世界がダンジョン化していく件について ~俺のユニークジョブ『回避術師』は不敗過ぎる~

十本スイ

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第三十二話 厄介な奴らと遭遇した件について

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「あのっ、四奈川たちを追わなくていいんすかヒオナさん!」

 現在俺たちは、四奈川たちが入っていた校舎とは別に、走りながらある場所へと向かっていた。

「状況は現場判断で常に変化していくものよ! 今はあの子たちを追うよりも、吾輩との合流を優先とするわ!」
それも一理あるかと思い、「了解っす」と返事をしながら駆けていく。
「だけど気になるのは地面の下から気配を感じることね。六門、地下室とかこの学校にあるわけ?」
「そんな話は聞いたことないっすよ」

 この規模の学校だからあってもおかしくはないかもしれないが、少なくとも俺の耳にはそんな情報は入ってこなかった。

「気配は……あっちから? だんだん強くなってるわね」

 ヒオナさんは吾輩の気配を感じ取りながら進む。
 その先にあるのは別の校舎で、俺たちは閑散としている通路を行く。途中で噴水広場と呼ばれる生徒たちの憩いの場所を通過する。

 平和な時は、ここも生徒で溢れ返っているのだが、そこにいたのは――。

「マズイわね、モンスターだらけじゃない」

 トカゲを擬人化したようなモンスターが、噴水広場をうろうろしていた。
 あれが俗にいうリザードマンというやつらしい。
 しかも手にはサーベルのような武器まで持っているのだから、明らかに今まで俺が遭遇したモンスターと比べても強そうだ。

「スライムがいないのは助かるけど?」
「は? スライムくらいヒオナさんなら瞬殺でしょう?」
「いやぁ……あんなクラゲみたいな奴って嫌いなのよね」

 どうやらこの人にも苦手なものはあるらしい。

「六門、やれる?」
「う~ん、どうでしょうね。俺の能力じゃ、一撃で仕留めないとそいつにはバレてしまいますから」

 俺の武器は短刀である。一撃で心臓を突き刺すか、首を飛ばすのが良いのだろうが、相手の防御力で防がれる可能性があるのだ。
 こういう時に限って俺の攻撃力の低さが恨めしいわ。

 何せいまだに〝E++〟なんだから。

「とりあえず一度試してみるのはどう? あっちにいる一匹なら、失敗してもすぐに逃げることができるわ」

 指を差された方角を見ると、確かに一匹だけ少し離れた場所にいた。

「……物は試しか。じゃ、一応やってみますよ」

 俺は《ステルス》を使って、リザードマンへと駆け寄り、そのままの勢いで短刀を胸に向かって突き出した。

 ――ズシュゥゥゥッ!

 気色の悪い緑色の血液が迸り、手には肉を貫く嫌な感触がハッキリと伝わってくる。

「グギャァァァァァッ!?」

 断末魔に似た叫び声に、当然とばかりに他のリザードマンの目を引いてしまう。
 彼らには見えていないが、ここに集まってこられると厄介だ。

 いや、それよりもコイツを倒すことができたのか……。

 リザードマンは胸を押さえながらも、そのまま両膝を屈し前のめりに倒れた。
 どうやら今の俺でも、急所さえつければ倒せるモンスターのようだ。
 この結果を遠目にいるヒオナさんに伝えようと顔を向けるが…………彼女は校舎に向かって走っていた。

 あの女ぁっ、俺を囮にしやがった!?

 この騒ぎでリザードマンたちがこっちに集まってきているから、その隙を突いたというわけだろう。

 にしても事前に言っておいてくれてもいいんじゃね!

 俺はリザードマンたちの脇を通り抜けて、ヒオナさんを追いかけて行く。
 そのまま校舎に入ったヒオナさんは、下駄箱のところで身を隠す。俺も彼女へと接近する。

「……ったく、置いていくって酷くないですか?」
「あはは、ごめんごめん。けどせっかく通り抜ける好機だったし、あなただったら無事に辿り着けるでしょう?」
「そうですけど……何か釈然としない」
「もう、そんなに怒らないでよ~。全部終わったあとは、ちょっとサービスしてあげるからぁ」

 そう言いながら胸元をチラリと開ける姿にドキッとする。
 ああくそ騙されるな有野六門! これも絶対ハニートラップなんだぞ! かかっちまったら後が怖いだけだ! ああでも見るくらいなら少しだけ……。

〝有野くん、何かいやらしい思念を感じたんだけど?〟
〝シ、シシシシシオカッ!? い、いきなり声かけてくんなよっ、ビビるだろうが!〟

 マジで大声を上げそうになった。

〝もう有野くん、煩悩は人間の大敵だよ!〟

 さすがは神社の娘。手厳しいことを言ってくれる。

〝な、何のことか分からんなー! ははははは!〟
〝…………エッチなことはダメなんだからね〟
〝……反省しまーす〟

 どうやら俺の考えてることは全部筒抜けみたいだ。

〝あらら、さすがの六門もシオカには勝てないみたいねー〟

 会話にヒオナさんが割り込んできた。

〝お姉ちゃんもだよ! 男の人をその……軽々しく誘惑しちゃいけないんだよ!〟
〝しょうーがないでしょ~? 抑えようたって、溢れ出てくるんだから大人の色気が。まあシオカにはないみたいだからこの苦労が分からないでしょうけどねー、ねえ六門?〟

 そこで俺に振りますか。マジで止めて。

〝い、色気くらいあるもん! わたしだってちゃんとした女の子なんだから! あるよね、有野くん!〟

 だから俺に聞かないでくれ。こんな嬉しくない板挟みは勘弁して。
 俺に恋い焦がれて取り合ってくれるならともかく、こんな不毛な争いに巻き込まないでもらいたいものだ。

〝と、とにかくその件は終わってからで。今はそれよりも重要なことがあるだろ、二人とも!〟
〝はーい〟
〝むぅ……あとでちゃんと決着つけるからね!〟

 そこでようやく無意味な《念話》は途切れた。こんなことに使わずに気力を温存しておいてもらいたいのだが……。

「ふふ、あの子ったら可愛いんだから~」
「ほくほく顔を浮かべてないで、早く次の行先を決めてくださいよ」
「はいはーい。……とはいっても、ちょっち面倒な奴がいるみたいね」

 下駄箱から覗くと、そこには飛柱組の丸城が立っていた。棺桶は所持していないが、その肩にはぐで~っと眠りこける若頭――飛柱兵卦の姿もある。
 まさかここで鉢合わせするとは……。

「……ぁ……ん……」
「む? 若、目を覚まされましたか?」
「……眠い」
「我慢してくだせえ。組長たっての指示なんですから」
「めんどーせぇ」
「そう言わず。早くコアを潰せばその分早く帰れますぜ」
「……ふわぁ~。しょうがないなぁ……けど、あんま動きたくない」
「はぁ……」
「だからさぁ……そこに隠れてる奴らも手を出してくるなよ」

 直後、ゾクリと寒気が走る。

 ……はは、バレてるし。そういやアイツ、会合の時も俺の存在に気づいてたっけか。

 そして飛柱の言葉に、当然警戒を高めて俺たちが隠れている下駄箱と対面する丸城。
 ここはどうするべきか考えていると……。

「……六門、ここから十一時の方角、大体五十メートルくらい先から一番吾輩の反応が強いわ。あの子の回収……任せてもいい?」

 飛柱たちに気づかれないように小声で言ってきた。

「え? ……ヒオナさんはどうするんすか?」
「アイツらの気を引いておくから。何か問題が起こったら、その都度《念話》で知らせて」
「……大丈夫なんすか? ヒオナさんが顕現させていられる妖霊って二体なんでしょ? あと一体しか呼べませんよ?」

 相手は二人で、未知の『持ち得る者』だ。どんなスキルを持っているか分かったもんじゃない。今、真正面から相手するのは避けた方が良い。

「別に戦おうってわけじゃないわよ。ちょ~っとお話するだけ。だからその隙に、ね」
「…………了解です。急いで行ってきますよ。だから無茶はしないでください」

 俺は忠告をすると、スキルを使ってその場から離れていく。
 だが……。

「……あれ? 気配が一つ消えた? ……おかしいなぁ」

 ああもう、やっぱりこの寝太郎の感覚おかしいんじゃねえの!

 そう思いつつも、あとをヒオナさんに任せて、彼女に言われた場所へと急ぐ。

 確か十一時の方角って言ってたな! よし、こっちだ! 

 突き当たりを左に移動したその直後である。
 俺の足が意思とは無関係に止まってしまう。
 目前にはただ真っ直ぐ通路があるだけ。それなのに何故……。

「……ああ、もしかして」

 俺は恐る恐る片足を伸ばして、先にある床につけてみた。
 すると――ガタンッと、突然床が両開きの扉みたいに開き、真っ暗闇に染まる穴を発見したのである。

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