世界がダンジョン化していく件について ~俺のユニークジョブ『回避術師』は不敗過ぎる~

十本スイ

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第二十二話 厄介な知り合いが増えてしまった件について

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「あ……そっか。この人がお前が今一緒にダンジョン攻略してる仲間なんだな」

 四奈川は「そうなんです!」と満面の笑みを見せる。

「ハロー、五堂ヒオナよ。よろしくね~」

 陽気に自己紹介をしてきたので、俺も短く「有野六門っす」とだけ名乗っておいた。

「ろくもん? あはは、面白い名前ね~」

 ほっとけ。俺もそう思ってるから。

 何でも四奈川は俺に彼女を紹介したくて連れてきたらしい。

 マジかぁ……まさか四奈川がこんな暴挙に出るなんてな。

 いやまあ暴挙だって思ってるのは俺だけだろうけど。当の本人は新しくできた友達をただ単に紹介したかっただけで他意なんてないと思う。

 くそぉ、これで完全に知り合いになっちまったじゃねえか。

 こうなったら何とかして早めにお帰りになって頂こう。間違っても俺に興味を持たせちゃダメだ。

「ちょっと~、いつまでか弱い女の子たちを外に立たせておくつもりなのよぉ~」
「あ、すみません」

 そんなに嫌ならさっさと帰れ……と言いたい。
 俺は彼女たちを中に入れてリビングへと通した。
 すると例のごとく葉牧さんがお茶の用意をしてくれる。こういう気遣いはさすがだ。

「へぇ、男の一人暮らしって聞いてたけど、結構綺麗にしてるじゃない」

 五堂がキョロキョロとリビングを見回している。

「あ、リモコンはっけ~ん。ポチッとな」

 いやいや勝手にテレビつけないでもらえます? しかも一人だけソファに座って寛ぎ始めたし。自由過ぎだろこの人。

「う~ん、やっぱ政府の呼びかけのニュースばっかね~」

 それだけ政府も必死に信用を回復したいんだろうが。

「そういや四奈川たちは政府の要請に応じないのか?」

 ついでだから聞いてみた。四奈川は恐らく賢い葉牧さんが止めたのだろうが、五堂の理由に少し興味が湧いたのだ。

「私は乙女さんが止めておいた方が良いと」

 やっぱな。人を信じ過ぎる四奈川を、今の政府に預けるのが不安だったのだろう。

「そっちの……五堂さんは?」
「ヒオナでいいわよ、六門くん」
「俺は呼び捨てでいいっすよ。そっちの方が年上みたいだし。……じゃあヒオナさん。あんたはどうなんだ?」

 もしかしたらすでに政府とコンタクトを取った後という可能性もあるが……。

「政府? ないない、ないわよ。だってそうでしょ。今更呼びかけだなんて、ワタシたちを利用しようって気満々じゃないのよ~」

 この人も俺と同じことを考えているらしい。

「下手すりゃ人体実験されたりしちゃうかも。んなことになったらバカ見るだけだしね~」
「政府はそんなことしないと思うんですけど……国民の味方ですし」

 四奈川、お前はマジで少しは疑うとはした方が良い。葉牧さんが傍にいなけりゃ、マジで今頃コイツは権力者の手駒になってたんじゃね?
 そんでキモオヤジにいいように騙されて、その穢れを知らない純真無垢な身体を……。

「……ん? どうかしたんですか有野さん、鼻息が荒いですけど。……風邪?」
「い、いや! なななな何でもないぞ! あはははは!」

 どうやら妄想を膨らませ過ぎてしまい興奮していたようだ。危ない危ない。こんなことバレたらい即刻葉牧さんに首を切られ……。

「汚らわしい。どうせ卑猥な想像でもしていたのでしょう……」

 ……はい、バレてました。

「……五堂様で」

 おっと、そっちだと思ったかぁ。あ、だから今回は背後を取られなかったみたい。

「あらら、このワタシの身体に興味あるの~? まあしょうがないか、思春期の男の子だもんね~」

 腕を組んで胸を強調してくる。だがさすがは大人のお姉さん、理解が深くて助かる。まああんたで妄想してたわけじゃねえけど。
 ただ確かにルックスは抜群なんだよなこの人。胸なんか零れ落ちそうなほどでけえし。一万円くらい払うから少しだけ触らせてくれないかなぁ。

「むぅ、有野さん!」
「へ? な、何だよ四奈川?」
「その……エッチなのはいかがなものでしょうか!」
「素敵です」
「はい?」

 マズイ。つい本音が!

「あ、いや、す、す、す、捨て去るべきだよな、今は! だってほら、大事な話があるんだもんな! な!」
「捨てる? ……はい! さすがは有野さんです!」

 ふぅぅぅ~、どうやら天使は騙せたみたいだ。ただよく分かってないようだが。
 まあ若干二人からは痛い視線を向けられてるけどね。

 俺たちはリビングで、葉牧さんの淹れてくれた茶を飲む。

「そういえば聞いたわよ~六門くん」
「聞いた? 何がっすかヒオナさん?」

 まさか昨日巨乳もので自家発電をしたことか? くそっ、一体誰がバラしやがった!? 

「心乃との出会いよ~。結構優しいじゃない」
「……ああ、別にたまたまっすよたまたま」
「あらら、女性に向かってタマタマなんて言うもんじゃないわよ」
「誰が下ネタを言った誰が」
「あはは、冗談よ~。けど心乃にいろいろ忠告してあげたり、スキル取得に関する知識とか教えてあげたりしてるみたいじゃない。ねえ、心乃?」
「はい! 有野さんにはとってもお世話になっています!」
「お世話って……ただ単に聞いてきたから答えてるだけっすよ」

 俺から進んで手助けをしているわけではない。

「ふぅん。でもこの子ってば、時間があればあなたのことを話してるのよ? ダンジョン攻略中でもね」
「ちょ、ヒオナさん! それは内緒にしてくださいって言いましたよぉ!」

 真っ赤な顔でヒオナさんに詰め寄る四奈川。

「あはっ、ごっめーん。ついね、つい」

 俺は思わず四奈川を見るが、彼女は俺と目が合うと恥ずかしそうに眼を泳がせている。

 え……まさか四奈川の奴、俺のことを………………何てな。

 俺はぼっち野郎だ。勘違いするわけがない。
 こんな美少女が俺に惚れたとか冗談にもほどがある。
 たかが入学試験の時に飲み物をくれてやった程度で好意を持たれるなら、俺は今頃ハーレムを築いてるだろうしな。

 コイツは人を疑わない純朴な奴だ。俺に感謝していて、いや感謝し過ぎているだけで、俺に少しでも恩を返そうと気持ちが昂ぶっているだけだろう。
 時間が経てば、そのうち俺という人間の価値も正確に判断できると思う。今はただ救世主という大げさなフィルターがかかっているだけに過ぎない。
 実際俺だったら俺みたいな面倒な男なんて好きになるわけがないから分かる。

 それに中学の頃、そういう勘違いで痛い目も見たことがあるしな。

「あ、あの有野さん、お手洗いをお借りしてもよろしいでしょうか?」
「おう、別に構わんぞ」
「ではお嬢様、私もともについて行きます」

 は? トイレまで護衛するの? ここ……一般の家なんだけど。ああ、でもここがダンジョン化する可能性も考えてか。
 コイツらはここがダンジョン化したことを知らないのだから当然の警戒かも。

「トイレの中にカメラが設置されていないか確かめませんと」
「そんなことするか!」

 このクソメイド、だから一緒に行くって言ったのかよ!
 いや待て、一度確認させておいてから次に来た時用に設置すれば――。

「――一応言っておきますが、毎回使用させて頂く時は確かめますので、あしからず」

 で、ですよね~。ていうかそんなことしないよ僕。だって犯罪だもん、うんうん。
 だからそんな暗殺者みたいな目つきで睨まないでください!

 そうして二人はリビングから離れていった。

「……はぁ」

 俺の溜息のどこが面白かったのか、ソファに寝そべりながらヒオナさんが笑う。
 ジト目で睨みつけると、ヒオナさんは楽し気に肩を竦める。

「へぇ、乙女ってあなたにはあんな態度なのね~ウケる」
「いやウケねえし。毎回死を連想させられるこっちの身にもなってね」
「あらら、けれど他の男にはただの慇懃無礼な感じで、さすがに毒舌は吐いてないんだけど」
「え? そうなの? ……じゃ何で俺だけ?」
「さあ……もしかして好きだったり!」
「だとしたらあんな怖過ぎる愛は勘弁だっつうの。俺はもっと穏やかで心豊かになれるあったか~い愛情がほしい」
「ふ~ん、じゃあ聞くけど心乃がもしあなたに告白したらOKする?」
「そんな300パーセント有り得ない仮定に意味ないっすよ」
「…………わざと言ってる?」
「は? わざとってどういうことっすか?」

 俺は素直に彼女の言っている意味が分からず聞いてみた。
 すると何故か「あ、コイツ駄目な奴だ」的な感じで見られてるんですけど。

「なるほどなるほど~、こりゃ心乃も苦労しそうね~。ていうかあなたのどこが気に入ってるんだろ?」
「単にクラスメイトで過去に接点があったから関わってきてるだけでしょ」

 それ以上の何かがあるとは思えない。
 美少女で金持ちで、俺が持っていないものをすべて持っているような奴だ。過去の接点がなければ一生関わることのないような人種である。

「それだけじゃないと思うけどね~。だってあなた結構面白いし」
「別に芸人目指してないっすよ?」
「あは、それそれ、その返しとかウケるし」
「だからウケませんって。俺は何の面白みもない、そこらへんにいる普通の高校生っすよ」
「ふ~ん、そっかぁ。普通の高校生ねぇ」
「そうそう、普通普通。あんたたちみたいに『持ち得る者』でもねえし」
「なるほどねぇ。じゃあ聞くけど――」

 何でも聞いてくればいい。一般的な解答しかできないから。それで俺への興味なんて無くしてくれ。

 そう思っていると――。

「――――な~んであの会合の時、ず~っと隠れてたのかなぁ?」

 ――とんでもない爆撃をしてきやがった。


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