悪女と呼ばれた王妃

アズやっこ

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86 処刑

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アンネの姿を見送り私は後ろの騎士に声をかけた。


「さっきはありがとう。悪いけど…」


私は手を後ろに回した。

鎖は自由を奪うと同時に処刑される人を思っての事だと思う。自分が鎖に繋がれそう思った。

手と足の自由を奪う、それは抵抗しない為。でも人は死を前にして手や足、体全身を動かし抵抗しようともがく。もがけばもがくほど傷を増やす。鎖に擦れ、転ければ体を地面にぶつける。

死への恐怖、処刑台を目の前にした時、足が震え逃げ出そうと本能的に思う。どれだけ覚悟を決めていてもこの場の雰囲気が恐怖を誘う。

だから鎖に繋がれ良かったと思った。逃げ出そうと思っても逃げ出せない。手や足を動かそうと思っても動かせない。自由を奪われる事が私の体を守っている。

傷は一つだけで良い

死んでしまうこの体、最期に大きな傷を付ける。痛い思いは一度だけで良い。


「処刑を執行せよ」


アルバートの声が響き渡る。歓声があがり、私は処刑台の前で両膝をついて座った。

タイラーが言った、悔いは残すなと…。

悔い?

悔いは、

アルバートを愛した事

アルバートを王にした事

自分が支えれば大丈夫と私は自分自身を過信した事

だから処刑は私への罰

この国をこんな国にした、私への罰…

悔いがあるとすれば…、


私は処刑台の間からアルバートを見つめる。

口を塞がれなくて良かった。


「アルバート、これは私の最期の言葉。貴方に残す最期の言葉。

貴方はこの国の王。王なら王らしくしなさい。王とは孤独なもの。誰かに支えてもらうのではなくて己で立つもの。

己で立ち、孤独を受け入れ、自分の信念を持ちなさい。貴方が王としてこれからも君臨したいのなら、優しさよりも厳しさを、弱さよりも強さを、そのような王になりなさい。

まずは今の弱い自分に打ち勝つ。一人の臣下を側に置かず己の力で立つ。それが、貴方が、未熟な王として今すべき事よ。

周りを見て。貴方をずっと信じてきた陛下もいない。貴方を支えると言ったジェイデンもグレイソンもいない。貴方を陰から支えてきたボビーもタイラーもいない。そして私もいなくなるわ。

だから最後に、

全ての重みを背負い孤独と戦うの。歴代の王も皆、己と戦った。そして戦った先に王として君臨して名を残してきたの。貴方もその一人になって。

これが最期の友の言葉よ、アルバート。

アルバート、アルバートなら出来ると私は信じてる」


悔いはもうない。

この言葉がアルバートに届くか届かないか、それは私の知る由もない事。そしてこの先の国が良い方へ傾くのか悪い方へ傾くのか、それも私の知る由もない事。


私はアルバートに微笑んだ。


私は自ら首を処刑台に置いた。騎士が私の髪を両側へ流し、首を露わにさせた。

死の恐怖か、体が震える。

目を開けば私の処刑を待ち望む顔が見える。

最期まで私を罵る声が聞こえる。


だから私は目を閉じる。

最期に残る記憶は幸せなものにしたい。

お父様と一緒に行った旅

お母様に抱きしめられた温もり

ライアンが産まれた日、私はライアンを守ると誓った

伯父様や伯母様、使用人達と過ごした年月

お兄様達と一緒に暮らし切磋琢磨した日々

ジェイデン、貴方は私の大事な弟

グレイソン、いつかライアンと共に笑い合える日を

コナー、手を広げて待ってて。私の道標、コナーが居なかったら耐えられない事ばかりだった。だから今は怖くない。コナーの笑顔が待ってると信じているから

タイラー、タイラーは私の分身みたいな、もう私の一部。タイラーはいつも私に助けられたって言ってたけどいつも助けられていたのは私。芯が強いタイラーにいつも私は助けられていたのよ。今も心を乱さずこの場に首を置けるのもタイラーのおかげなの。


露わになった首にポタンと一滴の血が垂れた。冷たいはずの血の雫。首に落ちた血の雫から温もりが感じられた。

怖くないよ

待ってるよ

と、私に伝えてくれる。

そう、私には皆が待ってる。皆が笑顔で私を待ってる。

だから私は逝くわ

皆の元へ

私を待ってる皆の元へ…


その時お腹がぐにゅっと動いた気がした。

大丈夫だよ

わたしも一緒だよ

と私に伝えてきた。

そうね、あなたが一緒なら何も怖くないわ。最後にあなたを撫でてあげられなくてごめんね。あなたはとても強い子。母様を離さないで。母様にしがみついていてね。

あなたは私の子

私の愛する子

あなたを離せない母様を許してね。一緒に連れていく事を選んだ母様を許して、ね…



お兄様、貴方が闇に落ちない事を願っているわ。お兄様は皆の光。

だから、だから闇に落ちないで…

私は幸せだったわ

だって私の周りにはいつも私の幸せを願う人ばかりだったもの

だからね、私も皆の幸せを願っていたわ

その中にお兄様も入っているのよ?

私が最期に残す記憶は皆の笑顔

お父様もお母様もライアンも、伯父様も伯母様もカーターも、それに使用人達も、

お兄様もお兄様達もトネードも、

それに王都に暮らす民も、

今まで出会った人達も、

コナーもタイラーもボビーもミーナもマイラも、

皆、皆笑っているもの

私は幸せ者ね





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