キエフの亡霊――Phantom of Kyiv――

古井論理

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戦場の優勢

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 「キエフの亡霊」はロシア空軍で不死鳥として恐れられているという話はアンドレイ少佐からすでに基地の司令部にも告げられており、二七日午後九時四五分に「キエフの亡霊」の撃墜機数を発表する決定がなされた。「キエフの亡霊」の撃墜数はウクライナ空軍TwitterでSu-27戦闘機一四機、Su-35戦闘機四機、Mi-28攻撃ヘリコプター一機であると発表されたが、Twitter上では格上のジェット戦闘機一八機を単機で撃墜したという報告に懐疑的な意見が噴出した。しかし実際には、この数値からは二十機のSu-27が省かれているのである。
「なぜ事実をそのまま伝えずに縮小したのか、よくわかるな」
 トカーチ少佐は他の三人に言う。シュヴェーツィ中尉はうなずき、
「さすがにジェット戦闘機三八機は多すぎて『虚偽報告お疲れ様』で終わりですよね」
 と零した。コヴァーリ少尉、ボーンダル大尉も腕を組んでうなずいている。
「さあ、交代時間十分前だ。すぐにスタンバイするぞ」
 トカーチ少佐が言うと、三人はトカーチ少佐のあとに続いて格納庫へと向かった。

 静かな、静かすぎるほどに静かな二時間を過ごした基地だが、静寂は日付が変わったばかりの基地に唐突に鳴り響いたサイレンでかき消された。
「ロシア陣地奥でミサイルの発射反応あり。全作戦機は速やかに離陸し退避、作戦機パイロット以外の全人員は防空壕へ退避されたし。非番機は速やかに防空壕へ格納されたし」
 「キエフの亡霊」にも離陸指示が飛ぶ。速やかに離陸した基地の作戦機――MiG-29戦闘機二一機、Su-35戦闘機一四機、Su-34戦闘爆撃機二機――は、基地を離れて飛行する。そして離陸から五分で基地に三発の極超音速ミサイルが着弾したようだった。三つの火柱が立ち上り、基地の管制塔が倒れる。しかし延焼はしなかったのだろう、二十分ほどで火の手は収まり、黒煙も一時間ほどで晴れた。そして全てのウクライナ空軍機が基地に向けて反転したとき、レーダーが二十キロ彼方にロシア軍のMiG-29戦闘機一二機を捉えた。ミサイルの発射反応もある。
「まずい」
 全機が電波妨害装置を起動し、さっと散開する。ミサイルが目標を失ってあらぬ方向へ落下した直後「キエフの亡霊」のMiG-29戦闘機四機が先頭に出て、ロシア軍のMiG-29に食らいつくように直線的な飛行で接近していく。他の戦闘機も全機が電波妨害装置を起動したままロシア軍のMiG-29に接近し、機関砲を撃って攻撃を開始した。
「食らえ」
 トカーチ少佐が射撃した機関砲は、ロシア軍のMiG-29の主翼に大穴を開ける。どうやら燃料タンクに命中したようで、そのままMiG-29は墜落していった。元ロシア軍機のSu-35戦闘機一四機も、ロシア軍のMiG-29を相手に一機の損害もなく相次いで六機を撃墜した。Su-34戦闘爆撃機二機も残る一機のロシア軍MiG-29を追い、見事な連携でこれを仕留めた。
「なんでこんなに簡単に落とせるのにウクライナ空軍は連戦連勝なんだ?」
 そうつぶやいたルカ少佐に、アンドレイ少佐が目を輝かせて言う。
「ウクライナのMiG-29は強いのさ。ロシア軍の下手くそパイロットとは違うんだろう」
 ルカ少佐は一秒ほど考えて、「そうだな」と言ってうなずいた。
「さて、基地の修理が完了するまでは第二飛行場で待機することにしよう。第一中隊長よりSu-35中隊及びSu-34分隊へ、おとといの民間飛行場へ降りてくれ」
「了解」
 第一中隊長の指示で、ウクライナ空軍機は高度をゆっくりと下げ始めた。
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