
「ふたりともどうせ死ぬんだよね?」
爪先に付着した血を舐める少女が、目の前に出現したのだ。
「なら、ゆきにちょうだい? 新鮮な血と肉が食べたい」
容姿は澄より二歳ほど上だろうか?
12歳ていどの見掛けだけなら普通の少女だ。
「悪いのぅ、わしらはお主を討伐しにきただけじゃわい」
澄がそう口にすると、少女ーー六華は瞳の色を赤くしながら、ふたりを睨む。
「ゆき、なにも悪いことしてない。おまえたち、悪いひと」
言うや否や、いきなり六華が澄へと飛びかかる。
それを避けながら、澄は六華の腕を掴んだ。
「それは当たり前じゃ。悪の反対はべつの悪でしかないからのぅ」
「はなせ! はなさないと殺すよ!」
もう一方の腕で澄の顔面を掴もうとするが、澄はそれをも容易くかわす。
「圧倒的じゃん……」
吸血鬼というのは、みんながみんな澄のような怪力や俊敏さを持つものだと思い込んでいたが、どうやら格の差というのは吸血鬼同士にもあるらしい。
「どれ、ひとつ、わしとお主の格の違いを見せてやるわ。畏怖を抱くなら、殺さずに済むから命に従え。でなければ、躊躇いなく殺めるだけじゃ」
澄はそう告げると、いったん六華の腕を解放した。
「ーー“血界”」
澄が唱えた途端、辺りにある木々から空の色まで真っ赤に染まり始めた。そのまま直ぐに、周囲は赤一色以外なにもなくなってしまう。草も木も地も空も、すべてが濃い血の色へと変色していく。
「ゆき、こんなの怖くない!」
六華は、澄へと再度飛びかかろうとする。しかし違和感を覚え、それを寸でのところでやめた。
なぜなら、血になった地面から、何人もの澄が現れたからだ。
ーーこ、怖い、なにこれ!?
味方であるはずの瑠奈さえ、その光景に恐怖を抱いてしまう。
ひとりでもとんでもない怪力を持つ童女が、瞳を血色に変えながら何人も姿を現してきたのだから、当然といえるだろう。
辺りには血の匂いが漂い、それが鼻腔をつついてくる。
「さて、この世界の中ではわしがルールじゃ」「逃れるには」「世界を塗り替えるか」「わしが術を解く以外」「方法はないと知れ?」
何人もの澄が伝言ゲームのように次々と言葉を繋げる。
「こ、怖くないもんっ!」
そのうちのひとりに六華は攻撃するが、先ほどのように容易く止められてしまう。それはつまり、これらすべてが澄と同等の力を持つということに他ならない。
「なれば、死ぬか?」
「……う……いやだ……いや!」
六華は全身で恐怖しているのを体現していた。手足は震え、呼吸は浅くなり、瞳は大きく見開いたまま澄を見つめる。その瞳からは、ついに涙まで溢れる。
「ならば、わしに従え。なに、お主にとっても良い取引じゃ」
澄がそう口にしていくに連れて、世界は元の色を取り戻していく。
「良い? 良いって、血を飲める?」
「ああ、もちろんじゃ。ただし、死なせるほどは与えられんわい。ちょうどいま我が家には居候がおってな。そやつの血を死なない程度に飲んでかまわぬから、わしの仕事を手伝ってもらうーーといった取引じゃわい」
「居候?」
ーーいつの間にそんなひと入ってきたっけ?
「うむ、居候じゃ」
澄の視線が瑠奈を見つめる。
試しに左右に動いてみると、澄の視線もそれを追った。
「え、居候?」
瑠奈は人差し指を自身に向ける。
「うむ、居候じゃ」
「ちょっと待ってってば! え、なんなん? わたしの血を飲むの!?」
そんな話聞いていないとばかりに、瑠奈は激しく首を振る。
「六華、死なない程度はわかるな?」
「……うん」
「なれば試しに飲んでみよ」
「ちょっと!?」
六華は瑠奈に近寄り手を首の後ろに回す。
「肩出して」
そう言ってくる六華の瞳は、爛々と輝いていた。
「うぐっ……かわいい、だと? ねぇ、吸血鬼になったりしないよね?」
ーーそんな期待に満ちた目されたら、断れなくなっちゃうじゃん!
「ならぬから安心せい」
仕方なく、瑠奈は肩を手でつかみ衣服を下げ、肩の地肌を晒した。
それに対して、六華は容赦なく牙を突き立てた。
「いたーーくない?」
「……んっんっ」
確かに牙を突き立てられ絶賛吸血中のはずが、痛覚が麻痺したかのように、瑠奈は痛みを感じないでいる。
ーーいや、むしろ気持ちいいような気がしてきた……って!
「いつまで飲むの!? なんか頭がふらっとしてきたんだけど」
「六華、もうやめい。お主、死なぬ範囲がわからぬか」
澄に言われて、名残惜しそうに、ようやく六華は瑠奈を手放した。
「このひとの血、おいしい。ゆき、好き」
「それはどういたしまして……あたまくらっくらするよ……」
六華は袖で口元を拭う。
ーーそういえば、この子は澄みたいな和服じゃないなぁ……本当、見た目だけならそこら辺に居そうな子供にしか見えないや。
「さて、これにて任務は完了じゃ。あとは帰るのーーすまぬ、舞香から連絡じゃ」
澄は断ると、らくらくホンを取り出し電話に出た。
「なにようか? お主、朱音か? はて、アリーシャとは誰じゃ?」
「アリス!? ちょっと貸して!」
瑠奈は携帯電話を奪い取るように手にすると、それを耳に当てた。
『やあ、瑠奈。アリーシャの身柄は預かった。これから指定地に来てほしい。来なければアリーシャの命はないと思いなよ?』
「な、なんなの、朱音はなにがしたいの!? 沙鳥だけじゃ満足できない!?」
『いやいや、今回ぼくは命令されて連絡させられてるだけさ。何人でもいいから、アリーシャが欲しければある廃校に来い、だってさ』
「誰がそんな命令するっていうの? アリスを知ってるひとなんて、こっちには居ないじゃん!」
『エア・ソラシエール、だと言っておこうか』
ーーエア、だって……?
その名前には聞き覚えがあった。
いや、聞き覚えがある程度の話ではない。
魔女序列5位の実力者でありながら、自身と同じよう風の精霊操術師。自分と拮抗した力を持ち、自身と同じくアリーシャ直属の護衛兵。瑠奈は気にしていないが、向こうから一方的にライバル視してくる厄介者。それが、エアーーエア・ソラシエール。
「でも、エアは、アリスを人質に取るなんて行為、しないはず……」
『どうでもいいじゃないか。さて、君は生きる意味がないんだったね? なら、アリスがどうなろうと知ったことじゃないはずだけど……どうするの、来ないの? 来るの?』
「……また、朱音がなにかしたんだね……行くに決まってるでしょ。もし、もしもアリスに、危害を加えてみなよ? ……エアもろとも、朱音あんたも殺してやる」
普段は口にしない物騒な言葉を吐く瑠奈を見て、澄はなにかがあったのだと察した。
『決まりだね? なら、詳しい場所は舞香に伝えておいたから、そっちに聞いておいておくれよ。それじゃあ、バイバーイ』
そう言って、朱音は通話を切った。
「なんじゃ、やたらと物騒な物言いじゃの。なにかあったのであれば、力を貸してやるぞ?」
「うん、お願い。わたしだけだと倒しきれない」
正確にいうなら、両者共決着がつかない。
「ごめん、ふたりとも手を繋いで。空飛んで帰るから!」
(.22)
「なにその理由!」
エアが自身を呼ぶ理由を舞香から伝え聞いて、瑠奈は思わず叫んだ。
ーー私エアが居るのにアリスが私ルナのことばかり気にかけるから、わたしの存在を消したいぃ!?
ーーなーに言ってんだ、あのポンコツ女!
「舞香、その廃校の屋上で待つって言ってたんだよね?」
「ええ、朱音はそう言ってたわ」
ならば、と、瑠奈はふたりに願い出る。
「策があるから、協力してくれない?」
(.24)
『なんだい?』
「着いたよ。二階まで降りてきて。そのくらい構わないでしょ?」
朽ち錆びたボロい校舎のなか、瑠奈は二階へと上がり数分待ったあと、舞香から借りた携帯電話で朱音にそう告げた。古い木々の匂いが辺りに漂い、ほとんど整備されていないのか、埃まみれのままだ。
『ーーまあ、いいよ。エア、到着したってさ』
それだけ言うと、朱音は通話を切った。
すると、目前ーー反対側の階段から長い黒髪をした二十歳の女性が降りてきた。
「来てくれたのね、アウラ」
二階へと降りてくるなり、エアは瑠奈へと向かって歩き始める。
「そっちから呼んどいた癖に、なに言ってるんだか……」
瑠奈はエアに向かい歩きながら言葉をつづけた。
「ルーナエ・アウラの名に於おいてーー」
「エア・ソラシエールの名を以もってーー」
ふたりは歩み寄りながら、詠唱をつづける。
「ーー此処に 現界せよ シルフ」
瑠奈の隣にシルフが現れる。
「ーー存在を 刻め ジルフ」
それと同時にエアの隣にも、シルフと同格の風の大精霊ーー男性の姿をした風の大精霊“ジルフ”が現れた。
互いに風の大精霊を現界させても、ふたりは歩みを止めず詠唱をつづける。
「主は私 私は主 そうであれ そうであれ そうであれ そうであれ そうであれ、と私は祈りを捧げ奉たてまつる」
エアは詠うたう。
「シルフいくよ、同体化っ!」
瑠奈は叫ぶ。
両者共に大精霊と重なると、その姿を変身させる。
瑠奈は背丈を少しだけ伸ばし、瞳を瑠璃色から濃緑色に変化させ髪を長くすると輝きに纏われる。
エアは長い黒髪を輝く緑色へと変化させ、濃い緑色の瞳を明るい黄へと変幻させる。
瑠奈はアリーシャのために、エアは自身の存在価値のために、互い互いにべつの目的を果たすため、全力を発揮できる形態へと変化を遂げた。
暫し見つめ合う二人。
やがて、両者共に行動へ移った。
瑠奈は左手に周囲の風を集めて空気の剣をつくりだし、相手の胴体目掛けて振りかぶる。
それに対して、エアは掌を前に突きだして空気の壁を創造した。
瑠奈の剣とエアの壁がぶつかり合い、周囲に風が吹き荒れる。
瑠奈は風圧と共に後退しながら、見えない風で出来た矢状の刃を数本発射していく。しかし、それらはすべて風壁に掻き消され、エアにはひとつも届かない。
エアは歩きながら目の前へと伸ばした掌を少しだけ引くと、再び前に向かい強く押し出した。
すると、それに呼応するように廊下の窓ガラスを次々と割りながら、強力な突風が瑠奈を覆い尽くすような勢いで襲いかかる。
瑠奈は風に向かって縦に手を振るう。
すると、その風は当たる直前、左右へ分断されて瑠奈に当たらない向きに流れを変えた。
そのまま背後に過ぎ去った風を再利用して、瑠奈は向かい風を追い風へと変える。そして、未だ止まぬ強風に構うことなく、エアに向かって勢いよく滑空した。
その手には、代わり映えしない単なるナイフが三本握られている。
「無意味ーー忘れたの? わたしたちにはそんな物質なんてーー」
瑠奈はナイフを二本投擲する。しかし、エアはそれに見向きもしない。
エアの体表に触れた瞬間、ナイフは二本とも自動的に弾かれてしまう。
「ーー意味がないでしょうに」
「わかってるよ」
瑠奈は残り一本のナイフに風を纏わせると、それでエアに斬りかかる。
今度は自動防御で防ぐことは不可能。だからこそ、エアは片手に風を集めてそれを弾き飛ばす。
「わたしにはあなたを倒せるビジョンが浮かんでこない。けれど、それはあなたも同様でしょう? わたしのために、自分の価値がないと思うのなら、ここでその価値をわたしに譲ってよ」
エアは風と風を左右に分けて器用に操ると、瑠奈の周りでそれを摩擦させる。瞬間、そこには青く輝く雷が走る。それを見切っていた瑠奈は、軽く後退して雷を避けた。
「もうやめましょうよ。無意味なことなのだから。ねぇ、居なくなってよアウラ?」
互いに間合いを空けると、エアは瑠奈に向かって無意味な戦いはやめようと告げた。
しかし、瑠奈は笑って首を振る。
「そっかそっか。わたしには、エアを倒す明確なビジョンが浮かんでいるんだけどね? さてと」瑠奈はわざとらしく片手をあげ、エアに注意を向けさせる。「ーー脇腹」
「なにをし……てーーっ!?」
エアはいきなり表情を歪ませる。なぜなら、脇腹に鈍い痛みと共に出血が現れたからだ。
「ほう、確かに効くではないか、瑠奈」
抉り取った血肉を舐めながら、澄は言う。
「ようやく待機していた教室の前まで来てくれたわね?」
舞香は緊張しながらも、ちょうどエアの真横に位置する教室から現れた。
「どうして……わたしのからだに、手技など通用しないはずなのに」
エアは困惑しながら、急に襲来してきた二人を見やる。
「ならば、再度試してみるか? 舞香、まだ可能であろう?」
「ええ。彼女本体は流石に堪えるけど、彼女に纏っている風の膜ていどなら、簡単に置換できるわ」
「なんなの? いったい、あなたたちはなにをしたというの?」
それを説明する必要はないとばかりに、瑠奈は二人の前に立ち塞がった。
エアと瑠奈の持つ、自動で律する体表の風製の防壁が同質だと、瑠奈はナイフを用いて確認した。戦いつつも、舞香と澄の待機する教室前まで誘導した後、意識を瑠奈にのみに注視させるため、わざとらしく手をあげた。
そうして『脇腹』だと舞香と澄に伝える。舞香は脇腹周辺を覆う“風の防御壁”と“なにもない空間”を置換。その防御壁が修復する以前、風速の疾はやさで澄に脇腹を抉らせただけのことだった。
「まだつづける? マナの節約や異能力者という存在、こっちでの戦いを学んでいない今のエアになら、わたしは勝てるよ?」
「……アリーシャは三階の教室に居るわ。この卑怯もの」
「何人来ようがかまわないって言ったのはそっちじゃん。さっ、舞香、澄、行こ」
ーー待っててアリス。いま、行くから!
(.25)
「な、なにをしてるの……アリス」
「あっ、ルナ! これ美味しいですね」
埃漂う廃校舎の一室、窓から夕陽が差し込むなか、銀色の長い髪をした少女――アリーシャは椅子に座りながら、机の上に誰かから貰ったであろうお菓子を並べてひとつひとつ楽しげに味わっていた。
そして、そのなかに三人――瑠奈を先頭にして、澄、舞香の三名が新たに入っていく。
お菓子を散乱させているせいか、アリーシャの周りには甘い香りが漂っている。ジメジメした暑さの原因かと勘違いするほど、そのお菓子の匂いは意外と強烈だ。
「あれ、あれあれ、おっかしいなー? わたしの記憶違いじゃなければ、アリーシャは誘拐されて囚われの身のはずなんだけど……」
「呆けたんじゃないですか? わたし、朱音さんからルナの様子を見に来ないかって歓迎されてきたんですよ」
「ありゃ……ポンコツ女は朱音のほうだったのかぁ……」
肩をがっくし落としつつも、平気そうなアリーシャを見て瑠奈は安堵のため息を漏らす。
「おかしいわ。わたしは朱音に『瑠奈は君と戦って負けたら死ぬらしいから、アリーシャの隣を奪うチャンスだよ』と言われてきたのだけれど」
長い黒髪の女ーーエアは脇腹を擦りながら教室に入ってきた。
「どおりで、おかしいと思った。本当に、朱音はなにがしたいの?」
周りに問うが、誰もそれの答えを持ち得ていない。
「すまぬの、エアとやら。本気で抉ってしまったわい」
言いながら引きちぎった肉を、澄はむちゃむちゃ喰らい尽くす。
「まあ、何人来ようがわたしたちには効果がない、なんてたかをくくっていたわたしも悪かったわ」
「これは、朱音に問いかけなければいけないわね……」
舞香が言うと、アリーシャ以外全員が賛同した。
なにがあったのか理解できていないアリーシャだけは、無邪気にお菓子を平らげるのであった。
(.26)
空から降り注ぐ星月の明かりを仰ぎ見ながら、朱音は満ち足りた表情を浮かべていた。
「やっぱり、まだ居てくれてよかったよ、朱音」
屋上への扉が開くと、そこから瑠奈と舞香、そして澄、エア、アリーシャとつづき、ぞろぞろと多数の人間が現れた。
「やあ、瑠奈。存在理由レーゾンデートルは見つかったかな?」
朱音はそのなかの一人に視線を送り問いかける。
「朱音……悪ふざけが過ぎるんじゃない? 下手したら、私たちエアさんを殺しちゃっていたわ」
しかし、それに答えたのは舞香だった。舞香は少し怒った様子を見せながら、朱音にそう告げた。
「舞香さんーーぼくは今回、ルーナエに対して力を貸してあげただけだよ。君たちは出る幕があっても、でしゃばる幕はない」
「朱音がなにをしたいのか意味不明なんだって言いたいんだってば」
瑠奈も怒りを含めた口調で聞いた。
「君は今回、どうしてエアに打ち勝ってしまったんだい? もしも生きる意味が無ければ、すんなり負ければアリーシャの安全も保証できたじゃないか」
「それは……」
質問を返されうやむやにされてしまう。
「いやいいよ。ぼくがしたいことはね、ぼくの気に入った世界ひとを救いたいだけさ。舞香の世界、沙鳥の世界、そして、君の世界を守りたくなったから、力になったんだ。少々荒いところは許してよ、ボクは神様じゃないんだし」
「“わたしたち”じゃなくて“わたしたちの世界”ってところになにか意図があるんだよね、その言いぐさだと」
「深い意味はないよ。ぼくはぼくの目に映るーーぼくが見ている世界が一番大切なだけだ。だから視界に入る範囲で気に入る世界があると、なるべくそれを壊さないようにしたくなるだけだよ」
朱音は塀に立ち、ギリギリのラインでコンクリートの地面を見下ろす。
「見てごらん。あれらの光はすべて異なる世界だ。違う世界だ。美しいと瞳めに映えない?」
朱音は皆に同意を求めるが、すぐに無言の返事を受けて肩をすくめた。
「残念だ。ボクは、単なる暗い女ってだけなのにね。まあいいさ。さあ、エア、ルーナエ、アリーシャ、君たちを元の世界に返そうか」
「え、わたし、まだいろいろと見学していきたいのですが……」
アリーシャは異世界を見て回りたいのか、それを断った。
「わかった。とりあえずエアさんだけ返すよ。いや、瑠奈も一度帰りたいかい? マナを補填したいかい?」
「……いや、まだいいや。ひさしぶりにアリスといろいろと話したいし。それより朱音の目的は結局ーー」
「ほら、エア。いこう」
エアの手を無理やり握ると、屋上から飛び降りてしまう。
急いで姿を追うと、エアのちからでどうにか空を飛んでいく朱音がそこにはあった。
結局、朱音がなにをしたかったのか不明なまま事態は収集がついてしまうのであった。
(.27)
馴染んできた201号室の中で、舞香、沙鳥、アリーシャ、そして瑠奈が談話をしていた。もう夕方は過ぎ去り、外は暗くなっている。
「へぇ、瑠奈さんとは違ってアリーシャさんは礼儀正しい良い子ですね。ねぇ、瑠奈さん?」
沙鳥が嫌みったらしく瑠奈に言う。
「アリスは礼儀正しいとはちょっと違う気がするんだけどなぁ……ほら、いまも」
瑠奈はアリーシャを指差す。そこには「これもおいしい。それもおいしいです!」と、お菓子を貪りながら喋るアリーシャの姿があった。
「アリスは何のために来たん? わたしなら割かし平気でやってるから心配しなくても大丈夫だよ」
「死にたい病は治りました? わたしはちょっと異世界のお菓子と惰眠を貪るためーーじゃなくて、ルナが心配で来たんですっ!」
「わかった、わかったから飲み込んでから喋ってってば。お菓子のカスが飛び散ってんじゃん」
アリーシャはジュースでそれを流し込む。
「アリーシャも17歳くらいに見えるけど、瑠奈みたいに実際は違ってたりするのかしら?」
「わたしは18歳ですよ? ルナがめちゃくちゃなだけであって、他にはこんなミュータントいないです」
「ミュータントて……」
ーー酷い言い方だなぁ……。
「ちなみに、わたしは精霊操術師エレメンタルウィザードでも魔女ウィッチでもないので、ルナみたいにドンパチすることはできないのです」
なぜか無い胸を張りながら偉そうに宣う。
「アリスって虚乳だよね、羨ましいよ」
瑠奈はアリーシャにおちょくるようにそう言う。
「え? わたしおっぱい大きくないですよ?」
「いや、虚ろな胸だなぁって」
「瑠奈さんは壁ではないですか。アリーシャさんのほうがまだあると思いますよ?」
「ぐっ、カウンターが痛い!」
しまった、自分も虚乳だった。と、瑠奈は後悔する。
「いえ、ですから瑠奈さんのそれには乳が着きませんから。壁でも無でも虚でも構いませんけど、乳を着けないでください。無乳や貧乳のひとに失礼ですから」
「相変わらず、酷い貶し方するね? 沙鳥ちゃん」
「うれしいでしょう?」
やいやい喧しく騒ぐ瑠奈と皆を見比べて、アリーシャは安堵のため息を漏らした。
「よかったです。ルナ、元気そうじゃないですか」
「え、そうかな?」
ーーそういえば、たしかにもう死にたいなんて考えなくなってるなぁ……。
「そういえば、寝るのはどうする? 空き部屋ならそっちがあるから使ってもいいし、瑠奈と一緒に寝たいのなら同室でもいいわよ?」
「ルナと一緒の部屋はその……ちょっとお断りしたいです。その、身の危険性があるので」
「あれ、貴女ってたしか、瑠奈と初めてを捧げあった仲だったんじゃないの? 瑠奈からはそう聞いてるけど?」
アリーシャと沙鳥は、お互いなにかを感じたのか、同時に瑠奈を見る。
「いやいや、いやいやいや、いやいやいやいや」
瑠奈は嘘がバレそうだと察して困惑する。
「いやいやじゃないです! なんですか、初めてを捧げあったって! 半ば無理やり奪った癖に!」
「……そのようですね。瑠奈さん、貴女ってひとは……」
二人にジト目で見られてしまい、瑠奈はばつが悪くなったように下を向く。直後に顔をあげ、てへっと言いながら舌を出した。
「いやぁ、許してくれたんだし、あながち間違ってなくない?」
「なくないですっ。そもそも許した覚えなんてないですよ!」
「ええ……」
呆れた目で周りから見られながらも、瑠奈はテヘペロと繰り返すのであった。
「そういえば、沙鳥と舞香に聞きたいことがあるんだけど、いい?」
隙を見計らい、瑠奈は話題をすり替えた。
「べつにいいわよ?」
「ええ、いったいなんでしょうか?」
「二人は、何のために生き続けるの? 存在する理由ってなにか持ってるの?」
それは、瑠奈が当初から抱きつづけている自身の悩みであった。
「わたしは、舞香さんと一緒に居たいからです。死んでしまっては、それは叶いませんからね」
沙鳥は舞香の肩に頭を乗せると、そう口にする。
そんな沙鳥の頭を優しく撫でながら、舞香も口を開いた。
「私も一緒よ。沙鳥と一緒に、生きていたいもの」
「……うーん、なるほど」
たしかに、死んでしまっては叶わない願いであった。
そして、そんな二人を真似てみようと、瑠奈はアリーシャの肩に頭を乗せようとする。しかし、アリーシャに素手でぐいぐいと拒まれてしまい、それは叶わなかった。
「一緒に居たいから、かぁ……」
納得できるような、できないような……瑠奈は悩みながら、ほかのひとにも聞いてみようと考えた。
と、ちょうどいいタイミングで澄と六華、翠月が部屋に入ってきた。
「うわっ、なんかファンタジーが2つに増えてんジャン。なになに、新入り?」
「ただいま戻ったぞ」
「は、初めまして」
三人それぞれべつの反応を示す。
「ちょうどいいところに来た。ねえ、どうして三人は生き続けたいの? どうせ死んだらなにも残らないのに……」
「ん……?」
六華はいまいち理解できないのか、頭をかしげる。
「死にたくないからに決まってんじゃん、瑠奈っちってほんっとポンコツだなー」
翠月は死ぬのが嫌だから生きるだけだと答えた。
「いちいち理由など要らぬわい」
澄は、生きる理由なんてそもそも不要だと切り捨てた。
「そんなことよりなになに、その子? まえに言ってた、瑠奈っちが初めてを捧げあったっていうレズ仲間?」
「むぅ! 違います! わたしは同性愛者ではないです! 瑠奈が勝手にかっさらっていっただけです!」
翠月の問いに対して、アリーシャはレズビアンではないと強調した。
「ええー、レイプじゃんそれ。瑠奈っち不味いよソレ」
「れ、れい……? いやいやいや、ちゃんと許可もらったし、許してくれたから違うってば!」
「とりあえず、捧げあったなんて言えないよねー?」
余計なこと喋らなければよかったと瑠奈はいまさら後悔する。
「それじゃ、別々の部屋にしたほうが良さそうね?」
「えー……アリスーなにもしないから一緒に寝よー?」
「うう……そんな目でわたしを見ないでください! 卑怯ですよ!」
「お願い……」
「うっ……わたしのほうが年下なのにズルいですよ』
瑠奈は瞳をうるうるさせながら、上目遣いでアリーシャを見つめる。
「ダメ……?」
アリーシャはため息をした。
「本当になにもしないでくださいね? したら絶交ですよ?」
「ありがとう! アリス、好き!」
瑠奈はひしっとアリーシャに抱きつくのであった。
「それじゃ、瑠奈の部屋で寝てもらえるかしら?」
「はい……まったく、もう……」
「布団ひとつしかないじゃないですか……」
「もちろん。なにもしないからくっついて寝よ?」
ふたりには、そんなオチが待っていたという。
(.28)
ーー瑠奈は出会ったひとに対して、一人ひとりその者の生きる理由を問う。
「そんなもん知らねーよ」
一はつまらなさそうに答えるだけだ。
「この世界に俺の存在を刻むんだよ」
大海は少し考えると、そう答えてみた。
「シャブやるためだけに生きてるよ」
覚醒剤を買っていく客たちはそう述べていた。
「死にたくないから……」
援交させられている少女は悲しい顔でそう呟いた。
「楽しいからじゃないかな?」
援交するべつの少女はそう言い切る。
「寝るのが気持ちいいし食べ物が美味しいから生きるんですよ、人間は」
アリーシャは素直にそう言った。
「白しろを……俺の妹を見つけたいんだ。居場所すらわかっていないけどな?」
暗殺者のひとりである静夜はそう答えた。
「内緒だからね? 静夜兄ぃが好きなんだ」
静夜の仲間、ありすは教えてくれた。
「不要だ、そんなもの。働いて食って寝てればいい。考えるだけ無駄だろ?」
刀子は言い捨てた。
「実は、貴女に勝ちたいからなのよ?」
エアは今の目標を囁いた。
「まずは異能力者の生きやすい社会をつくるためよ」
マリアは自身の組織の目標と同じ内容を掲げる。
「早く白しろをーー俺が愛した女を救うためだ」
偉才は照れながらも、過去に同居していた相棒を助けると誓ったらしい。
「世界がこんなに綺麗だからだよ」
朱音はなにか言いたげな瞳をしながらも答えてくれた。
(.29)
「段々と寒くなってきたね」
「うん……」
10月を過ぎ、次第に夏の暑さを忘れていく刻、愛のある我が家屋上では、朱音と瑠奈が向かいあっていた。
結局、時が経つに連れて、朱音は平然とした顔つきで愛のある我が家に戻ってきた。
舞香も沙鳥も特に気にせず、みな普段どおりの生活になる。
しかし、見た目こそ最初と変わらない姿に収まったが、三人の中身は変わった。
沙鳥は、神に対しての無為な執念を捨てて、昔以上に現在いまの舞香を好み慕うようになった。
舞香は、薬を密造しながらも自らは断薬を決意、覚醒剤ではなく沙鳥を愛するように変わりつつあった。
瑠奈はーー。
「月の微風はーー君は、変われたのかな? それとも見つけた?」
「わからない……けど、死にたくはなくなった。だから、生きてみることにする。そもそも、なんなの月の微風って」
「それは良かった。いや、月の微風は君の名前のことさ」
「たしかに微風だけど月じゃないじゃん」
「瑠奈をルナにすれば、ほら、月になるし、君の本名ルーナエ・アウラーーLunae auraを古代ラテン語で訳すと『月の微風』になるんだよ」
「だから舞香や朱音は、微風瑠奈にしたんだ……この名前馴染んできてるんだけど。病院で微風って呼ばれつづけたり、朱音や舞香が瑠奈って呼ぶし、こっちにルーナエって呼んでくれるひとひとりもいないんだもん。たまにルーナエのほうが偽名に感じるようになってきた……24年ものの名前なのに」
「……これは、やっぱり、経験じゃなく記憶……いや、もう考えないと決めたのだから……」
「ん? まーたくるくるパーなこと考えてるの?」
瑠奈はなにか思考をはじめた朱音をおちょくる。
しかし、朱音は少し気まずそうな態度をしながら呟くように言う。
「うん、何でもない。だけどごめん……ね。……叶うなら……ほしい……」
「ん? なにか言った?」
瑠奈に聞こえないように調整した声量でなにかを言うと、朱音は自身の弱さを笑いながら、普段どおりの顔をつくる。
「何でもないよ、ボクはもう、決めたんだ」
ーーボクが隠せば全ては終わる。君を無駄に悩ませる必要はない。君は君だし、君はもう、ここに在る。
ーーごめん。叶うなら、許してほしいけど……ごめんね……ルーナエ・アウラ……。
二人はしばらく無駄話をすると、愛のある我が家の中に入っていった。
本来ならひと一人も居ないはずのマンションの屋上で、二人の少女が対峙していた。
暑い日差しを遮るものがない場所に佇む二人のうちの片方ーー朱音は口を開く。
「Why is there something rather than nothing?」
「え? な、なんだって?」
言われた少女ーー瑠奈はそう聞き返した。
「なぜなにも無いのではなく、なにかが在るのか?」
「言ってる事はわかるんだって。その意味がわからないんだってば」
瑠奈はハッキリしない物言いに対して、少し怒ったふうに再度問う。
「例え話をしようか。ーーどうして、“100”という存在が生きているのか? こう質問されたとしよう。その答えは、“99”と“98”という人間が子作りしたから産まれてきたんだ」
「は……?」
「それでは、どうして“99”は存在するのか? それは“97”と“96”が子作りしたからだよ。ーーちょっと問いを変えようか。ならば『どうして数多の精子の中から“100”が選ばれたのか?』その答えは『“50”という偶然によって選ばれた』からなんだ。こうして繰り返していくと、どうなると思う?」
「……0になる?」
「いや、違う。なぜなら、“2”が在る原因は“1”であっても、“1”がある理由は“0”ではない。なぜなら、“0”は無神なのだから、無からは何も生じない。つまり、1になるが答えで正しい」
「なら、1はどうして誕生したのさ?」
「それの答えを人間は持ち合わせていない。なぜなら、もしも0が1を作ったのだとしたら、0を作ったものが問えなくなる。1を0だと勘違いしているだけで、それは0ではない。なぜなら、無から有は在りえないのだから」
「遠回りせず、ちゃんと答えてくれないかな?」
「つまるところ、君の“存在理由”は『君は在る』からに他ならない。君の産まれてきた意味も、生き続ける意味も、存在する価値も、在る証明も、問い続けた果てには1という壁しかない」
「わけわからなくなってきた……」
「簡単な話だよ。君は此処に在るのだから、ただ在ればいい。そして、それは君に限定する話じゃない。人類、生物、植物、昆虫、機械、物質、概念、地球、異世界、宇宙、あらゆるものすべては、ただ在るから在るだけだ」
「すべて? だって……それじゃ、わたしは何のために」
「何の為に生きるのか。それを0に、外に求めること自体が間違いなんだよ。君たちは皆、誰かに存在理由を求めてしまってはいけない。君以外の人間たちも皆みな、なにかしらの101から先にある中からや、1から100のなかから見つけ出すものなんだ。君がいま探しているように、存在理由は自ら探すもの。見つからないなら“見つけるため”に生きればいいだけだよ。それは内にあるものでも外にある物でも、者でもものでもなんだってかまわないから」朱音は最後に告げる。「君は在るから在っていい。君が在る、それが、君の生き続ける理由」
「え?」
瑠奈が瞬きをしたあとには、朱音の姿は消えていた。
最後の提案ーー『わからないのなら、皆に問いつづければいい。答えはきっとそこにある』と瑠奈に残しながら……。
瑠奈はゾルピデム、バルブロ酸、エビリファイとPTPシートに書かれている錠剤をまとめて飲み干すと、早々に布団に潜り込んだ。
ーー結局、朱音の言っている意味はなんだかよくわからなかったなぁ……とはいっても、なんだかまえより気分は楽になってきてる気がするけど。
あの後、朱音はなんだかんだと再び姿を消してしまった。
沙鳥や舞香は少しばかり気にはしている様子であったが、いまは自分たちで精一杯らしい。そこまで深刻には考えていないみたいだ。
ーーわたし、朱音がいないと自分の世界へ帰れないんだけど……まあ、いまはどうでもいいか……。
瑠奈はそのまま深い眠りへと落ちていった。
(.20)
「沙鳥! お願いだから、私を監禁して!」
「舞香さん! 負けないでください! 舞香さんならそんな渇望になんて負けま
せん!」
「いや、お願いだから、私の周りにネタや道具を置かないで!」
「……なーにやってんの、二人とも」
201号室、部屋のなかでは、舞香と沙鳥がなにやら茶番を繰り広げていた。
舞香の手元には、覚醒剤入りの注射器。しかし、舞香はそれを真っ二つに折り曲げ投げ捨てた。
「沙鳥、お願いだからこんな荒療治しないで! 目の前に置かれると意志なんてもの脆弱でしかないのよ!」
「いま打ち勝てたじゃないですか! ほら、この白い粉の山を見てください! やりたくないと思えるはずですから!」
「いやいやいやいや無理だから! 読心できるならわかるでしょ!?」
「……な、なんなんこの光景」
テーブルには、山ほど置かれている覚醒剤と注射器。その目の前に舞香は座らされており、沙鳥は真横から渇を入れていた。
「瑠奈、ちょうどいいとこに来たわ! この覚醒剤と注射器部屋から全部吹き飛ばして!」
「い、いいの?」
「ダメに決まってるじゃないですか! 覚醒剤には身体依存はありません! 精神依存だけなんですから、強い意志があれば我慢できます!」
「むしろ、そもそも精神依存が強すぎるから違法なんであって! ああもうダメ! 私、今日は自室に籠るから! あとはよろしくっ!」
舞香は言い残すなり、部屋から飛び出していってしまった。
ーー仕方ない、きょうはべつの誰かに付き合うかな。
(.21)
青い空が広がる晴天のなか、その光がほとんど届かない森の中を澄と瑠奈は歩いていた。
「今回の相手はわしの同族でな、見た目は幼いんじゃが、力は人間離れしておる。気をつけろよ?」
「なんで先に言ってくれないん……?」
まだ仕事場を見学したことのない相手である澄を見学するため、瑠奈は今日、澄に着いてくると決めたのであった。
日に日に『死にたい』といった感情が薄れてきた瑠奈は、ちょうどいい暇潰しになるかと軽い気持ちで自ら申し出たのである。
ーー沙鳥と舞香は何だか変なやり取りを繰り返してるし、翠月の仕事にはあんまり関わりたくないし、かといって、何もしないのも暇だし……まぁ、仕方ないか。
「名は六と華と書いて“ゆき”と読む。あやつの名前じゃ」
「うわ、なんだか読めない漢字だ」
「わしかて一文字で澄と読むだろう。それに、澄み、清み、隅と三字の意味を持っておる。あやつも風花・六華・雪という意味を持つだけじゃ」
「吸血鬼界隈はよくわからないや」
辺りは薄暗く、空気も淀んでいる。それもそうだ。ここは富士の樹海、自殺の名所でもあるのだから。
「今までは死骸を貪っておったが、最近はまだ生きてる人間に手を出し始めてな。このまま進めば、人町に降りて人間をくらうようになってしまう」
だからそうなるまえに潰す、もしくは、スカウトしてこいーーそれが、今回舞香の提示した依頼内容らしい。
奥へと進んでいく最中、がさがさと木々が揺れた。
風に吹かれて揺れる音とは、少し異なる。
「来るぞ」
「え? ーーッ!?」
瞬間、瑠奈の頭をなにかがかすった。
触ってみると、少量の血が滲み出している。
「ふたりともどうせ死ぬんだよね?」
爪先に付着した血を舐める少女が、目の前に出現したのだ。
「なら、ゆきにちょうだい? 新鮮な血と肉が食べたい」
容姿は澄より二歳ほど上だろうか?
12歳ていどの見掛けだけなら普通の少女だ。
「悪いのぅ、わしらはお主を討伐しにきただけじゃわい」
澄がそう口にすると、少女ーー六華は瞳の色を赤くしながら、ふたりを睨む。
「ゆき、なにも悪いことしてない。おまえたち、悪いひと」
言うや否や、いきなり六華が澄へと飛びかかる。
それを避けながら、澄は六華の腕を掴んだ。
「それは当たり前じゃ。悪の反対はべつの悪でしかないからのぅ」
「はなせ! はなさないと殺すよ!」
もう一方の腕で澄の顔面を掴もうとするが、澄はそれをも容易くかわす。
「圧倒的じゃん……」
吸血鬼というのは、みんながみんな澄のような怪力や俊敏さを持つものだと思い込んでいたが、どうやら格の差というのは吸血鬼同士にもあるらしい。
「どれ、ひとつ、わしとお主の格の違いを見せてやるわ。畏怖を抱くなら、殺さずに済むから命に従え。でなければ、躊躇いなく殺めるだけじゃ」
澄はそう告げると、いったん六華の腕を解放した。
「ーー“血界”」
澄が唱えた途端、辺りにある木々から空の色まで真っ赤に染まり始めた。そのまま直ぐに、周囲は赤一色以外なにもなくなってしまう。草も木も地も空も、すべてが濃い血の色へと変色していく。
「ゆき、こんなの怖くない!」
六華は、澄へと再度飛びかかろうとする。しかし違和感を覚え、それを寸でのところでやめた。
なぜなら、血になった地面から、何人もの澄が現れたからだ。
ーーこ、怖い、なにこれ!?
味方であるはずの瑠奈さえ、その光景に恐怖を抱いてしまう。
ひとりでもとんでもない怪力を持つ童女が、瞳を血色に変えながら何人も姿を現してきたのだから、当然といえるだろう。
辺りには血の匂いが漂い、それが鼻腔をつついてくる。
「さて、この世界の中ではわしがルールじゃ」「逃れるには」「世界を塗り替えるか」「わしが術を解く以外」「方法はないと知れ?」
何人もの澄が伝言ゲームのように次々と言葉を繋げる。
「こ、怖くないもんっ!」
そのうちのひとりに六華は攻撃するが、先ほどのように容易く止められてしまう。それはつまり、これらすべてが澄と同等の力を持つということに他ならない。
「なれば、死ぬか?」
「……う……いやだ……いや!」
六華は全身で恐怖しているのを体現していた。手足は震え、呼吸は浅くなり、瞳は大きく見開いたまま澄を見つめる。その瞳からは、ついに涙まで溢れる。
「ならば、わしに従え。なに、お主にとっても良い取引じゃ」
澄がそう口にしていくに連れて、世界は元の色を取り戻していく。
「良い? 良いって、血を飲める?」
「ああ、もちろんじゃ。ただし、死なせるほどは与えられんわい。ちょうどいま我が家には居候がおってな。そやつの血を死なない程度に飲んでかまわぬから、わしの仕事を手伝ってもらうーーといった取引じゃわい」
「居候?」
ーーいつの間にそんなひと入ってきたっけ?
「うむ、居候じゃ」
澄の視線が瑠奈を見つめる。
試しに左右に動いてみると、澄の視線もそれを追った。
「え、居候?」
瑠奈は人差し指を自身に向ける。
「うむ、居候じゃ」
「ちょっと待ってってば! え、なんなん? わたしの血を飲むの!?」
そんな話聞いていないとばかりに、瑠奈は激しく首を振る。
「六華、死なない程度はわかるな?」
「……うん」
「なれば試しに飲んでみよ」
「ちょっと!?」
六華は瑠奈に近寄り手を首の後ろに回す。
「肩出して」
そう言ってくる六華の瞳は、爛々と輝いていた。
「うぐっ……かわいい、だと? ねぇ、吸血鬼になったりしないよね?」
ーーそんな期待に満ちた目されたら、断れなくなっちゃうじゃん!
「ならぬから安心せい」
仕方なく、瑠奈は肩を手でつかみ衣服を下げ、肩の地肌を晒した。
それに対して、六華は容赦なく牙を突き立てた。
「いたーーくない?」
「……んっんっ」
確かに牙を突き立てられ絶賛吸血中のはずが、痛覚が麻痺したかのように、瑠奈は痛みを感じないでいる。
ーーいや、むしろ気持ちいいような気がしてきた……って!
「いつまで飲むの!? なんか頭がふらっとしてきたんだけど」
「六華、もうやめい。お主、死なぬ範囲がわからぬか」
澄に言われて、名残惜しそうに、ようやく六華は瑠奈を手放した。
「このひとの血、おいしい。ゆき、好き」
「それはどういたしまして……あたまくらっくらするよ……」
六華は袖で口元を拭う。
ーーそういえば、この子は澄みたいな和服じゃないなぁ……本当、見た目だけならそこら辺に居そうな子供にしか見えないや。
「さて、これにて任務は完了じゃ。あとは帰るのーーすまぬ、舞香から連絡じゃ」
澄は断ると、らくらくホンを取り出し電話に出た。
「なにようか? お主、朱音か? はて、アリーシャとは誰じゃ?」
「アリス!? ちょっと貸して!」
瑠奈は携帯電話を奪い取るように手にすると、それを耳に当てた。
『やあ、瑠奈。アリーシャの身柄は預かった。これから指定地に来てほしい。来なければアリーシャの命はないと思いなよ?』
「な、なんなの、朱音はなにがしたいの!? 沙鳥だけじゃ満足できない!?」
『いやいや、今回ぼくは命令されて連絡させられてるだけさ。何人でもいいから、アリーシャが欲しければある廃校に来い、だってさ』
「誰がそんな命令するっていうの? アリスを知ってるひとなんて、こっちには居ないじゃん!」
『エア・ソラシエール、だと言っておこうか』
ーーエア、だって……?
その名前には聞き覚えがあった。
いや、聞き覚えがある程度の話ではない。
魔女序列5位の実力者でありながら、自身と同じよう風の精霊操術師。自分と拮抗した力を持ち、自身と同じくアリーシャ直属の護衛兵。瑠奈は気にしていないが、向こうから一方的にライバル視してくる厄介者。それが、エアーーエア・ソラシエール。
「でも、エアは、アリスを人質に取るなんて行為、しないはず……」
『どうでもいいじゃないか。さて、君は生きる意味がないんだったね? なら、アリスがどうなろうと知ったことじゃないはずだけど……どうするの、来ないの? 来るの?』
「……また、朱音がなにかしたんだね……行くに決まってるでしょ。もし、もしもアリスに、危害を加えてみなよ? ……エアもろとも、朱音あんたも殺してやる」
普段は口にしない物騒な言葉を吐く瑠奈を見て、澄はなにかがあったのだと察した。
『決まりだね? なら、詳しい場所は舞香に伝えておいたから、そっちに聞いておいておくれよ。それじゃあ、バイバーイ』
そう言って、朱音は通話を切った。
「なんじゃ、やたらと物騒な物言いじゃの。なにかあったのであれば、力を貸してやるぞ?」
「うん、お願い。わたしだけだと倒しきれない」
正確にいうなら、両者共決着がつかない。
「ごめん、ふたりとも手を繋いで。空飛んで帰るから!」
(.22)
「なにその理由!」
エアが自身を呼ぶ理由を舞香から伝え聞いて、瑠奈は思わず叫んだ。
ーー私エアが居るのにアリスが私ルナのことばかり気にかけるから、わたしの存在を消したいぃ!?
ーーなーに言ってんだ、あのポンコツ女!
「舞香、その廃校の屋上で待つって言ってたんだよね?」
「ええ、朱音はそう言ってたわ」
ならば、と、瑠奈はふたりに願い出る。
「策があるから、協力してくれない?」
(.24)
『なんだい?』
「着いたよ。二階まで降りてきて。そのくらい構わないでしょ?」
朽ち錆びたボロい校舎のなか、瑠奈は二階へと上がり数分待ったあと、舞香から借りた携帯電話で朱音にそう告げた。古い木々の匂いが辺りに漂い、ほとんど整備されていないのか、埃まみれのままだ。
『ーーまあ、いいよ。エア、到着したってさ』
それだけ言うと、朱音は通話を切った。
すると、目前ーー反対側の階段から長い黒髪をした二十歳の女性が降りてきた。
「来てくれたのね、アウラ」
二階へと降りてくるなり、エアは瑠奈へと向かって歩き始める。
「そっちから呼んどいた癖に、なに言ってるんだか……」
瑠奈はエアに向かい歩きながら言葉をつづけた。
「ルーナエ・アウラの名に於おいてーー」
「エア・ソラシエールの名を以もってーー」
ふたりは歩み寄りながら、詠唱をつづける。
「ーー此処に 現界せよ シルフ」
瑠奈の隣にシルフが現れる。
「ーー存在を 刻め ジルフ」
それと同時にエアの隣にも、シルフと同格の風の大精霊ーー男性の姿をした風の大精霊“ジルフ”が現れた。
互いに風の大精霊を現界させても、ふたりは歩みを止めず詠唱をつづける。
「主は私 私は主 そうであれ そうであれ そうであれ そうであれ そうであれ、と私は祈りを捧げ奉たてまつる」
エアは詠うたう。
「シルフいくよ、同体化っ!」
瑠奈は叫ぶ。
両者共に大精霊と重なると、その姿を変身させる。
瑠奈は背丈を少しだけ伸ばし、瞳を瑠璃色から濃緑色に変化させ髪を長くすると輝きに纏われる。
エアは長い黒髪を輝く緑色へと変化させ、濃い緑色の瞳を明るい黄へと変幻させる。
瑠奈はアリーシャのために、エアは自身の存在価値のために、互い互いにべつの目的を果たすため、全力を発揮できる形態へと変化を遂げた。
暫し見つめ合う二人。
やがて、両者共に行動へ移った。
瑠奈は左手に周囲の風を集めて空気の剣をつくりだし、相手の胴体目掛けて振りかぶる。
それに対して、エアは掌を前に突きだして空気の壁を創造した。
瑠奈の剣とエアの壁がぶつかり合い、周囲に風が吹き荒れる。
瑠奈は風圧と共に後退しながら、見えない風で出来た矢状の刃を数本発射していく。しかし、それらはすべて風壁に掻き消され、エアにはひとつも届かない。
エアは歩きながら目の前へと伸ばした掌を少しだけ引くと、再び前に向かい強く押し出した。
すると、それに呼応するように廊下の窓ガラスを次々と割りながら、強力な突風が瑠奈を覆い尽くすような勢いで襲いかかる。
瑠奈は風に向かって縦に手を振るう。
すると、その風は当たる直前、左右へ分断されて瑠奈に当たらない向きに流れを変えた。
そのまま背後に過ぎ去った風を再利用して、瑠奈は向かい風を追い風へと変える。そして、未だ止まぬ強風に構うことなく、エアに向かって勢いよく滑空した。
その手には、代わり映えしない単なるナイフが三本握られている。
「無意味ーー忘れたの? わたしたちにはそんな物質なんてーー」
瑠奈はナイフを二本投擲する。しかし、エアはそれに見向きもしない。
エアの体表に触れた瞬間、ナイフは二本とも自動的に弾かれてしまう。
「ーー意味がないでしょうに」
「わかってるよ」
瑠奈は残り一本のナイフに風を纏わせると、それでエアに斬りかかる。
今度は自動防御で防ぐことは不可能。だからこそ、エアは片手に風を集めてそれを弾き飛ばす。
「わたしにはあなたを倒せるビジョンが浮かんでこない。けれど、それはあなたも同様でしょう? わたしのために、自分の価値がないと思うのなら、ここでその価値をわたしに譲ってよ」
エアは風と風を左右に分けて器用に操ると、瑠奈の周りでそれを摩擦させる。瞬間、そこには青く輝く雷が走る。それを見切っていた瑠奈は、軽く後退して雷を避けた。
「もうやめましょうよ。無意味なことなのだから。ねぇ、居なくなってよアウラ?」
互いに間合いを空けると、エアは瑠奈に向かって無意味な戦いはやめようと告げた。
しかし、瑠奈は笑って首を振る。
「そっかそっか。わたしには、エアを倒す明確なビジョンが浮かんでいるんだけどね? さてと」瑠奈はわざとらしく片手をあげ、エアに注意を向けさせる。「ーー脇腹」
「なにをし……てーーっ!?」
エアはいきなり表情を歪ませる。なぜなら、脇腹に鈍い痛みと共に出血が現れたからだ。
「ほう、確かに効くではないか、瑠奈」
抉り取った血肉を舐めながら、澄は言う。
「ようやく待機していた教室の前まで来てくれたわね?」
舞香は緊張しながらも、ちょうどエアの真横に位置する教室から現れた。
「どうして……わたしのからだに、手技など通用しないはずなのに」
エアは困惑しながら、急に襲来してきた二人を見やる。
「ならば、再度試してみるか? 舞香、まだ可能であろう?」
「ええ。彼女本体は流石に堪えるけど、彼女に纏っている風の膜ていどなら、簡単に置換できるわ」
「なんなの? いったい、あなたたちはなにをしたというの?」
それを説明する必要はないとばかりに、瑠奈は二人の前に立ち塞がった。
エアと瑠奈の持つ、自動で律する体表の風製の防壁が同質だと、瑠奈はナイフを用いて確認した。戦いつつも、舞香と澄の待機する教室前まで誘導した後、意識を瑠奈にのみに注視させるため、わざとらしく手をあげた。
そうして『脇腹』だと舞香と澄に伝える。舞香は脇腹周辺を覆う“風の防御壁”と“なにもない空間”を置換。その防御壁が修復する以前、風速の疾はやさで澄に脇腹を抉らせただけのことだった。
「まだつづける? マナの節約や異能力者という存在、こっちでの戦いを学んでいない今のエアになら、わたしは勝てるよ?」
「……アリーシャは三階の教室に居るわ。この卑怯もの」
「何人来ようがかまわないって言ったのはそっちじゃん。さっ、舞香、澄、行こ」
ーー待っててアリス。いま、行くから!
(.25)
「な、なにをしてるの……アリス」
「あっ、ルナ! これ美味しいですね」
埃漂う廃校舎の一室、窓から夕陽が差し込むなか、銀色の長い髪をした少女――アリーシャは椅子に座りながら、机の上に誰かから貰ったであろうお菓子を並べてひとつひとつ楽しげに味わっていた。
そして、そのなかに三人――瑠奈を先頭にして、澄、舞香の三名が新たに入っていく。
お菓子を散乱させているせいか、アリーシャの周りには甘い香りが漂っている。ジメジメした暑さの原因かと勘違いするほど、そのお菓子の匂いは意外と強烈だ。
「あれ、あれあれ、おっかしいなー? わたしの記憶違いじゃなければ、アリーシャは誘拐されて囚われの身のはずなんだけど……」
「呆けたんじゃないですか? わたし、朱音さんからルナの様子を見に来ないかって歓迎されてきたんですよ」
「ありゃ……ポンコツ女は朱音のほうだったのかぁ……」
肩をがっくし落としつつも、平気そうなアリーシャを見て瑠奈は安堵のため息を漏らす。
「おかしいわ。わたしは朱音に『瑠奈は君と戦って負けたら死ぬらしいから、アリーシャの隣を奪うチャンスだよ』と言われてきたのだけれど」
長い黒髪の女ーーエアは脇腹を擦りながら教室に入ってきた。
「どおりで、おかしいと思った。本当に、朱音はなにがしたいの?」
周りに問うが、誰もそれの答えを持ち得ていない。
「すまぬの、エアとやら。本気で抉ってしまったわい」
言いながら引きちぎった肉を、澄はむちゃむちゃ喰らい尽くす。
「まあ、何人来ようがわたしたちには効果がない、なんてたかをくくっていたわたしも悪かったわ」
「これは、朱音に問いかけなければいけないわね……」
舞香が言うと、アリーシャ以外全員が賛同した。
なにがあったのか理解できていないアリーシャだけは、無邪気にお菓子を平らげるのであった。
(.26)
空から降り注ぐ星月の明かりを仰ぎ見ながら、朱音は満ち足りた表情を浮かべていた。
「やっぱり、まだ居てくれてよかったよ、朱音」
屋上への扉が開くと、そこから瑠奈と舞香、そして澄、エア、アリーシャとつづき、ぞろぞろと多数の人間が現れた。
「やあ、瑠奈。存在理由レーゾンデートルは見つかったかな?」
朱音はそのなかの一人に視線を送り問いかける。
「朱音……悪ふざけが過ぎるんじゃない? 下手したら、私たちエアさんを殺しちゃっていたわ」
しかし、それに答えたのは舞香だった。舞香は少し怒った様子を見せながら、朱音にそう告げた。
「舞香さんーーぼくは今回、ルーナエに対して力を貸してあげただけだよ。君たちは出る幕があっても、でしゃばる幕はない」
「朱音がなにをしたいのか意味不明なんだって言いたいんだってば」
瑠奈も怒りを含めた口調で聞いた。
「君は今回、どうしてエアに打ち勝ってしまったんだい? もしも生きる意味が無ければ、すんなり負ければアリーシャの安全も保証できたじゃないか」
「それは……」
質問を返されうやむやにされてしまう。
「いやいいよ。ぼくがしたいことはね、ぼくの気に入った世界ひとを救いたいだけさ。舞香の世界、沙鳥の世界、そして、君の世界を守りたくなったから、力になったんだ。少々荒いところは許してよ、ボクは神様じゃないんだし」
「“わたしたち”じゃなくて“わたしたちの世界”ってところになにか意図があるんだよね、その言いぐさだと」
「深い意味はないよ。ぼくはぼくの目に映るーーぼくが見ている世界が一番大切なだけだ。だから視界に入る範囲で気に入る世界があると、なるべくそれを壊さないようにしたくなるだけだよ」
朱音は塀に立ち、ギリギリのラインでコンクリートの地面を見下ろす。
「見てごらん。あれらの光はすべて異なる世界だ。違う世界だ。美しいと瞳めに映えない?」
朱音は皆に同意を求めるが、すぐに無言の返事を受けて肩をすくめた。
「残念だ。ボクは、単なる暗い女ってだけなのにね。まあいいさ。さあ、エア、ルーナエ、アリーシャ、君たちを元の世界に返そうか」
「え、わたし、まだいろいろと見学していきたいのですが……」
アリーシャは異世界を見て回りたいのか、それを断った。
「わかった。とりあえずエアさんだけ返すよ。いや、瑠奈も一度帰りたいかい? マナを補填したいかい?」
「……いや、まだいいや。ひさしぶりにアリスといろいろと話したいし。それより朱音の目的は結局ーー」
「ほら、エア。いこう」
エアの手を無理やり握ると、屋上から飛び降りてしまう。
急いで姿を追うと、エアのちからでどうにか空を飛んでいく朱音がそこにはあった。
結局、朱音がなにをしたかったのか不明なまま事態は収集がついてしまうのであった。
(.27)
馴染んできた201号室の中で、舞香、沙鳥、アリーシャ、そして瑠奈が談話をしていた。もう夕方は過ぎ去り、外は暗くなっている。
「へぇ、瑠奈さんとは違ってアリーシャさんは礼儀正しい良い子ですね。ねぇ、瑠奈さん?」
沙鳥が嫌みったらしく瑠奈に言う。
「アリスは礼儀正しいとはちょっと違う気がするんだけどなぁ……ほら、いまも」
瑠奈はアリーシャを指差す。そこには「これもおいしい。それもおいしいです!」と、お菓子を貪りながら喋るアリーシャの姿があった。
「アリスは何のために来たん? わたしなら割かし平気でやってるから心配しなくても大丈夫だよ」
「死にたい病は治りました? わたしはちょっと異世界のお菓子と惰眠を貪るためーーじゃなくて、ルナが心配で来たんですっ!」
「わかった、わかったから飲み込んでから喋ってってば。お菓子のカスが飛び散ってんじゃん」
アリーシャはジュースでそれを流し込む。
「アリーシャも17歳くらいに見えるけど、瑠奈みたいに実際は違ってたりするのかしら?」
「わたしは18歳ですよ? ルナがめちゃくちゃなだけであって、他にはこんなミュータントいないです」
「ミュータントて……」
ーー酷い言い方だなぁ……。
「ちなみに、わたしは精霊操術師エレメンタルウィザードでも魔女ウィッチでもないので、ルナみたいにドンパチすることはできないのです」
なぜか無い胸を張りながら偉そうに宣う。
「アリスって虚乳だよね、羨ましいよ」
瑠奈はアリーシャにおちょくるようにそう言う。
「え? わたしおっぱい大きくないですよ?」
「いや、虚ろな胸だなぁって」
「瑠奈さんは壁ではないですか。アリーシャさんのほうがまだあると思いますよ?」
「ぐっ、カウンターが痛い!」
しまった、自分も虚乳だった。と、瑠奈は後悔する。
「いえ、ですから瑠奈さんのそれには乳が着きませんから。壁でも無でも虚でも構いませんけど、乳を着けないでください。無乳や貧乳のひとに失礼ですから」
「相変わらず、酷い貶し方するね? 沙鳥ちゃん」
「うれしいでしょう?」
やいやい喧しく騒ぐ瑠奈と皆を見比べて、アリーシャは安堵のため息を漏らした。
「よかったです。ルナ、元気そうじゃないですか」
「え、そうかな?」
ーーそういえば、たしかにもう死にたいなんて考えなくなってるなぁ……。
「そういえば、寝るのはどうする? 空き部屋ならそっちがあるから使ってもいいし、瑠奈と一緒に寝たいのなら同室でもいいわよ?」
「ルナと一緒の部屋はその……ちょっとお断りしたいです。その、身の危険性があるので」
「あれ、貴女ってたしか、瑠奈と初めてを捧げあった仲だったんじゃないの? 瑠奈からはそう聞いてるけど?」
アリーシャと沙鳥は、お互いなにかを感じたのか、同時に瑠奈を見る。
「いやいや、いやいやいや、いやいやいやいや」
瑠奈は嘘がバレそうだと察して困惑する。
「いやいやじゃないです! なんですか、初めてを捧げあったって! 半ば無理やり奪った癖に!」
「……そのようですね。瑠奈さん、貴女ってひとは……」
二人にジト目で見られてしまい、瑠奈はばつが悪くなったように下を向く。直後に顔をあげ、てへっと言いながら舌を出した。
「いやぁ、許してくれたんだし、あながち間違ってなくない?」
「なくないですっ。そもそも許した覚えなんてないですよ!」
「ええ……」
呆れた目で周りから見られながらも、瑠奈はテヘペロと繰り返すのであった。
「そういえば、沙鳥と舞香に聞きたいことがあるんだけど、いい?」
隙を見計らい、瑠奈は話題をすり替えた。
「べつにいいわよ?」
「ええ、いったいなんでしょうか?」
「二人は、何のために生き続けるの? 存在する理由ってなにか持ってるの?」
それは、瑠奈が当初から抱きつづけている自身の悩みであった。
「わたしは、舞香さんと一緒に居たいからです。死んでしまっては、それは叶いませんからね」
沙鳥は舞香の肩に頭を乗せると、そう口にする。
そんな沙鳥の頭を優しく撫でながら、舞香も口を開いた。
「私も一緒よ。沙鳥と一緒に、生きていたいもの」
「……うーん、なるほど」
たしかに、死んでしまっては叶わない願いであった。
そして、そんな二人を真似てみようと、瑠奈はアリーシャの肩に頭を乗せようとする。しかし、アリーシャに素手でぐいぐいと拒まれてしまい、それは叶わなかった。
「一緒に居たいから、かぁ……」
納得できるような、できないような……瑠奈は悩みながら、ほかのひとにも聞いてみようと考えた。
と、ちょうどいいタイミングで澄と六華、翠月が部屋に入ってきた。
「うわっ、なんかファンタジーが2つに増えてんジャン。なになに、新入り?」
「ただいま戻ったぞ」
「は、初めまして」
三人それぞれべつの反応を示す。
「ちょうどいいところに来た。ねえ、どうして三人は生き続けたいの? どうせ死んだらなにも残らないのに……」
「ん……?」
六華はいまいち理解できないのか、頭をかしげる。
「死にたくないからに決まってんじゃん、瑠奈っちってほんっとポンコツだなー」
翠月は死ぬのが嫌だから生きるだけだと答えた。
「いちいち理由など要らぬわい」
澄は、生きる理由なんてそもそも不要だと切り捨てた。
「そんなことよりなになに、その子? まえに言ってた、瑠奈っちが初めてを捧げあったっていうレズ仲間?」
「むぅ! 違います! わたしは同性愛者ではないです! 瑠奈が勝手にかっさらっていっただけです!」
翠月の問いに対して、アリーシャはレズビアンではないと強調した。
「ええー、レイプじゃんそれ。瑠奈っち不味いよソレ」
「れ、れい……? いやいやいや、ちゃんと許可もらったし、許してくれたから違うってば!」
「とりあえず、捧げあったなんて言えないよねー?」
余計なこと喋らなければよかったと瑠奈はいまさら後悔する。
「それじゃ、別々の部屋にしたほうが良さそうね?」
「えー……アリスーなにもしないから一緒に寝よー?」
「うう……そんな目でわたしを見ないでください! 卑怯ですよ!」
「お願い……」
「うっ……わたしのほうが年下なのにズルいですよ』
瑠奈は瞳をうるうるさせながら、上目遣いでアリーシャを見つめる。
「ダメ……?」
アリーシャはため息をした。
「本当になにもしないでくださいね? したら絶交ですよ?」
「ありがとう! アリス、好き!」
瑠奈はひしっとアリーシャに抱きつくのであった。
「それじゃ、瑠奈の部屋で寝てもらえるかしら?」
「はい……まったく、もう……」
「布団ひとつしかないじゃないですか……」
「もちろん。なにもしないからくっついて寝よ?」
ふたりには、そんなオチが待っていたという。
(.28)
ーー瑠奈は出会ったひとに対して、一人ひとりその者の生きる理由を問う。
「そんなもん知らねーよ」
一はつまらなさそうに答えるだけだ。
「この世界に俺の存在を刻むんだよ」
大海は少し考えると、そう答えてみた。
「シャブやるためだけに生きてるよ」
覚醒剤を買っていく客たちはそう述べていた。
「死にたくないから……」
援交させられている少女は悲しい顔でそう呟いた。
「楽しいからじゃないかな?」
援交するべつの少女はそう言い切る。
「寝るのが気持ちいいし食べ物が美味しいから生きるんですよ、人間は」
アリーシャは素直にそう言った。
「白しろを……俺の妹を見つけたいんだ。居場所すらわかっていないけどな?」
暗殺者のひとりである静夜はそう答えた。
「内緒だからね? 静夜兄ぃが好きなんだ」
静夜の仲間、ありすは教えてくれた。
「不要だ、そんなもの。働いて食って寝てればいい。考えるだけ無駄だろ?」
刀子は言い捨てた。
「実は、貴女に勝ちたいからなのよ?」
エアは今の目標を囁いた。
「まずは異能力者の生きやすい社会をつくるためよ」
マリアは自身の組織の目標と同じ内容を掲げる。
「早く白しろをーー俺が愛した女を救うためだ」
偉才は照れながらも、過去に同居していた相棒を助けると誓ったらしい。
「世界がこんなに綺麗だからだよ」
朱音はなにか言いたげな瞳をしながらも答えてくれた。
(.29)
「段々と寒くなってきたね」
「うん……」
10月を過ぎ、次第に夏の暑さを忘れていく刻、愛のある我が家屋上では、朱音と瑠奈が向かいあっていた。
結局、時が経つに連れて、朱音は平然とした顔つきで愛のある我が家に戻ってきた。
舞香も沙鳥も特に気にせず、みな普段どおりの生活になる。
しかし、見た目こそ最初と変わらない姿に収まったが、三人の中身は変わった。
沙鳥は、神に対しての無為な執念を捨てて、昔以上に現在いまの舞香を好み慕うようになった。
舞香は、薬を密造しながらも自らは断薬を決意、覚醒剤ではなく沙鳥を愛するように変わりつつあった。
瑠奈はーー。
「月の微風はーー君は、変われたのかな? それとも見つけた?」
「わからない……けど、死にたくはなくなった。だから、生きてみることにする。そもそも、なんなの月の微風って」
「それは良かった。いや、月の微風は君の名前のことさ」
「たしかに微風だけど月じゃないじゃん」
「瑠奈をルナにすれば、ほら、月になるし、君の本名ルーナエ・アウラーーLunae auraを古代ラテン語で訳すと『月の微風』になるんだよ」
「だから舞香や朱音は、微風瑠奈にしたんだ……この名前馴染んできてるんだけど。病院で微風って呼ばれつづけたり、朱音や舞香が瑠奈って呼ぶし、こっちにルーナエって呼んでくれるひとひとりもいないんだもん。たまにルーナエのほうが偽名に感じるようになってきた……24年ものの名前なのに」
「……これは、やっぱり、経験じゃなく記憶……いや、もう考えないと決めたのだから……」
「ん? まーたくるくるパーなこと考えてるの?」
瑠奈はなにか思考をはじめた朱音をおちょくる。
しかし、朱音は少し気まずそうな態度をしながら呟くように言う。
「うん、何でもない。だけどごめん……ね。……叶うなら……ほしい……」
「ん? なにか言った?」
瑠奈に聞こえないように調整した声量でなにかを言うと、朱音は自身の弱さを笑いながら、普段どおりの顔をつくる。
「何でもないよ、ボクはもう、決めたんだ」
ーーボクが隠せば全ては終わる。君を無駄に悩ませる必要はない。君は君だし、君はもう、ここに在る。
ーーごめん。叶うなら、許してほしいけど……ごめんね……ルーナエ・アウラ……。
二人はしばらく無駄話をすると、愛のある我が家の中に入っていった。
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