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おまけ エリーナ視点 ②
しおりを挟む「お父様、お母様、おはようございます」
「「おはようエリーナ」」
新しく私のお父様とお母様になったグレーク侯爵夫婦。私の実のお父様達より少し年上のとても優しいご夫婦。養女として私を快く迎え入れてくれ『この国の父と母と思ってほしい。私達も娘として接する』初めは少し戸惑ったけど今は親子として過ごしている。
実のお父様達がハーベルト国へ帰る前の日、離宮で家族最後の夕食を食べ、その後お父様と話しをした。
『お父様にウィングル国にご友人が居たとは知りませんでした』
『私の友人ではない、マイアの遠い親類だ』
『お義姉様の?なら元は王族の方だったのですね』
『ああ、先代の侯爵夫人が元王女だ。現侯爵夫婦には一人娘がいたが嫁いだそうだ』
『この国は女性でも跡継ぎになれますよね』
『好きになった相手が平民だった。娘さんは彼に付いて行ったそうだ』
『それなら親類の方々に既に声を掛けていたと思います。私が養女に入ってご迷惑ではありませんか?』
『元々侯爵夫妻は自分達の代で爵位を返上する予定でいた。だがエリックがある者から頼まれて別の者の養子先を探していた。マイアの口利きで侯爵夫妻はその話を受け入れ、そしてお前はその養子に嫁ぐ予定だった』
『お兄様が頼まれたある者とは、まさか…』
『サーフェス陛下だ。侯爵家はローレンス殿下の養子先、そしてお前の嫁ぎ先になる予定だった』
『ルーファー殿下を王太子に、その声があったのは知っていましたが、なぜローレンス殿下を隣国に、これでは国外追放です』
『それだけローレンス殿下の排除を望む声が大きかったんだ。幽閉では納得出来ず平民にしろと嘆願書まで作成された。貴族の過半数が優に超えていたんだ。お前がどれだけ庇おうが陛下が擁護しようが殿下自身が変わらず、それに殿下の素行の悪さは目に余った。
陛下は内々に殿下が貴族として暮らせる道を探しエリックに頼んだ。自国ではもう貴族としては暮らしていけないだろうと。陛下でも貴族を無視する事は出来ない』
『それは分かります。なら私ではなく殿下を養子にするべきです。私は平民でも構いません』
『侯爵家をお前の養女先に、そう私に言ったのは陛下だ。陛下からお前への10年分の慰謝料だ。10年間国へ捧げたお前への償いだ』
『償いだなんて、私は殿下の婚約者としての努めだと思っていました。確かに今となっては虚しいとは思いますが慰謝料を頂く理由がありません。婚約破棄を言ったのは私です。王家の殿下に一方的に婚約を断ち不敬を働いたのは私です。不敬を働く以上罰を受ける覚悟でした』
『私とて娘は可愛い。お前が婚約破棄をすると言った時私は静観した。なぜか分かるか?お前が殿下を慕う気持ちを知っていたからだ。お前が婚約破棄をしたいと言うのなら私達も一緒に罰を受けよう、そう覚悟した。
エリーナ、これは陛下の心だ。お前から婚約破棄を言う以上罰は免れない。例え殿下に非があったとしてもだ。そしてお前の意思は強かった。
陛下はお前が貴族として暮らせるようにと殿下の養子先の侯爵家へお前を養女として迎えてほしいと頼んだ。
エリーナ、陛下の心を無にするな、有り難く受け取りなさい』
『私は何を返せばいいのでしょう。陛下の心に返せるものがありません』
『精一杯生きればいい。そしていつかお前も誰かに心を授ければいい』
侯爵家で暮らして半年。今はお母様と刺繍を刺している。
「上手ね、流石だわ」
「刺繍は没頭でき唯一何も考えなくて良かったので」
「あら刺繍は楽しく刺すものよ。一針一針に贈る人の事を考え心を込めて刺すものよ。今刺しているこの刺繍も孤児院の子供達の恵みになりますように、子供達の笑顔の為に仕上げるの。そして私達はくだらない話しをしながら刺せば楽しい時間だわ」
ハーベルト国でも刺繍はよく刺していた。孤児院の子供達が使うハンカチ、服、それぞれに刺繍を刺した。刺繍の柄で自分の持ち物と分かるように。王都にある孤児院は2箇所。そこで暮らす子供達全員の分の刺繍を刺した。一人で没頭できる唯一の時間だったから。
今はお母様と話しをしながらゆっくり刺している。案外話しながら刺すのは熟練技だわ。お母様はすいすいと刺しているけど。
それにウィングル国の孤児院では月に一度バザーを開催する。孤児院の子供達がお菓子を作り売る。そしてその収入でまた材料を買う。そこに私達が今刺しているハンカチやテーブルクロスを寄付しその収入は孤児院の寄付になる。前バザーを見に行った時、色々な物が売っていた。編んだショールや子供服、髪飾りのリボン、私も数点購入した。
バザー、孤児院の子供達にとって言葉ではなく体験して得る収入は子供達の実になり財産になる。自分が作った物が売れれば嬉しい、そして収入を得る事の大切さを知れる。
お父様は領民達に率先して孤児院の子供達に手伝いをさせるようにと言っている。そして駄賃を支払いその駄賃は自分の大切なお金。収入を得るには自分で働き稼ぐしかない、そう教える為に。
でもそれは領地ならでは。王都では難しい。働き手が多く子供の駄賃程度なら自分の子供達を手伝わせる。だから私は子供達にいつも言い聞かせていた。一緒にシスターの手伝いをし、皆働き生活をしているのだと。孤児院を出たら働き収入を得るのだと。
でもバザーなら王都の孤児院でも出来る。そして働く術を教える事が出来る。
「貴女の悪い癖よ、ほら考えない。楽しくよ?」
「ふふ、はいお母様」
だめね、つい考えてしまう。私はもう孤児院に手を貸す事は出来ても口を出せる立場じゃない。それも他国の孤児院に。
「エリーナ」
呼ばれ私は手元から目を離し顔を上げる。
「今度お茶会に出席しましょう。私の友人の家だから貴女の味方はいるわ。でも口さがない人もいるのは事実よ」
「はい心得ています」
「お茶会は女性の戦場なの。そこでどれだけ味方をつけるかよ」
お茶会当日、綺麗な花が咲き誇る庭園の中でお茶会が始まった。フルーティーなハーブティーは周りの花の匂いと相まってとても美味しかった。
「ねぇグレーク侯爵令嬢様、貴女のお噂は私も耳にしましたの」
「どんなお噂か存じあげませんが良いお噂だと嬉しいですわ」
「貴女に良いお噂がありまして」
「そうですわね、私は社交もこちらのダイヤン侯爵家のお茶会が初めてですもの。社交をしない令嬢はおりませんものね。良いお噂はありませんわ。ですが社交もしていない私のお噂などどこからお耳になさったのでしょう。お噂がホーラン侯爵令嬢様のお耳に入るほど社交はしておりませんのに」
私はコテンと首を傾けた。
「貴女ね!
ハーベルト国のお噂よ。あまりよろしくないお噂を耳にしましたの」
「ハーベルト国の…、事実ですわ」
「お認めになるとおっしゃるの」
「ええ、事実を隠しても仕方がありませんもの。隠し立てすればするほど噂が本当か気になるのが人の性ですわ。それを止める事など誰にも出来ませんもの」
「貴女ね、汚点はお隠しになるものよ」
「やはり汚点、ですわよね…」
私とホーラン侯爵令嬢は見つめ合った。周りの令嬢達は私達二人に釘付けのように話しをやめ聞いている。
ホーラン侯爵令嬢は「はぁ」と一息吐き、
「婚約破棄なんて汚点以外ないじゃない」
「ですがそれが私の最後の手段でしたから」
「でも浮気男に突き付けた事は褒めてあげるわ。でもやり方よやり方。婚約破棄は貴女にも汚点を残すのよ。それに知らぬ存ぜぬを貫けば良かったのよ。噂はあくまで噂なの」
「噂は私の預かり知らぬ所でひとりでに歩きます。事実とほんの少しの悪意が混ざって。そして貴女はその噂の真相を私に確かめました。噂を本人に確かめる人はいません。影で言うから噂なのです。
それに他国の人間が急に侯爵家の娘になれば何があったかと気になります。親類でもない他人、それも幼いうちなら跡継ぎに、そう考えられますがもう私は成人した女性です。事実を隠した所で噂話はどこの国でも好まれます。
今日お母様は味方を作りなさいと私に言いました。ホーラン侯爵令嬢がただの嫌味だったとしても私に真相を確かめようとしたその行動に私は友人になりたい、そう思いました」
「サリサよ」
「エリーナです」
サリサ様は私に手を差し出し私も手を差し出し握手をした。
「エリーナは馬鹿ね。婚約破棄にしなくても良かったでしょ。浮気した王子が全面的に悪いんだから白紙に戻しても王子には何か罰があったはずよ。そしたら貴女には傷がつかずに済んだのよ。婚約破棄した事で貴女は負わなくてもいい罰を負ったの」
「でも婚約は一人では出来ないわ。男女が将来の約束を交わすから婚約なのよ」
「浮気した時点でその婚約を御破算にしたのは王子。貴女が婚約の罰を負う必要はないのよ。王子が全て負うべきだわ」
「私も見て見ぬふりをしたわ。それに目を瞑り婚姻する事だって出来たのに私はそれが出来なかった。ならそれは私の非、私は自分の非に責任を取らないといけないわ」
「我慢する事が美学?私達はいつもにこにこしているお人形さんじゃないのよ?それに浮気している人に浮気をするなと言っても無駄よ。浮気相手の事が魅力的に見えているんだもの。その人の事しか考えられないしその人の言葉しか聞かないわ。浮気相手だって浮気はいけない事だからやめて婚約者を大事にして、そんな事を言う人ならそもそも浮気相手にもなっていないわ。
浮気した二人が責任を取る事で貴女は取らなくてもいい責任を取ったの。本当に馬鹿な子」
「そうね、でも婚約破棄をして綺麗さっぱり忘れられたのは事実だから。
ねぇ皆は婚約者はいるの?」
ウィングル国は家によって考え方が違うみたい。婚約者がいる令嬢もいればいない令嬢もいる。政略も勿論あるけど少ないみたい。子供の気持ちを大事にする親が多いんだって。
お父様とお母様の本当の娘さんも平民と恋をして彼に付いていきたいと言った娘さんを送り出したと言っていた。
貴族間では爵位の釣り合いはあるようでない。王族は別格だから違うらしいけど。身分違い、それで苦労をしても自分の責任。『苦労する事が分かっていてもその人を選んだのはあなたでしょう』って。突き放しているように思えるけど『頑張りなさい、いつも見守っているから』らしい。
お母様も娘さんと手紙のやり取りをしていると言っていた。
国によって考え方は違う。女性でも爵位を継げる事もそうだけど、王宮で文官として働く貴族令嬢もいるらしい。女性でも商会を経営したり洋装店を経営したり、働く女性が多い。
他国に比べ婚姻するのが遅いのはその為。自分の幸せは自分で見つける、そう考える人が多い。
この国の人達は婚約者が浮気をした段階で白紙に戻す。正当な理由なら何度白紙に戻しても誰も気にしないらしい。
それでも噂話にはなる。
サリサ曰く『何を言っても噂話が好きな人はいるわ、気にしないのが一番よ。人の噂話なんて暇つぶしだもの。次の噂話が出れば興味なんてなくなるわ』
サリサもお茶会の暇つぶしに噂の真相を確かめた。私の噂話を聞いてどんな馬鹿な子か会ってみたいと思ったらしい。
それでも友人になれたわ。
ちなみに私の噂話
『王子に愛想を尽かされ、それに腹を立てて半狂乱で婚約破棄をし、国から追放され親にも見放され、妹を不憫に思った心優しい王配殿下が手を差し出し助けたらしい。本当に王配殿下は慈悲深いお人だ』
殿下に愛想を尽かされって初めから好意なんてなくて嫌われていたし、浮気して腹を立て半狂乱?私は冷静だったわ。腹を立てては少しあったかもしれないけど。国を追放になってないし親にも見放されてない。自由に行き来出来るしハーベルト国では平民ってだけだしね。でもお兄様がこの国の人達に受け入れてもらえてるのは嬉しい。お兄様の努力の賜物ね。
お茶会の前日お母様は言っていたわ。
『胸を張りなさい。自分の選択が間違いじゃないと思っているのなら堂々としなさい。自分の選択と人の選択が違うのは当たり前よ。今後悔していないならそれで良いの。この先後悔したならその選択は間違っていた。それでも人は誰でも選択を間違えるものよ、同じ間違いをしなければ良いだけのこと。貴女の人生だもの、貴女の好きなように生きなさい。私は貴女をいつも見守っているわ。私だけじゃない、貴女の本当のお父様もお母様も勿論オスカーもね。娘の幸せを願わない親はいないわ』
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