上 下
97 / 124
第二章

第二章第40話 再びのフラウ召喚

しおりを挟む
 ガチャを引き終えて支部長室の掃除を終えると、どこかに行っていたエレナが小瓶を持って戻ってきた。

「掃除は終わったようね。じゃあ、これを飲みなさい」
「え? これは?」
「MPポーションよ。こんな田舎町のくせにここの売店は意外と品揃えが良いのよね」
「MPポーション!? 超高級品じゃないか!」
「そうね。でもあたし、お金余ってるもの」

 そう言ってエレナは胸を張った。

 小ぶりだがたしかな膨らみが……って、違う!

 エレナ相手に俺はそんな恐ろしいことを考えたりなんかしない!

 俺は大きく深呼吸をするとエレナにきっぱりと告げる。これ以上借りを作るわけにはいかない。

「いや。そんな高級品をもらうわけにはいかないよ。そういうのは迷宮でいざって時に使うべきだよ」
「あら。気にしなくていいわよ。たくさん買ったもの」
「は?」
「ほら」

 エレナはさらに四本ものMPポーションを袋から取り出して見せてくる。

「げっ……」
「ちょっと! げっって何よ? いいからこれをさっさと飲んでフラウを出しなさいって言ってるの!」
「ほら、ディーノさん。こんなに可愛らしい幼馴染の女の子がこう言っているんですよ?」
「セリアさんまで……」
「そうよン。こういうのは受け取っておくべきよン? ね? ハビエルちゃん?」
「俺に振るな。それと妖精は呼ばなくていいぞ」

 支部長がそうぶっきらぼうに言うや否や、三人の非難するような視線が集中する。

「う……好きにしろ」
「ハビエルちゃんも好きだそうよン」

 いや。絶対それは違うと思う。

 だが一方で、断魔なんていう俺の実力とはかけ離れた仰々しい二つ名がどうして広まったのか、その理由の一端がわかった気もする。

 これはもしかすると、数日後には「支部長は妖精好き」なんて噂が広まっていたり……いや、いくらなんでもそれはないか。

「ほら、飲みなさい!」

 そんなことを考えて現実逃避していたのだがエレナはポーションの瓶の蓋を開けて俺の口元にずいと差し出す。

「あら、ディーノさん。羨ましいですね。女の子に飲ませてもらうなんて。恋人同士みたいですね」
「!?」
「んがっ」

 セリアさんがとんでもない爆弾発言をしたせいでエレナは動揺し、俺の口の中にポーションの瓶を勢いよく突っ込んできた。

「あ~ん♡で飲ませちゃうなんて、妬けちゃうわン」

 トーニャちゃんが体をくねらせながら何故か悶絶しているが、これがそんな恋人同士の甘いやり取りに見えるのはどう考えてもおかしい。

「いいいいいいいから。フフフフフフフラウよっ! フラウを出しなさいっ!!!」

 エレナはというと顔を真っ赤にしながらバタバタと両手を動かしてわめいている。

 落ち着け。頼むから。

 でないと、いつどこでエレナがプッツンとなって拳が飛んでくるか分かったものじゃない。

 とはいえこのままでは喋れないので、俺は口の中に瓶から流れ出たポーションを飲み込むと、続いて瓶の中の液体も飲み干した。

 すると次の瞬間、MPが全快したのを感じる。

「ふう。ええと、ごちそうさま?」
「いいから! それよりフラウよ! フラウ!」
「そうですよ。私にもフラウちゃんともっとおしゃべりさせてください」
「わ、わかりましたから。すぐに召喚しますから」

 二人に迫られた俺は急いでフラウを召喚する。

「わーい。さっきぶりだねっ!」
「フラウ!」
「フラウちゃん!」

 二人はすぐに花が咲いたかのような笑顔でフラウを見つめる。

 一方のトーニャちゃんはというと……。

「お・ね・え・ちゃ・ん♡」
「……あ、姉貴……」
「お・ね・え・ちゃ・ん♡」
「う……ぐ……」

 支部長のところで絡んでいるが、あれは放っておくことにしよう。家族の問題だ。そう、家族の問題だからな。俺は関係ない。巻き込まれたくない。

 そう思ってフラウのほうへと視線を移す。

「ねぇねぇっ。エレナったらすごかったんだよっ! 迷宮では大活躍でねっ!」
「ええ。お噂はかねがね」
「と、当然よっ!」
「それにね。エレナったらディーノ……あ、ディーノっ! ちょっとあっちに行ってて」
「え?」
「あらン? そういうことならディーノちゃんはこっちにいらっしゃい。ねぇ、ハビエルちゃんがお姉ちゃんって呼んでくれないよン」
「え? え? え?」

 俺はトーニャちゃんにむんずと首根っこを掴まれて支部長の前に連行される。

「ああ、もう。姉貴って呼んでやったんだからいいだろ。勘弁してくれ」
「だ、か、ら。お・ね・え・ちゃ・ん♡」
「勘弁してくれ……」

 結局こうして俺は家族の問題に巻き込まれたのだった。

◆◇◆

 やがて俺のMPが尽き、フラウの姿がみんなからは見えなくなった。それでもかなりの長時間話せたからか、エレナもセリアさんも満足げな表情を浮かべている。

 そんな二人をぼーっと見ていた俺にトーニャちゃんが話しかけてきた。

「ねぇ、ディーノちゃん。フラウちゃんって、前にもこのギルドで呼んだわよねン?」
「はい。この前の決闘の日とその次の日にも呼びました」
「前はちゃんと見ていないからたしかなことは言えないけれど、あの子。前に召喚したときよりもかなり力が強くなっている気がするのよねン」
「強くなってる?」
「そうよン。何かあったんじゃないかしらン?」
「はあ。もしかしたら俺の MGC のステータスが上がったからかもしれません」
「そう。ちゃんと確認しておいたほうが良いかもしれないわよン」
「はい」

 そんな会話を交わしつつ、俺たちは支部長室を後にしたのだった。

────
名前:ディーノ
種族:人族
性別:男性
職業:冒険者(D)
年齢:14
ギフト:ガチャ

ステータス:
HP:3/3
MP:0/16
STR:7
VIT体力:9
MGC魔力:23
MND精神力:1
AGI素早さ:9
DEX器用さ:3

スキル:
剣術:2
槍術:2
体術:1
弓術:1
杖術:1
水属性魔法:2
火属性魔法:1
風属性魔法:1
召喚術(フラウ):1
────

==============
次回更新は通常通り、2021/04/24 (木) 21:00 を予定しております。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

兄のマネージャー(9歳年上)と恋愛する話

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:170pt お気に入り:5

進芸の巨人は逆境に勝ちます!

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:213pt お気に入り:1

花冷えの風

BL / 連載中 24h.ポイント:383pt お気に入り:11

赦(ゆる)されぬ禁じられた恋

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:1,569pt お気に入り:4

【完】君を呼ぶ声

BL / 完結 24h.ポイント:475pt お気に入り:88

処理中です...