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13 天罰
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フェリシアのまえで、マリーが苦戦している。
たしかに彼女の魔王としての力は強いが、王都を守る加護の力はわずかにそれを上回っていた。
何度も何度も上空から滑空し、衝突する。
壁のごとく立ちはだかる神聖な青い光に、邪悪な黒いオーラがぶつかって火花を散らす。
衝突しては弾かれ、弾かれては衝突する。
もうすこしで破れそうな気がするが、そのもうすこしが決定的な差のように感じられた。
「マリー!
お願い、もうやめて!」
「……お姉ちゃん」
フェリシアが悲痛な叫びをあげて駆け出すと、マリーは空中での衝突をやめ、ふわりと地面へ降り立った。
城門の中とそとで姉妹が向かい合う。
あいだには一見なにもないように見えるが、マリーを焼く加護の壁が存在する。
近衛兵がひとり寄ってきて、フェリシアが門から出ないように肩を掴んだ。
「マリー……わたし……」
「お姉ちゃんがそとに出ても、加護は消えないよ。
だってお姉ちゃんは王都の聖女だもん。
王都から追放されたりしたら話は別だと思うけど、あいつがそんなことするわけないから無理。
自分で破るから、そこから離れて」
妹の手助けをしたかった。
そのために夜の街をさまよい、イアンに抱かれたのに……。
あのくらいでは神様の逆鱗に触れず、加護を失うことができなかった。
「ごめんなさい、マリー」
「いいよ、お姉ちゃんはそのままで。
これはアタシとあいつの問題だから。
心配かけてごめんね」
さらになにか言おうとするフェリシアを、近衛兵が「どうか下がっていてほしい」と囁いて引き離した。
ボードマンの声だ。
「ボードマン、わたし悪女になれなかった。
あなたの言うように加護はまだある。
ねえ、どうすればいい?
どうすれば妹を助けることができるの?」
「大丈夫だ。
もうじき天罰がくだる」
「天罰?」
なんのことだろう。
あのとき牢屋でほのめかしていた作戦だろうか。
心が穢れるからと言って、けっして彼女に明かしてくれなかったが、彼にはなにか秘策があるようだった。
マリーは再び空へと浮かんだ。
大きなうなり声をあげ、全身を包むオーラがさらに力を増す。
全力でくるに違いない。
「よし、頃合いだ。
魔王の力に合わせて加護が最大限に高まっている。
これなら申し分ない」
ボードマンはフェリシアを抱き上げ、門を離れた。
王太子とほかの近衛兵たちが並んでいるところより、さらにうしろまで後退する。
魔王と対峙する彼ら全体を見渡せる位置だ。
サミュエルは口元をにやつかせて馬にまたがり、マリーの本気を見物している。
彼女が無様に焼かれる姿を楽しむつもりなのだろう。
自分のまわりにはまるで注意を払っていなかった。
そのとき――
「いまだ!」
近衛兵のひとりが手を挙げた。
鎧の装飾が異なるので、あれはたぶん隊長のはず。
「それ、いくんだ!」
隊長の合図で、サミュエルのいちばん近くにいた近衛兵が、彼のまたがっている馬の尻を蹴った。
突然の衝撃にいななきをあげるサミュエルの馬。
「お、おい、貴様なにを……!」
王太子は、走り出した馬の背中で狼狽している。
落馬を恐れてバランスをとるので精いっぱいだ。
そんな彼を乗せ、驚いた馬は全力で走る。
走って走って――
そしてそのまま、城門のそとに出た。
「あら~?
サミュエルじゃないの。
あなたのほうから出てきてくれるなんて、意外に男らしいところがあるのね。
うふふふふ」
「ひ、ひいいい!」
サミュエルは門の外側で魔王と対峙していた。
そこは王都を守る加護の範囲外なので、ふたりのあいだを邪魔するものはなにひとつ存在しなかった。
たしかに彼女の魔王としての力は強いが、王都を守る加護の力はわずかにそれを上回っていた。
何度も何度も上空から滑空し、衝突する。
壁のごとく立ちはだかる神聖な青い光に、邪悪な黒いオーラがぶつかって火花を散らす。
衝突しては弾かれ、弾かれては衝突する。
もうすこしで破れそうな気がするが、そのもうすこしが決定的な差のように感じられた。
「マリー!
お願い、もうやめて!」
「……お姉ちゃん」
フェリシアが悲痛な叫びをあげて駆け出すと、マリーは空中での衝突をやめ、ふわりと地面へ降り立った。
城門の中とそとで姉妹が向かい合う。
あいだには一見なにもないように見えるが、マリーを焼く加護の壁が存在する。
近衛兵がひとり寄ってきて、フェリシアが門から出ないように肩を掴んだ。
「マリー……わたし……」
「お姉ちゃんがそとに出ても、加護は消えないよ。
だってお姉ちゃんは王都の聖女だもん。
王都から追放されたりしたら話は別だと思うけど、あいつがそんなことするわけないから無理。
自分で破るから、そこから離れて」
妹の手助けをしたかった。
そのために夜の街をさまよい、イアンに抱かれたのに……。
あのくらいでは神様の逆鱗に触れず、加護を失うことができなかった。
「ごめんなさい、マリー」
「いいよ、お姉ちゃんはそのままで。
これはアタシとあいつの問題だから。
心配かけてごめんね」
さらになにか言おうとするフェリシアを、近衛兵が「どうか下がっていてほしい」と囁いて引き離した。
ボードマンの声だ。
「ボードマン、わたし悪女になれなかった。
あなたの言うように加護はまだある。
ねえ、どうすればいい?
どうすれば妹を助けることができるの?」
「大丈夫だ。
もうじき天罰がくだる」
「天罰?」
なんのことだろう。
あのとき牢屋でほのめかしていた作戦だろうか。
心が穢れるからと言って、けっして彼女に明かしてくれなかったが、彼にはなにか秘策があるようだった。
マリーは再び空へと浮かんだ。
大きなうなり声をあげ、全身を包むオーラがさらに力を増す。
全力でくるに違いない。
「よし、頃合いだ。
魔王の力に合わせて加護が最大限に高まっている。
これなら申し分ない」
ボードマンはフェリシアを抱き上げ、門を離れた。
王太子とほかの近衛兵たちが並んでいるところより、さらにうしろまで後退する。
魔王と対峙する彼ら全体を見渡せる位置だ。
サミュエルは口元をにやつかせて馬にまたがり、マリーの本気を見物している。
彼女が無様に焼かれる姿を楽しむつもりなのだろう。
自分のまわりにはまるで注意を払っていなかった。
そのとき――
「いまだ!」
近衛兵のひとりが手を挙げた。
鎧の装飾が異なるので、あれはたぶん隊長のはず。
「それ、いくんだ!」
隊長の合図で、サミュエルのいちばん近くにいた近衛兵が、彼のまたがっている馬の尻を蹴った。
突然の衝撃にいななきをあげるサミュエルの馬。
「お、おい、貴様なにを……!」
王太子は、走り出した馬の背中で狼狽している。
落馬を恐れてバランスをとるので精いっぱいだ。
そんな彼を乗せ、驚いた馬は全力で走る。
走って走って――
そしてそのまま、城門のそとに出た。
「あら~?
サミュエルじゃないの。
あなたのほうから出てきてくれるなんて、意外に男らしいところがあるのね。
うふふふふ」
「ひ、ひいいい!」
サミュエルは門の外側で魔王と対峙していた。
そこは王都を守る加護の範囲外なので、ふたりのあいだを邪魔するものはなにひとつ存在しなかった。
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