4 / 5
ふたつの記憶
しおりを挟む
朝、目をひらくと、
ひとつの景色がまぶたの裏に残っていた。
薄いピンクのカーテンが風にゆれて、
窓の外には、知らない庭があった。
そこには、
白い花が、静かに咲いていた。
けれど、わたしの部屋に、
そんな花はない。
目が覚めたあとは、いつもの天井。
いつもの天井……なのに、
ほんの少し、角度が違って見えた。
息を吸う。
ふつうの空気。
でも、少しだけ匂いがちがう気がした。
これが、夢だったのか、
それとも、忘れていた景色だったのか――
わたしのなかで、
ふたつの記憶が重なっている。
わたしのはずなのに、
知らない手触り。
わたしの部屋なのに、別の空気。
なにかが、
そっと、内側でずれている。
手紙を読んでから、
この身体に、わたしじゃない“何か”が、
すこしずつ入り込んできている気がする。
あるいは、
もともと、そこにいた“わたし”が
いま、目を覚まそうとしているのかもしれない。
「だいじょうぶ。あなたは、あなたのままで」
また、“声”がした。
その言葉は、わたしの胸の奥でふわりと広がる。
でも、わたしは訊きたくなる。
――“あなた”って、誰?
それは、わたしに向けた呼びかけなのか。
それとも、わたしが、誰かを呼んでいるのか。
ふと、鏡の前に立つ。
そこに映る自分の顔を、
じっと見つめる。
知っている顔。
けれど、どこか、知らない目をしていた。
わたしの奥で、
もうひとりの“わたし”が、
そっと、まばたきをした気がした。
ひとつの景色がまぶたの裏に残っていた。
薄いピンクのカーテンが風にゆれて、
窓の外には、知らない庭があった。
そこには、
白い花が、静かに咲いていた。
けれど、わたしの部屋に、
そんな花はない。
目が覚めたあとは、いつもの天井。
いつもの天井……なのに、
ほんの少し、角度が違って見えた。
息を吸う。
ふつうの空気。
でも、少しだけ匂いがちがう気がした。
これが、夢だったのか、
それとも、忘れていた景色だったのか――
わたしのなかで、
ふたつの記憶が重なっている。
わたしのはずなのに、
知らない手触り。
わたしの部屋なのに、別の空気。
なにかが、
そっと、内側でずれている。
手紙を読んでから、
この身体に、わたしじゃない“何か”が、
すこしずつ入り込んできている気がする。
あるいは、
もともと、そこにいた“わたし”が
いま、目を覚まそうとしているのかもしれない。
「だいじょうぶ。あなたは、あなたのままで」
また、“声”がした。
その言葉は、わたしの胸の奥でふわりと広がる。
でも、わたしは訊きたくなる。
――“あなた”って、誰?
それは、わたしに向けた呼びかけなのか。
それとも、わたしが、誰かを呼んでいるのか。
ふと、鏡の前に立つ。
そこに映る自分の顔を、
じっと見つめる。
知っている顔。
けれど、どこか、知らない目をしていた。
わたしの奥で、
もうひとりの“わたし”が、
そっと、まばたきをした気がした。
0
あなたにおすすめの小説
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
彼女が望むなら
mios
恋愛
公爵令嬢と王太子殿下の婚約は円満に解消された。揉めるかと思っていた男爵令嬢リリスは、拍子抜けした。男爵令嬢という身分でも、王妃になれるなんて、予定とは違うが高位貴族は皆好意的だし、王太子殿下の元婚約者も応援してくれている。
リリスは王太子妃教育を受ける為、王妃と会い、そこで常に身につけるようにと、ある首飾りを渡される。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる