勘違いから始まる吸血姫と聖騎士の珍道中

一色孝太郎

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正義と武と吸血鬼

第十二章第28話 再びの精霊神

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 白い光が消えると、私はいつの間にか色とりどりの花が咲き乱れる場所にいた。そこにはテーブルと二脚の椅子が置かれていて、片方には大きくなったリーチェが座っている。

「いらっしゃい、フィーネちゃん。久しぶりね」
「精霊神様、ですよね?」
「ええ、そうよ」
「あの、クリスさんたちは?」
「大丈夫よ。あの子たちには元の浜辺に戻ってもらったわ。ここは精霊界と人間界の狭間。資格のない者が立ち入れば、その命を代償として支払うことになるの」
「そうですか」

 そんなに危険な場所だったのか。ならば一人で来たほうが良かったのかな?

「そうね。でも、悪いことばかりではないはずよ」
「どういうことですか?」
「ふふ。すぐに分かるわ」

 精霊神様はそう言ってリーチェの顔で優しく微笑んだ。意味深な言葉は気になるが、世界一かわいいリーチェの顔で微笑まれては聞く気も失せてしまう。

「フィーネちゃん、そんなことよりも聞きたいことがあったんじゃないかしら?」
「あ、はい。そうです。瘴気について教えてください。冥龍王はどうして自ら瘴気を引き受けたんですか? それに、どうしてこんな瘴気なんてものが!」

 食い気味に質問する私に精霊神様は笑顔のまま返事をしてくる。

「フィーネちゃん、落ち着いて。瘴気について知りたいのね?」
「はい」
「わかったわ。その話をする前に、まずはあなたたちが進化の秘術と呼んでいる技術についての説明が必要ね」
「え?」
「進化の秘術はね。かつて人の神によって生み出されたものなの」
「ええっ!?」

 人の神様が? あのハゲ……あ、あれは代理だっけか。

「そうね。あの子は代理よ。元々あの子は人の神に仕えていた子だったから」
「はぁ」
「人の神は人間が増えるのと時を同じくして瘴気に汚染され、ゆっくりと破滅へと向かって進んでいく世界を憂いていたわ」
「……ええと、神様がそういう風に世界を作ったんじゃないんですか?」

 すると精霊神様は寂しげに首を横に振った。

「いいえ、違うわ。この世界は最初からそのようにできていたの。私たちはそれをどうにかしようとしているだけ」
「……」

 創世神様みたいな存在はいないのだろうか?

「そうね。もしそんな存在がいるのなら、どうしてこんな世界にしたのか聞いてみたいものだわ」
「……」
「話を戻すわね。世界を瘴気から救うため、人の神は瘴気を研究したわ。そして、この世界の深淵に横たわることわりにたどり着いたの」
「理?」
「ええ。人の神はそれを『深淵の理』と名付けたわ」
「深淵の理?」
「そう。人間の魂そのものが放つ感情の力。そのうち負の側面は瘴気となり、正の側面は瘴気を相殺する光となる」
「光……」
「でも世界の正と負のバランスは崩れていて、負の側面のほうが圧倒的に多いわ」
「はい」
「そうして瘴気が増えるとやがて似たような感情から生まれた瘴気が集まり、魔物となる。その魔物が衝動の赴くままに暴れることでその負の感情を消化し、瘴気を浄化しているの。これがこの世界において瘴気を浄化する仕組みよ。ここまでは知っているわね?」
「はい。ベルードから聞きました」
「そう。今代魔王を目指している子だったわね」
「はい」

 すると精霊神様はどことなく悲しそうに微笑んだ。

「そこで人の神は瘴気に干渉する方法を研究したわ。魔物を生み出すことなく、瘴気のみを浄化するために」
「それで、どうなったんですか?」

 精霊神様は悲し気に首を横に振った。 

「人の神はね。瘴気に干渉する方法を開発することには成功したわ。深淵の理を解き明かし、それを自在に操ることに成功したの。それが深淵の秘術、今のフィーネちゃんたちが進化の秘術と呼んでいるものよ」
「っ! なら!」

 どうして人の神代理が必要で、どうしてまだこの世界は瘴気に苦しんでいるのだろうか?

「それはね。瘴気に干渉することはできても、消滅させることができなかったからよ」
「……」
「そこで人の神は考えたの。今は魔物に脅かされ、絶望しているからこそ負に偏ってしまっているのだ、と。だから魔物が現れなくなり、恐怖におびえることが無くなれば人々の心は正に偏り、過去の瘴気すらもすべて浄化できるほど強く光り輝いてくれる、とね」

 え? まさか……?

「そう考えた人の神は自らの神格を捨てて地上に降り、深淵の秘術を使って世界からすべての瘴気を集めたわ」
「……」
「それからおよそ千年間、魔物が一切存在しない平和な世界が続いたわ」

 魔物が生まれない世界。それは人を襲う魔物がおらず、魔物が衝動に苦しむことの無いまるで夢のような世界だ。

「その時代の人々は平和を謳歌したわ。魔物の恐怖を忘れ、繁栄を極めた。そして……」

 精霊神様はそう言うと、真剣な目で私の目をすっと見据えてくる。私はその目をしっかりと見つめ返すと、続きを促した。

「それでどうなったんですか?」
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