世界がダンジョン化していく件について ~俺のユニークジョブ『回避術師』は不敗過ぎる~

十本スイ

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第十七話 次々と変な奴らが集まってくる件について

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 世界の謎の解明とか、頂点とか王とか、まるでアニメや漫画の話だ。
 しかもそれを実際に叶えようとしているとか、どこの厨二病ですかね。
 これじゃ集まってくる連中も、コイツらみたいにどっかおかしいかも。 
 ただ少なくともコイツらの目的が分かっただけでも収穫ではある。

 どうやらここに集まってくるであろう有能な『持ち得る者』を手中に収めようと企んでいるらしい。そう上手くいくとは到底思えないが。
 まあ俺的に結論を言うならば、あまりお近づきになりたくない輩だ。

 するとその時、不意に女性の方が入口から上ってきた方の階段がある方角を睨みつけながら「織音様」と警戒心を露わにしたような声音を発した。

「フフン、どうやら誰かが来たようね」

 ガキの声に俺も息を飲む。
 約束の時間まで残り十分を切っていたのだ。

 カツ、カツ、カツと階段を上がってくる足音が聞こえてくる。

「織音様、お気をつけください。こちらに近づいてくる気配は一つや二つではありません」
「ふふ、そう」

 警戒度をマックスにする女性とは違って、ガキはソファに腰かけてゆったりとした状態で待っている。

「――――来ました」

 女性のそんな声と同時に、俺も来訪者を確認しようと思い《ステルス》を使って覗き込んだ。 
 そして階段がある方角からやってきた人物……いや、人物たちを見て思わず声を上げそうになった。

 な、ななな何でアイツらがここに!?

 まったくもって予想だにしない奴らがそこにいたのである。

「あ、あのぉ……ここが会合場所で良かったでしょうか?」

 キョロキョロと見回しながら部屋へと入ってきたのは――四奈川と、そのメイドである葉牧さんだった。

「ええそうよ。歓迎するわ」

 そんな二人を見て楽しそうに口角を上げるガキ。

「歓迎……ということは、そちらの方が『マスター・キー』ということでしょうか?」

 尋ねたのは葉牧さんだ。
 あ、そういえばSNSネームがそうだった。
 今考えれば、名前についている〝鍵〟とかけてのネームなのだろう。

「その通りよ。まさかメイド服を着た人物が現れるとは思わなかったけれど」

 まあこんな場に相応しくはないな、うん。

「あれれ? あなたが『マスター・キー』さん? ……どこかでお見掛けしたような」

 四奈川が小首を傾げながらガキを見ている。

「お嬢様、彼女は一ノ鍵のご令嬢にあらせられます」
「ああ! そういえば前に行われた社交パーティで見たことあります!」

 ……そうか、四奈川も金持ちだし、繋がりがあってもおかしくはない。
 ただガキの方は知らないのか眉をひそめているが。

「まずは自己紹介ですね! 私は――」
「待ちなさい。まだ時間になっていないわ。二度手間なんて面倒なことはしたくないの。時間がきてから一斉に行うわ」
「分かりました! では……それまでどうしましょうか乙女さん?」
「素直に待っていましょう。会合の時間まであと五分ですから」

 俺はすでに視線を切ってまた息を潜めている。
 そうだよなぁ。アイツらが来る可能性だって十分にあったもんな。
 四奈川がガキが求める有能かどうかは判断つかないが、少なくとも葉牧さんは有能なのは間違いないだろうから。

 彼女が恐らくSNSの呼びかけに気づき、それを四奈川に伝え、四奈川が「是非会ってお話をしてみたいです!」とか何とか言ってココにやって来たんだと思う。
 これは今まで以上に慎重にならざるを得なくなった。何せ四奈川たちにバレるわけにはいかないからだ。
 少なくとも葉牧さんには。

 ……絶対殺されるだろうしな。

 仮定の状況を思い浮かべ、自分が細切れにされる姿を想像して真っ青になってしまう。

 するとその時だ。

「――――――へぇ、愉快な面子が集まってるみたいじゃない」

 突然俺の認識外の声音が四奈川たちがいる部屋から聞こえてきた。
 四奈川たちも気づいていなかったのか、ギョッとして声がした方角へと意識を向ける。

 そこは通常、大きな窓が設置されていて、外には広いベランダがある場所だ。 
 今は窓などなく吹き曝しになっていて、裸のベランダが視界に映る。
 いつの間にかそのベランダに一人の女性が立っていたのだ。
 健康的に日焼けした肌を持つ、スーパーモデルのような体型をした二十代前半くらいの女性である。好奇心旺盛そうな猫目だが、どこか怖い印象を受ける顔立ちをしていた。

 さらに言うなら、彼女の隣には――。

「と、虎さん!? 乙女さん、虎さんがいますよぉ!」
「お、お嬢様、落ち着いてください!」

 動物好きなのか、興奮気味に女性の傍にいる虎を指差す四奈川。
 ただ彼女ではないが、俺も思わずスキルを使って確認してしまっていた。

 ……マジで虎だ。何で? どうやってあそこまで?

 少なくとも部屋に通じる階段の傍には四奈川と俺がいる。誰かが入ってきたなら分かるはずだ。他にまともに入って来られる道などはない。
 となると、だ。あの女性と虎は、ベランダ……つまり外から直接侵入してきたとみるのが自然。

 何かのスキルでも使ったのか……?

 だとしてもどうして虎を? とか思うが考えても理屈に合う答えなど浮かぶはずもない。
 とりあえず虎女とでも呼んでおこうか。

「あはは、この子は山月《さんげつ》っていうの。大人しい子よ、安心して」
「あ、はいです! サンゲツちゃん、よろしくです!」

 馬鹿正直に挨拶をした四奈川に、虎が「ガルル」と低く唸って返す。

「気配を消しながら現れるなんて趣味が悪いのね」
「あらら、言ってくれるじゃなーい。あなたが『マスター・キー』よね?」
「どうしてそう思ったのかしら?」
「纏っているオーラが、この場の誰よりも強いから……かな?」
「……あなたも、ね」

 ガキと虎女が視線をぶつけ合い火花を散らす。
 実際に何か事を起こしていないが、すでに争いが始まっているような緊張感が場を支配している。

 ……か、帰りてぇ。

 戦場のような空気に耐え切れずに、もうその場から逃げ出そうと思っていたところ、頬を緩めて雰囲気を変えたのは虎女だった。

「暇潰しに来ただけなんだけど、来て正解だったかな」
「わたしも、面白い者が釣れたようで嬉しいわ」
「あらら、ワタシってば魚じゃないしー。失礼しちゃうわ。ところでそろそろ時間だけど?」

 時計を確認してみれば、あと十五秒ほどで会合時間だった。

「そうね。もうさすがに来ないかしらね。ではここに集まった者たちで――っ!?」

 直後、天井の中央部分を破壊し、何かが落下してきたのである。

「織音様!?」
「お嬢様!?」
「ガルル!?」

 それぞれお供の者が、声を張り上げて主である人物を庇う。

 っ……おいおい、いきなり何だってんだよ!

 まさか攻撃でもされたのかと、俺はそこから天井を確認してみた。
 そこからは青い空が拝め、小さくない穴がポッカリと開いている。
 続けて攻撃があるかもと警戒するが、どうやら追撃はないようだ。
 今度は視線を、何かが落下した場所へと向ける。

 せっかく用意されていた机が破壊され散在していた。
 そんな中央付近には、人影のようなものが跪いている様子が視界に飛び込んでくる。

「ちょっとちょっとぉ、いきなりビックリするじゃない! 何なのよもう!」

 虎女が不満げに怒声を上げる。

「お嬢様、お怪我はありませんか?」
「は、はい。乙女さん、ありがとうございます」

 どうやら四奈川も無事なようだ。

「……貴様っ、何者だ! 答えろ!」

 ガキの従者であろう女性が叫ぶ。
 そんなガキは、女性に横抱きに抱えられながらも、少しも動揺などを見せずに、ただただ部屋の中央にいる何者かを注視している。
 すると跪いていた人物がスッと立ち上がった。

 ……で、でけえ!?

 人なのは間違いないだろうが、恐らく二メートルを優に超えている。
 体格も熊みたいな筋肉質で、着用しているのは迷彩服だ。
 スキンヘッドなのか、頭部を赤いバンダナで覆っているが、露わになった素顔に息を飲む。
 何せ殺し屋のような目つきに傷だらけの顔。特に右目にしている黒い眼帯のせいで、威圧感が半端ない。

 絶対に堅気じゃねえよな、あれ…………ん? アイツ、何か背負ってる?

 よく見れば、男の背中には西洋の棺桶のようなものが背負われていた。
 すると男がその棺桶を床に置き、静かに蓋を開けたのである。




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