【完結】せっかくモブに転生したのに、まわりが濃すぎて逆に目立つんですけど

monaca

文字の大きさ
23 / 33

第23話:誰かこの教師を捕まえてほしい

しおりを挟む
 わたしは死んだ。
 恥ずかしすぎて死んでしまった。

 コトダマの笑い声と、クラスメイトたちがわいわい盛り上がっている声が、どこか遠くで響いている。
 わたしは机にばたりと突っ伏して、おそらくは熟れたトマトのように真っ赤になっている顔を隠して、ひとりでそっと死体となった。

「お嬢様」

 死体に話しかけないでほしい。
 ただの屍は返事をしないんだから。

「お嬢様! おじょーさまっ!」
「……うるさいよ」

 耳元ではしゃいだ声をあげるマッスリーヌに、わたしは机に顔をつけたまま、横を向いて答えた。
 彼女は机の横にしゃがみこんで、そんなわたしの顔を覗き込むようにして言う。

「モブリンお嬢様には、あの写真がわたくしの顔に見えたんですよね?」
「……知らない。
 よく見えなくて適当に言っただけ」
「ふふっ、照れているのが答えです。
 わたくしのことをそんな目で見ていたのなら、おっしゃってくださればよかったのに。
 後ろではなく、こうしていつでも見える位置でお仕えいたしましょうか?」
「く~……」

 あのねえ。
 そうやってにこにこにこにこして、その顔がまた美人なのだから憎たらしい。

 正直な話、わたしは最初からマッスリーヌのことを美人だと思っていた。
 真顔になるたびにどきっとさせられていたが、ポージング中の笑顔も、それはそれで悪くない。
 腹筋バキバキや胸筋ガチガチに目がいってしまうが、それだって、顔とのギャップのせいなのだ。
 美しい彼女が、そうやって肌を見せて筋肉を震わせているのだから、どうしても自然と見つめてしまう。

 マッスリーヌは、彼女の筋肉を見るわたしの瞳にひと目惚れしたと言っていたが、わたしだって負けないくらいひと目惚れしている。
 ただ彼女がああいうキャラだから、言わないでいるだけで。

 でも、ビューティのスキルのせいで、その隠しごとがバレてしまった。
 恥ずかしい。
 とてつもなく気恥ずかしい。

 恥ずかしいから、会議を進めよう!
 わたしはがばっと身を起こして、教壇にいるコトダマに大声で言う。

「コトダマ先生、ビューティのスキルについてはよくわかりました。
 彼女の《カレイドスコープ》は、見る人の主観に合わせて彼女の顔を変えるから、絶対に世界一の美女の地位は揺るがない。
 写真にまで効果が及ぶのだから徹底しています。
 プリンスも、彼女の素顔は知らないのですね?」

 突然の会議の再開に誰もが驚いているが、わたしの勢いに押されてそれぞれ席に着いてくれた。
 マッスリーヌがにこっとして定位置に戻ったのが、なんかムカつく。
 形勢逆転のつもりか~?
 言っておくが、わたしは二度とデレるつもりはないからな!(言ってない)

 鼻息を荒くするわたしに、気圧されながらコトダマが答える。

「あ、ああ、プリンスも素顔は見えないだろうな。
 ビューティのスキル抜きの顔を知っているのは、彼女自身と、先生くらいのものだ」
「え、先生は見たんですか?」
「隠されると気になるのが人情ってやつだ。
 ほかの生徒がいないときに、《ザ・ワード》を使ってスキルを解除させた。
 女の恨みは怖いから、そのことはすぐに忘れさせて、彼女自身は覚えていないけどな」

 あんた、興味本位でなにやってんだよ。
 本当に倫理観がぶっ壊れている。

「……それで、どんな顔でしたか?」
「ああ、ちゃんと美人だった。
 言葉では説明しづらいが、まつ毛が長くて目が大きくて、肌は陶器のようで顎が小さい。
 ただまあ、好みは人によるからな。
 スキルで他人好みに変化させようと考えたビューティは、世界一をめざすなら唯一の正しい方法をとったと思う。
 先生も、素顔のあいつはガキにしか見えないが、スキルを使ったときのどエロ熟女顔には、本気でくらっときちまうくらいだから」

 生徒のまえで、どエロ熟女顔とか言うな。
 ていうかそれ、どんな顔なんだ。
 顔だけで表現できることなのだろうか。
 ……いやいや、教師の好みのことなど忘れよう。

「ありがとうございました。
 ビューティのスキルはよくわかったので、次はエスティークのスキルについて教えてください。
 たしか、快楽……」
「快楽全振り。
 こいつも体感すれば一発で理解できるんだが、まあそういうわけにもいかんか」

 そう話すコトダマは、今にもよだれを垂らしそうな顔をしている。
 ……聞きたくないなあ。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?

山下小枝子
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、 飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、 気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、 まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、 推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、 思ってたらなぜか主人公を押し退け、 攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・ ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

痩せすぎ貧乳令嬢の侍女になりましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます

ちゃんゆ
恋愛
男爵家の三女に産まれた私。衝撃的な出来事などもなく、頭を打ったわけでもなく、池で溺れて死にかけたわけでもない。ごくごく自然に前世の記憶があった。 そして前世の私は… ゴットハンドと呼ばれるほどのエステティシャンだった。 とあるお屋敷へ呼ばれて行くと、そこには細い細い風に飛ばされそうなお嬢様がいた。 お嬢様の悩みは…。。。 さぁ、お嬢様。 私のゴッドハンドで世界を変えますよ? ********************** 転生侍女シリーズ第三弾。 『おデブな悪役令嬢の侍女に転生しましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます』 『醜いと蔑まれている令嬢の侍女になりましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます』 の続編です。 続編ですが、これだけでも楽しんでいただけます。 前作も読んでいただけるともっと嬉しいです!

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

モブが乙女ゲームの世界に生まれてどうするの?【完結】

いつき
恋愛
リアラは貧しい男爵家に生まれた容姿も普通の女の子だった。 陰険な意地悪をする義母と義妹が来てから家族仲も悪くなり実の父にも煙たがられる日々 だが、彼女は気にも止めず使用人扱いされても挫ける事は無い 何故なら彼女は前世の記憶が有るからだ

ヒロインはモブの父親を攻略したみたいですけど認められません。

haru.
恋愛
「貴様との婚約は破棄だ!!!私はここにいる愛するルーチェと婚約を結ぶ!」 怒鳴り声を撒き散らす王子様や側近達、無表情でそれを見つめる婚約者の令嬢そして、王子様の側には涙目の令嬢。 これは王家の主催の夜会での騒動・・・ 周囲の者達は何が起きているのか、わからずに行く末を見守る・・・そんな中、夜会の会場の隅で・・・ (うわぁ~、これが乙女ゲームのクライマックス?!)と浮かれている令嬢がいた。 「違いますっ!!!! 私には他に愛する人がいます。王子様とは婚約は出来ません!」 今まで涙目で王子様の隣で大人しくしていた令嬢が突然叫び声をあげて、王子様から離れた。 会場にいた全員が、(今さら何を言ってるんだ、こいつ・・・)と思っていたその時、 「殿下っ!!! 今の言葉は誠でございますっ!ルーチェは私と婚姻いたします。どうかお許しください!」 会場にいた者達を掻き分けながら、やって来た男が叫び、令嬢を抱き締めた! (何か凄い展開になってきたな~)と眺めていたら・・・ (ん?・・・何か見覚えのある顔・・・あ、あれ?うそでしょ・・・な、なんでそこにいるの?お父様ぁぁぁぁ。) これは乙女ゲームから誰も気づかない内にヒロインがフェードアウトしていて、自分の父親が攻略されてしまった令嬢(モブ)の物語である。 (・・・・・・えっ。自分の父親が娘と同い年の女の子を娶るの?・・・え?え?ごめんなさい。悪いけど・・・本当申し訳ないけど・・・認められるかぁぁぁぁ!) 本編・ー番外編ーヴィオレット*隣国編*共に完結致しました。

転生した世界のイケメンが怖い

祐月
恋愛
わたしの通う学院では、近頃毎日のように喜劇が繰り広げられている。 第二皇子殿下を含む学院で人気の美形子息達がこぞって一人の子爵令嬢に愛を囁き、殿下の婚約者の公爵令嬢が諌めては返り討ちにあうという、わたしにはどこかで見覚えのある光景だ。 わたし以外の皆が口を揃えて言う。彼らはものすごい美形だと。 でもわたしは彼らが怖い。 わたしの目には彼らは同じ人間には見えない。 彼らはどこからどう見ても、女児向けアニメキャラクターショーの着ぐるみだった。 2024/10/06 IF追加 小説を読もう!にも掲載しています。

モブ令嬢、当て馬の恋を応援する

みるくコーヒー
恋愛
侯爵令嬢であるレアルチアは、7歳のある日母に連れられたお茶会で前世の記憶を取り戻し、この世界が概要だけ見た少女マンガの世界であることに気づく。元々、当て馬キャラが大好きな彼女の野望はその瞬間から始まった。必ずや私が当て馬な彼の恋を応援し成就させてみせます!!!と、彼女が暴走する裏側で当て馬キャラのジゼルはレアルチアを囲っていく。ただしアプローチには微塵も気づかれない。噛み合わない2人のすれ違いな恋物語。

転生したら乙女ゲームのヒロインの幼馴染で溺愛されてるんだけど…(短編版)

凪ルナ
恋愛
 転生したら乙女ゲームの世界でした。 って、何、そのあるある。  しかも生まれ変わったら美少女って本当に、何、そのあるあるな設定。 美形に転生とか面倒事な予感しかしないよね。  そして、何故か私、三咲はな(みさきはな)は乙女ゲームヒロイン、真中千夏(まなかちなつ)の幼馴染になってました。  (いやいや、何で、そうなるんだよ。私は地味に生きていきたいんだよ!だから、千夏、頼むから攻略対象者引き連れて私のところに来ないで!)  と、主人公が、内心荒ぶりながらも、乙女ゲームヒロイン千夏から溺愛され、そして、攻略対象者となんだかんだで関わっちゃう話、になる予定。 ーーーーー  とりあえず短編で、高校生になってからの話だけ書いてみましたが、小学生くらいからの長編を、短編の評価、まあ、つまりはウケ次第で書いてみようかなっと考え中…  長編を書くなら、主人公のはなちゃんと千夏の出会いくらいから、はなちゃんと千夏の幼馴染(攻略対象者)との出会い、そして、はなちゃんのお兄ちゃん(イケメンだけどシスコンなので残念)とはなちゃんのイチャイチャ(これ需要あるのかな…)とか、中学生になって、はなちゃんがモテ始めて、千夏、攻略対象者な幼馴染、お兄ちゃんが焦って…とかを書きたいな、と思ってます。  もし、読んでみたい!と、思ってくれた方がいるなら、よかったら、感想とか書いてもらって、そこに書いてくれたら…壁|ω・`)チラッ

処理中です...