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しおりを挟む「キース様、少しお聞きしたい事がありまして」
「俺で分かる事なら何なりと」
「ジル様のお母様は刺繍が得意だったとお聞きしました。ですが何も残ってないとジル様が言っていました。何も残っていないなんておかしいと思いまして。確かに汚れたら捨てられてもおかしくは無いのですが」
「俺もその辺りの事は覚えてないんだよね。伯母さんが亡くなったのも幼い頃だったし」
「そうですか」
「イザークなら知ってるかも。もしくはベンなら知ってるかもしれないな。イザークもベンも代々辺境伯に仕えているから」
「分かりました。一度イザークとベンにお聞きしてみます」
「急にどうしたの」
「刺繍がお好きな方なら夫や子供が使う物に刺繍をしていると思ったからです。それとどんな刺繍を刺す方なのか知りたいと思ったのが本音です」
「そういう事ね」
「今からイザークの所に行きたいのですが良いですか?」
「俺は王女様の護衛だから何なりと」
私はイザークを探し、
「イザーク、今少し良いかしら」
「はい、アリシアお嬢様どうされました」
「ジル様のお母様が残した刺繍本なり刺繍した物なり残っていないかしら」
自分が刺繍した物を絵で残す方もいます。デザイン案を書く方もいます。それに図鑑などを見て刺す方もいます。図鑑だと印を付けているかもと。私は図鑑に印を付けていました。次に開く時に便利だから。
「奥様の物ですか…。宝石は金庫に入っていますが、ドレスは寄付したと覚えがあります。その頃は父が前辺境伯様に仕えていた時期ですので」
「そう…」
「もしかしたら…保管庫にあるかもしれません」
「保管庫?」
「奥様が亡くなられてジルベーク様が少し…」
「お母様が亡くなったのが幼い頃なら母親を恋しがったのかしら」
「はい、そのとおりです。国境から戻られた前辺境伯様が奥様の物を片付けた記憶があります。前辺境伯様は度々保管庫へ行かれていたので、もしかしたら…」
「保管庫は私も入れるの?」
「はい、数ヶ月後には辺境伯夫人になる方なのでジルベーク様の許可が無くても大丈夫です」
「それなら案内してもらっても良いかしら」
イザークの後について行き、保管庫の鍵を開けて中に入った。
「これは…」
お母様の姿絵が何枚もあり、お母様の刺繍の作品が飾ってあった。
「手に取っても良い?」
「どうぞ」
日記帳や刺繍のデザイン案のノートも置いてあり、私はデザイン案のノートを手に取った。
パラパラとめくり、デザイン案を見る。
きっと庭に咲いてる花か花束でもらったのかしら。色々な花の絵が描いてあった。
そして…
産着に刺繍が刺してあった。
「これはジル様が着ていたのね。小さい」
「赤子の時だからね」
「ふふっ、お母様はとてもジル様を愛してらしたのね。温もりを感じる刺繍だわ。それに肌に直接ふれない所に刺繍が刺してある。
イザーク、ジル様はこの保管庫に入った事がないの?」
「前辺境伯様が保管庫には入るなと言っていたので私も初めて入ります。父からもこの保管庫は前辺境伯様の私室と同様だと言われ許可なく入らないようにと言われました」
「まあ、そんな所に私が入っても良かったのかしら」
「伯父さんもイザークの父親ももういないんだし保管庫の中を確認しただけだ。もしかしたらお宝が眠っているかもしれないしね」
「お宝がたくさん眠っていました」
「確認して良かっただろ?」
「はい。それにしてもお父様はお母様を愛してらしたのね」
「仲の良い夫婦だったって俺の親父が言ってたな。兄上のあんな姿は見たくなかった、あれじゃあ辺境伯としての威厳も何もないって」
「ジル様がお母様を恋しがったのも一つの理由だと思うけど、きっとお父様はお母様を独占したかったのかもしれませんね」
「そうだろうな」
「ジル様はこの保管庫を見るべきだわ。お母様の愛情を感じられるもの。それにお母様の記憶がないなんて悲しすぎるわ。お母様の姿絵や刺繍で思い出してくれれば良いけど…」
「伯母さんの笑顔は俺も薄っすら覚えているよ。この姿絵の伯母さんのようにね」
キース様が持った姿絵のお母様は本当に笑顔が素敵な女性です。それに笑った顔はジル様に似ているわ。
私は刺繍が刺してある作品を一枚づつ手に取り、
「このデザインノートをお借りしても良いのかしら」
「良いんじゃない」
「絵を写したらお返しします」
「そのまま王女様が持っていて良いと思うよ。伯母さんもその方が喜ぶと思う」
「そうでしょうか」
「ほら、嫁に代々引き継ぐ物ってどこの家にもあるだろ?指輪だったり」
「はい」
「これは伯母さんからジルのお嫁さんに代々引き継ぐ物かもよ?」
「そうだと良いのですが。お母様の大切な物を私も大切にしたいです。
お母様、私が大切に引き継がせてもらいますね」
お母様の姿絵に私は話しかけた。
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