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第二十話 少しは成長した件について

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 あの冷や冷やした『持ち得る者』たちの会合から早くも一週間が過ぎていた。
 あれから少しは世界も大人しくなるのではと思った人たちの願いは虚しく、混乱は混乱を呼び、さらに過激な状況へと進んでしまっていたのである。

 その筆頭はやはりダンジョン化によるものだ。突如住んでいる場所がダンジョンと化して住む場所を失った者たちや、病院・介護施設など多くの人員を扱っているところがダンジョンになったせいで大パニックになった件もある。

 また山や川などがダンジョン化したことにより、そこからモンスターが街道に出るという凶悪な状況が生まれたのだ。
 それまで普通の道路などはダンジョン化しなくてモンスターも出現しないので安全だとされていたが、ダンジョンと化した場所からモンスターが外へ出るパターンもあったことで、人々は恐怖のどん底に突き落とされてしまう。

 そのせいで怖くて外を歩けなくなり、特に子供を持つ親たちはこぞって家に閉じこもってしまっている状態だ。
 ただその家もいつダンジョンと化すか分からないので、常に怯えながらの生活を強いられているらしい。

 今は外に出てくるモンスターの事例も少なく、警察などが対処しているようだが、これからもっと増えていけば、きっと手に余る事態になっていくことだろう。
 またモンスターに関してではなく、暴走する人間たちも増え始めてきた。
 主に犯罪者や受刑者たちの多くが主動ではあるものの、スキルを悪用して好き勝手行動する者たちが増加の傾向にある。

 こうして世界は加速度的に混沌の時代へと入った。
 そんな中、ようやく重い腰を上げたのか、政治家のお偉いさんたちが日本中の『持ち得る者』たちをテレビやネットなどを通じて呼びかけたのである。

 簡単にいえば、日本のために皆で集まって平和を取り戻そうということ。
 ただその呼びかけに応える者はそう多くないようで、何度も何度も繰り返し国民たちに声をかけている。
 確かに全国にいるすべての『持ち得る者』たちが集えば、多くのダンジョンを攻略し、モンスターを減らすことも、悪党を捕まえることも可能かもしれない。

 しかし俺を含め、多くの者たちは国自体……いや、国を動かしている政治家を信用していない。
 そもそも動くのが遅過ぎる。《ステータス》の有無など初日で分かったはずだ。

 そこから『持ち得る者』という存在が、国にとってどれほど貴重になるか嫌でも理解できる。
 何も持たない国民としては、一刻も早く力を持つ者を集って守ってほしいと考えたはず。そういう声も多く上がっただろう。

 しかし現に動き出したのは本日。世界が変貌してから約十日。
 ここまで引っ張った事実に、国民がどう思うかなど火を見るよりも明らかである。
 別に何もしていなかったわけではないだろう。しかし対応が遅過ぎた。

 この十日、総理は……政治家たちは一体何をしていたのか、もしかして自分たちだけ安全な場所に逃げたのではという憶測が飛び交うのも無理なかったのである。
 実際俺もお偉いさんたちは、それこそ一ノ鍵のガキのように有能な『持ち得る者』たちを自分の周りだけに集めて安全を整えていると思っていた。

 そうしてまずは自分たちの平和を確保したあと、ようやく国民に手を伸ばした。国民は二の次という想像をした者たちが、政治家たちを全面的に頼ろうとするのは些か勇気がいる。
 いつ切り捨てられるか分かったものじゃないからだ。
 少なくともそう考えている連中はいる。SNSでも、政治家たちを中傷する情報が後を絶たない。

 他国の中には、真っ先に国民の安全を確保しようと動いたトップもいる事実もあって、日本の政治家たちの信頼度はダダ下がっている。

「ま、国だって一枚岩ってわけじゃないだろうし、内々でいろいろあったのかもしれねえけどな」

 故に対応がここまで遅れてしまった。
 だがたとえそうだったとしても、国民にとっては知らない話だ。真っ先に動いてくれなかったという不信感はそう拭えないものだろう。

「それに研究機関とかに送られていいように利用される……ってのも嫌だしな」

 さすがに漫画の読み過ぎかもしれないが、そういう可能性だってあるので、素直に国の言うことを聞くわけにはいかない。
 しかしきっと、国もこのままではいられない。
 望み通りの結果にならなければ、今度は〝強制〟という手法を選ぶかも。

 そうなれば今度は日本国VS『持ち得る者』という最悪な状況になる可能性もある。
 そんな未来が来たら、もう日本も終わりだろう。 
 自国のことながら、できるだけそんなことにならないように俺は祈るくらいしかしないが。

「……ん? 四奈川から連絡が来てるな」

 確かめてみると――。

〝有野さん、こんにちは! 本日は五堂さんたちと三つのダンジョンを攻略しました! レベルも12に上がりましたよ! ブイッ!〟

 テンションの高い報告だった。Vサインをした可愛らしい写真まで送られてきている。よし、永久保存しとこう。
 あの会合以降、時折こうして四奈川や葉牧さんから連絡が届く。
 というのも、会合に出たことを四奈川が伝えてきたのである。

 これは何かしら情報を得られると思い、そこで会った人物たちのことや結果的にどうなったのかなどを聞いたのだ。
 四奈川は隠すことなく教えてくれた。最初からコイツが行くなら、わざわざ俺が行かなくても良いくらいにたっぷりと情報を得られたのである。

 あの会合で、四奈川たちは一ノ鍵のガキに纏めて傘下に入れと言われたようだ。
 当然のように全員がそれを断った。無論四奈川も。四奈川に関しては葉牧さんに勧められた結果らしいが。

 だがガキも断られることを想定していたようで、ならばと協力してダンジョンを攻略することを提案した。
 その方が多くのダンジョンを発見することも、手早く攻略することもできるというメリットがある。

 それならと、五堂と四奈川の二組は了承したが、飛柱は「めんどくさい、眠い」と言って早々と退室したという。
 そしてあれから残った三組で、情報のラインを結び、時間がある時に協力してダンジョンを攻略しているとのこと。

 まあ四奈川はともかく、ガキと五堂はそれぞれの能力を見極めるための情報収集が目的ではあろうが。
 そのことを葉牧さんに伝えると、彼女もまたそれは承知しているらしいが、どれでも有能な者たちを組むメリットも確かにあるということで、レベル上げに勤しんでいるというわけだ。

「にしても四奈川もずいぶんと成長したもんだなぁ」

 少し前までは、どのスキルを選べばいいか俺に聞くほどの素人っぷりを発揮していたのに、今ではちゃんと自分でスキルや戦い方を構築できるほどになっているらしい。
 元々頭は良いので、こういったゲーム仕様でも難なくこなせるのだろう。

「まあ俺も負けちゃいねえけどな」

 俺は自分の《ステータス》を見ながら、遅めの昼食であるカップラーメンを口にしていた。


 有野 六門   レベル:16   EXP:56%   スキルポイント:13

体力:81/81   気力:64/64
 攻撃:E++  防御:D+
 特攻:C  特防:D+
 敏捷:C++   運 :D

ジョブ:回避術師(ユニーク):Ⅲ  コアポイント:29%
スキル:ステルスⅣ・スキルポイント上昇率UP・自動回避Ⅰ

称号:ユニークジョブを有する者・コア破壊者・スニークキラー・盗聴のスペシャリスト


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