あのときのわたしへ

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ふたつの記憶

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朝、目をひらくと、
ひとつの景色がまぶたの裏に残っていた。

薄いピンクのカーテンが風にゆれて、
窓の外には、知らない庭があった。

そこには、
白い花が、静かに咲いていた。

けれど、わたしの部屋に、
そんな花はない。

目が覚めたあとは、いつもの天井。

いつもの天井……なのに、
ほんの少し、角度が違って見えた。

息を吸う。
ふつうの空気。
でも、少しだけ匂いがちがう気がした。

これが、夢だったのか、
それとも、忘れていた景色だったのか――

わたしのなかで、
ふたつの記憶が重なっている。

わたしのはずなのに、
知らない手触り。
わたしの部屋なのに、別の空気。

なにかが、
そっと、内側でずれている。

手紙を読んでから、
この身体に、わたしじゃない“何か”が、
すこしずつ入り込んできている気がする。

あるいは、
もともと、そこにいた“わたし”が
いま、目を覚まそうとしているのかもしれない。

「だいじょうぶ。あなたは、あなたのままで」

また、“声”がした。
その言葉は、わたしの胸の奥でふわりと広がる。

でも、わたしは訊きたくなる。

――“あなた”って、誰?

それは、わたしに向けた呼びかけなのか。
それとも、わたしが、誰かを呼んでいるのか。

ふと、鏡の前に立つ。

そこに映る自分の顔を、
じっと見つめる。

知っている顔。
けれど、どこか、知らない目をしていた。

わたしの奥で、
もうひとりの“わたし”が、
そっと、まばたきをした気がした。
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