ただずっと側にいてほしかった

アズやっこ

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中編


結婚して1年。

コール様は庭の花壇に花の種をまいた。


「何の花の種なの?」

「それは咲いてからのお楽しみだ」


私は毎日水やりをした。

結婚して1年、私は子供がなかなか出来なくて焦っていた。


「キャロル、種をまいても直ぐに芽は出ないし花も咲かない。いつか必ず芽が出て花が咲く。芽が出るまでゆっくり待つしかないんだ。待ちながらゆっくり育てような」


まだ1年かもう1年かは人それぞれ。

私は焦り心に余裕がなかったのかもしれない。毎月くる月のものに落胆していた。

焦っても出来るものは出来るし出来ないものは出来ない。焦らずゆっくり待つしかない。


「もし花が咲かなかったら?」

「その時は今咲いてる花を愛でればいい」

「今咲いてる花?」

「ああ、だから俺はキャロルを愛でる」


コール様は私を横抱きにし夫婦の寝室へ向かった。



後日、コール様が神妙な顔をして帰って来た。


「キャロル大事な話がある」


私はコール様の前のソファーに座り背筋を伸ばした。なんとなく悪い話だと思った。


「隣国と戦になった。俺の部隊も出陣する」

「出陣……」


隣国との境の辺境が今、隣国と争いになっているのは王都に住む私の耳にも入っていた。王宮の騎士団が援軍に向かう、それも頭では分かっている。

これでも私は騎士の妻。

コール様は騎士団の小隊の隊長。隊長として部隊の指揮をとる。

隊長の妻として私が足枷になってはいけない。いけないのは分かっているのけど…、頭と心は別…。


「後方支援ですか?」


せめて後方支援なら…。


「いや、先陣部隊としてだ」


先陣、先頭で攻め入り道を開ける。


「いつですか?」

「一週間後には王都をたつ」

「一週間後ですか?そんな…急に……」

「急遽決まったんだ。辺境から援軍要請があり騎士団は全員援軍に向かう事になった。

辺境ではもう小競り合いの域を超えている。陛下ももう見てみぬふりをする事が出来なくなった。早急に方を付けたいらしい」

「では期間はどれくらいに…」

「早くて数ヶ月、遅くて年単位になると思う」


私は騎士の妻。心置きなく出陣してほしい。足枷にはならない。そうしないといけない。


「…………行か…ないで………」


こんな事を言ってはいけない。それでもこの言葉しか出ないの。 


『行かないで、私を一人にしないで。私の側にずっといて』

私は心の中で何度も言った。

『どうして愛する人が戦いに行くと言って快く送り出せるの?どうして愛する人が戦いに行かないといけないの?どうして?騎士だから?なら争いなんてしなければ良いのに…。どうして人は争いをするの?

国の為、陛下の為、騎士だから、そんな事分かってる。それでも…、愛する人が死ぬかもしれないのに送り出せるの訳がない』


声を発する事は出来ない。でも心の中の私の気持ち。その中だけは何を思おうと私の自由でしょ。


「泣くなキャロル」


頬を伝う涙を優しい手が拭う。その優しい手が涙を誘う。

それから一週間、毎夜私達は繋がり続けた。これが最後じゃない。それでもこれが最後かもしれない。不安定な心はコール様を求め、コール様も私を求めた。


明日出陣する、その前の日の夜。

コール様はいつもより荒々しく私を抱いた。まるで自分の跡を残すように何度も私の中に子種を放った。

私を抱きしめるコール様の手が震えている。体を密着させ抱きしめ合う。


「………行きたくない」


ぼそっと呟いたコール様の声はとても小さな声で本来なら私にも聞こえなかったと思う。

今日の私はコール様の全てを自分に刻むように、コール様の声、息づかい、感触、温もり全て私に染み込ませようとしていた。

聞き逃してはいけないと敏感になっていたから聞こえたコール様の本音。


私はコール様をギュッと抱きしめた。


「大丈夫だ、直ぐに帰ってくる。大丈夫だ。キャロルは心配するなよ。毎日水やりをして花を育ててくれな。帰って来たらキャロルが育てた花がどんな風に咲いたのか楽しみだ。

咲いた花を一緒に愛でような。だから泣くな。笑顔で送り出し笑顔で迎えてくれ、な?俺は大丈夫だから。俺が帰る所はキャロルの側だけだ。必ず生きて帰ってくる。だから大丈夫だ」


コール様は『大丈夫だ』と何度も言い続けた。それは私を安心させる為。それから自分に言い聞かせているように私には聞こえた。

私はコール様を今繋ぎ止める事しか出来ない。今この瞬間が、夜が明けない事を願う事しか、私には出来ない。


だから私は貴方を誘う。


「コール様、今日は朝まで抱いて下さい」

「あぁ、俺もそのつもりだ」


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