悪女と呼ばれた王妃

アズやっこ

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35 幼い頃の記憶

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私はコナーと領地を歩いて回った。

ある男の子と同じようにこうやって歩いた幼い頃を私は思い出していた。

記憶は鮮明に私の心の中で残っている。


あれはまだ私が5歳の時、お父様と一緒に帝国へ行った。

途中の男爵領に立ち寄り湖を見た。とても綺麗な湖を私は気にいった。


「ここは母さんみたいだ」


か細い声で私の隣に立っている男の子がそう言った。

男の子は痩せ細り10歳には見えない。


「ここは母さんの生まれ故郷なんだ」


長い髪が顔を隠していたけどその隙間から見る男の子の顔は無表情なのに泣きそうな顔をしているように私には見えた。


「母さん……」


私は思わず抱きしめた。力を入れたら折れそうなほど痩せ細っている男の子が初めて笑った。

作られた笑顔。大人の前で見せる作られた顔。


「痛いよ」

「ご、ごめんな、さい…うわぁぁん」


男の子が泣かないから私が男の子の分まで泣いた。その時ものすごく困った顔をしていたのを今でも覚えてる。

手を出したり引っ込めたり、どうして良いのか分からない、そんな顔を見せた。


「あたまなでて、よしよしして」


男の子はおずおずと私の頭を撫でた。骨張ってゴツゴツした手だったけどとても優しい手だった。

無表情の男の子が初めて表情を出した。それが私はものすごく嬉しかったの。

それから男の子と湖の周りを歩いたり領地の中を歩いた。



その男の子はそれから私の邸で一緒に暮らした。

あれは私が10歳の誕生日、いつもアルバートとは王宮でしか会わない。その日はアルバートが私の邸に来た。


「どうしたのアルバート」

「誕生日おめでとう」


花束と可愛い小物入れを贈ってくれた。


「ありがとうアルバート。大切に使うわね」


その時男の子、その頃は少年になっていたけど。少年が、


「おいリリーアンヌ、そいつは誰だ」

「アルバートよ。私の幼馴染みで第一王子なの」

「そいつか、リリーアンヌのす」

「止めて!」


私は背伸びをして少年の口を手で塞いだ。


「リリーアンヌ、その人は誰?黒い髪に黒い瞳、この国の人じゃないよね?」

「そうね。居候?かな」

「リリーアンヌは俺と婚約するんだろ?なのにどうして居候と仲良くしてるんだ?」

「お兄様だもの」

「そうか、兄上か、良かった」

「ねえアルバート、私達って婚約するの?」

「え?俺はリリーアンヌとしか結婚するつもりはないよ。リリーアンヌは違うの?」

「だって結婚出来るかはまだ分からないじゃない。それに正式に婚約した訳でもないし」

「俺はリリーアンヌ以外の女の子に興味はない。俺のお嫁さんはリリーアンヌ以外考えられない」

「おい小僧、お前言ったな?リリーアンヌ以外とは婚約も結婚もしないと今言ったよな?」

「俺は小僧じゃない。アルバートと言う名がある」

「おい、それよりどうなんだ、答えろ」

「俺はリリーアンヌ以外とは婚約も結婚もしない。もし国のために別の人と結婚しろって言われても俺はリリーアンヌ以外は嫌だ」

「本当だな?」

「嘘はつかない。俺は第一王子だ」

「もし国のためにもう一人妃を持て、側室を持てと言われたらどうする」

「それは、」

「持つのか?」

「持たない。リリーアンヌ以上に好きになる女の子が現れるなんて思えない。俺が好きなのはリリーアンヌだけだ」

「お前はこの国の王になるのか?」

「なる」

「なら未来の王にもう一度問う。

どんな理由があろうとリリーアンヌ以外の女を娶らない。妃、側室、妾、リリーアンヌと結婚した後に誰一人女を娶らない。リリーアンヌだけを生涯の伴侶としリリーアンヌ以外の女を好きにならない、愛さない。心変わりはしない。

そう約束出来るか?」

「出来る」

「王として約束を誓えるか」

「王として約束を誓う」

「お前は王として今約束した。もし万が一にも約束を違えた時、宣戦布告とみなし俺はこの国を滅ぼす。

そして、必ず俺の手でお前の息の根を止めてやる。


俺がお前を殺す」


じっと見つめ合う二人。


「良いな」


アルバートは頷き


「ああ。そんな事にはならない。この国をこの国の民を護るのが俺の役目だ」

「約束を違えないなら別に良い」



この時、タイラーもコナーも側に居た。

コナーの言うとおりお兄様はアルバートを許さない。必ずこの国を滅ぼす。

だから離縁しか手はない。離縁しお兄様の元へ行き説得する。この国を民を救うにはそれしかもう方法はない。


私は横で一緒に歩いているコナーに話しかけた。


「コナー、お兄様は覚えているわよね」

「当たり前だろ」

「アルバートはきっと覚えていない」

「覚えていたら第二夫人なんて娶らないだろ」

「忘れちゃったか…」

「あの馬鹿が忘れてもあいつは忘れない。それにアルバートは王として誓った」

「そうね」

「まだ前陛下の時代なら何とかなったかもしれない。それでも今の王はアルバートだ。今の王が王として誓った約束だ。何をしようと覆らない」

「そうね……」


暖かいはずなのに冷たい風が頬をかすめていった。


「コナー明日は遠乗りに付き合って」

「おおいいぞ」

「それと夜私の部屋に来て」

「夜這いか?」

「は?馬鹿なの?」

「お嬢はもう少し冗談に付き合えるようになった方がいいぞ」


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