中心のない愛

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第四章 三者が同時に存在しない空間

空白に、あなたの声だけが残る

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ユウの声は、やさしい。

変わらず、静かで、
わたしの名を呼ぶときも、
まるで何かを壊さないようにしているみたいに。

その声に、
何度も救われたと思っていた。

でも、いまはちがう。

わたしの中に、
ユウの声だけが残って、
それ以外が、
少しずつ抜け落ちていっている。

触れた手の感触も、
いっしょに歩いた景色も、
話したことさえも、
薄れていくのに。

呼ばれた名前だけが、
ずっと耳の奥に残って、
こびりついたみたいに離れない。

あの人の声は、
わたしの中で、
「存在の確かさ」として残ってしまった。

でもそれは、
「愛された」証じゃなかった。

ユウは、
わたしを呼んでくれたけど、
わたしを選んだわけじゃなかった。

ただ、そこにいたから。
ただ、名前を知っていたから。

――それだけだったのかもしれない。

わたしは、その声に何度も振り返ってきた。

でも、
あの声は、いつだって
わたしの居場所を指し示すものではなかった。

わたしが誰かのものになる未来は、
あの声の中にはなかった。

いま、
ユウの隣にいて、
それでも自分が“ここにいる”と信じられない。

空白だけがある。

そしてその空白のなかに、
ユウの声だけが、
きれいに残っている。
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