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聖女の旅路
第十三章第42話 不可解な現場
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エロ仙人の庵を出発して五日後、私たちは戦いがあったらしい場所が見える尾根にたどり着いた。本来は三日で到着できる距離だったにもかかわらず五日もかかってしまったのは、私以外の三人が薄い空気に参ってしまったからだ。
ちなみにエロ仙人は庵に残ると言ったため、同行していない。嵐龍王のところに行けば命の危険があるのだから無理強いはできないし、仕方のないことだろう。エロ仙人が何者なのかは気になるところではあるが、嵐龍王をどうにかすることのほうが今は遥かに重要だ。
さて、そんなわけで雪道をなんとか登ってきたわけだが、尾根の向こう側は惨憺たる有り様だった。よほど激しい戦いがあったのか、一帯の山の上のほうはすべて吹き飛んでおり、最高峰があったはずなのにいま私たちが立っている尾根よりも見るからに標高が低くなっている。
そして一昨日から爆発音が聞こえなくなっていたので薄々感づいてはいたが、やはり戦いはすでに終わっていた。
「何もないでござるな。それにこれほど崖崩れが起きていると、下に降りるのも難しそうでござるな」
シズクさんの言うとおり、激しい戦いのせいでそこかしこに崖崩れの跡がある。しかもまだ落石が起きており、次の崖崩れや雪崩がいつ起きてもおかしくない状況に見える。
「一体誰がこのような戦いを? 炎龍王のときのことを考えれば、フィーネ様も勇者シャルロット様もいない状況で戦うなど……」
「少なくとも、ただ者ではないことはたしかでござるな」
「シズク殿……そうだな。フィーネ様に害を及ぼす者でなければいいのだが」
「クリスさん、シズクさん、それよりも嵐龍王はどうなったと思いますか?」
「む、そうでござったな。ただ、進化の秘術を使って不死となった嵐龍王を倒すことはできないのではござらんか?」
「そうですね。だとすると……嵐龍王は近くの村を」
「っ! 近くで一番人口が多いのはチャーヴァのはずです!」
それはそうなのだが……。
「クリス殿、嵐龍王がもしチャーヴァに向かったのであれば、拙者たちがその姿を目撃しているはずでござるな」
「ですよね」
私は再び向こう側の山に視線を送る。
……ん? あの岩に埋まっている緑色のものは何だろう?
「シズクさん、あそこにある緑色のってなんだと思いますか?」
「緑色……どこでござるか?」
「ほら、あの向こう側の山のあそこです。大きな岩の左下あたりにある――」
「んん? ……ああ、あれでござるか……ん? あれは、もしやドラゴンの尻尾ではござらんか?」
「え? ……あ! 言われてみればたしかに! ……ええと、ちょっと行って見てくるので卵をお願いします」
私はホーリードラゴンの卵をクリスさんに手渡すと防壁で足場を作り、空中を走っていく。
「フィーネ様!? お待ちください!」
「高山病が再発するかもしれないですし、そこで待っていてください」
「そんな!」
クリスさんの悲鳴が聞こえてくるが、歩くだけで辛そうにしていたのだからあまり無理をするべきではない。それにもし崖崩れが起きても私は少しの間なら空を飛べるので問題ない。
こうして私は足場を伝い、緑色の何かがあった場所にやってきた。
うん。これはたしかにドラゴンの尻尾に見える。腐っても干からびてもいないということは、死んでからまだあまり時間が経っていないということなのだろう。
私は積み重なった瓦礫を収納に入れては次々と崖下に捨てていく。するとその下からは潰れた巨大な緑色のドラゴンの死体が出てきた。
……ええと、これってもしかして嵐龍王だったりするのだろうか?
ドラゴンの死体は瓦礫の下敷きになったせいもあってかかなりぐちゃぐちゃになっているが、切り傷らしきものも多数あるようだ。
うーん。嵐龍王だとすると、瘴気をたくさん持っているはずだ。これが今一気に広がるのは問題がありそうだし、種を使って浄化しておいたほうがいい気がする。
よし!
私はリーチェを召喚した。
「リーチェ、あの嵐龍王らしいドラゴンの死体を浄化したいんですけど、種を貰えますか?」
するとリーチェは嵐龍王をじっと見つめた。リーチェはものすごく真剣な目で嵐龍王を見ており、なんというか、やはりとてもかわいい。
そんなリーチェを観察しているとリーチェは私のほうに向き直り、首をふるふると横に振った。
「え? どういうことですか? え? 必要ない?」
リーチェはこくこくと頷いた。
「でも嵐龍王は瘴気を……って、え? もしかして瘴気が残っていないんですか?」
するとリーチェは再びこくこくと頷いた。
「そうですか。ありがとうございます」
するとリーチェは手を振り、そのまま帰っていった。
うーん? 進化の秘術を使っているはずなのに瘴気が残っていないというのはどういうことだろうか?
すると突然私の足元に拳大の石が転がってきた。
「ん?」
私がふっと上を見ると、巨大な岩がゆっくりと動き始めている!
「あっ!」
私は慌ててジャンプするとすぐさま【妖精化】を発動し、宙に舞い上がった。すると大規模な崖崩れが発生し、嵐龍王の死体を飲み込んでいく。
ふう。間一髪だった。
ちらりとクリスさんたちのほうを見てみる。するとクリスさんたちが顔面蒼白になってこちらを見ていた。
ああ、うん。そうだよね。そりゃあ心配するよね。
私はすぐに防壁で足場を作り出し、【妖精化】を解除してその上に立った。そして浄化魔法で光を作り、無事を知らせるのだった。
================
更新が滞って申し訳ございません。急に気温が下がったせいか数年ぶりに風邪をひき、寝込んでおりました。
回復しましたので普段どおりのペースで更新を再開いたします。
今後とも応援のほど、何卒よろしくお願い申し上げます。
ちなみにエロ仙人は庵に残ると言ったため、同行していない。嵐龍王のところに行けば命の危険があるのだから無理強いはできないし、仕方のないことだろう。エロ仙人が何者なのかは気になるところではあるが、嵐龍王をどうにかすることのほうが今は遥かに重要だ。
さて、そんなわけで雪道をなんとか登ってきたわけだが、尾根の向こう側は惨憺たる有り様だった。よほど激しい戦いがあったのか、一帯の山の上のほうはすべて吹き飛んでおり、最高峰があったはずなのにいま私たちが立っている尾根よりも見るからに標高が低くなっている。
そして一昨日から爆発音が聞こえなくなっていたので薄々感づいてはいたが、やはり戦いはすでに終わっていた。
「何もないでござるな。それにこれほど崖崩れが起きていると、下に降りるのも難しそうでござるな」
シズクさんの言うとおり、激しい戦いのせいでそこかしこに崖崩れの跡がある。しかもまだ落石が起きており、次の崖崩れや雪崩がいつ起きてもおかしくない状況に見える。
「一体誰がこのような戦いを? 炎龍王のときのことを考えれば、フィーネ様も勇者シャルロット様もいない状況で戦うなど……」
「少なくとも、ただ者ではないことはたしかでござるな」
「シズク殿……そうだな。フィーネ様に害を及ぼす者でなければいいのだが」
「クリスさん、シズクさん、それよりも嵐龍王はどうなったと思いますか?」
「む、そうでござったな。ただ、進化の秘術を使って不死となった嵐龍王を倒すことはできないのではござらんか?」
「そうですね。だとすると……嵐龍王は近くの村を」
「っ! 近くで一番人口が多いのはチャーヴァのはずです!」
それはそうなのだが……。
「クリス殿、嵐龍王がもしチャーヴァに向かったのであれば、拙者たちがその姿を目撃しているはずでござるな」
「ですよね」
私は再び向こう側の山に視線を送る。
……ん? あの岩に埋まっている緑色のものは何だろう?
「シズクさん、あそこにある緑色のってなんだと思いますか?」
「緑色……どこでござるか?」
「ほら、あの向こう側の山のあそこです。大きな岩の左下あたりにある――」
「んん? ……ああ、あれでござるか……ん? あれは、もしやドラゴンの尻尾ではござらんか?」
「え? ……あ! 言われてみればたしかに! ……ええと、ちょっと行って見てくるので卵をお願いします」
私はホーリードラゴンの卵をクリスさんに手渡すと防壁で足場を作り、空中を走っていく。
「フィーネ様!? お待ちください!」
「高山病が再発するかもしれないですし、そこで待っていてください」
「そんな!」
クリスさんの悲鳴が聞こえてくるが、歩くだけで辛そうにしていたのだからあまり無理をするべきではない。それにもし崖崩れが起きても私は少しの間なら空を飛べるので問題ない。
こうして私は足場を伝い、緑色の何かがあった場所にやってきた。
うん。これはたしかにドラゴンの尻尾に見える。腐っても干からびてもいないということは、死んでからまだあまり時間が経っていないということなのだろう。
私は積み重なった瓦礫を収納に入れては次々と崖下に捨てていく。するとその下からは潰れた巨大な緑色のドラゴンの死体が出てきた。
……ええと、これってもしかして嵐龍王だったりするのだろうか?
ドラゴンの死体は瓦礫の下敷きになったせいもあってかかなりぐちゃぐちゃになっているが、切り傷らしきものも多数あるようだ。
うーん。嵐龍王だとすると、瘴気をたくさん持っているはずだ。これが今一気に広がるのは問題がありそうだし、種を使って浄化しておいたほうがいい気がする。
よし!
私はリーチェを召喚した。
「リーチェ、あの嵐龍王らしいドラゴンの死体を浄化したいんですけど、種を貰えますか?」
するとリーチェは嵐龍王をじっと見つめた。リーチェはものすごく真剣な目で嵐龍王を見ており、なんというか、やはりとてもかわいい。
そんなリーチェを観察しているとリーチェは私のほうに向き直り、首をふるふると横に振った。
「え? どういうことですか? え? 必要ない?」
リーチェはこくこくと頷いた。
「でも嵐龍王は瘴気を……って、え? もしかして瘴気が残っていないんですか?」
するとリーチェは再びこくこくと頷いた。
「そうですか。ありがとうございます」
するとリーチェは手を振り、そのまま帰っていった。
うーん? 進化の秘術を使っているはずなのに瘴気が残っていないというのはどういうことだろうか?
すると突然私の足元に拳大の石が転がってきた。
「ん?」
私がふっと上を見ると、巨大な岩がゆっくりと動き始めている!
「あっ!」
私は慌ててジャンプするとすぐさま【妖精化】を発動し、宙に舞い上がった。すると大規模な崖崩れが発生し、嵐龍王の死体を飲み込んでいく。
ふう。間一髪だった。
ちらりとクリスさんたちのほうを見てみる。するとクリスさんたちが顔面蒼白になってこちらを見ていた。
ああ、うん。そうだよね。そりゃあ心配するよね。
私はすぐに防壁で足場を作り出し、【妖精化】を解除してその上に立った。そして浄化魔法で光を作り、無事を知らせるのだった。
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更新が滞って申し訳ございません。急に気温が下がったせいか数年ぶりに風邪をひき、寝込んでおりました。
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