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聖女の旅路
第十三章第43話 ビビ
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「フィーネ様! ああ! よかった! よくぞご無事で!」
「姉さまっ! 心配したんですからねっ!」
「肝を冷やしたでござるよ」
「すみません。でも、おかげで少し分かったことがあります」
私は嵐龍王らしきドラゴンの死体に瘴気が残っていなかったことを説明した。
「つまり、何者かに嵐龍王が倒され、瘴気もすべて浄化されていたというのですね?」
「はい。なので種も植えていません」
「もしそんなことが可能ならば、瘴気の問題を解決できるということになりますね」
「そうですね」
「そんなことが本当に可能なのでござるか? 神々ですら手に負えなかったのでござろう?」
「そうですね……」
「だが、精霊神様はフィーネ様が存在進化すれば解決すると仰っていたのだ。ということは、何か方法はあるということではないか?」
「それはそうでござるが……」
たしかに釈然としないところはある。だがきれいさっぱり瘴気を無くせるのであれば、それはそれで解決したと言っても良いのではないだろうか?
「姉さま、それよりもそろそろ下山しましょうよ。こんなところにずっといるのはちょっと寒いです」
「あ、そうですね。とりあえずあのエロ仙人の庵に戻りましょう」
「そうでござるな」
こうして私たちは来た道を引き返すのだった。
◆◇◆
「ただいま戻ったでござるよー!」
庵に戻ってきた私たちはエロ仙人を呼ぶが、返事がない。
「おかしいでござるな」
「もしかしたら出掛けているのかもしれませんね。ルーちゃん、近くにいるか調べてもらえませんか?」
「はいっ!」
ルーちゃんが精霊に呼びかけているが、すぐに首を横に振った。
「近くには誰もいないみたいです」
「そうですか」
ううん。どういうことだろう?
そういえばシズクさんに質問されて気まずそうにしていたし、もしかして逃げたのだろうか?
ううん。もしそうであれば見つけるのは至難の業な気がする。
「仕方ないでござるな」
「そうですね。多分見つけられないでしょうし、チャーヴァに戻りましょう」
こうしてエロ仙人に話を聞くのを諦め、戻ろうとしたそのときだった。
「っ!」
「フィーネ様? どうなさいました?」
「いえ。ちょっと待ってください」
私は抱えていたホーリードラゴンの卵を取り出した。するとなんと卵にはひびが入っている。
「あっ! 産まれるんですか?」
「はい。多分……」
私はその場に座り込み、膝の上に卵を置いてそっと見守る。すると卵のひびは徐々に全体へと広がっていき、やがて卵の中から小さな頭がひょっこりと顔を出した。
こ、これは!
真っ白な頭。くりくりしたつぶらで赤い瞳。この子はきっと相当な美人、いや、美ドラゴンに違いない。
そう思って見守っているとやがて殻の中からその全身を現し、可愛らしい鳴き声を上げる。
「キュゥゥゥ」
「かわいい!」
私はさっそくその子を抱っこした。体長はおよそニ十センチメートルくらいだろうか?
全身真っ白で、ホーリードラゴンといったイメージに相応しい。
「うわぁ、かわいいですっ!」
「ドラゴンの赤ちゃんでござるか」
「これがホーリードラゴンですか……」
「姉さまっ! 名前はどうするんですか?」
「名前ですか……そうですね」
この子は真っ白だし、やっぱり白にちなんだ名前がいいかもしれない。
そうだね。白……イタリア語で白はビアンコだけど……。
ひょいと持ち上げて股間を確認してみる。
うん。どうやら雌のようだ。となると女性形のビアンカだろうか?
いや、ちょっと安直な気がする。
ビアンカ……ビアン……ビ、ビビアン?
いや、何かちょっと違うね。
「キュウウゥ?」
気が付けばつぶらな赤い瞳で私を見上げている。
か、かわいい!
そうだ! よし、決めた。
「あなたの名前はビビです。ビビ、これからよろしくお願いしますね」
「キュウウウ?」
赤ちゃんなので何を言っているか理解していなさそうだが、かわいいので問題ない。
「わあっ! ビビちゃんですねっ! よろしくねっ! ビビちゃん! 痛っ!」
ビビを撫でようと伸ばしたルーちゃんの指にビビが噛みついた。
「あっ! ちょっと! ビビ! ダメですよ!」
◆◇◆
それから私たちはチャーヴァへと戻ってきた。初めのうちはやんちゃだったビビも、教えればすぐにやっていいことと悪いことを理解してくれ、手当たり次第に噛みつくということもなくなった。
食べ物は肉とフルーツと聖属性の魔力だと言っていたので、とりあえずは私の聖属性の魔力をたっぷりと食べさせている。
お肉やフルーツはまだ食べさせてはいないものの、今のところは元気いっぱいに飛び回っているので問題はなさそうだ。
だが、そろそろ魔力以外の食べ物も上げてみようと思う。
というわけで用意したのは今朝収穫したばかりという新鮮なバナナだ。
バナナなら消化にも良さそうだしね。
「ビビ、今日はこれを食べてみましょう」
私はホテルの部屋に備え付けられた木製の椅子に座り、膝の上に乗せたビビの口元に皮をむいたバナナを近づけた。
すると食欲のそそられる芳醇な香りに気付いたビビがものすごい勢いで食いついてきた。
「あっ!」
危ない。危うく指ごと食べられるところだった。
しかしそんな私の内心など気にした様子もなく、ビビはものすごい勢いでバナナにかぶりついていき、あっという間に一本食べきってしまった。
「キュウウウ!」
……どうやらもっと欲しいようだ。
私は次々とバナナの皮をむいてはビビに食べさせる。
そして気付けばビビは自分の体よりも大きかったバナナの一房を丸ごとすべて食べてしまった。その本数は優に二十本を超えている。
この小さな体の一体どこにこれだけのバナナが入ったのだろうか? この食欲、まるでルーちゃんのようだ。
「キュウウウ!」
ビビはまだ食べたりないようで、向こうでルーちゃんが食べているバナナを狙っている。
「むうっ! これはあたしのですっ!」
ルーちゃんは急いで皮をむいて口に放り込んでいるが、ビビはルーちゃんのところに飛んでいき、皮をむいていないバナナにかじりついた。
「あっ!? こらっ! ビビ! ダメッ!」
「キュウウウ!」
「皮のまま食べちゃダメっ! 食べるならこっち!」
喧嘩をするかと思いきや、ルーちゃんは皮をむいてビビにバナナを食べさせ始めた。
「キュウウン」
するとビビは甘えた声でルーちゃんにバナナを食べさせてもらっており、ご満悦な様子だ。
……うん。ルーちゃん、いいお姉さんになりそうだね。
「姉さまっ! 心配したんですからねっ!」
「肝を冷やしたでござるよ」
「すみません。でも、おかげで少し分かったことがあります」
私は嵐龍王らしきドラゴンの死体に瘴気が残っていなかったことを説明した。
「つまり、何者かに嵐龍王が倒され、瘴気もすべて浄化されていたというのですね?」
「はい。なので種も植えていません」
「もしそんなことが可能ならば、瘴気の問題を解決できるということになりますね」
「そうですね」
「そんなことが本当に可能なのでござるか? 神々ですら手に負えなかったのでござろう?」
「そうですね……」
「だが、精霊神様はフィーネ様が存在進化すれば解決すると仰っていたのだ。ということは、何か方法はあるということではないか?」
「それはそうでござるが……」
たしかに釈然としないところはある。だがきれいさっぱり瘴気を無くせるのであれば、それはそれで解決したと言っても良いのではないだろうか?
「姉さま、それよりもそろそろ下山しましょうよ。こんなところにずっといるのはちょっと寒いです」
「あ、そうですね。とりあえずあのエロ仙人の庵に戻りましょう」
「そうでござるな」
こうして私たちは来た道を引き返すのだった。
◆◇◆
「ただいま戻ったでござるよー!」
庵に戻ってきた私たちはエロ仙人を呼ぶが、返事がない。
「おかしいでござるな」
「もしかしたら出掛けているのかもしれませんね。ルーちゃん、近くにいるか調べてもらえませんか?」
「はいっ!」
ルーちゃんが精霊に呼びかけているが、すぐに首を横に振った。
「近くには誰もいないみたいです」
「そうですか」
ううん。どういうことだろう?
そういえばシズクさんに質問されて気まずそうにしていたし、もしかして逃げたのだろうか?
ううん。もしそうであれば見つけるのは至難の業な気がする。
「仕方ないでござるな」
「そうですね。多分見つけられないでしょうし、チャーヴァに戻りましょう」
こうしてエロ仙人に話を聞くのを諦め、戻ろうとしたそのときだった。
「っ!」
「フィーネ様? どうなさいました?」
「いえ。ちょっと待ってください」
私は抱えていたホーリードラゴンの卵を取り出した。するとなんと卵にはひびが入っている。
「あっ! 産まれるんですか?」
「はい。多分……」
私はその場に座り込み、膝の上に卵を置いてそっと見守る。すると卵のひびは徐々に全体へと広がっていき、やがて卵の中から小さな頭がひょっこりと顔を出した。
こ、これは!
真っ白な頭。くりくりしたつぶらで赤い瞳。この子はきっと相当な美人、いや、美ドラゴンに違いない。
そう思って見守っているとやがて殻の中からその全身を現し、可愛らしい鳴き声を上げる。
「キュゥゥゥ」
「かわいい!」
私はさっそくその子を抱っこした。体長はおよそニ十センチメートルくらいだろうか?
全身真っ白で、ホーリードラゴンといったイメージに相応しい。
「うわぁ、かわいいですっ!」
「ドラゴンの赤ちゃんでござるか」
「これがホーリードラゴンですか……」
「姉さまっ! 名前はどうするんですか?」
「名前ですか……そうですね」
この子は真っ白だし、やっぱり白にちなんだ名前がいいかもしれない。
そうだね。白……イタリア語で白はビアンコだけど……。
ひょいと持ち上げて股間を確認してみる。
うん。どうやら雌のようだ。となると女性形のビアンカだろうか?
いや、ちょっと安直な気がする。
ビアンカ……ビアン……ビ、ビビアン?
いや、何かちょっと違うね。
「キュウウゥ?」
気が付けばつぶらな赤い瞳で私を見上げている。
か、かわいい!
そうだ! よし、決めた。
「あなたの名前はビビです。ビビ、これからよろしくお願いしますね」
「キュウウウ?」
赤ちゃんなので何を言っているか理解していなさそうだが、かわいいので問題ない。
「わあっ! ビビちゃんですねっ! よろしくねっ! ビビちゃん! 痛っ!」
ビビを撫でようと伸ばしたルーちゃんの指にビビが噛みついた。
「あっ! ちょっと! ビビ! ダメですよ!」
◆◇◆
それから私たちはチャーヴァへと戻ってきた。初めのうちはやんちゃだったビビも、教えればすぐにやっていいことと悪いことを理解してくれ、手当たり次第に噛みつくということもなくなった。
食べ物は肉とフルーツと聖属性の魔力だと言っていたので、とりあえずは私の聖属性の魔力をたっぷりと食べさせている。
お肉やフルーツはまだ食べさせてはいないものの、今のところは元気いっぱいに飛び回っているので問題はなさそうだ。
だが、そろそろ魔力以外の食べ物も上げてみようと思う。
というわけで用意したのは今朝収穫したばかりという新鮮なバナナだ。
バナナなら消化にも良さそうだしね。
「ビビ、今日はこれを食べてみましょう」
私はホテルの部屋に備え付けられた木製の椅子に座り、膝の上に乗せたビビの口元に皮をむいたバナナを近づけた。
すると食欲のそそられる芳醇な香りに気付いたビビがものすごい勢いで食いついてきた。
「あっ!」
危ない。危うく指ごと食べられるところだった。
しかしそんな私の内心など気にした様子もなく、ビビはものすごい勢いでバナナにかぶりついていき、あっという間に一本食べきってしまった。
「キュウウウ!」
……どうやらもっと欲しいようだ。
私は次々とバナナの皮をむいてはビビに食べさせる。
そして気付けばビビは自分の体よりも大きかったバナナの一房を丸ごとすべて食べてしまった。その本数は優に二十本を超えている。
この小さな体の一体どこにこれだけのバナナが入ったのだろうか? この食欲、まるでルーちゃんのようだ。
「キュウウウ!」
ビビはまだ食べたりないようで、向こうでルーちゃんが食べているバナナを狙っている。
「むうっ! これはあたしのですっ!」
ルーちゃんは急いで皮をむいて口に放り込んでいるが、ビビはルーちゃんのところに飛んでいき、皮をむいていないバナナにかじりついた。
「あっ!? こらっ! ビビ! ダメッ!」
「キュウウウ!」
「皮のまま食べちゃダメっ! 食べるならこっち!」
喧嘩をするかと思いきや、ルーちゃんは皮をむいてビビにバナナを食べさせ始めた。
「キュウウン」
するとビビは甘えた声でルーちゃんにバナナを食べさせてもらっており、ご満悦な様子だ。
……うん。ルーちゃん、いいお姉さんになりそうだね。
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