勘違いから始まる吸血姫と聖騎士の珍道中

一色孝太郎

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聖女の旅路

第十三章第26話 ヴェダへの道

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 それからシーナさんは数匹の魔物にトドメを刺したものの、精神的に限界になってしまったため、私たちはアーユトールの太守の館へ戻ってきた。

「す、すみません。せっかくお気遣いいただいたのに……」
「大丈夫です。シーナさんはとても優しいですね」
「すみません。どうにも生きているものを殺すという感覚がどうしても……」

 まあ、その気持ちは分かる。私の場合はゾンビ退治から始まったのでかなりマシだったが……。

「でも、レベルアップできたのではござらんか?」
「え?」

 シーナさんは私たちから見えないようにしながらステータスを確認する。

「……あ、そうですね。【回復魔法】のスキルレベルも上がりました」
「それは良かったです」
「はい。ありがとうございます」

 レベリングの最中ずっと辛そうにしていたシーナさんはようやく笑顔を見せてくれたのだった。

◆◇◆

 それから数日アーユトールに滞在して周囲の魔物たちを解放してあげ、私たちはシーナさんたちに見送られてグリーンクラウド王国の王都であるヴェダへと旅立った。

 アーユトールから王都ヴェダへの道も拡幅工事の途中なようで、たびたび片道一車線の石畳が敷かれた立派な道路を通ることができた。

 拡幅工事が行われた場所は快適に進めていたのだが、残念ながら山岳地帯に入って一気に道が険しくなった。どうやらこのあたりは拡幅工事がまったく行われていないらしく、馬車一台通るのがやっとの狭く曲がりくねった道が続いているのだ。

 しかも驚いたことに、なんと渋滞が発生しているのだ。

 御者さんの話によるとシーサーペントのせいで海運が使えなくなり、山越えの道に荷物が集中していることが原因らしい。

 そんなわけで私たちはかれこれ一時間ほど馬車がまったく動かない状態で待っている。

「……動きませんね」
「そうですね。ちょっと様子を見てきましょうか?」
「じゃあ、お願いします」
「はい」

 クリスさんが馬車を降り、状況の確認に向かってくれた。それからしばらく待っていると、クリスさんが戻ってきた。

「フィーネ様、もしかすると今日はこのまま動かないかもしれません」
「え? どうしたんですか?」
「はい。この先の山道で立ち往生が発生しているそうです」
「どんな状況なんですか? 馬車が壊れたとか?」
「いえ、そうではなく、待避所で渋滞が発生してしまったそうです」
「待避所ですか?」
「はい。待避所というのはここに来る途中にもご覧になったかもしれませんが、馬車同士がすれ違うために道幅を広くした場所のことです」
「ああ、あれですか」
「どうやらそこで退避できるよりも多くの馬車が来てしまい、上り下りの両方の馬車が待避所を先頭に長い渋滞ができてしまっているそうです」

 それは……話を聞くだけでもものすごい大変そうだ。

「そこで今はグリーンクラウド王国兵が最後尾の馬車から順にバックさせているそうですが、待避所が塞がっているので馬車の向きを変えるのがかなり大変な状況のようです」
「ああ、なるほど。となると、今日は野宿ですかね?」
「おそらくは」

 うーん、チャンドラ王子が先に伝えてくれているだろうからそこまで急ぐ必要はないが、かといってあまりのんびりしすぎるのもよろしくない。

「そうですね。じゃあ、歩きますか? もし森に入ることになってもルーちゃんがいれば楽に移動できますし」
「フィーネ様がそう仰るのでしたら」
「いやいや、馬車はどうするでござるか? 流石にこの大きさはもう入らないのではござらんか?」
「あ……」

 シーナさんたちが気をつかってかなり大型の馬車を用意してくれたというのもあるが、大量に買い込んだ炭が地味に容量を圧迫しているのだ。

 ちなみにどのくらい買ったのかというと、測ったわけではないがおそらく数十トンというレベルだ。倉庫に入っていたものを丸ごと買い取ったのだから当然と言えば当然なのだが、さすがにこれ以上は入らないだろう。

 あ、でも待てよ?

「SPもだいぶ貯まっていますし、もしかしたらレベルを上げられるかもしれません」

 試しに貯まっていたSPを次元収納につぎ込んでいくと、なんと390を追加したところでようやく次元収納のレベルが4に上がった。

「あ、レベルが上がりました。これで今までよりもかなり入れられるようになったはずです」
「馬車も入るでござるか?」
「相当余裕があると思いますよ。前にレベルを上げたときは白銀の里でしたけど、それまでの限界より何倍も大きな岩をいくつも収納に入れられるようになりましたから」
「それほどでござるか……」
「はい。というわけで、ちょっと試してみましょう」

 私たちは馬車を降り、御者さんに声を掛ける。

「すみません」
「聖女様? 申し訳ございません。まだまだ掛かりそうでして……」
「はい。話はお聞きました。なので歩いて行こうと思うんですけど――」
「えっ!? そ、そんな! 私の役目は聖女様をヴェダまで無事に送り届けることです。役目を放棄することなどできません!」
「ですが、ここでじっと待っているわけにもいかないですからね。それと、私たちだけで歩いて行くなんて言っていません。あなたにも申し訳ないですが一緒に歩いてもらって、山を越えたらまた御者をお願いしたいんですけど……」
「えっ? ですが馬車は……」
「それは私の収納に入れて運びます。馬が通れるくらいの」
「はい!? 聖女様は【収納】のスキルをお持ちなのですか!?」

 御者さんは大声で叫び、それからハッとした表情で謝ってくる。

「も、申し訳ございません。聖女様がお持ちのスキルを……」
「大丈夫ですよ。アーユトールでも見せていますから」

 【次元収納】はだいぶ前からあちこちで見せているし、今さらだ。

 他人のステータスやスキルをばらすのはその人の身の安全のためにも良くないことだが、今の私に悪さをしようとするような人間はそうそういないだろう。それにそもそも普通の人間とはステータスが違いすぎるので、私をどうにかしようと思ってもそう簡単にはできないはずだ。

「というわけで、大変ですがお願いできますか?」
「は、はいぃ」

 御者さんは大慌てで御者台から降りると、馬と馬車を繋ぐ金具を外した。

「聖女様、どうぞ」
「はい」

 私はそのまま馬車を収納した。

「ひょえっ?」

 御者さんは腰を抜かし、渋滞で止まっていた周囲の人たちからもどよめきが起こる。

「大丈夫ですか?」
「は、はいっ。ええと、はい! 馬は私が責任をもって引いて参ります」
「よろしくお願いします」

 こうして私たちは渋滞している車列の脇を歩いていくことに決めたのだった。
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