魔族に育てられた聖女と呪われし召喚勇者【完結】

一色孝太郎

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第91話 拒否

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 私たちは久しぶりにキエルナの魔道具研究所にやってきた。

 この魔動車はスピードこそ出ないものの快調に進んでくれ、ニール兄さんにも負担が掛かっている様子はなかった。

 ニール兄さんの魔力は普通の魔族と比べれば多いほうではあるものの、衛兵たちのなかでは普通のレベルだと聞いている。

 そんなニール兄さんがこれだけの長距離を運転できたのだからものすごい進歩だ。もしかするとアネットのような一般人でも運転できる魔動車が作られる日もそう遠くないかもしれない。

 私たちは魔道具研究所の寮のエントランスにあるベルを鳴らした。

 チリーンと澄んだ音が鳴り響き、遠くからパタパタと誰かが走ってくる音が聞こえてくる。

「お待たせしました……あら! あらあらまあまあ! ホリーさんとニールさんじゃないですか。お久しぶりですねぇ」

 ブリジットさんがやってくると、すぐに満面の笑みで出迎えてくれた。

「こんにちは」
「はい。こんにちは。坊ちゃんですか?」
「あ、えっと、そうではなくて実は――」

 私は事情を説明した。

「まあ! そうでしたか! そのセードー教会でしたか? ずいぶんと勝手な人たちなんですねぇ! ホリーさんは特別研究員ですから、いつでもお泊りいただけますよ。お部屋もきちんとお手入れしてありますからね。ニールさんは申請書を書いてもらいますよ」

 それからブリジットさんは奥に引っ込むと、一枚の紙を持って戻ってきた。

「はい。こちらです。太い枠の中をすべて記入してください。さあさあ、ホリーさん。お部屋にご案内いたしますよ」
「え? あの……」
「まずはそちらの荷物をお部屋に運ばないといけませんからね。それにこんなところに奇跡の天使様がいたら大騒ぎになりますよ」
「は、はい……」

 こうして私は前回も泊めてもらったやたらと豪華な部屋に案内されたのだった。

◆◇◆

 手続きはなんの問題もなく終了し、その晩私たちは魔道具研究所の寮に泊まることができた。

 ただ、エルドレッド様とニコラさんに会えるかと期待していたものの、それは叶わなかった。

 まずエルドレッド様はここ一週間ほど魔王城に行ったきり戻ってこないらしい。

 そしてニコラさんはというと、研究室から出てこないのだそうだ。

 どうやらこれはいつものことなようで、ブリジットさんもマーサさんも気にした様子はない。

 そしてその翌日、私は前回同様にドレスを借りて魔王城の謁見の間へとやってきた。

「ホリーよ。久しいな」
「お久しぶりです」

 魔王様は相変わらずものすごい威厳を放っている。

「良い。楽にせよ」
「はい」

 私はスカートのすそをつまんで膝をちょこんと折るという窮屈な姿勢をやめた。

「さて、話は聞いているだろうが、人族の聖導教会という組織がそなたの身柄の引き渡しを要求してきている。この件について、我々魔族はそなたの望むとおりにすると決めている。率直に聞こう。そなたはどうしたい?」
「私は行きたくありません。私の家は、故郷はホワイトホルンです。大切な友人がいて、おじいちゃん……祖父が眠っている場所です。たしかに私は人族ですが、人族を同胞だと思ったことは一度もありません。私の同胞は魔族です」
「……まあ、そうだろうな。だがこの要求を拒否すれば連中は武力での奪還を辞さないだろう」
「どうしてそんな……」
「ふむ。私もその理由はわからぬ。考えられる原因としては……そうだな。ホリー、そなたの聖女としての力がずば抜けて高いことにあるかもしれぬ」
「え? そうなんですか?」

 私は自分以外の聖女を知らないので、普通の聖女がどのくらいの奇跡を使えるかどうかはよくしらない。ただ、専門の教育を受けていない自分の力が強いということはないだろうと考えていたため、この指摘は心底意外だった。

「ああ。ジョンソン!」
「はっ!」

 魔王様に呼ばれ、立派な身なりをした赤い瞳の魔族の男性が歩み出てきた。

 背の高さはニール兄さんと同じくらいだろうか?

 魔族の男性にしてはやや小柄だが、それでも貫禄のようなものがにじみ出ている。

「宰相を任されておりますジョンソンと申します。ホリー先生、どうぞお見知りおきを」
「あ、はい。ホワイトホルンの薬師ホリーです。よろしくお願いします」
「さて、早速ですがご説明いたします。私は三百年前の戦争に参加しており、その際かなり人族の領域の奥地まで攻め入りました。そこで我々は人族の聖女を集めた治療部隊を丸ごと病院ごと捕虜としました」
「はい」
「その病院で、彼女たちは怪我や骨折などを一日に最大で十人ほどを一人で治療していました」
「え? もう一度お願いします」
「はい。怪我や骨折などを一日に五~十人ほど治療していました。どうやら一人で治療するのは十人が限界だったようです」
「……」

 それは、きっと中治癒の奇跡だろう。だが、たった十回しか中治癒の奇跡を使っていないのに限界を迎えてしまうということは、大治癒の奇跡は間違いなく使えない。

「あ、あの! それじゃあ瀕死の重傷を負ったような患者さんは!」
「見捨てていたそうです」
「そんなっ!」

 たしかに大治癒の奇跡はかなりの魔力が必要になる。でも、それはその聖女がたまたま力の弱い聖女だっただけではないだろうか?

「どうやらその部隊は、国中から力の強い聖女を集めた自慢の治療部隊だったそうですよ」
「そ、そんな……」
「当時、尋問した際にも皆同様の証言をしていました。矛盾はありませんでしたから、間違いないでしょう」

 ということは、大治癒の奇跡が使える聖女自体がほとんどいないってこと?

 じゃあ、おじいちゃんにもらった本を読んだだけで出来てしまった私は一体!?

「そういうわけだ。ホリーほど力のある聖女を聖導教会が手に入れれば、その権威は高まるだろう。だから連中はホリーの引き渡しなどという世迷言を言ってきたのだろうな」

 聖導教会とかいう連中は一体私のことをなんだと思っているのだろうか?

 私は一人の人族で、聖導教会とやらの道具ではないというのに!

「そういうわけだ。連中には拒否すると通告しておくが、間違いなく戦争になる。申し訳ないがそれまではキエルナに留まり、開戦後は再びボーダーブルクで怪我人の治療をお願いしたい」
「分かりました」

 こうして私はしばらくキエルナに留まることとなったのだった。
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