36 / 107
31 領民と話し合う
しおりを挟む私は早朝毎日子爵の眠る丘に来ている。
全く領民達との話し合いは進まない。というよりは話し合いすらさせてもらえない。命令する事も出来る。でも、それでは駄目だと思う。
根気よく、その根気はいつまで続ければいいのだろう…。
私は地面に座り両膝をたて両腕でかかえ両膝に額をつけて顔を隠す。
「妃殿下、あちらを」
ローレン隊長の声に顔をあげ目を向ける。
ルシーと手を繋いでこっちへ向かって来ているのはルシーの父親。
私は立ち上がった。目の前まで来た親子。
「あんたの話をまずは俺が聞く」
「ええ、まずは話を聞いてほしいだけだから」
「あんたの事を許してはいない。信用もしていない。俺が信じるのはルシーだけだ。ルシーがお姉ちゃんの話を聞けと言うから仕方がなくだ」
「ええ、それでも嬉しいわ」
「ルシーがお姉ちゃんはここに必ず居るって言うからな、二週間毎朝見ていた。それくらいは認めてやっても良い、ただそれだけだ」
「ええ、それで今は構わないわ」
「それで?」
「貴方達領民には帝国へ行ってもらうつもりなの。帝国で陶器職人として働いてほしいの。それに、違う領地へ行っても居場所はないし迫害を受けるかもしれない。
ただ、帝国へ行ったらこの国には帰って来れない。申し訳ないんだけどお墓参りの入国も出来ないわ。出来ないと言うよりもさせないと言うのが正しいわね。
もしこの国を出たくないならこの国に残るのも選択よ。その時は違う領地を探すわ」
「色々聞きたい事があるが、帝国へ行って迫害を受けないという保証はないだろ」
「この国に残るよりも迫害は受けないわ。それに貴方達に行ってもらう領地の当主はとても心優しい方よ。領民思いなの。それに元々住んでる領民も貴方達に何かするとは思えない」
「どうしてそう言い切れる」
「元々迫害を受けていた者達だからよ。違う国とか気にしない者達だからよ。彼等は粘土を、貴方達は陶器を、役割りも違う。彼等の仕事を奪う訳ではないの。そして彼等も貴方達の仕事を奪う訳ではないわ。
帝国は銀食器が主流なの。でも陶器には陶器の良さがあるわ。貴方達が生み出す陶器には魅了されるものがある。誇れる技術だと私は思っているの」
「窯はどうする」
「帝国にはないから一から作るしかないわ。初めの内は生産よりも窯作りをしてもらうつもりよ」
「帝国へ行ったらこの国には本当にもう戻って来れないのか?」
「ええ。いつか戻れるという選択は無いわ。帝国で骨を埋めると思ってほしい」
「理由はあるのか」
「理由は色々あるけど、帝国の情報を隠さないといけないから、が一番の理由ね」
「あんたは俺達厄介者を追い払いたいだけか?」
「貴方達を厄介者とは思っていないわ。私は貴方達に命令する事も歯向かえば拘束する事も出来る立場なの。それでも私は対話を望んでいるし、貴方達の行先を見つけるのが私が今するべき事よ」
「一度考える時間がほしい」
「勿論そのつもりよ」
ルシーと父親は帰って行った。
それから一週間後、
「妃殿下」
「ハミルどうしたの?」
「領民達が妃殿下と話し合いたいと」
「そう、ありがとう」
邸を出れば外に領民達が居た。その先頭にはルシーの父親の姿。
「一つ聞いて良いか」
「どうぞ」
「領主様が当主様にはなれないのか」
「ええ、残念だけどなれないわ」
「そうか。俺達はあんたを許してはいない。だが俺達を思って言ってくれているのは理解した。
それで俺達はどうすれば良い」
「貴方には説明したけどもう一度説明するわ。その後でどうするか決めてくれれば良い」
私はルシーの父親に説明した事を領民に説明した。領民達は真剣に話を聞いてくれた。
「それで貴方達はどうしたい?」
「俺達家族は帝国へ行く。ルシーが帝国へ行った方が幸せになれると言ってるしな」
「分かったわ」
「他の方は?」
「俺達家族も帝国へ行く」
他の領民達も帝国へ行く事を決めた。
「俺は残る。隣の領地に恋人が居るんだ。連れて行く事は出来ない。彼女を両親と会えなくさせるのは嫌だ」
「分かったわ」
「あの、私も…この国に残りたいです。隣の領地で働いているんですが、私はその仕事を辞めたくないんです」
「分かったわ」
若い子達は残りたいと言う者が多かった。主な理由は恋人がいる、他の領地で働いている、それだった。
「ご家族は納得しているの?もうご家族とは会えないわ。もしご家族に会う為にたまに帝国へ行けば良いと思っているならそれは無理よ。帝国へ行ったならこの国には帰って来れない。それを覚悟してほしいの」
「もう絶対に会えないんですか?」
「帝国へ移住すると言う事はそういう事なの」
「でもたまに顔を見るくらい…」
「そうさせてあげたいのはやまやまだけど、それでも駄目なの。そのたまにを許してしまうとこの国に残る領民達の命の危険になるの。それを理解してほしい。
それに帝国に移住する領民達も何もない訳ではないわ。
それを含めてもう一度よくご家族と話し合って決めてほしいの」
13
あなたにおすすめの小説
本物の『神託の花嫁』は妹ではなく私なんですが、興味はないのでバックレさせていただいてもよろしいでしょうか?王太子殿下?
神崎 ルナ
恋愛
このシステバン王国では神託が降りて花嫁が決まることがある。カーラもその例の一人で王太子の神託の花嫁として選ばれたはずだった。「お姉様より私の方がふさわしいわ!!」妹――エリスのひと声がなければ。地味な茶色の髪の姉と輝く金髪と美貌の妹。傍から見ても一目瞭然、とばかりに男爵夫妻は妹エリスを『神託の花嫁のカーラ・マルボーロ男爵令嬢』として差し出すことにした。姉カーラは修道院へ厄介払いされることになる。修道院への馬車が盗賊の襲撃に遭うが、カーラは少しも動じず、盗賊に立ち向かった。カーラは何となく予感していた。いつか、自分がお払い箱にされる日が来るのではないか、と。キツい日課の合間に体も魔術も鍛えていたのだ。盗賊たちは魔術には不慣れなようで、カーラの力でも何とかなった。そこでカーラは木々の奥へ声を掛ける。「いい加減、出て来て下さらない?」その声に応じたのは一人の青年。ジェイドと名乗る彼は旅をしている吟遊詩人らしく、腕っぷしに自信がなかったから隠れていた、と謝罪した。が、カーラは不審に感じた。今使った魔術の範囲内にいたはずなのに、普通に話している? カーラが使ったのは『思っていることとは反対のことを言ってしまう魔術』だった。その魔術に掛かっているのならリュートを持った自分を『吟遊詩人』と正直に言えるはずがなかった。
カーラは思案する。このまま家に戻る訳にはいかない。かといって『神託の花嫁』になるのもごめんである。カーラは以前考えていた通り、この国を出ようと決心する。だが、「女性の一人旅は危ない」とジェイドに同行を申し出られる。
(※注 今回、いつもにもまして時代考証がゆるいですm(__)m ゆるふわでもOKだよ、という方のみお進み下さいm(__)m
偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて
奏千歌
恋愛
【とある大陸の話①:月と星の大陸】
※ヒロインがアンハッピーエンドです。
痛めつけられた足がもつれて、前には進まない。
爪を剥がされた足に、力など入るはずもなく、その足取りは重い。
執行官は、苛立たしげに私の首に繋がれた縄を引いた。
だから前のめりに倒れても、後ろ手に拘束されているから、手で庇うこともできずに、処刑台の床板に顔を打ち付けるだけだ。
ドッと、群衆が笑い声を上げ、それが地鳴りのように響いていた。
広場を埋め尽くす、人。
ギラギラとした視線をこちらに向けて、惨たらしく殺される私を待ち望んでいる。
この中には、誰も、私の死を嘆く者はいない。
そして、高みの見物を決め込むかのような、貴族達。
わずかに視線を上に向けると、城のテラスから私を見下ろす王太子。
国王夫妻もいるけど、王太子の隣には、王太子妃となったあの人はいない。
今日は、二人の婚姻の日だったはず。
婚姻の禍を祓う為に、私の処刑が今日になったと聞かされた。
王太子と彼女の最も幸せな日が、私が死ぬ日であり、この大陸に破滅が決定づけられる日だ。
『ごめんなさい』
歓声をあげたはずの群衆の声が掻き消え、誰かの声が聞こえた気がした。
無機質で無感情な斧が無慈悲に振り下ろされ、私の首が落とされた時、大きく地面が揺れた。
【完結】義妹(ヒロイン)の邪魔をすることに致します
凛 伊緒
恋愛
伯爵令嬢へレア・セルティラス、15歳の彼女には1つ下の妹が出来た。その妹は義妹であり、伯爵家現当主たる父が養子にした元平民だったのだ。
自分は『ヒロイン』だと言い出し、王族や有力者などに近付く義妹。さらにはへレアが尊敬している公爵令嬢メリーア・シェルラートを『悪役令嬢』と呼ぶ始末。
このままではメリーアが義妹に陥れられると知ったへレアは、計画の全てを阻止していく──
─義妹が異なる世界からの転生者だと知った、元から『乙女ゲーム』の世界にいる人物側の物語─
見捨てられた逆行令嬢は幸せを掴みたい
水空 葵
恋愛
一生大切にすると、次期伯爵のオズワルド様に誓われたはずだった。
それなのに、私が懐妊してからの彼は愛人のリリア様だけを守っている。
リリア様にプレゼントをする余裕はあっても、私は食事さえ満足に食べられない。
そんな状況で弱っていた私は、出産に耐えられなくて死んだ……みたい。
でも、次に目を覚ました時。
どういうわけか結婚する前に巻き戻っていた。
二度目の人生。
今度は苦しんで死にたくないから、オズワルド様との婚約は解消することに決めた。それと、彼には私の苦しみをプレゼントすることにしました。
一度婚約破棄したら良縁なんて望めないから、一人で生きていくことに決めているから、醜聞なんて気にしない。
そう決めて行動したせいで良くない噂が流れたのに、どうして次期侯爵様からの縁談が届いたのでしょうか?
※カクヨム様と小説家になろう様でも連載中・連載予定です。
7/23 女性向けHOTランキング1位になりました。ありがとうございますm(__)m
妹に婚約者を奪われたけど、婚約者の兄に拾われて幸せになる
ワールド
恋愛
妹のリリアナは私より可愛い。それに才色兼備で姉である私は公爵家の中で落ちこぼれだった。
でも、愛する婚約者マルナールがいるからリリアナや家族からの視線に耐えられた。
しかし、ある日リリアナに婚約者を奪われてしまう。
「すまん、別れてくれ」
「私の方が好きなんですって? お姉さま」
「お前はもういらない」
様々な人からの裏切りと告白で私は公爵家を追放された。
それは終わりであり始まりだった。
路頭に迷っていると、とても爽やかな顔立ちをした公爵に。
「なんだ? この可愛い……女性は?」
私は拾われた。そして、ここから逆襲が始まった。
妹に全部取られたけど、幸せ確定の私は「ざまぁ」なんてしない!
石のやっさん
恋愛
マリアはドレーク伯爵家の長女で、ドリアーク伯爵家のフリードと婚約していた。
だが、パーティ会場で一方的に婚約を解消させられる。
しかも新たな婚約者は妹のロゼ。
誰が見てもそれは陥れられた物である事は明らかだった。
だが、敢えて反論もせずにそのまま受け入れた。
それはマリアにとって実にどうでも良い事だったからだ。
主人公は何も「ざまぁ」はしません(正当性の主張はしますが)ですが...二人は。
婚約破棄をすれば、本来なら、こうなるのでは、そんな感じで書いてみました。
この作品は昔の方が良いという感想があったのでそのまま残し。
これに追加して書いていきます。
新しい作品では
①主人公の感情が薄い
②視点変更で読みずらい
というご指摘がありましたので、以上2点の修正はこちらでしながら書いてみます。
見比べて見るのも面白いかも知れません。
ご迷惑をお掛けいたしました
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
私が、良いと言ってくれるので結婚します
あべ鈴峰
恋愛
幼馴染のクリスと比較されて悲しい思いをしていたロアンヌだったが、突然現れたレグール様のプロポーズに 初対面なのに結婚を決意する。
しかし、その事を良く思わないクリスが・・。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる