弟、異世界転移する。

2章

60

火の回りは想像を遥かに超え、早かった。
もともと油でも撒かれていたかのようだった。

魔法で起こす火と、災害で起きる火は違う。
どう違うのかといえば魔法は対象だけを燃やすのに対し、災害は全てを燃やす。

だからそう、例えば魔法で着火した場合とマッチで着火した場合では結果が異なるのだ。
今回の場合は完全に後者といえるだろう。

「いたぞ！！魔族だ！！！」

「殺せ！！殺せ！！殺せ！！！」

ケイの黒髪はよく目立つ。

火に囲まれ、煙で覆われようとも関係ない。
煙は全て追っ手によって飛ばされるし火はケイの結界でどうとでもなる。

彼らは火事の最中に邪魔者を消すことを目的としているらしかった。

「っ…エディ、さん…！」

「黙ってなさい！舌を噛むわよ！！」

間違いなく狙われているのはケイ1人。
エディを狙うとは思えない。

エディの肩に担がれているケイはしっかりとその目で敵を見据えていた。

剣を片手に追いかけてくるその姿。
腰にはこの世界で初めて見る銃があった。

何度も魔法で攻撃をしてくるが全て相殺。
エディは振り返らずに走っているが恐らく攻撃されていることには気づいているだろう。
ケイがそれを防いでいることにも。

どんな攻撃でも結界がある限りケイ達に届くことはない。
その結界を壊せるものなど何もない。

はずだった。

「っ、うそ…だめっ…！」

男達が持っていたその銃。
その弾丸はケイの結界を破壊するだけの力を持っていた。

ガラスのように、あるいはポリゴンのように散る結界。
幸いなのはそれが目に見えるものだったということだ。

「っ！！！！」

熱い弾丸がケイの手を通る。

結界により速度が落ちていたのは知っていた。
自身の身体に強化をかけ、エディにはより強力な結界を。

手を通り抜ける頃にはそれは速度を失っていた。

「ケイ！？今何かあったの！！？」

「…問題、ありません…っ」

問題しかない。
壊れるはずのない結界が壊れて、手には弾丸が通って。

あの銃は、まずい。

「っ…っ…！！」

「ケイ？本当に大丈夫なの？気持ち悪い？」

「大丈夫、です…！」

応急処置も兼ねて治癒をする。
しかし治癒が全然できない。
いや、止血できただけでも十分だろう。

痛みも全部魔法で誤魔化せる。
適応属性が闇でよかった。

攻撃を受けてわかった。
どうやら防御だけでは駄目らしい。

彼らの影をベースに幻影を生み出す。
戦うのは自分自身とだ。

当然ケイの力が加わっている影の方が強くはあるが。
たとえそれでどうなろうともケイには関係ない。
仕掛けてきたのはそちらなのだからこれは正当防衛だ。

影を生み出し、自立思考に切り替えて放置する。
自立思考にしたとしてもケイを裏切ることはない。
対立行為をした時点でそれは用なしとなる。

たぶん、普通の人間ならば死んでいる量の魔力を使った。
頭が痛い。
走る振動に脳が揺すられる。

しかしここで気絶したら最後だ。
魔法とは、使用者の意識がなくてはいけない。

魔力消費を抑えるために治癒をする。
あの弾丸が原因なのか銃が原因なのかはわからないが、それでもあれは脅威だった。

……それにしてもエディさんハイヒールでよく走れるなあ…