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超久しぶり過ぎる幼稚園での一日は、何ら特筆するようなことはなく淡々と過ぎていき、あっという間に母が迎えに来る時間帯となった。
前世の経験から、少しだけ親が迎えに来ない状況に不安を覚えたものの、そんなことはなく何ならどの親よりも早く顔を見せてくれた。
「お待たせ―、ごーちゃん!」
満面の笑みで手を振りながら部屋の中へと入ってきた母の姿を見て、自然と喜びが込み上げてくる。思わず感情の赴くままに抱き着きそうになるが、やはり気恥ずかしさが勝ってしまい、ちょっと照れた感じで「う、うん」と頷いて答えた。
また母は一人ではなく、同年代の女性と一緒だった。
「朝は会えなくて残念だったわね、悟円」
クールな眼差しで微笑を浮かべながら言ってきた女性こそ――。
「……ママ」
「迎えに来たわよ、空絵」
そう、空絵の母親――愛原花菜絵だ。凛とした佇まいで、男より女にモテるようなキャリアウーマンっぽい人である。何でも若い頃はスポーツ少女だったらしく、柔道や空手など激しい競技で優勝経験も持っているらしい。
そんなカッコいいママの登場に、空絵はトテトテと早足で向かうと、そのままギュッと手を掴んだ。可愛らしい娘の態度に、花菜絵もまた嬉しそうにその頭を撫でつける。
その後は、帰宅の準備を悟円と空絵がしている間、母親たちはというと、少しだけ先生に呼ばれて話していた。何やら若干驚いた様子でこちらをチラチラ見ているが、一体何の話をしているのだろうか。
そうして同じ団地に住む二家族なので、一緒に帰ることになった。
そんな帰り道の途中に、母が「そういえばさ」と悟円に向けて話しかけてくる。
「ごーちゃん、先生がすっごい褒めてたよぉ」
「アタシも聞いた聞いた。何でも悪ガキを追っ払って、空絵との時間を守ってくれたんだっけ? やるじゃない、悟円」
次いで花菜絵が持ち上げてくる。
「ん……ごえんくん、かっこよかった」
二人の後に続いたのは琴乃。どこか自慢するように鼻を膨らませている。
「いや……追っ払うって、結果的にそうなったってだけで……」
「ん? ずいぶんと難しい言い回しするじゃない」
マズイ。気を付けていたのに、つい疑問を与えるような言い方になってしまった。
子供らしくない言葉に、首を傾げる花菜絵。顔には出さないが冷や汗ものである。
「ふふ、ごーちゃんも昨日五歳になったもんねー。子供の成長って早いわよねぇ」
対してウチの母はというと、簡単に誤魔化されてくれているが。
「おっと、その話をしたかったのよ。ねえ、結乃。この子が悟円に誕生日プレゼントを渡したがっててね」
そう言いながら、花菜絵が自分の娘の頭にポンと手を置く。
「あらら、プレゼントくれるのぉ? 何気に初めてじゃない、それ?」
そうなのだ。赤ちゃんの頃から親しいといっても、直接プレゼントをもらったりしていたわけではなかった。口頭で言われたり、家族一緒に食べてとケーキをもらうことはあったが。
「本当は昨日渡したがってたけど、ちょうど夫の実家に行っててね」
だから帰宅したら、すぐにそっちに向かうわと花菜絵が言ったので、悟円は家に到着し、手洗いうがいをして少し待っているとインターホンが鳴った。
母が玄関に向かうと、彼女と一緒にリビングに向かってくる二人の足音が聞こえてくる。
そして花菜絵とともにやってきた空絵が、ゆっくりとした足取りで悟円の前まで来た。
「……これ」
スッと差し出されたのは可愛らしいピンク色と星形のシールで装飾された封筒と、裏向けにされた一枚の画用紙だった。
姉がくれたものと同じような手紙が封筒に入っているのだろう。それと画用紙には、悟円と空絵が手を繋いで笑っている絵が描かれていた。とても微笑ましく、胸が温かくなる。
「たんじょび……おめでと」
「ありがとう、空絵ちゃん」
想いを感じたままに笑顔で答えると、空絵もまた僅かに頬を緩めてくれた。すると突然踵を返したと思ったら、花菜絵の後ろに駆け寄った。
「おーおー、いっちょ前に恥ずかしがっちゃって」
楽しそうに笑いながら、花菜絵はそう言う。
こういう時、五歳児でも普通に恥ずかしさを覚えるらしい。とても初々しくて可愛い。
「良かったわねー、ごーちゃん! プレゼント、大事にしないとね!」
「うん、部屋に飾りたいと思う」
せっかくこんな素晴らしい絵をもらったのだ。部屋の壁にでも貼っておこう。
するとその時、玄関から「ただいまー」という声が聞こえ、リビングに姉である琴乃が姿を見せたと思ったら、悟円にすぐさま抱き着いてきた。
「んぅー、ただいまー、ごっくん!」
「こ、琴姉ちゃん……ちょっと苦しいよ」
「あっ、ごめんごめん。でもやっとごっくんに会えたからさぁ」
舌をペロリと出すあざとさに思わず苦笑が浮かぶ。可愛いので許す。
ただそこへ、右手がグイッと引っ張れる感覚を悟円は感じた。見ると、軽く頬を膨らませた空絵がそこにいる。
「……ごえんくん、こっち」
まるで琴乃から救い出そうとするかのような仕草だ。すると琴乃もそこで初めて空絵の存在に気づいたようで、同じようにムッとした表情を見せる。
「ちょっと! ごっくんのうで引っぱらないで!」
「……イヤ。ごえんくんから……はなれて」
二人が視線をぶつけ合い火花が散る。
そういえばこの二人、会う度に悟円を取り合うような形になるのだ。
(お気に入りの玩具を取り合ってるみたいな感じなんだよなぁ)
子供同士の微笑ましい衝突で、いつもその中心にいる悟円は子供ながら呆れていたのだ。
「ほらほら、二人ともぉ。ごーちゃんが痛がってるわよぉ」
そんな母の言葉に、二人がハッとして心配そうに悟円を見てくる。確かに片やギュッと強く抱きしめられながら、片や腕を引っ張られるというのは辛いものがある。
「まあまあ、いいじゃない結乃。それってモテる男の嬉しい痛みってやつだって」
「もう佳菜絵、適当なこと言ってぇ」
どうやら佳菜絵は止めるつもりはないようだ。むしろもっとやれ感が強い。絶対に楽しんでいる。
「ごめんね、ごっくん。痛かった?」
「……ごめん」
二人が意気消沈している姿を見ると心が痛い。だから悟円は二人の頭を撫でながら「大丈夫だから気にしないでね」と言うと、二人が嬉しそうにそれぞれ腕に抱き着いてきた。
「わお、見事な対応。こりゃ将来は女泣かせになりそうだね、ははは!」
「ご、ごーちゃん、背中を刺されないようにしないといけないわよぉ!」
一体二人は何を言っているのだろうか。
五歳児に言うことではないだろうと思いつつ、悟円はさっそく空絵にもらった絵を貼ろうと思い自室へと向かった。とはいっても、姉と一緒に使っている部屋ではあるが。
壁には姉が書いた習字やら、悟円と二人で撮った写真やらが飾られているが、その空いている部分を見つけて、そこに絵を貼る。
「あぁ……あたしとごっくんの聖域だったのにぃ……」
いつの間にか後ろにいた琴乃が、ガックリと肩を落としている。それに対し、これまた同じようについてきていた空絵が、どことなく満足そうに鼻を膨らませていた。
それからそろそろ空絵の父親が帰ってくるということで、愛原家とは別れた。とはいっても隣同士ということもあって、会おうと思えばすぐにでも再会できるが。
そうこうしているうちに我らが万堂家の大黒柱も帰ってきて、いつものように四人で食卓を囲うことになった。
前世の経験から、少しだけ親が迎えに来ない状況に不安を覚えたものの、そんなことはなく何ならどの親よりも早く顔を見せてくれた。
「お待たせ―、ごーちゃん!」
満面の笑みで手を振りながら部屋の中へと入ってきた母の姿を見て、自然と喜びが込み上げてくる。思わず感情の赴くままに抱き着きそうになるが、やはり気恥ずかしさが勝ってしまい、ちょっと照れた感じで「う、うん」と頷いて答えた。
また母は一人ではなく、同年代の女性と一緒だった。
「朝は会えなくて残念だったわね、悟円」
クールな眼差しで微笑を浮かべながら言ってきた女性こそ――。
「……ママ」
「迎えに来たわよ、空絵」
そう、空絵の母親――愛原花菜絵だ。凛とした佇まいで、男より女にモテるようなキャリアウーマンっぽい人である。何でも若い頃はスポーツ少女だったらしく、柔道や空手など激しい競技で優勝経験も持っているらしい。
そんなカッコいいママの登場に、空絵はトテトテと早足で向かうと、そのままギュッと手を掴んだ。可愛らしい娘の態度に、花菜絵もまた嬉しそうにその頭を撫でつける。
その後は、帰宅の準備を悟円と空絵がしている間、母親たちはというと、少しだけ先生に呼ばれて話していた。何やら若干驚いた様子でこちらをチラチラ見ているが、一体何の話をしているのだろうか。
そうして同じ団地に住む二家族なので、一緒に帰ることになった。
そんな帰り道の途中に、母が「そういえばさ」と悟円に向けて話しかけてくる。
「ごーちゃん、先生がすっごい褒めてたよぉ」
「アタシも聞いた聞いた。何でも悪ガキを追っ払って、空絵との時間を守ってくれたんだっけ? やるじゃない、悟円」
次いで花菜絵が持ち上げてくる。
「ん……ごえんくん、かっこよかった」
二人の後に続いたのは琴乃。どこか自慢するように鼻を膨らませている。
「いや……追っ払うって、結果的にそうなったってだけで……」
「ん? ずいぶんと難しい言い回しするじゃない」
マズイ。気を付けていたのに、つい疑問を与えるような言い方になってしまった。
子供らしくない言葉に、首を傾げる花菜絵。顔には出さないが冷や汗ものである。
「ふふ、ごーちゃんも昨日五歳になったもんねー。子供の成長って早いわよねぇ」
対してウチの母はというと、簡単に誤魔化されてくれているが。
「おっと、その話をしたかったのよ。ねえ、結乃。この子が悟円に誕生日プレゼントを渡したがっててね」
そう言いながら、花菜絵が自分の娘の頭にポンと手を置く。
「あらら、プレゼントくれるのぉ? 何気に初めてじゃない、それ?」
そうなのだ。赤ちゃんの頃から親しいといっても、直接プレゼントをもらったりしていたわけではなかった。口頭で言われたり、家族一緒に食べてとケーキをもらうことはあったが。
「本当は昨日渡したがってたけど、ちょうど夫の実家に行っててね」
だから帰宅したら、すぐにそっちに向かうわと花菜絵が言ったので、悟円は家に到着し、手洗いうがいをして少し待っているとインターホンが鳴った。
母が玄関に向かうと、彼女と一緒にリビングに向かってくる二人の足音が聞こえてくる。
そして花菜絵とともにやってきた空絵が、ゆっくりとした足取りで悟円の前まで来た。
「……これ」
スッと差し出されたのは可愛らしいピンク色と星形のシールで装飾された封筒と、裏向けにされた一枚の画用紙だった。
姉がくれたものと同じような手紙が封筒に入っているのだろう。それと画用紙には、悟円と空絵が手を繋いで笑っている絵が描かれていた。とても微笑ましく、胸が温かくなる。
「たんじょび……おめでと」
「ありがとう、空絵ちゃん」
想いを感じたままに笑顔で答えると、空絵もまた僅かに頬を緩めてくれた。すると突然踵を返したと思ったら、花菜絵の後ろに駆け寄った。
「おーおー、いっちょ前に恥ずかしがっちゃって」
楽しそうに笑いながら、花菜絵はそう言う。
こういう時、五歳児でも普通に恥ずかしさを覚えるらしい。とても初々しくて可愛い。
「良かったわねー、ごーちゃん! プレゼント、大事にしないとね!」
「うん、部屋に飾りたいと思う」
せっかくこんな素晴らしい絵をもらったのだ。部屋の壁にでも貼っておこう。
するとその時、玄関から「ただいまー」という声が聞こえ、リビングに姉である琴乃が姿を見せたと思ったら、悟円にすぐさま抱き着いてきた。
「んぅー、ただいまー、ごっくん!」
「こ、琴姉ちゃん……ちょっと苦しいよ」
「あっ、ごめんごめん。でもやっとごっくんに会えたからさぁ」
舌をペロリと出すあざとさに思わず苦笑が浮かぶ。可愛いので許す。
ただそこへ、右手がグイッと引っ張れる感覚を悟円は感じた。見ると、軽く頬を膨らませた空絵がそこにいる。
「……ごえんくん、こっち」
まるで琴乃から救い出そうとするかのような仕草だ。すると琴乃もそこで初めて空絵の存在に気づいたようで、同じようにムッとした表情を見せる。
「ちょっと! ごっくんのうで引っぱらないで!」
「……イヤ。ごえんくんから……はなれて」
二人が視線をぶつけ合い火花が散る。
そういえばこの二人、会う度に悟円を取り合うような形になるのだ。
(お気に入りの玩具を取り合ってるみたいな感じなんだよなぁ)
子供同士の微笑ましい衝突で、いつもその中心にいる悟円は子供ながら呆れていたのだ。
「ほらほら、二人ともぉ。ごーちゃんが痛がってるわよぉ」
そんな母の言葉に、二人がハッとして心配そうに悟円を見てくる。確かに片やギュッと強く抱きしめられながら、片や腕を引っ張られるというのは辛いものがある。
「まあまあ、いいじゃない結乃。それってモテる男の嬉しい痛みってやつだって」
「もう佳菜絵、適当なこと言ってぇ」
どうやら佳菜絵は止めるつもりはないようだ。むしろもっとやれ感が強い。絶対に楽しんでいる。
「ごめんね、ごっくん。痛かった?」
「……ごめん」
二人が意気消沈している姿を見ると心が痛い。だから悟円は二人の頭を撫でながら「大丈夫だから気にしないでね」と言うと、二人が嬉しそうにそれぞれ腕に抱き着いてきた。
「わお、見事な対応。こりゃ将来は女泣かせになりそうだね、ははは!」
「ご、ごーちゃん、背中を刺されないようにしないといけないわよぉ!」
一体二人は何を言っているのだろうか。
五歳児に言うことではないだろうと思いつつ、悟円はさっそく空絵にもらった絵を貼ろうと思い自室へと向かった。とはいっても、姉と一緒に使っている部屋ではあるが。
壁には姉が書いた習字やら、悟円と二人で撮った写真やらが飾られているが、その空いている部分を見つけて、そこに絵を貼る。
「あぁ……あたしとごっくんの聖域だったのにぃ……」
いつの間にか後ろにいた琴乃が、ガックリと肩を落としている。それに対し、これまた同じようについてきていた空絵が、どことなく満足そうに鼻を膨らませていた。
それからそろそろ空絵の父親が帰ってくるということで、愛原家とは別れた。とはいっても隣同士ということもあって、会おうと思えばすぐにでも再会できるが。
そうこうしているうちに我らが万堂家の大黒柱も帰ってきて、いつものように四人で食卓を囲うことになった。
応援ありがとうございます!
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