中心のない愛

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第四章 三者が同時に存在しない空間

関係の形だけが、あとに沈んでいた

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三人でいた時間が、
ほんとうにあったのか、もう自信がない。

ナツミの笑い声。
アキのまなざし。
それらが同じ空間にあった場面を、
どこかで見た気がしているけれど、
うまく思い出せない。

部屋の片隅に残っていたカップを捨てた。

それがナツミのものだったのかどうか、
わたしにはもう、確かめる方法がなかった。

アキには、なにも言わなかった。
たぶん気づいていたと思う。

でも、
わたしたちはもう、
そういう話をしない関係になっていた。

お互いに、
何かを言えば崩れることを知っていたから。

ある日、
ふたりで座ったちゃぶ台の上に、
何も置かなかった日があった。

湯のみも、
お茶も、
言葉もなかった。

ただ、
並んで座って、
なにかを待っていた。

待っていたのは、
たぶん、わたしたち自身だった。

でももう、
そこに来る人はいない。

三人の関係は、
もう動いていない。

ナツミは、過去に沈んで。
アキは、声の届かない距離で揺れていて。
そしてわたしは、
何ひとつ選べなかったまま、
ここにいる。

残ったのは、
形だけだった。

「三角関係」という名前の、
決して重ならなかった三つの線の跡。

それが、
今のわたしたちの全部だった。

水に沈んでいくように、
ゆっくり、静かに、
関係の形だけが、
あとに沈んでいた。
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