弟、異世界転移する。

ツキコ

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2章

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馬車の中で眠り、目を覚ましたらいつものベッドでした。

あちらで使っていたものと同じベッド。
部屋の中の物も同じ。

「あれ…?」

全部夢だった。
そう思うとどうしようもなく悲しくなった。

夢でいいはずなのに。
夢であるべきなのに。

兄さんがいればいいはずなのに。
帰りたいと思ってしまった。

ああ、ほら。
だって一緒だ。

兄さんの作るご飯の匂いがする。
そうしてもう少しすると兄さんが起こしに来る。
それが当たり前で普通のことだったのに。

ベッドの上で膝を抱える。

「ケーイくん」

「え…?」

「おはよぉ。……大丈夫?どうしたの?」

「え、え?なんで、どうして?」

「?んーと…あっそっかぁ!ここはケイくんの家にそっくりなんだっけぇ」

「そ、うなの?」

「そうなの。アイツが造ったらぁ、こうなったんだってぇ」

「へえ、兄さんが…そうなんだ…」

「嬉しーい?」

「うん。でもびっくりしちゃった」

「ご飯できるから行こー」

現在地、魔王城背面の土地。
一面中の花畑エリア。

そこに兄さんが家を建てていた。
なんでも魔法でどうにかなったらしい。

平屋建ての3人で暮らすにはちょうどいいくらいのサイズ。
家の中の家具も兄さんが作ったそうだ。

折角会えたのに夜くらいしか一緒にいられなかったのはこれを作っていたかららしい。

そっくりなのは部屋の中だけで他はだいぶ違った。
そのことにほっと息を吐く。

「お兄ちゃんって…ご飯食べるんだっけ?」

「普通は食べないんだけどぉ、アイツの料理は魔素がいっぱいなんだよねぇ」

「そうなんだ」

「それにスイーツ?あれは美味しいかなぁ」

「うんうん」

兄さんの料理はなんでも美味しい。
恵の料理が1番だなんて言ってくれるけど1番は間違いなく兄さんだ。

ヴィーもなかなか…こっちだったら1番かも。

そういえばあの騎士団のぷにょっと感触の料理…
あれスライム使ってたのには驚いたなあ。
食用に開発されたスライムだから大丈夫です!って言ってたけど異世界人逞しくてすごい。

食用スライムを使うと温度と形が適度に保たれるのだそう。
便利だとは思うけどスライムを食べようとは思えない。

「恵。おはよう」

「おはよう、兄さん」

マヤのこの笑顔はケイだけのものらしい。
ノアやその他に笑顔を向けることはあってもケイの比ではない。
なんというか表情筋の使い方が違うのだ。

「食べて少ししたら外に行こう」

「この周り案内してあげるねぇ」

「うん、わかった」

辺り一帯花畑なのだから案内というより散策になるんだろうなと思うケイであった。
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