世界がダンジョン化していく件について ~俺のユニークジョブ『回避術師』は不敗過ぎる~

十本スイ

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第二十四話 早速呼び出された件について

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「そんな怖い顔しないで。本当に傷つけようって思ったわけじゃないから」

 いやいや、明確な敵意があったからスキルが発動したんですけど?

「そ・れ・に、条件を飲んでくれればこのことは秘密にしてあげるけど?」

 条件……ね。ここらへんが落としどころかもな。

「…………はあぁぁぁぁぁ、参りました」
「あはっ、ワタシのかっちぃ~」

 楽しそうにダブルピースを向けてくる。
 クソ、いつかその仕草でアヘ顔をさせてやっからな!
 するとまるでタイミングを見計らったかのように、四奈川たちが戻ってきた。
 いつの間にか山月もいなくなっている。

「お待たせ致しました。有野さん、お手洗い、ありがとうございます」
「い、いや、別にいいって」
「残念ながら盗撮の手段が分かりませんでしたが」
「そのしてる前提で話するの止めてくれませんかね!」

 なるほど。結構時間がかかっていたのは、コイツがカメラを探していたからなのかもしれない。どんだけ俺は信用ないんだか。

「ところでお二人は何の話をしていたんですか?」
「あらら、気になるの~心乃?」
「ふぇ? あ、いえその……」
「そうね~。六門って結構良い子じゃない。ワタシがもらっちゃおっかなぁって思ってね~」
「それはダメですぅっ!」

 あまりにも家中に響く声だったので、思わずその場が沈黙してしまう。
 しばらくして四奈川がハッとすると、顔を紅潮させてあわあわと両手を振る。

「あ、あの! ち、違いますよ! ダメだって言ったのですね、ほ、ほら、アレがアレでコレがソレだったからで!」

 うん、まったく意味が分からん。つーか、その言い分は俺がよくするやつだぞ。

「……ぷっ、あははははははは! もう~心乃ってばカワイイんだからぁ~!」
「く、くすぐったいですよぉ、ヒオナさぁん!」

 何が面白いのか、四奈川に抱き着いてその柔らかそうな頬をプニプニと遊び始めるヒオナさん。
 ん~羨ましい。俺もプニプニしてみたい。できれば全身を……って思ったけど思ってないことにしよう。だってメイドがこっちを睨んでるからね。

「あ~笑った笑った」
「もう、酷いですヒオナさん!」
「ごめんごめん。けどカワイくてね~。うちの妹じゃ、こんなことさせてくれないしさ~」
「妹さんがおられるんですか?」
「あらら、言ってなかったっけ? ま~ね、堅物というかクソ真面目な子よ」

 女がクソとか言うのはどうでしょうか。一部の人たちにはご褒美かもしれないが。あ、俺はどちらかってーとSなんで、クソとか言われても…………あれ? わ、悪くないかも……?

 俺が自分の隠れたM気質に戦慄していた時、ヒオナさんのスマホが鳴った。

「おっと、ちょ~っちごめんね~。わお、噂をすればってやつ」

 どうやら相手はその妹さんのようだ。

「はいは~い。毎度お馴染み愛され褒められるのが大好物のお姉ちゃんだよ~」

 だが次の瞬間、スマホから大きな声でガミガミと何か言っているのか聞こえてきて、ヒオナさんも堪らずスマホから耳を話して顔をしかめている。

「あ~ごめんごめん。ちょっと寄るとこがあったから……ごめんってば~。……うん、うん。はいは~い、次からはちゃんと連絡しま~す。約束やくそ~く」

 何て軽い約束なんだろうか。信頼度3パーセントくらいしか感じられない。
 と思ったのは俺だけじゃないらしく、またもスマホから怒声が響く。

 だが――プチンッ!

「あらら、切れちゃった」

 いやいや、あんたが自分で切ったし。

「はぁ~、帰ったら仕事かぁ~。やだなぁ、もういっそのことここに泊まっちゃおっかな~」
「止めてください。俺を胃痛で殺す気ですか?」
「あはは、冗談冗談。じゃあ呼び出しも受けたことだし、そろそろお暇するわね。あ、そうそう六門、連絡先を交換するわよ」
「え? 嫌なんすけど」
「は?」
「喜んでさせて頂きます、お姉さま」
「うむうむ。良きに計らえ~」

 だから何で女の「は?」ってこんなに怖えの? 次の瞬間には殺されるビジョンが浮かぶんだけども!

 俺は仕方なくヒオナさんと連絡先を交換した。
 そして見送るために、俺たちは玄関へと向かう。するとヒオナさんが俺の耳に顔を近づけてきた。

「――今度連絡するから」

 ああ、前回と引き続き、この言葉も恋人に言われたいやつだが、何でいつもいつもこう嬉しくないパターンばかりなのだろうか。
 ヒオナさんは顔を離すと、「じゃあね」とウィンクを加えて帰っていった。

 疲れた……マジで疲れた。

 彼女が言ってたように、誰彼構わず俺のことを話すつもりはないようなので、そこは安心しておく。まあ今後はどうか分からないが。
 少なくとも敵に回すことができないことを痛感させられた。

「………………ところでお前らはまだいるの?」

 隣に立っている四奈川たちに言うと、「ダメ……ですか?」と泣きそうな顔をしてきた。
 直後に葉牧さんから殺気を感じたので、お好きなだけ滞在するように許可を出す。
 それからは何気ない会話をして、夕食前に彼女たちは帰っていった。
 








 さて、現在俺はどこにいるでしょうか? 三択です。

 一:我が家
 二:恋人の家
 三:突如虎を従える女に、強制的に呼び出された居酒屋

 俺的には一か二が推奨。まあ恋人なんていないけどね。

 だから家。自宅がやっぱ最強。現在ぼっちでニートになってる俺にとっちゃ、選択肢はそれしかないといえる。
 ただまあ……選択肢を見た者たちは、十中八九同じ解答に至ることだろう。
 何せ引っ掛けにもなっていない単純明快な答えなんだから。
 俺は目の前でグビグビと美味そうにビールを飲んでいる女性をジト目で見つめながら問う。

「あのぉ……何で俺をここに呼び出したんすかね、ヒオナさん?」

 昨日の今日で、突如昼前に彼女から呼び出しがあったのである。
 いつものように俺の華麗な言い訳テクニックを駆使して断ろうとしたさ。まあ、言い訳を始めてすぐに「暴露するわよ」と言われ、結局俺の奮闘虚しく言いなりになるしかなかったってわけだ。

「んぐんぐんぐ……っぷはぁ~。あ、今度ハイボール頼んでくれるぅ?」
「いや、話聞いてくださいってば。すみません、ハイボールください」

 馬鹿正直に頼んでしまう俺の立場の弱さが憎い。

「枝豆もなくなっちゃったわね~。追加でお願いね~」

 このクソアマ……!

 だが関係のイニシアティブは明らかに彼女が握っているのでどうしようもない。
 俺は仕方なく店員に枝豆を頼む。
 それにしても、と周りを見回す。 
 まだ昼だというのに、結構な客入りである。

「ん? どうかしたの? そんなキョロキョロして」
「え? ああ、普通に働いたり食べたりしてるんだなぁって思って」

 こんな世界情勢なのに、この光景は些か不自然に感じてしまう。てっきり外食などする奴はもういなくなったと思っていたのだ。同じようにこういった店で働く人もである。
 実際に街中であまり人を見かけることがなくなったから。

「ん~街中でもモンスターが現れるかもしれない。だから人が少なくなってるのは事実だけど、それでも人は食べていかないと生きていけないでしょ?」
「それはそうっすけど」
「ここに食べに来てる人たちだって不安を抱えてないわけじゃないと思うわよ。同様に店の人たちもね。けれどこういう状況だからこそ、努めていつものようにしたいって考える人たちだっているはずよ」
「そういうもんっすかね」
「そういうもんよ。ていうか何か頼まないの?」
「ウーロン茶ありますし」
「ビールは?」
「俺、高校生なんすけど?」
「ふっ、過去の偉い人はこんな言葉を遺しているわ――バレなきゃいいじゃん」

 誰だよ言ったの。つーか昼間っからよく飲むなこの人。

「それに日本だって昔はあなたくらいの歳じゃ、お酒だって飲んでたし結婚だってしてたのよ?」
「時代にはその時代に合った文化があって、皆がそれを大事にしているからこその秩序が生まれるんじゃないすかね」
「あらら、まさかあなたがそんなお堅いことを言うとは思わなかったわ。てっきり硬いのはアソコだけかと思ったのに」
「この酔っ払い」

 最低級の下ネタじゃねえか。俺でもそんなこと言った過去はねえぞ!

「あはっ、酔っ払ってないも~ん!」
「顔を真っ赤にして何言ってんだか。んなことよりさっさと呼び出した要件を教えてほしいんすけど?」
「え~まずはこの雰囲気を楽しもうよ~」
「帰りますよ?」
「暴露しますよ?」
「ぐっ……この女、綺麗な顔してるくせに! やっぱり薔薇には棘があるって本当だったか!」
「あはは、冗談冗談。あなたってからかうと面白いから、ついね」

 ハイボールが運ばれてきて、それをまた一気に半分ほど飲んだところで、ようやくヒオナさんが本題を語り始める。

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