婚約破棄します

アズやっこ

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おまけ アラン視点

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「エリック、妹さん婚約者がいるって本当なの」

「ああ、ハーベルト国の第一王子殿下だ」

「王子か…」


マイア女王陛下の王配になったのはハーベルト国の公爵家のエリック公爵令息。

マイアがまだ王女で10歳の時、国王と一緒に隣国へ訪問した。2歳年下のエリックがマイアの案内役兼話し相手として選ばれた。当時ハーベルト国国王の第一王子は5歳だった。マイアと歳が近い8歳のエリックとマイアと同じ歳の公爵家の令嬢も選ばれた。

我が国は第一子が王になり王の伴侶は他国から娶る。第二子以降はこの国の貴族と縁組を結ぶ。

一週間滞在中エリックとマイアの仲良さそうな姿を見た国王はハーベルト国国王に打診した。『マイア王女の婚約者としてハウバウル公爵令息との婚約を検討してほしい』と。

公爵家が王家から、それも2国の王家から打診されて断れる訳がない。


「分かるわアラン、エリックは美男子だしエリーナは美人だもの」

「だろ。あぁあ、残念だな」


マイアとは幼い頃の遊び相手だった。幼馴染みというやつだ。エリックと同じ年の俺がエリックがこの国へ来た時の案内役兼友人になった。3人で話す時はマイアもエリックも気さくに話してくれるし俺は元々気さくに話す。

二人の婚姻式の時、俺はエリックの妹に目が奪われた。一目惚れだな。凛とした立ち姿、誰とでも笑顔で会話し、その会話も不快なんて思わなかった。公爵家の三男の俺は案外お気楽なんだ。長男の兄上は真面目だから公爵家は安泰だし次男の兄上は騎士になった。父上も婚約婚約言う人じゃない。今俺は長男の兄上を手伝ってる。


「王子の婚約者ならあの笑顔の下に涙を隠してきたんだな」

「どういうこと?」

「マイアは王女として育ったから国の為国の民の為、生まれたその時から聞かされ育っただろ。将来王になる子だったから尚更」

「そうね、もう染みついているわね。でも王の子としてこの世に誕生した以上国の為に捧げるのは当然だと思うわ」

「俺もだけど貴族は元気に育ってほしいって言われて育つ。それから徐々に領民を大事にしろ、弱き者を助ける人になれって。国の民と領民では背負うものが違いすぎる。それを婚約者になった途端国を国の民をと言われても正直迷惑だ。育った環境が違えば考え方も違う。ゆっくり教わりながら成長するのと急に詰め込むだけ詰め込まされるのとでは違う。

マイアだって泣いた事くらいあるだろ。婚約者はその何倍も涙を流してるんだ」

「そうね、王家から打診されて断れる訳がないわ。断れば不敬だと言われ、打診という名だけで半強制的に婚約者にされる。だから婚約者を大事に大切にするわ。王の子供は早くから婚約者を決める、私は遅かった方よ、私と歳が近い王子が居なかったから。お父様とお母様も早くから婚約し長い時間を掛けて距離を縮めていったわ。婚姻する3年前からこの国に暮らしこの国に慣れてもらう。エリックの滞在先はアランの公爵家、それは後にエリックの後ろ盾にもなる。家族から離され王宮で一人よりは家族の温もりの中で暮らしてほしい、それが他国から伴侶を見つけるこの国の在り方。お母様の滞在先だった公爵家もお母様にとってこの国での父と母、そして姉妹だと家族だと言っているわ」

「でも元王妃様は他国の王女、エリックやエリックの妹とは元々の心構えが違う」

「そうね、王女のお母様も国の為で育った一人だわ。エリックも涙を流したのね、そしてその笑顔の下に隠しているのね、ごめんなさいエリック」

「ちょ、ちょっとまってくれ。確かに王家から打診された時は戸惑った。断れない事も分かっていた。嫡男だったし弟のエリオットは産まれたばかりだった。公爵家の跡継ぎとして育った私に王女の婚約者なんて荷が重いと思った。それでも私は自分で決めたんだ、マイアの婚約者になろうと。家族と離れて暮らす事もウィングルに骨を埋める事も私は自分で決めた。

マイアの案内役としての一週間、本当に私は驚かされた。王女としての立ち振る舞いではなく素のマイアが自分と変わらない一人の少女なんだと思った」

「ああ、マイアはお転婆だからな。どうせあっちでも木に登ったりしたんだろ?エリックだって本当はこんなお転婆嫌だったろ?」

「そのお転婆がマイアの魅力だ。木に登っていたかと思うと隣に立ち王女の顔になる。そしてまた少女の顔になる。私はその素の顔をいつまでも大事にしてほしいと思った。始まりは政略だとしても今は愛しい私の妻だ」

「エリック…」

「はいはい、二人は良かった良かった。でもエリックの妹はきっと今でも涙を流し続けてる。俺が笑わせてやりたいな」

「無理ね」

「分かってるさ、相手は王子、俺だってこの国を危険に晒したい訳じゃない。でもさ、婚約者がいますって言った一瞬の顔がどうしても忘れられないんだ。諦めてるとは違う冷めてるとも違う、辛い顔、まるで失恋でもしたような、そんな顔…」

「ローレンス殿下は少し我儘な方だ。私は12歳までのエリーナしか知らないがエリーナは殿下を慕っていた。確かに殿下の婚約者になり教育は厳しかったとは思うが」


コンコン


「陛下休憩は終わりです」

「分かったわありがとう」


マイアが席を立ち


「なら私も戻ろう」


俺はエリックの腕を掴んだ。


「エリックはまだいいだろ」


マイアが部屋を出て行き部屋の中には俺とエリックだけ。


「なぁ兄弟」

「嫌だ」

「まだ何も言ってないだろ」

「アランが兄弟と言う時はろくなことしかない」

「まあまあ、ちょっとエリックの父君に手紙を書いてくれるだけでいいから。この者を従者として雇ってほしいって」

「父上は騙されないぞ」

「だからそこも書いてほしいんだろ」

「父上と兄上の許可が出たら書いてもいいが二人には迷惑をかけるな」


俺は1年後ようやく許可を貰った。期間は1年。エリックに手紙を書いてもらい俺はハーベルト国の公爵家に向かった。

公爵は俺を見てエリックの手紙を見て『分かった』と一言だけ言った。エリックがどんな内容の手紙を書いたかは知らない。それでも当主が『分かった』と言った以上俺は従者だ。執事のジョーンズさんのもとに付いた。

平民として邸で働く人達と同じように暮らした。俺も1年領地で領民達と一緒に暮らしていない。

父上は許可が欲しいなら1年領地で領民と同じように生活しろと言った。領地にある公爵家の邸ではなく空家での生活。一緒に働き自分で全てやる。始めは何もできなくて領民達に教えてもらった。元々誰かと話すのは得意だし人に聞くのが恥だとも思わない。知らない方が恥だと思う。隣に住むおばちゃんには世話になりっぱなしだった。『手にかかる子ほど可愛いとはよく言ったもんだよ』息子のように接してくれて俺も母のように思ってる。

三男だし将来はここで皆で楽しく暮らすのも悪くないって思った。


エリーナと初めてご対面した時は『あ!』とものすごく驚いていた。澄ました顔じゃない顔を見せた。

当主の父君が従者だと言う以上、エリーナも俺を従者として扱った。


「アラン、急いで馬車の用意して、遅刻しちゃうわ」


案外エリーナはお寝坊さんだったりする。

殿下と一緒に行ってた時は2時間前に起きてたらしい。『お待たせする訳にはいかないし寝起きの顔では失礼でしょ』それが今は欠伸をしている。


「なに?なにか付いてる?寝癖?どこ?」

「いや、普通の女の子だなと思ってただけ」

「それより早く早く」


馬車は少し離れた所に元々待機させてある。ただ俺がエリーナと会話したいが為に毎朝少し離れた所に馬車を止めている。

手を挙げれば馬車は玄関前に止まり俺は扉を開け手を差し出す。俺の手を支えに馬車に乗り込み俺は馬車を見送る。


「アランありがとう、行ってきます」

「お気を付けて」


ジョーンズさんが言うには最近は昔のように笑うようになったと言った。それでも時折見せる表情はあの時俺が一瞬見た顔のままだ。

学園から帰ってくるといつも疲れた顔をしている。本人は疲れてないって言ってるけど俺には分かる。何年も王子の婚約者なら今は自然と身についているんだろう。

でも俺はマイアの幼馴染みでマイアが王女の顔をするのを何度も見てきた。マイアは産まれた瞬間から王女だから物心つく前から上手に使い分けている。

俺から見たエリーナは不器用だ。

でもとても心が優しい。

立場は関係なく礼儀は大切だとメイドには『いつもありがとう』と言い、料理人には『今日も美味しい食事だったわ、ごちそうさま』そう言いに料理場まで顔をだす。

この前、邸の騎士見習いが稽古の最中に剣を鞘に戻さず刃が剥き出しのまま横に寝転がっていた。騎士二人で見習い騎士達を順番で稽古をつけていた。鍛える為に稽古が厳しく自分の番が終わればそのまま横になる、見習いにはよくある事だ。

『横になるなとは言わないわ。でも剣は必ず鞘にしまいなさい。そう教えられているはずよ。剥き出しの刃で貴方の横にいる彼が腕を伸ばした時腕に傷を負ってしまうでしょう。邸で働く者達が知らずに通れば怪我をするわ。自分は騎士だという自覚を持ちなさい』

正論だけど厳しい言い方だと捉える者もいるだろうな、と思った。でも騎士見習いが悪い。騎士は必ず剣を鞘に戻す。刃が剥き出しのまま横になったりしない。木刀なら許されても真剣でそれをやるのは斬られた者だけだ。木刀の時の癖で、それは通用しない。自分が真剣を持っている、その自覚が足りない。

『厳しい稽古だと思うけど頑張ってね』

厳しさの中にも労りがある。

自分の非を伝えてくれる人は貴重だと俺は教えられた。貴族はある意味騙し合い。自分の本心を隠して上辺だけ取り繕う。その中で自分の非を伝えてくれた者は一生物の宝物だと父上は言った。得たくて得られるものではない。それを不愉快と思うか得難い存在だと思うかは自分次第だと。

さあ、彼はどうかな?


「ありがとうございますエリーナお嬢様。真剣を持つ時は自分が真剣を持つ騎士だと自覚しろと先輩達にいつも厳しく言われていました。どれだけ疲れても俺は騎士になりたくて見習いになりました。油断をしていました。俺は騎士だという自覚が足りてませんでした」

「でも貴方は今気付いたわ。見習いなんだから何度も失敗して成長すればいいと思うの。でも真剣を扱う以上気を付けて、貴方の仲間だけじゃない貴方自身も傷を負うわ。頑張ってね、応援してるわ」

「はい」


この騎士見習いには一生エリーナの言葉が残るだろう。

エリーナは本当に素晴らしい女性だ。

王子の婚約者じゃなければな…



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