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03 塔の上をめざして
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「なんてこと……」
封魔の塔に着いたフェリシアは、愕然とした。
塔の扉が開放されている。
マリーが封印を解いたのだ。
慌てて馬から降りようとする彼女を、近衛兵が抱えて降ろしてくれた。
殿方から軽々と横抱きにされる心地よさに、思わず一瞬ぽわっとしたが、すぐに首を振ってそれを払い落とす。
先に着いて塔を見上げていた王太子が、フェリシアを振り返って言った。
「このなかに入ると、どうなるのだ?」
「普段はわたしの加護があるので、なかに入ったくらいではどうということもないのですが……。
マリーはおそらく魔王に操られて、塔の上に向かったと思います。
魔王復活の依り代となるために」
「くっ」
すでに手遅れかもしれない。
フェリシアは、自分が気絶していた時間を考えた。
五分……いや、十分はあったかもしれない。
でも、そこからは馬に乗せてもらったおかげで、妹との距離は縮まっていたはずだ。
「わたしは上に向かいます。
魔王が復活したら王都が危険です。
サミュエル様は、どうか戻られますよう」
王都というか、マリーの狙いは王太子だ。
もし魔王となったマリーの身体に、すこしでも彼女自身の意思が残っているのなら、まずここにいる彼を殺すにちがいない。
あらぬ疑いをかけて妹との婚約を破棄した彼だ。
フェリシアだって憎まないわけではない。
彼がいなければ、あんなことをしなければ、妹の命が危険に晒されることはなかったのだから。
でも、それでも。
あの子に人殺しをさせるわけにはいかない。
聖女として……いや、姉として。
「それでは行きます」
「待て」
サミュエルが引き止めた。
近衛兵をひとり、まえに進め、
「こいつを連れていけ。
聖女になにかあると、それはそれで王都が危ない。
おれは戻って、もしものために守りを固めておく」
「ありがとうございます」
先ほど馬に乗せてくれた近衛兵だろうか。
同じ装備をして兜で顔が隠れているので、どちらがどちらなのかのよくわからない。
フェリシアは近衛兵にうなずくと、彼とともに塔の螺旋階段を走りはじめた。
ガチャガチャと鎧が鳴る。
そんな重装備をしてフェリシアよりも速く走ることができるなんて、いったいどれほどの訓練を積んできたのだろう。
彼女は彼を頼もしく思った。
「大変だな、聖女は。
女の身で危険と立ち向かうとは」
馬に乗せてくれたときの声と同じだ。
同じ彼だったのだ。
なぜだかフェリシアは、すこし嬉しく感じた。
「それが役目ですから。
でもいまは、聖女より、お姉ちゃんの気持ちかも」
「そうか。
間に合うといいな」
「はい!」
足が軽くなった気がして、遥か高いはずの塔の屋上も、全然遠くないように思えた。
封魔の塔に着いたフェリシアは、愕然とした。
塔の扉が開放されている。
マリーが封印を解いたのだ。
慌てて馬から降りようとする彼女を、近衛兵が抱えて降ろしてくれた。
殿方から軽々と横抱きにされる心地よさに、思わず一瞬ぽわっとしたが、すぐに首を振ってそれを払い落とす。
先に着いて塔を見上げていた王太子が、フェリシアを振り返って言った。
「このなかに入ると、どうなるのだ?」
「普段はわたしの加護があるので、なかに入ったくらいではどうということもないのですが……。
マリーはおそらく魔王に操られて、塔の上に向かったと思います。
魔王復活の依り代となるために」
「くっ」
すでに手遅れかもしれない。
フェリシアは、自分が気絶していた時間を考えた。
五分……いや、十分はあったかもしれない。
でも、そこからは馬に乗せてもらったおかげで、妹との距離は縮まっていたはずだ。
「わたしは上に向かいます。
魔王が復活したら王都が危険です。
サミュエル様は、どうか戻られますよう」
王都というか、マリーの狙いは王太子だ。
もし魔王となったマリーの身体に、すこしでも彼女自身の意思が残っているのなら、まずここにいる彼を殺すにちがいない。
あらぬ疑いをかけて妹との婚約を破棄した彼だ。
フェリシアだって憎まないわけではない。
彼がいなければ、あんなことをしなければ、妹の命が危険に晒されることはなかったのだから。
でも、それでも。
あの子に人殺しをさせるわけにはいかない。
聖女として……いや、姉として。
「それでは行きます」
「待て」
サミュエルが引き止めた。
近衛兵をひとり、まえに進め、
「こいつを連れていけ。
聖女になにかあると、それはそれで王都が危ない。
おれは戻って、もしものために守りを固めておく」
「ありがとうございます」
先ほど馬に乗せてくれた近衛兵だろうか。
同じ装備をして兜で顔が隠れているので、どちらがどちらなのかのよくわからない。
フェリシアは近衛兵にうなずくと、彼とともに塔の螺旋階段を走りはじめた。
ガチャガチャと鎧が鳴る。
そんな重装備をしてフェリシアよりも速く走ることができるなんて、いったいどれほどの訓練を積んできたのだろう。
彼女は彼を頼もしく思った。
「大変だな、聖女は。
女の身で危険と立ち向かうとは」
馬に乗せてくれたときの声と同じだ。
同じ彼だったのだ。
なぜだかフェリシアは、すこし嬉しく感じた。
「それが役目ですから。
でもいまは、聖女より、お姉ちゃんの気持ちかも」
「そうか。
間に合うといいな」
「はい!」
足が軽くなった気がして、遥か高いはずの塔の屋上も、全然遠くないように思えた。
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