87 / 101
ただずっと側にいてほしかった
希望
しおりを挟む「キャロル散歩に行こうか」
「はい」
「今日は少し遠出をするぞ」
「まぁ、楽しみです」
コール様が指をパチンと鳴らした。
私はコール様を見失わないように必死に後ろをついて行く。コール様は私の側に来て『大丈夫か』と心配そうに見つめる。
『休憩しよう』と、コール様は先に休憩出来そうな場所を見つけ私を待っている。私がコール様の元まで行けば二人で揺れるベンチに座り、優しい風の悪戯か私達をくっつける。
『もう離れぬでないぞ』
と応援されているような、心配されているような、
でも大丈夫
だっていつも私の先を歩くコール様は私の目印だもの。コール様に追いつきたいといつも見ていたもの。
だから見失わない
兄様と釣り合える女の子になりたいと、
誰よりも可愛いと思ってもらえる女性になりたいと、
騎士のコール様を支える妻になりたいと、
いつ帰って来ても良いように、
どこで見られても良いように、
何年たってもコール様の心を釘付けにしたいと、
いつか会えた時、コール様に恥じないように生きようと私は胸を張って生きてきた。誰に何を言われようと顔を上げ真っ直ぐ前を向いて生きてきた。
強い気持ちを心を持っていたコール様のように
弱い母ではないと、私達の大切な花を大事に愛で育てた。一人でも寂しい思いはさせないと、私が守り、いつか……。
少しでもコール様に近づけれるように
だから泣くのは一人の時だけ、
『どこかで生きている』
私はそう信じていた。
キールに父親を憎んでほしくなかったから
キールに父親を忘れてほしくなかったから
希望は、
コール様とキールを結ぶ糸だから。
忘れてしまったら繋がる糸も繋がらない。
例えあの世で繋がる糸だったとしても…。
キールにも父親がいると
どこかでいつも見守ってくれていると
そう信じてほしかった…。
もし、コール様が逆の立場になっても、
妻は生きている
母上はいつもキールの側にいる
と言うもの。
だから私はコール様の真似をしたの。
貴方に近づきたいから
それに、
キールにも目指してほしかったから
どんな最期を迎えようと、その後の私達がどれだけ悲しみに暮れようと、
大事なものを護る為に最後まで逃げ出さず命懸けで戦う姿を、
コール様にとって隊の騎士達は家族だから、共に切磋琢磨して鍛えてきた仲間だから、共に戦ってきた戦友だから。
そして私は騎士の妻
騎士であるコール様の最期は誇れるもの。
妻の私がコール様の誇りを穢してはいけない。
騎士としての誇りを…
コール様は騎士として最期まで戦った。その身を切られようが、大事な家族で仲間で友を助ける為に剣を振り続けた。
怖かっただろう、
痛かっただろう、
辛かっただろう、
悔しかっただろう、
悲しかっただろう、
一人敵国で、誰にも看取られず息を引き取った…。
何度その身に剣が刺さり、何度倒れ何度起き上がり戦ったか。誰も通さないと己の命が尽きるまで剣を振り続けたか。
騎士として立派な最期だった…
そう思えるようになったのは何十年も経ってからだったけど…。
ヒラヒラと向かった先
目の前に広がる赤いゼラニウムが一面に咲いている。
「ありがとな…」
そう私に伝えたコール様の言葉には色々な意味が含まれていると思う。
『頑張ったな』
『一人で立派に育てたな』
褒めてもらいたいと思った。
でも、一番無念なのはコール様…
自分の子を抱く事もなく、共に暮らす事もなく、子の成長も、話す事も、遊ぶ事も、剣を教える事も、お酒を飲む事も、
何一つ出来なかった…
ただこうして見守るだけしか…
言葉を交わせず、触れる事も出来ず、抱きしめる事も出来ない。
ただこうして見守るだけ…
コール様はヒラヒラと近くを舞う事しか出来ない。
気づいて
お願い、キール…
「父上、母上、俺は幸せです」
満面の笑みを見せるコール様と私の宝物…
「父上、母上、そちらから見えていますか?今年も立派に咲きました。
父上……、母上……、……お会い、したいです………」
空を見つめるキールの目に涙が溜まっている。
いつか、いつか…、
親子で暮らせる日を……
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
782
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる