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Ep.8-1《愛欲の魔物》
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一歩一歩、足を踏みしめるたびに嫌な思い出が蘇り、胸を締め付ける。
雑居ビルが立ち並ぶエリアの中に、目的のビルはあった。
ロビーに入り、受付のNPCに通行証を見せると彼女は何も言わずにエレベーターの方に手を向けた。
扉が開き、中に入りこむとボタンを押さずともエレベーターは下へ下へと降りていく。
この先には華やかなカジノがあり、その先には熱気あふれるベータアリーナがある。
アーニャの全てを壊した場所だ。
だがエレベーターはそのフロアを通り越し、一番最下層のフロアにてようやく停止する。
エレベーターの扉が開くと、一面真っ白なフロアの中心に赤いドレスを着た女性が一人立っていた。
「ようこそ、私のプライベートフロアへ」
赤いドレスの彼女、ミヨが不敵に微笑みながらそう言った。
***
リリアからサナの所在を聞いたその日の夜、ミヨから一通のメッセージが届いた。
『サナちゃんに会いたかったら、私のところにおいで』
届いたのはたったそれだけの一文と共に通行証が添付されたメッセージ。
そこからアーニャが何度もメッセージを送り返すも、彼女からの返信は無かった。
そうして翌日、誰にも相談せず、アーニャは一人でこの場所までやってきたのだ。
「ふふっ、そう睨まないで。サナちゃんに会いにきたんでしょう?」
「……サナちゃんはどこに?」
一片たりとも彼女に心を許すつもりはないアーニャは、敵意向き出しの声でそう尋ねる。
「ふふっ、こっちよ」
そう言ってミヨはアーニャに背を向け歩き出し、アーニャもそれに続く。
装飾一つない真っ白な廊下を無言で歩く二人。
二人分の足音が反芻し、その足音は一つの部屋の前で止まった。
ミヨが何も言わずにその扉を開き中に入ると、小さな部屋の奥にガラス張りの大きな部屋が見えた。
アーニャは最初、レコーディングスタジオのように見えたがすぐに考えを改める。
そこはまるで、映画で見た危険生物を観察するための実験室によく似た構成の部屋だった。
そしてガラスの向こうには剥き出しになった内臓のような無数の触手がうねうねと蠢いていて、その中心に見知った彼女の姿が見えた。
「サナちゃん……!」
その光景を見て気が気ではなくなったアーニャは、巨大な窓ガラスの横にあるドアに手をかける。
ドアを開けた瞬間あふれる、ムワッとした生暖かい空気に一瞬戸惑うも、アーニャは意を決して触手の部屋に足を踏み入れる。
「サナちゃんッ! サナちゃん、大丈夫!?」
サナは無数の触手をソファのように背にして、どこか心地よさそうに目を瞑っていた。
そしてアーニャが声をかけると、ゆっくりとその瞼を開ける。
「アーニャ……さん?」
「良かった、意識がある! 早くこんな場所から抜け出そう」
サナに意識があることを確認し安堵したアーニャは、サナの体を掴もうとして手を伸ばす。
「アーニャさん、好き」
「え……?」
伸ばした手が止まる。
うっとりとした表情でそう語るサナの顔を見て、アーニャの思考は一瞬停止する。
そしてその心の隙きをつくかのように、アーニャの足に細い触手が絡みついた。
「なっ!?」
「アーニャさん……もっとアーニャさんを感じたい……」
明らかに正気でないサナが手を大きく広げ、そのままアーニャに抱きつこうとしてくる。
「だ、だめっ! ……ぅぐっ!」
背筋が凍るような恐怖を感じたアーニャは絡みつく触手を振り払い、サナから数歩離れたところで床に腰を打ち付ける。
「あ……」
サナは名残惜しそうな表情でこちらに手を伸ばしていた。
アーニャは改めてサナの姿を正面から見て、その光景に驚愕する。
「これは、一体……!?」
とろんと蕩けた瞳でこちらを見つめるサナ。
ボロ切れのような布を纏っているものの、その姿はほぼ全裸で、何より彼女の周りを蠢く触手は全て彼女の背中から生えたものだった。
「すごいでしょ、今のサナちゃん」
背後から響くミヨの声に、アーニャは振り返る。
ミヨはそのままアーニャと目を合わせることなく言葉を続ける。
「アーニャちゃんがいなくなって呪いの実験をする相手がいなくなってしまったから、彼女には代役になってもらったの」
「な、何を、言って……」
「すごく健気な子だったわよ? アーニャちゃんと私の関係を話したら『これ以上アーニャさんをいじめるのはやめてください! 私が変わりになります!』って」
「……っ!」
ニヤニヤと笑いながら語られるその話の内容にアーニャは言葉を失う。
「それでアーニャちゃんに与えたような呪いをサナちゃんにもたくさん与えてあげたんだけどねぇ……ごめん、壊れちゃったみたい」
「こ、壊れた……って……」
「やっぱりアーニャちゃんみたいにあれだけ呪いを与えても理性を保てる人材は貴重ねぇ。だって普通の子はあんなふうに気持ちいい以外に何も考えられなってしまうもの」
見下すようなミヨの視線がアーニャを射抜く。
心臓がギュッと締まる感覚があった。
鼓動が早まり、体が熱くなる。
戦いの中で常に冷静さを保ってきたアーニャが、平静を保てなくなるほどの怒りがこみ上げる。
「……っ! お前ぇえええっ!!」
感情に身を任せ、ミヨに殴りかかろうとするアーニャ。
たがその拳はミヨの体に届くことなく途中で止まった。
「な……っ!?」
アーニャの腕に粘液に塗れた触手が絡みつく。
「アーニャさん……アーニャさん! ねぇもっと……私と一緒に気持ちよくなろう!」
ミヨに気を取られ意識の外側にいたサナが、アーニャの背後からその背に飛びついた。
サナの体もまた粘液に塗れていて、その粘液が体に付着すればするほどアーニャの体は熱く昂っていく。
「くぁっ、あああああっ!?」
「ああ……アーニャさんのえっちな悲鳴、素敵です」
まるで久しぶりに飼い主と再会した子犬のように、サナはすりすりとアーニャの体に身を寄せる。
「さ、サナちゃん……離して……っ!」
なんとかサナの体を引き剥がしたいが彼女の体を無下に扱うこともできず、アーニャは力ない抵抗で必死に体をよじる。
「その子はもう呪いを与えすぎて、常に気持ちがいい状態じゃないと発狂しちゃう体になっちゃったの。だから私がいつでも好きな時に気持ちよくなれる体を与えてあげたのよ」
ベータの世界に来てから、何度も見てきた人外アバター。
かつてただのアーニャのファンでしかなかった彼女が、その力を手に入れていることに嫌悪に近い感情を抱いてしまう。
ただ怒りの矛先を向けるべきはミヨだと気づき、キッと彼女を睨みつける。
「サナちゃんを、解放して……!」
「ふふっ、いいわよ。でもサナちゃん、最近は自分で自分を慰めることしかできなかったみたいだから……アーニャちゃん、彼女の遊び相手になってあげて? だって彼女は貴方のファンなんでしょう?」
そう言ってミヨはアーニャの頬を撫でる。
「く……っ!」
両手を触手で拘束され、今すぐにでも殴りたい相手を目の前にアーニャはただ歯を食いしばることしかできなかった。
「アーニャさん、私、アーニャさんに悦んでもらうために、色んな力を手に入れたんです。だからほら……気持ちよくなってください!」
アーニャの服の中にいくつもの細い触手が入り込んでくる。
それらの触手は腹部や太ももをツンツンとつつくと、その先端から熱い液体を吹きかけた。
「うぁああああッ!? やめ……てっ……サナ、ちゃん……目を、覚ましてッ!」
体を襲う快楽に耐えながら、アーニャは必死にサナに声をかけ続ける。
「はい、目を覚ましてますよ。アーニャさんが気持ちよくなるところ、ずっと見ててあげますからね」
拘束する触手の数が増えていく。
体を縛られ、弄られ、粘液を吹きかけられて、アーニャの体がビクビクと震える。
「うあ”ッ!? あ”あ”あ”あ”あ”ッ!!」
もはや戦いでも何でもない、一方的な蹂躙が始まる。
雑居ビルが立ち並ぶエリアの中に、目的のビルはあった。
ロビーに入り、受付のNPCに通行証を見せると彼女は何も言わずにエレベーターの方に手を向けた。
扉が開き、中に入りこむとボタンを押さずともエレベーターは下へ下へと降りていく。
この先には華やかなカジノがあり、その先には熱気あふれるベータアリーナがある。
アーニャの全てを壊した場所だ。
だがエレベーターはそのフロアを通り越し、一番最下層のフロアにてようやく停止する。
エレベーターの扉が開くと、一面真っ白なフロアの中心に赤いドレスを着た女性が一人立っていた。
「ようこそ、私のプライベートフロアへ」
赤いドレスの彼女、ミヨが不敵に微笑みながらそう言った。
***
リリアからサナの所在を聞いたその日の夜、ミヨから一通のメッセージが届いた。
『サナちゃんに会いたかったら、私のところにおいで』
届いたのはたったそれだけの一文と共に通行証が添付されたメッセージ。
そこからアーニャが何度もメッセージを送り返すも、彼女からの返信は無かった。
そうして翌日、誰にも相談せず、アーニャは一人でこの場所までやってきたのだ。
「ふふっ、そう睨まないで。サナちゃんに会いにきたんでしょう?」
「……サナちゃんはどこに?」
一片たりとも彼女に心を許すつもりはないアーニャは、敵意向き出しの声でそう尋ねる。
「ふふっ、こっちよ」
そう言ってミヨはアーニャに背を向け歩き出し、アーニャもそれに続く。
装飾一つない真っ白な廊下を無言で歩く二人。
二人分の足音が反芻し、その足音は一つの部屋の前で止まった。
ミヨが何も言わずにその扉を開き中に入ると、小さな部屋の奥にガラス張りの大きな部屋が見えた。
アーニャは最初、レコーディングスタジオのように見えたがすぐに考えを改める。
そこはまるで、映画で見た危険生物を観察するための実験室によく似た構成の部屋だった。
そしてガラスの向こうには剥き出しになった内臓のような無数の触手がうねうねと蠢いていて、その中心に見知った彼女の姿が見えた。
「サナちゃん……!」
その光景を見て気が気ではなくなったアーニャは、巨大な窓ガラスの横にあるドアに手をかける。
ドアを開けた瞬間あふれる、ムワッとした生暖かい空気に一瞬戸惑うも、アーニャは意を決して触手の部屋に足を踏み入れる。
「サナちゃんッ! サナちゃん、大丈夫!?」
サナは無数の触手をソファのように背にして、どこか心地よさそうに目を瞑っていた。
そしてアーニャが声をかけると、ゆっくりとその瞼を開ける。
「アーニャ……さん?」
「良かった、意識がある! 早くこんな場所から抜け出そう」
サナに意識があることを確認し安堵したアーニャは、サナの体を掴もうとして手を伸ばす。
「アーニャさん、好き」
「え……?」
伸ばした手が止まる。
うっとりとした表情でそう語るサナの顔を見て、アーニャの思考は一瞬停止する。
そしてその心の隙きをつくかのように、アーニャの足に細い触手が絡みついた。
「なっ!?」
「アーニャさん……もっとアーニャさんを感じたい……」
明らかに正気でないサナが手を大きく広げ、そのままアーニャに抱きつこうとしてくる。
「だ、だめっ! ……ぅぐっ!」
背筋が凍るような恐怖を感じたアーニャは絡みつく触手を振り払い、サナから数歩離れたところで床に腰を打ち付ける。
「あ……」
サナは名残惜しそうな表情でこちらに手を伸ばしていた。
アーニャは改めてサナの姿を正面から見て、その光景に驚愕する。
「これは、一体……!?」
とろんと蕩けた瞳でこちらを見つめるサナ。
ボロ切れのような布を纏っているものの、その姿はほぼ全裸で、何より彼女の周りを蠢く触手は全て彼女の背中から生えたものだった。
「すごいでしょ、今のサナちゃん」
背後から響くミヨの声に、アーニャは振り返る。
ミヨはそのままアーニャと目を合わせることなく言葉を続ける。
「アーニャちゃんがいなくなって呪いの実験をする相手がいなくなってしまったから、彼女には代役になってもらったの」
「な、何を、言って……」
「すごく健気な子だったわよ? アーニャちゃんと私の関係を話したら『これ以上アーニャさんをいじめるのはやめてください! 私が変わりになります!』って」
「……っ!」
ニヤニヤと笑いながら語られるその話の内容にアーニャは言葉を失う。
「それでアーニャちゃんに与えたような呪いをサナちゃんにもたくさん与えてあげたんだけどねぇ……ごめん、壊れちゃったみたい」
「こ、壊れた……って……」
「やっぱりアーニャちゃんみたいにあれだけ呪いを与えても理性を保てる人材は貴重ねぇ。だって普通の子はあんなふうに気持ちいい以外に何も考えられなってしまうもの」
見下すようなミヨの視線がアーニャを射抜く。
心臓がギュッと締まる感覚があった。
鼓動が早まり、体が熱くなる。
戦いの中で常に冷静さを保ってきたアーニャが、平静を保てなくなるほどの怒りがこみ上げる。
「……っ! お前ぇえええっ!!」
感情に身を任せ、ミヨに殴りかかろうとするアーニャ。
たがその拳はミヨの体に届くことなく途中で止まった。
「な……っ!?」
アーニャの腕に粘液に塗れた触手が絡みつく。
「アーニャさん……アーニャさん! ねぇもっと……私と一緒に気持ちよくなろう!」
ミヨに気を取られ意識の外側にいたサナが、アーニャの背後からその背に飛びついた。
サナの体もまた粘液に塗れていて、その粘液が体に付着すればするほどアーニャの体は熱く昂っていく。
「くぁっ、あああああっ!?」
「ああ……アーニャさんのえっちな悲鳴、素敵です」
まるで久しぶりに飼い主と再会した子犬のように、サナはすりすりとアーニャの体に身を寄せる。
「さ、サナちゃん……離して……っ!」
なんとかサナの体を引き剥がしたいが彼女の体を無下に扱うこともできず、アーニャは力ない抵抗で必死に体をよじる。
「その子はもう呪いを与えすぎて、常に気持ちがいい状態じゃないと発狂しちゃう体になっちゃったの。だから私がいつでも好きな時に気持ちよくなれる体を与えてあげたのよ」
ベータの世界に来てから、何度も見てきた人外アバター。
かつてただのアーニャのファンでしかなかった彼女が、その力を手に入れていることに嫌悪に近い感情を抱いてしまう。
ただ怒りの矛先を向けるべきはミヨだと気づき、キッと彼女を睨みつける。
「サナちゃんを、解放して……!」
「ふふっ、いいわよ。でもサナちゃん、最近は自分で自分を慰めることしかできなかったみたいだから……アーニャちゃん、彼女の遊び相手になってあげて? だって彼女は貴方のファンなんでしょう?」
そう言ってミヨはアーニャの頬を撫でる。
「く……っ!」
両手を触手で拘束され、今すぐにでも殴りたい相手を目の前にアーニャはただ歯を食いしばることしかできなかった。
「アーニャさん、私、アーニャさんに悦んでもらうために、色んな力を手に入れたんです。だからほら……気持ちよくなってください!」
アーニャの服の中にいくつもの細い触手が入り込んでくる。
それらの触手は腹部や太ももをツンツンとつつくと、その先端から熱い液体を吹きかけた。
「うぁああああッ!? やめ……てっ……サナ、ちゃん……目を、覚ましてッ!」
体を襲う快楽に耐えながら、アーニャは必死にサナに声をかけ続ける。
「はい、目を覚ましてますよ。アーニャさんが気持ちよくなるところ、ずっと見ててあげますからね」
拘束する触手の数が増えていく。
体を縛られ、弄られ、粘液を吹きかけられて、アーニャの体がビクビクと震える。
「うあ”ッ!? あ”あ”あ”あ”あ”ッ!!」
もはや戦いでも何でもない、一方的な蹂躙が始まる。
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