【完結】せっかくモブに転生したのに、まわりが濃すぎて逆に目立つんですけど

monaca

文字の大きさ
24 / 33

第24話:無限快楽

しおりを挟む
 コトダマが語りだすまえに、ターコがしかたないといった感じで彼に告げた。

「いちおう言っておくけど、アタシたちは未成年だよ。
 子どもにあんまり刺激のつよい話はやめてくれ。
 できるだけオブラートに包んで――」
「あん? ターコてめえ、なにか勘違いしてんのか?
 もしかして快楽って言葉で、エロいこと想像したのか。
 まったく、これだからマセガキは」
「くっ……。
 違うなら悪かったよ」

 恥ずかしそうに下を向くターコに、まわりのクラスメイトたちが口々に慰めの言葉をかけている。
 傍若無人な教師に釘を刺そうとしてくれた彼女のことを、誰もがすごいと思っているのだ。
 思わぬ反撃に遭ったが、ターコのしたことは正しい。
 わたしも彼女と仲良くしたいと思った。

 というか、エロいことじゃなければ、快楽というのはなんの話なのだろう?

 そう考えたわたしと目が合うと、コトダマは満足そうに「これが快楽だ」と言ってきた。

「これ……って、どれのことですか?」
「先生に釘を刺すつもりだった生徒を、逆にやり込めた。
 このときに脳内に発生した『ざまあみろ』という感覚、これが快楽なんだ」

 ざまあみろって、あんた……。
 いまさら見損なうほどの人間性も残っていないけど。
 仮にも教師でしょうに。

 あきれるわたしに、コトダマは続ける。

「達成感とか爽快感とか、そういうのすべてが快楽だ。
 先生が未熟なおまえらにこうして説明してやっているのも、優越感という快楽のためだし。
 もっといえば生きていること自体が、次なる快楽を求める心があるおかげとも考えられる。
 ……ここまではわかるか?」
「勉強するのは嫌でも、テストでいい点がとれると嬉しいから頑張れる……みたいな?」
「そうだ、そのとおり。
 今おまえが物を考えて答えたのも、先生から『そうだ』と言ってもらう快楽のためだ。
 とにかく人間のほぼすべての活動が、こうして快楽を得たいという気持ちに根ざしている」

 難しい話だが、わからなくもない。
 こうして一見して難しいことを理解したいと思うのも、わかったときの喜びを求めているのだ。
 これを快楽と呼ぶなら、たしかにいろんな行動の根底にあることのような気がする。

「それで先生。
 エスティークのスキルは、この快楽に関するものなんですか?
 達成感をいつでも与えてくれる、みたいな?」

 わたしの質問に、コトダマはにやりとした。
 またなんらかの快楽を与えてしまったらしい。
 ああこの考えかた、頭のなかがうっとうしくなる。
 そろそろやめておこう。

 思いどおりの質問をした扱いやすいわたしに、コトダマは楽しそうに答える。

「それが逆なのが、エスティークの賢いところなんだ。
 やつのスキルは快楽をリセットする。
 慣れちまった感覚を、まるで初めて体験するもののように新鮮なものに戻してくれる」
「感覚の、リセット」
「ああ。
 さっきの勉強の話でいくと、何度もテストを繰り返していると、解けたときの達成感がしだいに失われていくだろう?
 受験勉強なんかでありがちだが、快楽のコントロールを怠ると、正解しても間違えても無感動になる。
 そんな状態をリセットして、何度でも初めてテストを解いたときの快楽を与えてくれるのが、エスティークのスキルだ」

 それは……たしかにすごい。
 達成感は達成したら失われるが、それがリセットできるなら無限に達成感を得られることになる。
 同じ山を登って毎回同じだけ感動できる。

「それはプリンスも重宝しているでしょうね」
「重宝どころじゃない。
 プリンスの《ラッキー・スター》にとって、いちばんの敵は退屈なんだ。
 なんでも思いどおりになる人生なんて、普通なら半年で飽きちまう。
 それを永久に維持できるんだから、もはやプリンスはエスティークに依存していると考えていい。
 彼女というか、彼女のスキル――《エロス》に」
「エロスって……」
「愛って意味だ。
 人類を退屈から救う、大いなる愛ってことだろう」

 エスティークの《エロス》。
 彼女のスキルは、ほかの生徒のスキルとは一線を画しているようにわたしには思えた。
 いったいどんな女性なのだろう。
 プリンスを甘やかしているのか、それとも純粋にサポートしているのか。
 彼の幸せを考えるうえで、彼女には会っておく必要があるだろう。

 まだ学校に残っているだろうかと考えたわたしの耳に、コトダマの呟きが聞こえてきた。

「まあ、エスティークがエロいのもたしかだがな。
 ガキのくせにすごい身体をしてやがる。
 もうすこし熟したらオレのスキルで……」

 警察はなにをしているんだ。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?

山下小枝子
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、 飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、 気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、 まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、 推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、 思ってたらなぜか主人公を押し退け、 攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・ ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

『異世界転生してカフェを開いたら、庭が王宮より人気になってしまいました』

ヤオサカ
恋愛
申し訳ありません、物語の内容を確認しているため、一部非公開にしています この物語は完結しました。 前世では小さな庭付きカフェを営んでいた主人公。事故により命を落とし、気がつけば異世界の貧しい村に転生していた。 「何もないなら、自分で作ればいいじゃない」 そう言って始めたのは、イングリッシュガーデン風の庭とカフェづくり。花々に囲まれた癒しの空間は次第に評判を呼び、貴族や騎士まで足を運ぶように。 そんな中、無愛想な青年が何度も訪れるようになり――?

【完結】 異世界に転生したと思ったら公爵令息の4番目の婚約者にされてしまいました。……はあ?

はくら(仮名)
恋愛
 ある日、リーゼロッテは前世の記憶と女神によって転生させられたことを思い出す。当初は困惑していた彼女だったが、とにかく普段通りの生活と学園への登校のために外に出ると、その通学路の途中で貴族のヴォクス家の令息に見初められてしまい婚約させられてしまう。そしてヴォクス家に連れられていってしまった彼女が聞かされたのは、自分が4番目の婚約者であるという事実だった。 ※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にも掲載しています。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ

さら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。 絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。 荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。 優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。 華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。

じゃない方の私が何故かヤンデレ騎士団長に囚われたのですが

カレイ
恋愛
 天使な妹。それに纏わりつく金魚のフンがこの私。  両親も妹にしか関心がなく兄からも無視される毎日だけれど、私は別に自分を慕ってくれる妹がいればそれで良かった。  でもある時、私に嫉妬する兄や婚約者に嵌められて、婚約破棄された上、実家を追い出されてしまう。しかしそのことを聞きつけた騎士団長が何故か私の前に現れた。 「ずっと好きでした、もう我慢しません!あぁ、貴方の匂いだけで私は……」  そうして、何故か最強騎士団長に囚われました。

転生した世界のイケメンが怖い

祐月
恋愛
わたしの通う学院では、近頃毎日のように喜劇が繰り広げられている。 第二皇子殿下を含む学院で人気の美形子息達がこぞって一人の子爵令嬢に愛を囁き、殿下の婚約者の公爵令嬢が諌めては返り討ちにあうという、わたしにはどこかで見覚えのある光景だ。 わたし以外の皆が口を揃えて言う。彼らはものすごい美形だと。 でもわたしは彼らが怖い。 わたしの目には彼らは同じ人間には見えない。 彼らはどこからどう見ても、女児向けアニメキャラクターショーの着ぐるみだった。 2024/10/06 IF追加 小説を読もう!にも掲載しています。

処理中です...