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おまけ ローレンス ④
しおりを挟む「当主さま」
外で遊んでいる子供達が騒ぎだし私も外に出ようと出入口へ向かった。
そういえばここは誰の領地なのか神父様に聞き忘れていた事を思い出した。
勝手に居座り知らぬ間に私を手助けしていたなんて知れば父上から罰が下る。それを謝罪し早急にここを出ないといけない。それでもまずは謝罪だ。
慌てて外に出れば一人の男性の後ろ姿。男性は一人の子を抱き上げ他の子の頭を撫でている。子供達は『当主さま聞いて』と男性に話しかけている。男性は片膝を付き子供達の目線に合わせ座り子供達の話しを聞いている。
ここの孤児院の子供達は皆素直な子ばかりだ。そして優しい子ばかりだ。駄賃を貰った子達は少しづつ駄賃を出し合い皆で食べれる袋に入ったクッキーを買う。
以前手伝いに駆り出された子達が少なく金子が足りなかった。私は自分が貰った駄賃を出した。私が貰った駄賃を足せば買えたからだ。だが店主に首を横に振られた。『お金が足りなければ買えない、我慢する事も覚えないといけない』と。そして店主は今あるお金だけで買える物を教えた。皆が食べれる量ではない。子供達は『どうする?』と悩みに悩んで小さい子達の分だけ買った。『僕達はまた駄賃を貰えるけど小さい子達は駄賃を貰えないし、それに僕達がお菓子を買ってくるのを楽しみに待ってるから』小さい子達の喜ぶ顔を見たくて自分達は我慢する。
神父様の教えや領民達の教えだとは思う。だが当主によって領地の環境は様々だ。子供達だけじゃない領民達も皆生き生きとしている。それだけこの領地は住みやすい。
そんな領地の当主に申し訳ない気持ちだ。
「お兄ちゃん、当主さまだよ」
「あ、ああ、挨拶、しないとな…」
男性は子供達に『遊んできなさい』と声をかけ子供達の後ろ姿を見送り振り返った。
「公爵……」
「お久しぶりです、ローレンス殿下」
「すまない、公爵の領地とは知らなかった。直ぐに出て行く」
『少し歩きましょう』と私は公爵の後ろを付いて行く。
「公爵、あの、」
「殿下、私は貴方が憎い。ですが憎しみを持てば何も見えなくなる」
公爵は振り向かず話しだした。私は公爵の後ろ姿を見つめる。
「貴方が隣の子爵領で行き倒れになっていると報告を受けて、もし公爵領に来たのなら私は領民達の目を信じようと思いました。
公爵領の領民達は貴方の目にどう映りましたか?
殿下、心を尽くせばそれに見合った心が返ってきます。反対にぞんざいに扱えば人は離れていきます。領民達は貴方の頑張りを見て力を貸しました。もし貴方がここで快適に暮らせているのならそれは領民達の思いやりです。なら私は領民達の心を黙認するだけです。
以前の貴方はエリーナだけじゃない貴族達にも傲慢でした。貴族達を軽んじ、ぞんざいに扱った結果が行き倒れです」
「確かに私は傲慢だった。だが貴族達を軽んじた事もぞんざいに扱った事もない」
「確かに王宮で出会う貴族達には第一王子として表面上にこやかに接していました。エリーナとも貴族達の前ではにこやかに笑い合い表面上は仲良く見えていました。皆を騙せるほど上手く取り繕っていました。
ですが殿下、学園に通う令息令嬢達も貴族です。貴方に苦言を呈した者もいたでしょう。咎めた者も注意をした者もいたでしょう。ですが貴方は黙殺しました。そして貴方は皆の前で彼らを叱責しました。理不尽な叱責をされた者は勿論その場に居合わせた者も貴方には何も言えなくなりました。そして貴方から離れたんです。貴方は仲の良いご友人だけ贔屓しその者達の理不尽な行いを傍観しました。
子供達から聞く殿下の学園での様子で貴族達は殿下に見切りをつけたんです。一人や二人が言うならたまたまで済みましたが何人も同じ事を言えば貴方の本来の姿は愚かな王そのもの。
貴方は貴方が王になった時に貴方を支える臣下になる者達を軽んじぞんざいに扱ったんです。
貴方が早くそれに気付き悔い改めていたら、陛下が荷担した者に罰を、そう言われても貴方を助けたいと思う強い気持ちがあれば手を差し出したでしょう。助けたいと体が勝手に動くのが心です。
殿下、あれだけ仲の良かったご友人達は貴方がこのようになっても手を差し伸べてくれましたか?」
私は握り拳に力が入った。
誰一人として、仲が良いと思っていた友人達でさえ私を助けてくれた者は一人もいない。
公爵は足を止め振り返り私を真っ直ぐ見つめた。
「誰かが貴方を手助けすれば荷担ですが貴方が助けたいと思い働いたのなら雇った者は荷担にはなりません。もしそこで得た収入が駄賃程度ではなく暮らしていける程の収入だとしても貴方が働き得た収入、正当な報酬です」
「屁理屈ではないか」
「ええ屁理屈です。貴方を雇い報酬を支払えば貴方を手助けしている事になる。
殿下『心』です。貴方は領民達から助けてほしいと声がかかればどんな事でも進んで手を貸してきました。助けられた者は貴方に感謝をします。そしてそれは人の口によって広まる。人一人一人に心があり例え手助けになると分かっていても心は誰にも止められません。それは貴方自身が身をもって示したからこそです。
殿下、例え罰を受けても貴方を味方したい、そう思う人の心をこれからも大事にして下さい。今の貴方なら大丈夫です」
「公爵すまない。私は王子の自覚が足りなかった」
「そうですね。ですが自覚は自分自身で気付かなければ意味がありません」
「ああ、私は愚か者だ。エリーナにも申し訳ないことをした」
「フッ、殿下初恋はいつまで経っても色褪せないものです。それと情を持った者を心底憎みきれないものです。
殿下、他人の心はこれから貴方の財産になります。お金では買えない価値のあるもので高価なものです。これからも心の財産を増やして下さい」
公爵の初めて見る優しい顔が私の胸を締め付けた。
公爵は貴族の中でも一番王家に忠義を尽くしている。そして今も元王子の私にも『殿下』と礼を尽くしてくれている。
公爵はまた私に背を向け歩き出した。
「年寄りのひとり言だと聞き流して下さい。
貴方が他の女性に好意を抱いた時に、否、娘との婚約に好感が持てないと思った時に貴方から婚約を白紙に戻してほしかった。公爵家は代々王家に絶対的な忠義を尽くします。忠義を尽くす相手に誰が言えましょう。ですが今更です。
年寄りはいけませんね、小言が多い」
「公爵は私が領地にいると知って確かめに来たのか」
公爵は足を止め振り返った。
「私は神父に頼まれただけです。
『一組の浮浪者の夫婦を神のお導きでお世話をしています。夫人の体調が芳しくなく王都の医師の診察を仰ぎたく一度領地へ足を運んでは頂けないでしょうか』
神父から手紙を受け取り私は公爵家の医師を連れて領地へ来ました。ここは公爵領でも端、子爵領との境目に新しく建てた教会です。子爵領には小さな教会があるだけで孤児院はありません。公爵領の中心部にも医師はいますがやはりこちらに滞在する医師は必要ですね。領地の見直しが必要です」
「今まではどうしていたんだ?」
「端と言っても馬でかければ寸刻、重い病気や重傷を負えば中心部へ移動させます。中心部には元々ある教会や孤児院はありますから完治するまでそちらで暮らします。それに月に一度医師がこちらの孤児院や各家を回り診察をしています」
「急な腹痛とかはどうする」
「領民達は薬草に詳しく生えてる薬草を煎じて飲みます。代々親から教わる生きる知恵です。こちらは子爵領から移動して来た者達が多くいます。救いを求める者に神は平等で生きる術を与えるのが当主の私の役目です。
殿下、私は貴方の手を借りたい。陛下が設立した平民の子達が通える学校は領地の中心部に建っていて馬で寸刻とはいえ子供達の足では遠い。こちらで孤児院の子達や領民の子達に文字の読み書きを教える教師がいません。今は神父が教えていますが神父も領民の子達にまで手を伸ばせれないのが現状です。子達がこちらへ出向けばそれも可能ですが親の手伝いをする子達に出向かせてまで学ばせる親がいないのも事実。簡単な文字なら親でも教えられます。それより農作業など生活する術を教える方が為になります。ですが知って損はないと私は思っています。文字が読めれば書物から知識を得る事ができ、ゆくゆくは領地の発展に繋がると思います。
殿下、私に手を貸して頂けませんか。私を助けてはくれませんか」
「だが私が手を貸せば、公爵もただでは済まない」
「私が貴方に手を貸すのではなく借りるんです。そして貴方は手助けを受けるのではなく手助けをする方。そして正当な報酬を受け取り己の報酬で生活をするんです。今は教会で神の施しを受ける身ですがいつまでも教会で暮らす事は出来ません。心身健康になれば神に感謝し自らの力で生きる、神父はその手助けをし導き送り出す」
「そうだな、施しを受け続ければ楽を覚える。楽を覚えれば自らの力で生きようとは思わない。誰しも己が生きる為に働き生活する努力をする。
悪いが少し考えさせてほしい」
それから公爵の後ろを付いて歩き、公爵の背中を見つめた。
エリーナを長年傷付けた私が公爵に甘えていいのだろうか。神父様も領民達も私が誰か知っているのだろう。それでも私を受け入れてくれた皆を巻き込んでいいのだろうか。
否、良くない。
夕食の時間、公爵は子供達に混ざり子供と話し一緒に同じ食事を食べていた。
私が公爵を見つめ過ぎたのだろう。
「どうしました」
公爵と目が合った。
「あ、いや…」
「当主なのになぜこの子達と一緒に食べているんだ、といった所でしょうか。
この子達は私の子供達。今後公爵領を守り盛り立てる存在です。私達貴族は領民達のお陰で生活が出来ています。そして私達は領民達の生活を護らないといけません。
王族は敬う存在ですが領民達は尊ぶ存在だと私は思います。当主として私は領民達に日々感謝し礼を尽くさなければならない」
「だからここは居心地が良いんだな」
だからこそ思う、皆を巻き込みたくないと。
夜も更け辺りは静けさが広がっている。暗闇は人を隠すには十分なほどだ。『妻をよろしく頼む』と置き手紙を残し、眠り続けるミリアに別れを告げた。
公爵が連れて来た医師の診断では『健康面は峠を越えました。後は食事をし体力をつければ問題はないのですが、今のまま眠り続けるのであればその体力も落ちやがて死んでしまいます。今は薬を水で溶き脱脂綿に浸し少しづつですが口から含んでいると思われますが薬では栄養は取れません。たまに目を覚ます時はスープなどを口にするようですがそれもたまにでは…。奥様は目が覚めないのではなく目を覚ましたくないのだと推測します。環境ががらりと変わり死の淵を彷徨い心に何らかの病を負っているとしか…』
そんな状態のミリアを動かせるのは酷だ。神父様も領民達も公爵もミリアを受け入れてくれるだろう。
罰を背負うのは私だけで良い。これからも罰を背負い償いの旅に出るのは私だけで良い。
「やはり出て行きますか」
「こ、公爵」
「そうするとは思いましたが私はそうしないと貴方を信じたかった」
「ミリアを頼むのは筋違いなのは分かっている。それでも頼む公爵、私一人に罪があり罰を背負うのは私だけで良い。この居心地の良い領地を領民達を巻き込みたくないんだ。公爵を巻き込みたくないんだ、分かってくれ」
「出て行く者を私が止める事など出来ません。貴方が出て行くと言うのならそれも致し方ない。ですが貴方に良くしてくれた神父や子供達、領民達に何も声を掛けずに出て行くおつもりですか。感謝の言葉も言わず去って行くのが貴方の皆への返し方ですか」
「だが…………、良い人達だからこそ理不尽な罰を受けてほしくないんだ」
「罰を受けるのは領民達ではなく黙認した私です」
「私はこれ以上公爵にも迷惑をかけたくないんだ。本来なら私など手助けなんてしたくないはずだ。私の顔も見たくないはずだ」
「そうですね、出来れば関わりたくなかった。ですが陛下は私に罰を下さないと思います」
「なぜだ、屁理屈が父上に通用するとでも言うのか」
「私は陛下のお心に私の心をお返ししたまで」
「だとしても」
「なら分かりました。
殿下、貴方の罪は婚約者のエリーナに対し長年不誠実で理不尽な態度を取っただけでなく他の女性に心を移し不貞をしました。
殿下、エリーナに少しでも謝罪したいと思う気持ちがあるのなら、今までの自分は婚約者に対し不誠実だったと認めるのなら、公爵領に残り罰を償って下さい」
「エリーナの父の公爵に言われて私が否と言えると思うのか、卑怯だぞ」
「フッ、そうですね。ですが以前の貴方ならはっきり言ったでしょう。
変わられましたね、殿下…、…本当に変わられました」
公爵は優しく慈しみに満ちた声だった。
公爵は星が輝く夜空を見上げている。私も同じように夜空を見上げる。優しい光で輝く星達が見守る中、私と公爵はただただ星を眺める。
星が滲み輝く光がより輝きを増し、夜風が頬を伝う雫の存在を私に伝える。
「私が貴方に手を差し伸べるのは私の罰。可愛い娘を10年間助けてあげられなかった私の罪です。
これも神のみわざ、貴方が公爵領へ来たのも貴方を手助けするのも、可愛い娘を傷つけたのは私も同じ。お互い手を取り助け合いなさいと言う思召でしょう」
公爵と私は星空を見つめた。
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