勘違いから始まる吸血姫と聖騎士の珍道中

一色孝太郎

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聖女の旅路

第十三章第27話 渋滞するあい路

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 渋滞している車列を横目に私たちは峠道を歩いて登っている。いや、正確に言うなら私以外が歩いて登っている。というのも、御者さんが私を歩かせるわけにはいかないと言って私を馬車馬の背中に乗せてくれたのだ。別に歩いても私は気にしないのだが、御者さんなりに気をつかってくれているのだろう。それを無下にするのも悪いからね。
 
 一方、渋滞で動けなくなった人たちは横をすり抜けていく私たちを羨ましそうに見ているが、まあそれはそれだ。

「やはり商人たちが多いようでござるな」
「はい。シズク様の仰るとおりです。この峠道はアーユトールとヴェダを結ぶ道の中で唯一、馬車での通行が可能な道ですので、船が使えなくなった今はほとんどの商人たちがこの道を通ることになっているのです」
「そうでござるか」

 シズクさんに御者さんがそう答えてくれた。

「それでグリーンクラウドの皆さんは頑張って道の拡幅工事をしていたんですね」
「そのとおりでございます」
「つまり、急いで道の拡幅工事をしたのはいいものの、肝心の峠道が整備しきれなかったということでござるな」
「お恥ずかしい限りですが、仰るとおりです」

 でもやるべきこととしては間違っていない気がするし、いずれ道が完成すればこの状況も収まるのだろう。

 そんなことを思いつつ、渋滞の脇をすり抜けて一時間ほどすると渋滞の先頭らしき場所にやってきた。

 そこは切り立った断崖絶壁の上に作られたとても細い道で、右にある谷底には激しいしぶきを立てながら急流が流れている。

 高さはおよそ五十メートルほどだろうか?

 もし足を滑らせたら大変なことになりそうだ。

 左の山側もまた切り立った崖となっており、ごつごつとした荒々しい岩がそこかしこにせり出している。もし崖崩れが起きようものなら大変なことになりそうだ。

 そんな岩肌削り取って作られたと思われる待避所は馬車二台分ほどの広さしかないのだが、そこに無理やりアーユトール方面から来た三台の馬車が待避している。そしてヴェダ方面から来た馬車は待避所から五メートルほどアーユトール寄りの位置で対向車と正面から向かい合っており、そこを先頭に両方向に長い渋滞が発生している。

「これは……」

 そう言って御者さんは頭を抱えてしまった。というのも、道があまりにも狭すぎて馬車どころか馬すらも通り抜ける余裕がなさそうなのだ。

「フィーネ様、これは無理です。引き返して別の道を探したほうが良いかもしれません。馬は狭い場所が苦手な生き物ですから、あそこまで狭い場所に馬を通そうとすると暴れてしまうでしょう」

 クリスさんの言葉に御者さんもうなずいている。

「そうなんですね。じゃあ――」
「姉さまの防壁はダメなんですか?」
「え? ああ、たしかにここは崖沿いですし……」
「どうだろう。馬は透明の防壁の上に乗るのを怖がると思うが……」
「じゃあ、防壁の上に土とか乗せたらどうですか?」
「ああ、それなら大丈夫かもしれないな。フィーネ様、お力をお借りできますでしょうか?」
「はい。やってみましょう」

 私は馬から降り、道沿いに道路を拡幅するような形で透明の防壁を設置しようとしたが、ふとこんな考えが頭をよぎる。

 これ、もしかしてもっと広く作ればこのあたりの馬車をすべて待避させられるのでは?

 だったら形が自由に作れる結界のほうがいいだろう。よし!

 私は谷全体が道路となるような形をイメージして結界を張った。

「見えている範囲はすべて結界を張りました。これでもう落ちないので、馬車を通してしまいましょう」
「えっ?」

 御者さんが何を言っているのか分からないという表情で聞き返してきた。

「ですから、谷側に結界を張りました。だからその上を通ってもらえば渋滞も解消できますよ」

 私はそう言って結界の上に乗り、見えない地面があることを証明する。

「ひょえっ?」

 御者さんは妙な声を上げ、そのまま固まってしまった。

「聖女フィーネ・アルジェンタータ様が奇跡を起こされた! 今この谷の上には見えない道ができている!」

 御者さんが固まったのを見てクリスさんが大声を上げた。

「お前たち! 見えない道の上に土でも小石でもいい! 何かを乗せて馬が恐れずに進めるようにするんだ!」

 クリスさんの声に周りの人はざわつき、ひそひそと何かを話し始めた。

 だが私が空中にある半透明の結界の上に立っているのを見て一人、また一人と小石を拾って結界の上に置いてくれる。

 そして三十分ほどで結界の上には土や小石、枯れ草などが敷き詰められ、その上をヴェダ方面から来た馬車が進んでいく。

「聖女様、ありがとうございます!」
「神の御心のままに」

 私の前を通過していく馬車からは口々に感謝の言葉が聞こえてくる。

 うん。いいことをしたわけだし、なんだかちょっぴり気分がいいね。

 そうこうしているうちにヴェダ方面からの馬車がすべて結界の上に乗り、続いてアーユトール方面からの馬車が登っていく。やがてヴェダ方面へのすべての馬車が抜けていくと、今度はアーユトール方面への馬車が動き出す。

 そうしてすべての馬車が移動し、結界の上に馬車がいないことを確認した私は道の上へと戻って結界を解除した。すると結界の上に乗せられていた石などはそのまま谷底へと落下し、激しい川の流れに飲まれてあっという間に消えていく。

 こうして渋滞を解消した私たちは馬車を出して乗り込んだ。そして馬車がゆっくりと動き出したところでシズクさんがポツリとつぶやく。

「フィーネ殿、最初からこうしておけば【収納】のレベルを上げなくても良かったのではござらんか?」
「あ……」
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