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72 拘束 ①
しおりを挟む皆と別れと誓いをした。
必ず生きてもう一度会おう
と。それまではお互い別々。それでも心は一つに。
「姫、ご要望の馬です」
商人が馬を連れてきた。
「ありがとう」
「兄弟の馬で、兄は暴れ馬ですがコナー殿なら乗りこなせるでしょう。剣を見ても怯む事はありません。弟は兄の後ろを必ず付いて行きます。速さは勿論の事、急な転回、全て兄に合わせ動きます」
「分かったわ」
「ご武運を」
「ありがとう」
コナーが近くに来た。
「お嬢、馬には酷だが鞭を打て」
「分かってる」
「今更息を合わせろとかは言わない。俺達なら出来る」
「当たり前じゃない。何年一緒に育ってきたと思ってるの」
「じゃあ、行くか」
「ええ、行きましょ」
コナーが馬に跨り、私も跨った。
「ごめんね、無理をさせちゃうけど、よろしくね」
ブル
「気をつけて、リリーアンヌ。コナー頼む」
「任せろタイラー。俺達の姫だろ?」
「ああ」
領地を抜けるまではゆっくり歩いた。領地を抜ければ全速力で駆け抜ける。騎士がいてもいなくても。
「頼むぞ、兄弟、お前達にかかってるからな。いいか、必ず姫さんを護るんだ。終わったら好きなだけ褒美をやるからな。
リリーアンヌ、気を抜くな。何があっても駆け抜けろ。今は馬の事は考えるな」
「うん」
「お前は騎馬しながら剣を振るのが苦手だ。いざという時だけで良い。前を向いて進め、集中しろよ」
「うん」
「行くぞ!」
兄の馬が走り出した。兄に合わせるように弟も走り出す。どんどん加速する兄の速度。それでも弟はピッタリと兄の後ろを付いて行く。
コナーの背中が、幼い頃からコナーの背中を追いかけた。タイラーの手を引いていつもコナーの背を追いかけた。
先を行くコナー。いつからか私の背を護るように後ろを歩くようになった。
でも安心する。コナーの背中は安心する。付いて来いと、俺を信じろと、俺が護ると、幼い頃から変わらないコナーの背中に私は安心して付いて行った。
騎士達が一斉に剣を抜く。コナーの少し人より長い剣が風を切り割くように舞っている。開かれた道を、歩兵の騎士達の間を進む。
離宮までの一本道の先に迎えるのは騎士団長のケニスと副団長のラジ。その後方にも小隊長の面々。
ここに集結して王宮は大丈夫なの?とは思うけど、それだけ私を捕えたいという事。
「兄弟、力尽きるなよ!」
コナーの大きな声に兄弟は答える。兄は加速する。弟も兄に付いていく。私は振り落とされないように集中する。
兄は前足と後ろ足を使い騎士達を蹴り、コナーは剣を振る。さっきよりも道を開けるのは簡単じゃない。
弟も兄を掩護するように兄の開けた道に間を詰める。後ろからくる騎士を器用に後ろ足で蹴った。私も剣を振る。
馬に乗りながら剣を振るのは苦手というよりも私の戦い方では不利なだけ。でも、この子は私を振り落とさない。だから私は安心して剣を振れる。
「妃殿下、剣を下ろして下さい」
小隊長の彼は私に剣を向けても私の剣を弾くだけ。本気で剣を振ろうとは思っていない。弾かせるだけなら違う戦い方をすれば良いだけ。それなら馬に乗ったままでも出来る。
道が開けた
コナーは急転回した。
「俺はここで食い止める。振り向かず行け!」
離宮まで駆け抜ける。離宮はもう目の前。
「ごめんね、お兄さんには必ず後で会わせてあげるから、今だけ少し我慢して」
ブル
馬はまた走り出した。兄を残して私を助ける為に…。
あれだけの人数、コナー一人で何とかなる数じゃない。私もコナーを助ける為に向かうべき…。
でも、
コナーだけじゃない。タイラーも、皆、私の為に、私を離宮へ向かわせる為に、
ここまで手を貸してくれた。寄り添い側で支えてくれた。
何の為に?
“必ず生きろ”
私を生かす為でしょ!私が迷ってどうするの?
“離宮に入り私は門を閉ざす”
そうするんでしょ!離宮はもう目の前よ!しっかりしなさいよ!
ポロポロと涙が溢れる。
ブルル
「ありがとう…」
離宮の門を開けようと馬から下りた。
「妃殿下!」
大きな声が響き渡った。
「振り抜くな!入れ!」
コナーの大きな声。
門に手をかけた。
「妃殿下!貴女の大事な人を見捨てるんですか!貴女一人助かればそれで良いと!貴女は慈悲深い王妃ではないんですか!」
「耳を貸しちゃ駄目だ!」
タイラー?なんで?
「メイドを連れて来い!」
ミーナ?マイラ?あの二人は絶対に声は出さない。私の判断が鈍る事はしない。
「良いですね、妃殿下、貴女が貴女のメイドを見殺しにするんです!」
門を持つ手に力が入る。
「殺れ!」
「卑怯よ!」
私は振り返った。
「マックス、貴方は卑怯よ!私に死ねと言ってるのも同然だわ!
マックス、貴方は分かっていたはずよ。ナーシャ様が妊娠していないと、貴方は分かっていたはずよ!」
「妃殿下、真実がどうであれ、陛下が言った事が全てなんです。それは妃殿下もご存知のはずです」
「フッ、そうね」
「お願いします。このまま拘束されて下さい」
「拘束されたら私は罪人扱い?出来てもいない子を殺したから?
だから私は戦うの!戦う事でしか無実は訴えれないわ」
「妃殿下の気持ちは分かりますが、」
「分からないわ!貴方には分からない…。このまま貴方に捕まればどうなるか私には分かる」
「必ずジェイデン殿下に陛下を説得してもらいます。だから今は私を信じて下さい」
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